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第四章 タラッサ連合国編

1.巻き込み流れ思わず進む

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「何でこんなことになってるんだ?」

走り逃げても追い払えない状況。自分達が遣ったことを棚にあげて聞くモーイ。

「なぜってお前らがアイツの獲物を奪ったからだろ!」

インゼルを出発し、この面々と同行して1の月近く。かなりゲンナリした気分で疲れ気味のニュールは、大声で叫び返答し共に逃げるしか無かった。
草原を行くようになってからは2の週。
過酷な野宿生活だが、今までは割りと順調に進んでいた。

「あいつの住みかだって思わなかったし、何であんなのの住みかに…卵って!」

慌て混乱しまくるミーティ。
若者3人は順調であったため、チョットだけ冒険心を出してしまった。

「だって一瞬、大きな魔石かと思ったんだもん」

魔石に関しては全くぶれない。相変わらずとしか言い様の無いフレイリアル。
皆で草原を疾走しながら叫ぶように会話する。
背後からは巨大な獣が追いかけてくる。

「この国の草原では基本、魔石は取れん。魔力が枯渇気味の地帯なんだ!」

プラーデラ王国周辺地帯は魔石が取れない。土地全体に含む魔力が微弱な様だ。
自然溢れる草原でもそれは変わらなかった。

「でも何で走って逃げてるんだよ」

魔物のように巨大な獣から走って逃げている事に不服を唱えるミーティ。

「この国は魔力攻撃は基本的に禁止なんだよ! 最初に言ってあるだろ」

今までの国々とは明らかに違うプラーデラに皆戸惑いぎみだった。
ニュールの言葉にげっそりする皆だったが、ニュール自身うんざりとした気分になっていた。

『確かに追いかけられる状況も食傷気味…といった感じだし、そろそろ皆も限界か…』

「もう無理~これは無いよぉ」

予想通りフレイが音をあげる。

『もう、目立とうが何だろうが魔力を使うしかないか…』

ニュールは判断し実行しようとする。


今回旅を共にするのはニュールとフレイリアルとモーイとミーティの4人だ。
アルバシェルは付いて行くと駄々をこねたが、タリクに自国へ強制連行された。モモハルムアはもう帰国の時期が近いとの事なので、大賢者リーシェライル様への報告係となってくれた。

ヴェステを出国するまでは比較的順調だった…。
既にヴェステ軍から、密かに追手がかかっていた。なるべく早く脱出するため、近場のプラーデラ王国の街を目指したがそこからが中々の受難の日々と言う感じだった。

最初の街で寄った最初の宿屋で、奴隷お断り…と言われた。
どうやらプラーデラでは表立ってでは無いが、奴隷商が存在するようだ。
樹海の民の色合いは、商品にされる事の多い草原の民達の持つ色合いに近いらしい。

その後、滞在出来る宿は見つけたが割高だったり手狭だったり色々足元を見られて苦労した。
此処でも色合いによる扱いの違いを感じフレイは憤る。
そして宿の食堂に皆で集まっている時ミーティを捕まえ、誉めまくることで鬱憤を晴らす。

「この艶やかな漆黒の黒曜魔石の色合い持つ瞳と髪。サルトゥスにいらっしゃる、時の御子と同じ深い黒だけが持つ輝きある優美さを分からないなんて!」

そう言いながら椅子に座るミーティの頭を背後から撫で付け両腕で抱え込み、横から顔に手をやり近くで瞳を覗き混む。
ミーティの方はその密着ぶりに慌ててワタワタしながらも、その幸運なる接触事故にされるがままに鼻の下のばし頭を摺り寄せ喜んでいた。
モーイが横目で見つつ片眉あげて冷たい視線を放つ事にも気付かない。

ニュールはニュールで何とか見つけた宿で皆と過ごす時間も考え込んでいた。
これほど風貌の違いや、習慣の違いが行程に影響を与える要因になるとは思わなかったのだ。

更に街中の魔石や魔力に対する扱いが何とも難しく、いざと言うときにも魔力を使いづらい状態だった。
魔石は輸入に頼る国であり、プラーデラでは生活用魔石もある程度値が張る。色々な意味で安全のため魔石袋は鞄の奥に仕舞い込み目立たないように過ごす。
なので咄嗟の対応は隠し持った魔石で行う予定になるが、魔力攻撃自体珍しいと思われるので使いづらい。

その上、何故か町中は魔力感知板が各所に設置してあり、下手に魔力を使えば即ばれる。
絶対に気が抜けない。

魔力感知板は魔力飛び交う場所では無力だが、魔力の使用制限がある場では大変有効である。なので国同士の会談時等に危険を回避するため、魔力の使用を制限をして感知板を使用する。
便利では有るが感知板に取り付ける感応紙を毎日取り替えないといけない上に、設置するのに値が張るため一般にはあまり普及しなかった。だが近場の者からの密かなる敵意への牽制…としては、有効であると思われた。
そんなモノが仕掛けてある街々が続く。

結局、仕方なく草原をなるべく渡る事になり今に至る。


インゼルの白の塔で皆の意見を聞き参考にし、行く場所は決まった。
プラーデラを経由してタラッサへ入る事になった。
今回の旅の目的は、基本タラッサで大賢者に会うこと。
明確な目的地はあるが、今一つ目標とする…何のために…と言う部分が漠然としていて、皆の士気が上がらない。
それ故、気が緩む。

しかも何時もと勝手が違う魔力無しで逃げ回ると言う、戦いとも言えない戦いは体力以上に思考と気力を消耗させる。
ニュールが判断し決断を下そうとした時、その獣を追いかけ追い越しニュール達の横に並び声を掛けてくる者が居た。

「おいっ、お前ら! いくら走って逃げてもずっと巨山豚ホグジラは追いかけて来るぞ! 獣なんだから伐つか伐たれるかの2択だ。獲物をもらって良いなら伐つぞ」

いきなり並走してきたのは大叉角羚羊プロングホーンに似た少し小ぶりな動物に乗る者だった。
ひたすら追いかけられ疲れ切っているニュール達には余裕が無い。

「頼む!」

一も二もなく了承する。

「では100メル程離れてから、こちらに向かい走れ!」

その者はその場に止まり乗っていた獣から降り立つと、大弓を背中から下ろす。
そして地面の力を借り引き絞る。
100メル離れてから此方に向かうニュール達に20メル程の距離の時、声が掛かる。

「どけ!」

その言葉と同時に引き絞られた弓から矢が放たれ全長2メル程の巨山豚の額を撃ち抜く。
一瞬の悲鳴と共にそいつは勢いを失い倒れた。
ニュール達は魔石の魔力で補助を受けながら走っていたとは言え、1つ時程走り続けていたため疲れ切ってその場にへたり込んでしまった。
射止めた者は獲物の近くまで歩み寄ると、周辺にへばっているニュール達に名乗る。

「イストアだ、そこのリフの村近くの小集落の者だ」

黒髪黒目で薄めの琥珀魔石色の肌したイストアという名の少女は、この近隣の草原にある小集落の者だった。

「奴隷商か?」

今までフードを被り逃げていたが、フードを脱ぎ相対するとその構成からまた言われてしまう。
警戒感強めて、怪訝そうな顔をして問い質してきた。

「嫌、俺たちはサルトゥスから来て各国を回る旅芸人の一座だ」

ニュールが答えるが、初めて旅芸人設定を使えた様だ。
一瞬、訝しむ様な表情をされるが、攻撃力なく逃げ回る姿を思い出し納得してくれた。

「お前らこれからどうするんだ?」

散々逃げ回るうち、夕時近くなっていた。

「いやっ、野宿でもしようかと…」

「ここら辺は大岩蛇グロッタウが多く出るぞ。魔物化した奴は居ないが結構な数が出る」

呆れた様に皆を見回し、イストアは溜め息をつく。

「…巨山豚を運び捌く手伝いをしてくれるなら、1泊位ならば泊めてやるぞ!」

ニュール達は皆で顔を見合せ、代表してニュールが返事をする。

「宜しく頼む」



イストアの家は集落の外れも外れにあった。ここは母方の集落らしいが、こんなに外れ…ほぼ集落の外にある理由は決して尋ねない。
それが常識だと思っていた。
だが常識はずれの人間がここにいる事を忘れていた。

「何であんなに他の家々と離れてるの?」

道連れの者達は皆で固まる。
せっかく得た久々の屋根の下での宿泊が不意になりかねない爆弾を投じるフレイ。
ニュールとモーイは顔を見合せ溜め息をつき、ミーティは目線を逸らす。まぁ、ミーティの場合はフレイが先陣を切ってやってなければ自分がやっていたと思う所であろう。
イストアはその直球の質問に一瞬固まるが、大笑いして流す。

「あはははっ、お前気に入った! そこまで、開けっ広げに聞かれたのは初めてだよ」

フレイは相変わらずだとニュールは実感した。
そしてモーイを見ると、これからはアンタも面倒見てくれと言わんばかりの目線を送る。
ニュールは自身の不在時を思い、思わずモーイを労ってしまう。

「本当に大変だったよな…ありがとう…」

小声で呟くとそこに目を潤ませてニュールを熱い瞳で見つめるモーイが居た。

「???」

ニュールは何だか分からずその状態に戸惑うが、その小さな労いの言葉1つで何だかモーイは今までの苦労が報われてしまったのだ。知らずして再度モーイの心を虜にしてしまったようだ。

イストアがそこに住む理由を教えてくれた。

イストアの父は傭兵稼業をしていたそうだ。しかも相当えげつない仕事を専門とする汚れ仕事専門だったようであり、金回りは良かったが逆らう者には容赦しない質で揉め事ばかりだった。
母にも容赦しないし、子供は存在自体を無視していた。

「消えて正解みたいな親父だったけど、居なくなると金の苦労だけはしたな…母さんは再婚してあの集落にいるけど、あたしは親父と一緒で…喧嘩っぱやいんだ。あの中では暮らしにくい…だから自主的に此処に住んでるだけさ!」

集落の防衛壁ぎりぎりに立つ小屋…イストアがここに居る理由は、それだけで無いようだった。


草原の大きな街から離れている小集落の夜が更けて行く。
人が寝静まる頃、闇時。
防衛壁に仕掛けてある単純な仕掛けの鳴子の音が響く。

「起こしちまったか…悪いな」

イストアが装備を整え出て来る頃。ニュールとモーイは既に外に居た。
早々に気配を察知し、外に出て探索魔力を展開して相手を把握していた。
相手は人だ。
しかも質の良くない敵意…蹂躙することに快楽を覚えるような残忍さを持つ様な奴等の気配を感じる。

「これが、あたしの本来の仕事さ!」

出てきたイストアはそう言って矢をつがえると、松明の部分に当てる。
松明は消え、そこに仕込まれていた箱から魔石が飛散する。屑の…しかも雑魚魔石の様だが、イストアが手元の起動用魔石に魔力を流し動かし、更に飛び散った魔石の魔力と繋ぎ切り裂く風を作り出し敵を崩し屠る。
魔石使いの防御壁守りと言った所か。

「オッサン達はこう言うの苦手だろ? 隠れてて良いぞ」

イストアはニュール達に向かって言う。

「確かに見知った生物以外は苦手だなぁ…」

イストアの心遣いに呟く様に答えるニュール。
イストアが魔石使いとして動くなら、魔力対応でも問題が少なそうでありホッとした。

「アタシも魔力使う通蜘蛛ドークモアは怖い!!」

モーイも返事を返すが予想外の内容。

「通蜘蛛かぁ…確かに厄介だな…」

「いやっ、そうじゃなくてアタシ的には見た目が許せん!」

モーイの真剣な表情に思わず答えてしまったが、そんな遣り取りをしている場合ではない。

「マジで危ないぞ!!」

イストアがふざけているように見えた2人に叫び注意する。
だが余裕で答える2人。

「これは良く見知った生物だから問題ない」

「アタシも得意な方だ…」

一応、防御結果を纏いつつ魔力体術でぶつかる。
武器は魔力纏わせた小屋の隅にあった鈍らな剣。

「ねぇニュール、さっきもこうすれば良かったんじゃね?」

「確かに! 殴れる武器さえ有れば、目立たんように魔力調整出来たよな。…相当皆してテンパってたんだな」

感慨深げに呟く間も襲撃者を軽くいなしていく。
イストアは応戦しながらも2人の華麗なる戦闘術に目を剥く…。程よく片付き軽く終わるはずであったが、今回は敵の戦力が多目だったようだ。
それでも少ーし長くかかる程度と思って甘く見ていた。

やらかす身内がいるのを忘れていた。
激しい遣り取りで出る光や音は、室内を照らし響き家全体を揺らす。
女子部屋で寝ていたフレイが徐に起き上がる。眉間には深いしわ刻まれているが目は開いていない。

「うるさい!!」

大きく叫ぶとともに少しずつ空中から魔力集め、フレイ自身が薄緑に輝き…魔力高まり放出される。
その後スッキリした様に笑顔に戻ると、パタリとそのまま睡眠を再開した。
その時外では辺り一帯が薄緑にボンヤリと輝き、その瞬間嵐のような風の流れが吹き荒れる。
その攻撃魔力とも魔力そのままとも言い切れない様な爆発的な力が、その小屋から半径50メルのモノを全て吹き飛ばした。

やらかし一番のフレイが遣ってしまった…魔力による攻撃…。
まだ時告げの鐘まで遠い時分…闇時…さらに深真っ只中真っ暗な空に仄かに明るく輝く地帯がその日見られたと言う。

フレイリアルを満足な睡眠がとれていない状態で起こすのは危険だった。
かつてエリミアを訪れた際、賢者の塔からの朝帰りした件。実は此のフレイの習性を知っているリーシェライルが、引き起こされる状態を懸念して中途半端に起こさなかったせいでもあったのだ。

襲撃者は此の魔力攻撃で粗方片付いた…だが、損壊した柵やら何やらの修復に何日かかるやら…。
誰の仕業か感知していたニュールは何とも言えない表情で呟く。

「さて、どうしたものか…」

引き続きチョット溜め息もののニュールであった。
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