魔輝石探索譚~大賢者を解放するため力ある魔石を探してぐるぐるしてみます~≪本編完結済み≫

3・T・Orion

文字の大きさ
上 下
107 / 193
第三章 インゼル共和国編

おまけ6 フィーデスの思い

しおりを挟む
フィーデスは意識が途切れ途切れに戻る中、遠くで聞こえる密やかな会話に衝撃を受ける。

「…モモ…ルム…はバルニ……カ公爵からの……出しを蹴って陣で……だ」

「何だと!…で…私の顔が……るではないか!」

『あぁ、モモハルムア様は一人でも再度インゼルへ向かわれたのだな…』

驚きと共にフィーデスは誇らしさを感じ、モモハルムアの行動に納得する。自身が同行できなかった無念さを感じはしたが、心の中にあるのは感慨深さと…ほんの少しだけ感傷的な気分があった。

フィーデスの生家は上位の王族であり、年代こそ違えど本来ならモモハルムアと肩を並べ競う様な立場の者であった。
…何事もなければの話だ。
過去を遡ってみても、この国は上位者への組織的反逆等と言うのは見当たらなかった。下位王族を含め、与えられる権限等に満足行く者が多かったので逆らう者が少なかったと言うのもある。
それでも恩恵を受けるだけで満たされず更なるモノを求める者や、与えられたモノには興味を示さず謎を解き真実を求めようとする者は一定数存在する。

反逆と言う面での取り締まりは緩かった。
だが、この国の大方針…機構の秘匿と言う事に関してだけは統制厳しく、反するものは容赦なく排除された。

フィーデスの両親は機構の管理を任されていて、都市管理を担う一翼であり研究者でもあった。
身近に機構を感じる分、真理を探究する誘惑に抗えなくなる。
そして解き明かそうとする者の周りには、現状の利だけで満足出来ず欲を持ち蠢く者達が貪り利用しようと群がる。
監視下に置かれた者達が禁を破る時、禁に触れる内容知る者達は塔の観察者にもれなく処分さる。
フィーデスが幼い頃、フィーデスの両親も処分を受けた。
判断が下されると、申し開きする機会無く処分される。

気づいたときには縁が近いモモハルムアの祖父が暮らす屋敷で生活していた。
両親は継承権なしとは言え上位王族でありその子供であるフィーデスを捨て置くわけにもいかず近くの縁者であるモモハルムアの家預かりとなったのだ。
そしてモモハルムアの祖父であり、騎士団名誉団長であるアナジェンテに引き取られたのだ。
アナジェンテはモモハルムアの祖母に見初められ、熱烈に口説きおとされエリミアに連れてこられた他国の兵士だった。彼の地でも嘱望されている者であったが、アナジェンテは承知するとあっさり職を辞しエリミアへ入ったそうだ。

両親の事は幼き頃の事ではあったがフィーデス自身の身に変化をもたらした出来事であり、記憶と憤りの様な感情は残っていた。

フィーデスがあと数年で立年の儀を受けると言う頃、モモハルムアと出会う。
まだ石樹の儀を受けて間もない頃であろう。授かったのは王城関係者らしい一般的な水晶魔石の系統であった。
その瞳の色同様、紫水晶魔石を内包したモモハルムアは自身の希望通りであると誇る。

「より稀少な物や、より高貴な物を得るよりも自分が欲したものを手に入れるのが嬉しいのです」

幼さの残る声音でたどたどしくも礼儀正しく述べていた。

モモハルムアはその頃から鍛練のためアナジェンテの下に毎日赴き、フィーデスと共に鍛練を始めた。

『この歳でなぜ? しかも妃をも望める継承位であるにも関わらず鍛練?』

あまりにも謎だったのでアナジェンテに訪ねてみた。

「アナジェンテ様、モモハルムア様が鍛練するのは如何様な理由があるのでしょうか?」

フィーデスの怪訝そうな表情にアナジェンテは髭をつまみながら面白そうに答える。

「遣りたいから遣るそうだ」

「???」

聞いても謎な答えであったが、誰が問うてもモモハルムアの答えも意思も変わらなかった。

ある時モモハルムアと共に鍛練をしていると、アナジェンテの屋敷に訪れていた上位王族の子息数名が輪になってこちらを見て聞こえよがしに話す。

「うまく取り入ったものだ…」

「流石、反逆の徒であり掟破りの親を持つ者」

「幼き子供に取り入るとは上手いこと…」

「実力なき者の悲しい術よ」

よく囁かれてるのを聞く内容である。俯き甘んじるが、フィーデスは聞く度に腹が立ち周りを呪いたくなる様な思いが沸き上がるのだった。
感情を押し殺し顔をあげると、その者達の前へ向かうモモハルムアが目に入る。
端麗な微笑みを浮かべ凛とした佇まいでその者達の前にあった。
そして美しい笑顔のまま述べる。

「正面から告げられもせぬ御託…親の威を借り他人の親の所業をあげつらう滑稽さを自覚なさい。無様です。同等の地に立てるようになってから出直しなさい」

その毒づきに気を削がれる者も居たが、怒り膨らます輩も居た。モモハルムアを殴り付けようと手を振り上げる者に、素早く距離を詰めたフィーデスが鍛練で使っていた刃を潰した剣を突きつける。

「何方様のお屋敷で、何方様が何方様に手をあげようと? …お考え下さい」

その言葉でその者達は場を去った。

「ありがとう、フィーデス」

「何であんなこと…」

「だってフィーデス自身の事を知りもしないのに、聞いただけの情報に踊らされ罵るなんて!!」

怒り止まらないと言った感じで続けた。

「黙って居られないわ! 私はフィーデスの凄さを知っている。だから許せなかったの」

無邪気に力強く微笑む。
モモハルムアとも多くの時間関わった訳ではない。それでもモモハルムアはしっかりとフィーデスの事を見て判断していた。

両親と周囲…そして自身への義憤を抱え全てに関わることを避けてきた。
選んだのではない、選ばされた道を…ただ与えられた道を自身が進んでいるだけであるのをフィーデスは悟った。

「フィーデス、もし私達が遣っていることで私達が咎めを受けることになったとしても周りを責めないでおくれ…私達は私達の目指すもののために進み極めているんだ。お前もお前自身が極めたいモノを見つけなさい」

今まで両親のこの言葉を、フィーデスを残すことへの言い逃れのようにしか感じてこなかった。
だが、今分かる。

『あの言葉は踏み出す一歩の勇気が必要な、私のための言葉だったのだ』

「モモハルムア様。私を貴女の護衛騎士にしてください!」

フィーデスの申し出は叶い、モモハルムアの護衛騎士となった。
今では守護者でもある。

『だが、まだ極めていない』

そしてフィーデスは意思の力で意識をしっかりと保ち、ただモモハルムアへ近づくために進むのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです

山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。 今は、その考えも消えつつある。 けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。 今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。 ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...