106 / 193
第三章 インゼル共和国編
おまけ5 アルバシェルの思い
しおりを挟む
「アルバシェル様、今回はどのようにして此方までいらしたのか経緯などの詳細を述べてください」
「…あーソレはだな…」
タリクは自身の思い伏せるため、さりげなく塔の魔力の領界から外れた場所でアルバシェルを問い詰めていた。
色々と自身の思いを優先して放り出してきたアルバシェルに言い訳の仕様がないのは知っている。
アルバシェルは大変分かりやすい人なので詳細な思いまでは不明だが、タリクにとって長年のやり取りと守護の繋がりで色々察することは出来る。
「…はいっ、時間切れです。帰ってから大殿司様とリオラリオ様に伺いますので結構です…」
タリクは容赦なくその状況とアルバシェルの態度を斬っていく。
サルトゥスの夜からアルバシェルは変わった。
今まで逃げてきた責務を果たすようになっていた。なので、それ以前の引きこもっていた頃よりずっと忙しく過ごしているのだ。
散々色々な方面より働きかけても、のらりくらりとかわし逃げているばかりだったのだが積極的に国政に関わる。
皇太子がお人形となっていることは、王と周辺の重要な役割持つ者達も確認済みだ。防御結界の中に軟禁し、操るものとの接触を断っている。
フレイリアルと正式な婚約整いし時にアルバシェルは継承権を辞退し、同時に皇太子も廃嫡する。そして継承権3位の皇太子の弟が皇太子として立つ。
その助力をするためにアルバシェルは奔走しているのだ。
その尽力は穏便に継承権を放棄するためでもあるが、フレイリアルへの強い思いのためである事もタリクは理解していた。
今までアルバシェルを責めていたタリクが、不意に真剣に畏まり述べる。
「すみません。守りきれなくて…」
フレイリアルに関しては見境い無く動いてしまうので抑制措置としてタリクが旅に同行する事になった。
側近としての立場あるタリクがアルバシェルから離れる事に異を唱えるものも存在した。だが、アルバシェルの思いを汲みタリクは敢えて離れたのだ。
それなのに十分な役割果たすこと出来ず忸怩たる思い抱えるタリクからの言葉だった。
「過ぎた仕様の無いことを悔いても意味がない。それに十分守ってこの地に至ったでは無いか…自身の力量の無さで直ぐに来られなかった私も大差無い…」
フレイリアルの心が暗い淵の底に沈み彷徨った事に、2人それぞれ悔恨の思いを抱いたのだ。
アルバシェルがタリクと反省会を開いた暫し後、塔の中から見える場所にフレイリアルが一人で居るのを見かけその場所へ向かう。
そこは丁度タリクと話していた場所だった。
以前からこの少女の新緑に輝く瞳の奥底に時々闇が揺蕩うているのを知っていた。
普段のくるくると表情変わる時には見えない、真の底にある怒りと諦めと達観が混ざる感情。
決して表には現さない色合い。
「もう大丈夫か?」
近づき声を掛けるアルバシェルに気付くと、闇の気配は消え輝く瞳のみが見える。
「うん、大丈夫…もう投げ捨てたりしないよ…自分の行いの結果は引き受ける」
必死に闇を払い進もうとする姿が痛々しい。
思わずアルバシェルは言ってしまう。
「…引き受けなくて良い…逃げたって良いんだ…」
そして有無を言わさず正面からフレイリアルを抱き締める。
「苦しいときは一旦休もう…荷物は下ろしたって良いんだ…」
揺蕩う闇が少しだけ顔を覗かせる。だが表に出さぬよう必死に押さえ込むのが見える…。
「…それでもやらなきゃ…投げてしまうのは嫌」
抗い立ち向かおうとするフレイリアル。
その思いを…決意を理解し、アルバシェルは見守り受け入れる暖かい瞳で見つめる。
「ならば、隣に居るからその重荷を分けてくれ…私はフレイの隣に居たいぞ」
反対の隣に既に誰かが存在しているのを分かっていて、アルバシェルは伝える。
前しか見ていなかったフレイリアルが横のアルバシェルを目に入れた。
今まで心地よい魔力を循環できる、好意を寄せてくれる存在としては認識していた。
だがアルバシェルに対して多少の熱くなる思いはあるが、それ以上にもそれ以下にも成り得な無かった。
フレイリアルの心の奥底には闇を分かち癒し共有する者として、リーシェライルしか存在しなかった。
守護の繋がりを持つニュールが、他に持つ唯一近い存在として背後から心を守っていてくれていた。
アルバシェルの距離を縮めようとする思いはフレイリアルを振り返らせる…自ら申し出て心の距離を縮めてくれた人間はリーシェライル以来だった。
掛けられた言葉に、フレイリアルは心無くし曖昧だった時間を思い出す。
この地で囚われた状態から救い、癒しの魔力を循環してくれたのがこの人だった事を…自身の立場を省みずこの場所まで駆けつけてくれたのがこの人である事を…。
この人の腕に抱き締められる快適さはリーシェのギュッを思い出す。
『この人は分かち合い共にあると言ってくれたんだ』
今まで以上の心の近さを許し共にいる。
アルバシェルもそれを感じ、今まで以上の力で抱き締める。
フレイが見上げるとそこには精悍で端正な作りの面差しの中にある、優しい空の色の瞳に甘い笑みを浮かべ、溶かされそうな程の熱をもって正面から見つめるアルバシェルがいた。
『確かに見境のない自分であるのは知っているが、ちゃんと欲しいものを見定めて見境ないんだ』
アルバシェルは自身の思いを確認し、そのまま見上げるフレイリアルの唇を塞ぐ。
驚くフレイリアルは一瞬捕らわれている時の不快な思いが巡りそうになるが、重ねられたアルバシェルの唇は温かな熱を持つ。
その温かな思いやる優しい口付けは、フレイリアルの心を傷つけたエルシニアの印を浄化し癒した。
そこには魔力の循環が出来上がり、お互いに心地よく癒される。
アルバシェルは無言で微笑み更なる熱を込めて見つめ、もう一度…と思ったとき背後から声がかかる。
「そろそろ時間です、ご準備お願いします」
タリクの冷静な声掛けに舌打ちするアルバシェル。
何だがいつもの感じでフレイは嬉しくなった。
「ありがとう! 気持ちが軽くなったよ!! アルバシェルさんも好きだよ!」
その直球な言葉と心の底から輝く笑みに思わず頬を緩めるアルバシェルだが、ふと思う。
『…も?』
分かってはいるが、道のりが遠く険しいことを改めて悟り気合を入れなおすのであった。
「…あーソレはだな…」
タリクは自身の思い伏せるため、さりげなく塔の魔力の領界から外れた場所でアルバシェルを問い詰めていた。
色々と自身の思いを優先して放り出してきたアルバシェルに言い訳の仕様がないのは知っている。
アルバシェルは大変分かりやすい人なので詳細な思いまでは不明だが、タリクにとって長年のやり取りと守護の繋がりで色々察することは出来る。
「…はいっ、時間切れです。帰ってから大殿司様とリオラリオ様に伺いますので結構です…」
タリクは容赦なくその状況とアルバシェルの態度を斬っていく。
サルトゥスの夜からアルバシェルは変わった。
今まで逃げてきた責務を果たすようになっていた。なので、それ以前の引きこもっていた頃よりずっと忙しく過ごしているのだ。
散々色々な方面より働きかけても、のらりくらりとかわし逃げているばかりだったのだが積極的に国政に関わる。
皇太子がお人形となっていることは、王と周辺の重要な役割持つ者達も確認済みだ。防御結界の中に軟禁し、操るものとの接触を断っている。
フレイリアルと正式な婚約整いし時にアルバシェルは継承権を辞退し、同時に皇太子も廃嫡する。そして継承権3位の皇太子の弟が皇太子として立つ。
その助力をするためにアルバシェルは奔走しているのだ。
その尽力は穏便に継承権を放棄するためでもあるが、フレイリアルへの強い思いのためである事もタリクは理解していた。
今までアルバシェルを責めていたタリクが、不意に真剣に畏まり述べる。
「すみません。守りきれなくて…」
フレイリアルに関しては見境い無く動いてしまうので抑制措置としてタリクが旅に同行する事になった。
側近としての立場あるタリクがアルバシェルから離れる事に異を唱えるものも存在した。だが、アルバシェルの思いを汲みタリクは敢えて離れたのだ。
それなのに十分な役割果たすこと出来ず忸怩たる思い抱えるタリクからの言葉だった。
「過ぎた仕様の無いことを悔いても意味がない。それに十分守ってこの地に至ったでは無いか…自身の力量の無さで直ぐに来られなかった私も大差無い…」
フレイリアルの心が暗い淵の底に沈み彷徨った事に、2人それぞれ悔恨の思いを抱いたのだ。
アルバシェルがタリクと反省会を開いた暫し後、塔の中から見える場所にフレイリアルが一人で居るのを見かけその場所へ向かう。
そこは丁度タリクと話していた場所だった。
以前からこの少女の新緑に輝く瞳の奥底に時々闇が揺蕩うているのを知っていた。
普段のくるくると表情変わる時には見えない、真の底にある怒りと諦めと達観が混ざる感情。
決して表には現さない色合い。
「もう大丈夫か?」
近づき声を掛けるアルバシェルに気付くと、闇の気配は消え輝く瞳のみが見える。
「うん、大丈夫…もう投げ捨てたりしないよ…自分の行いの結果は引き受ける」
必死に闇を払い進もうとする姿が痛々しい。
思わずアルバシェルは言ってしまう。
「…引き受けなくて良い…逃げたって良いんだ…」
そして有無を言わさず正面からフレイリアルを抱き締める。
「苦しいときは一旦休もう…荷物は下ろしたって良いんだ…」
揺蕩う闇が少しだけ顔を覗かせる。だが表に出さぬよう必死に押さえ込むのが見える…。
「…それでもやらなきゃ…投げてしまうのは嫌」
抗い立ち向かおうとするフレイリアル。
その思いを…決意を理解し、アルバシェルは見守り受け入れる暖かい瞳で見つめる。
「ならば、隣に居るからその重荷を分けてくれ…私はフレイの隣に居たいぞ」
反対の隣に既に誰かが存在しているのを分かっていて、アルバシェルは伝える。
前しか見ていなかったフレイリアルが横のアルバシェルを目に入れた。
今まで心地よい魔力を循環できる、好意を寄せてくれる存在としては認識していた。
だがアルバシェルに対して多少の熱くなる思いはあるが、それ以上にもそれ以下にも成り得な無かった。
フレイリアルの心の奥底には闇を分かち癒し共有する者として、リーシェライルしか存在しなかった。
守護の繋がりを持つニュールが、他に持つ唯一近い存在として背後から心を守っていてくれていた。
アルバシェルの距離を縮めようとする思いはフレイリアルを振り返らせる…自ら申し出て心の距離を縮めてくれた人間はリーシェライル以来だった。
掛けられた言葉に、フレイリアルは心無くし曖昧だった時間を思い出す。
この地で囚われた状態から救い、癒しの魔力を循環してくれたのがこの人だった事を…自身の立場を省みずこの場所まで駆けつけてくれたのがこの人である事を…。
この人の腕に抱き締められる快適さはリーシェのギュッを思い出す。
『この人は分かち合い共にあると言ってくれたんだ』
今まで以上の心の近さを許し共にいる。
アルバシェルもそれを感じ、今まで以上の力で抱き締める。
フレイが見上げるとそこには精悍で端正な作りの面差しの中にある、優しい空の色の瞳に甘い笑みを浮かべ、溶かされそうな程の熱をもって正面から見つめるアルバシェルがいた。
『確かに見境のない自分であるのは知っているが、ちゃんと欲しいものを見定めて見境ないんだ』
アルバシェルは自身の思いを確認し、そのまま見上げるフレイリアルの唇を塞ぐ。
驚くフレイリアルは一瞬捕らわれている時の不快な思いが巡りそうになるが、重ねられたアルバシェルの唇は温かな熱を持つ。
その温かな思いやる優しい口付けは、フレイリアルの心を傷つけたエルシニアの印を浄化し癒した。
そこには魔力の循環が出来上がり、お互いに心地よく癒される。
アルバシェルは無言で微笑み更なる熱を込めて見つめ、もう一度…と思ったとき背後から声がかかる。
「そろそろ時間です、ご準備お願いします」
タリクの冷静な声掛けに舌打ちするアルバシェル。
何だがいつもの感じでフレイは嬉しくなった。
「ありがとう! 気持ちが軽くなったよ!! アルバシェルさんも好きだよ!」
その直球な言葉と心の底から輝く笑みに思わず頬を緩めるアルバシェルだが、ふと思う。
『…も?』
分かってはいるが、道のりが遠く険しいことを改めて悟り気合を入れなおすのであった。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる