魔輝石探索譚~大賢者を解放するため力ある魔石を探してぐるぐるしてみます~≪本編完結済み≫

3・T・Orion

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第三章 インゼル共和国編

おまけ5 アルバシェルの思い

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「アルバシェル様、今回はどのようにして此方までいらしたのか経緯などの詳細を述べてください」

「…あーソレはだな…」

タリクは自身の思い伏せるため、さりげなく塔の魔力の領界から外れた場所でアルバシェルを問い詰めていた。
色々と自身の思いを優先して放り出してきたアルバシェルに言い訳の仕様がないのは知っている。
アルバシェルは大変分かりやすい人なので詳細な思いまでは不明だが、タリクにとって長年のやり取りと守護の繋がりで色々察することは出来る。

「…はいっ、時間切れです。帰ってから大殿司様とリオラリオ様に伺いますので結構です…」

タリクは容赦なくその状況とアルバシェルの態度を斬っていく。

サルトゥスの夜からアルバシェルは変わった。

今まで逃げてきた責務を果たすようになっていた。なので、それ以前の引きこもっていた頃よりずっと忙しく過ごしているのだ。
散々色々な方面より働きかけても、のらりくらりとかわし逃げているばかりだったのだが積極的に国政に関わる。

皇太子がお人形となっていることは、王と周辺の重要な役割持つ者達も確認済みだ。防御結界の中に軟禁し、操るものとの接触を断っている。

フレイリアルと正式な婚約整いし時にアルバシェルは継承権を辞退し、同時に皇太子も廃嫡する。そして継承権3位の皇太子の弟が皇太子として立つ。
その助力をするためにアルバシェルは奔走しているのだ。
その尽力は穏便に継承権を放棄するためでもあるが、フレイリアルへの強い思いのためである事もタリクは理解していた。
今までアルバシェルを責めていたタリクが、不意に真剣に畏まり述べる。

「すみません。守りきれなくて…」

フレイリアルに関しては見境い無く動いてしまうので抑制措置としてタリクが旅に同行する事になった。
側近としての立場あるタリクがアルバシェルから離れる事に異を唱えるものも存在した。だが、アルバシェルの思いを汲みタリクは敢えて離れたのだ。
それなのに十分な役割果たすこと出来ず忸怩たる思い抱えるタリクからの言葉だった。

「過ぎた仕様の無いことを悔いても意味がない。それに十分守ってこの地に至ったでは無いか…自身の力量の無さで直ぐに来られなかった私も大差無い…」

フレイリアルの心が暗い淵の底に沈み彷徨った事に、2人それぞれ悔恨の思いを抱いたのだ。


アルバシェルがタリクと反省会を開いた暫し後、塔の中から見える場所にフレイリアルが一人で居るのを見かけその場所へ向かう。

そこは丁度タリクと話していた場所だった。
以前からこの少女の新緑に輝く瞳の奥底に時々闇が揺蕩うているのを知っていた。
普段のくるくると表情変わる時には見えない、真の底にある怒りと諦めと達観が混ざる感情。
決して表には現さない色合い。

「もう大丈夫か?」

近づき声を掛けるアルバシェルに気付くと、闇の気配は消え輝く瞳のみが見える。

「うん、大丈夫…もう投げ捨てたりしないよ…自分の行いの結果は引き受ける」

必死に闇を払い進もうとする姿が痛々しい。
思わずアルバシェルは言ってしまう。

「…引き受けなくて良い…逃げたって良いんだ…」

そして有無を言わさず正面からフレイリアルを抱き締める。

「苦しいときは一旦休もう…荷物は下ろしたって良いんだ…」

揺蕩う闇が少しだけ顔を覗かせる。だが表に出さぬよう必死に押さえ込むのが見える…。

「…それでもやらなきゃ…投げてしまうのは嫌」

抗い立ち向かおうとするフレイリアル。
その思いを…決意を理解し、アルバシェルは見守り受け入れる暖かい瞳で見つめる。

「ならば、隣に居るからその重荷を分けてくれ…私はフレイの隣に居たいぞ」

反対の隣に既に誰かが存在しているのを分かっていて、アルバシェルは伝える。
前しか見ていなかったフレイリアルが横のアルバシェルを目に入れた。
今まで心地よい魔力を循環できる、好意を寄せてくれる存在としては認識していた。
だがアルバシェルに対して多少の熱くなる思いはあるが、それ以上にもそれ以下にも成り得な無かった。

フレイリアルの心の奥底には闇を分かち癒し共有する者として、リーシェライルしか存在しなかった。
守護の繋がりを持つニュールが、他に持つ唯一近い存在として背後から心を守っていてくれていた。

アルバシェルの距離を縮めようとする思いはフレイリアルを振り返らせる…自ら申し出て心の距離を縮めてくれた人間はリーシェライル以来だった。

掛けられた言葉に、フレイリアルは心無くし曖昧だった時間を思い出す。
この地で囚われた状態から救い、癒しの魔力を循環してくれたのがこの人だった事を…自身の立場を省みずこの場所まで駆けつけてくれたのがこの人である事を…。

この人の腕に抱き締められる快適さはリーシェのギュッを思い出す。

『この人は分かち合い共にあると言ってくれたんだ』

今まで以上の心の近さを許し共にいる。
アルバシェルもそれを感じ、今まで以上の力で抱き締める。
フレイが見上げるとそこには精悍で端正な作りの面差しの中にある、優しい空の色の瞳に甘い笑みを浮かべ、溶かされそうな程の熱をもって正面から見つめるアルバシェルがいた。

『確かに見境のない自分であるのは知っているが、ちゃんと欲しいものを見定めて見境ないんだ』

アルバシェルは自身の思いを確認し、そのまま見上げるフレイリアルの唇を塞ぐ。

驚くフレイリアルは一瞬捕らわれている時の不快な思いが巡りそうになるが、重ねられたアルバシェルの唇は温かな熱を持つ。
その温かな思いやる優しい口付けは、フレイリアルの心を傷つけたエルシニアの印を浄化し癒した。

そこには魔力の循環が出来上がり、お互いに心地よく癒される。
アルバシェルは無言で微笑み更なる熱を込めて見つめ、もう一度…と思ったとき背後から声がかかる。

「そろそろ時間です、ご準備お願いします」

タリクの冷静な声掛けに舌打ちするアルバシェル。
何だがいつもの感じでフレイは嬉しくなった。

「ありがとう! 気持ちが軽くなったよ!! アルバシェルさんも好きだよ!」

その直球な言葉と心の底から輝く笑みに思わず頬を緩めるアルバシェルだが、ふと思う。

『…も?』

分かってはいるが、道のりが遠く険しいことを改めて悟り気合を入れなおすのであった。
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