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第三章 インゼル共和国編
おまけ1 モーイの思い
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魔力を帯びた剣が無慈悲に振り下ろされる瞬間を、モーイの瞳は克明に映し出す。
その前に受けた魔力で痺れたままの身体では逃れようもない。
モーイはこのまま此処で何を守るでもなく、弱者として葬られる自分の姿が見えた気がした。
情けなくて悔しくて憤りしか感じなかった瞬間。
目の前に男が現れる。
覚悟を持ち守る意思を明確に、襲い来る攻撃とモーイの間に立つ。
振り下ろされる剣が、防御結界を越えその者に至るであるであろう事は考慮済み…とばかりに結界内で更に短剣を構え長剣を受け止めるが、襲い来る剣は容赦なく短剣を弾き肩から胸にかけ肉を裂く。
結界や短剣の防御を越えて到達した剣は、致命傷に至る程では無いが十分な威力を持ち男の身体を切り裂いた。
モーイは無謀で勇敢な挑戦者に救われた。
こうして誰かに守られるのは2度目だ。
1度目は優しいのに凍るような酷薄な瞳に変貌できるオヤジが、他の追随許さぬ圧倒的な力でモーイを助ける。モーイの心は見事奪われ、恋する乙女となってしまった。
2度目の今回は、守り切る…と言うには微妙な攻防であった。
だが実力以上の敵に挑み立ち向かう挑戦者が、勇気を振り絞りモーイを守る…と言う事態に遭遇するのは、モーイにとって初めての経験だった。
そして挑戦者は負わずに済む傷を負う。
その後、暴力的で膨大な魔力の気配が襲い来る。
巻き込まれれば確実に滅ぼされるだろうと予測できる規模の魔力の波。
それを関知した勇気ある挑戦者は、自身の傷を無視して仲間を連れ出す。いくら魔力の補助を得たとしても、傷への負荷は致命傷へと導きかねない状態であるのに…。
『こいつは馬鹿かもしれない…』
モーイは受けた魔力で痺れ動けぬ中、そいつに担がれ運ばれつつ思った。
そして生命の危機をもたらす驚異となる様な魔力や敵が過ぎ去った後も、無私の心で申し出る。深い傷を負った自分を置いて、仲間の加勢に行けと言う。
『馬鹿で中途半端で突出した強さは無い…だが…悪くない…』
モーイはそう感じる自分に驚いた。
自分より弱いものに守られる生き延びた事と、その自分の中に新たに浮かび上がった考えに思い沈んでいるとフレイから声を掛けられる。
「モーイ大丈夫? 難しい顔してるよ…そう言えばミーティとクリールは?」
その質問に対し答える。
ミーティは怪我をしてはいるが命に別状はないだろう…と、ちょっと自分自身に情けなさを感じた…と、モーイはフレイに伝えた。
するとフレイは何故か突如モーイの手を掴み魔力循環を起こす。
フレイの瞳と同じ新緑の色した優しい魔力が体に巡るのを感じ、モーイの疲れた身体と心に抱える澱みを浄化し癒して行く。
モーイの中にある悔恨と憤りと迷いを感じ取り、吹き飛ばしてくれたのだ。
『あぁ、何か似てるんだな…』
自分を投げ出してでも誰かを守り思いやれる所が…ミーティにもフレイにもニュールにも有るが自分には持ち得ない気持ち…。
それ故に眩しかった。
だから、つい…過剰なお礼としてモーイはミーティの頬へ口付けを与えてしまった…。
なのに皆での話し合いの中で聞いたミーティの発言は、何だか必要以上に腹が立ち怒り湧き上がる。話し合い後、ひとり部屋を出てもモーイの怒りは収まらない。
「…くっそ乳好きがぁ!!!」
モーイはイラつきが増し、小さく心の中で毒づいた…つもりだった。
「ニュールが乳好きでも許せるが、お前ごときがソレは許されない!」
モーイの自分勝手な理論でミーティへの怒りが沸き上がる。悔しさも混ざり、その思いが徐々に大きくなっていた。
「折角、ミーティが助けてくれて嬉しかったのに…少し格好良いと思ったのに、一瞬でもそう思った気持ちを返せ!」
部屋の外の隅で、自分のヤラカシに打ちひしがれていたミーティがその声を耳にし顔を上げ問う。
「…それ、本当か?」
「???」
モーイは予想外の心の思いへの返答に驚く。
部屋の外に出ることでモーイは何となく安心してしまったが、心をつまびらかにする魔力の範囲は部屋ではなく塔だ。
モーイが思った事は全て言葉となり相手に伝わっていた。
ヤラカシ仲間になってしまったことをモーイは自覚する。
大したことを考えていた訳では無い…だが、考えたことが相手に伝わるのは予想以上に恥ずかしかった。
「ありがとうな…。オレ、ここの皆の中で一番弱くって役立たない…ってへこんでたんだ。だからそう言って貰えると嬉しいわ」
照れて素直に笑う顔が、モーイには眩しく感じられた。
だが気を良くしたミーティは、赤裸々に心を開示してしまう塔の魔力の事を一瞬で忘れ去っていた。
手痛い失敗が再びやってくる。
「えへへっ、オレの事気になってるって事かぁ!…頬に接吻までしてくれちゃうって事は好きって事なのか??!」
ミーティは先程の穴に埋まりそうな位の恥じ入る姿は何処へいったのか…ふてぶてしい位の厚かましい奴に変身してしまっていた。
人間、気がゆるんだ時ほど致命的で決定的な間違いをする。
そして言ってはいけない事を言ってしまうのだった…。
「ちょ~っと貧弱だけど見た目は美人だし、何時だってドンと来いって感じだな~」
モーイ視線の温度が辺りを凍らせ、静寂を生み出す。
フレイがヤラカシ一番ならミーティはうっかり失言大魔王と言える様な発言。
その時、容赦なきモーイの高速回転を掛けた廻し蹴りが神罰の如く背中に確実に打ち込まれ、ミーティは2メル程身体を飛ばし…意識も飛ばした。
タリクに言われて散々怒りを溜め込んでた "貧弱" と言う言葉は、確実にモーイ堪忍袋の緒を切った。
「お前がアタシの気を引けると思うなんて一億の天輝降り注ぐよりあり得ない! 生まれる前からやり直しやがれ!!」
怒りをぶつけると何だかちょっとスッキリした。
このミーティの懲りないお馬鹿っぷりに笑えてくるモーイだった。
「…20年位して少し落ち着いたら考えてやってもいいよ…」
つまびらかにする魔力とは関係なく、自分の意思でモーイは言葉にし告げた。
だが折角の言葉も聞き取るために必要なミーティの意識は未だ夢の中、当分戻りそうも無かったのだった。
その前に受けた魔力で痺れたままの身体では逃れようもない。
モーイはこのまま此処で何を守るでもなく、弱者として葬られる自分の姿が見えた気がした。
情けなくて悔しくて憤りしか感じなかった瞬間。
目の前に男が現れる。
覚悟を持ち守る意思を明確に、襲い来る攻撃とモーイの間に立つ。
振り下ろされる剣が、防御結界を越えその者に至るであるであろう事は考慮済み…とばかりに結界内で更に短剣を構え長剣を受け止めるが、襲い来る剣は容赦なく短剣を弾き肩から胸にかけ肉を裂く。
結界や短剣の防御を越えて到達した剣は、致命傷に至る程では無いが十分な威力を持ち男の身体を切り裂いた。
モーイは無謀で勇敢な挑戦者に救われた。
こうして誰かに守られるのは2度目だ。
1度目は優しいのに凍るような酷薄な瞳に変貌できるオヤジが、他の追随許さぬ圧倒的な力でモーイを助ける。モーイの心は見事奪われ、恋する乙女となってしまった。
2度目の今回は、守り切る…と言うには微妙な攻防であった。
だが実力以上の敵に挑み立ち向かう挑戦者が、勇気を振り絞りモーイを守る…と言う事態に遭遇するのは、モーイにとって初めての経験だった。
そして挑戦者は負わずに済む傷を負う。
その後、暴力的で膨大な魔力の気配が襲い来る。
巻き込まれれば確実に滅ぼされるだろうと予測できる規模の魔力の波。
それを関知した勇気ある挑戦者は、自身の傷を無視して仲間を連れ出す。いくら魔力の補助を得たとしても、傷への負荷は致命傷へと導きかねない状態であるのに…。
『こいつは馬鹿かもしれない…』
モーイは受けた魔力で痺れ動けぬ中、そいつに担がれ運ばれつつ思った。
そして生命の危機をもたらす驚異となる様な魔力や敵が過ぎ去った後も、無私の心で申し出る。深い傷を負った自分を置いて、仲間の加勢に行けと言う。
『馬鹿で中途半端で突出した強さは無い…だが…悪くない…』
モーイはそう感じる自分に驚いた。
自分より弱いものに守られる生き延びた事と、その自分の中に新たに浮かび上がった考えに思い沈んでいるとフレイから声を掛けられる。
「モーイ大丈夫? 難しい顔してるよ…そう言えばミーティとクリールは?」
その質問に対し答える。
ミーティは怪我をしてはいるが命に別状はないだろう…と、ちょっと自分自身に情けなさを感じた…と、モーイはフレイに伝えた。
するとフレイは何故か突如モーイの手を掴み魔力循環を起こす。
フレイの瞳と同じ新緑の色した優しい魔力が体に巡るのを感じ、モーイの疲れた身体と心に抱える澱みを浄化し癒して行く。
モーイの中にある悔恨と憤りと迷いを感じ取り、吹き飛ばしてくれたのだ。
『あぁ、何か似てるんだな…』
自分を投げ出してでも誰かを守り思いやれる所が…ミーティにもフレイにもニュールにも有るが自分には持ち得ない気持ち…。
それ故に眩しかった。
だから、つい…過剰なお礼としてモーイはミーティの頬へ口付けを与えてしまった…。
なのに皆での話し合いの中で聞いたミーティの発言は、何だか必要以上に腹が立ち怒り湧き上がる。話し合い後、ひとり部屋を出てもモーイの怒りは収まらない。
「…くっそ乳好きがぁ!!!」
モーイはイラつきが増し、小さく心の中で毒づいた…つもりだった。
「ニュールが乳好きでも許せるが、お前ごときがソレは許されない!」
モーイの自分勝手な理論でミーティへの怒りが沸き上がる。悔しさも混ざり、その思いが徐々に大きくなっていた。
「折角、ミーティが助けてくれて嬉しかったのに…少し格好良いと思ったのに、一瞬でもそう思った気持ちを返せ!」
部屋の外の隅で、自分のヤラカシに打ちひしがれていたミーティがその声を耳にし顔を上げ問う。
「…それ、本当か?」
「???」
モーイは予想外の心の思いへの返答に驚く。
部屋の外に出ることでモーイは何となく安心してしまったが、心をつまびらかにする魔力の範囲は部屋ではなく塔だ。
モーイが思った事は全て言葉となり相手に伝わっていた。
ヤラカシ仲間になってしまったことをモーイは自覚する。
大したことを考えていた訳では無い…だが、考えたことが相手に伝わるのは予想以上に恥ずかしかった。
「ありがとうな…。オレ、ここの皆の中で一番弱くって役立たない…ってへこんでたんだ。だからそう言って貰えると嬉しいわ」
照れて素直に笑う顔が、モーイには眩しく感じられた。
だが気を良くしたミーティは、赤裸々に心を開示してしまう塔の魔力の事を一瞬で忘れ去っていた。
手痛い失敗が再びやってくる。
「えへへっ、オレの事気になってるって事かぁ!…頬に接吻までしてくれちゃうって事は好きって事なのか??!」
ミーティは先程の穴に埋まりそうな位の恥じ入る姿は何処へいったのか…ふてぶてしい位の厚かましい奴に変身してしまっていた。
人間、気がゆるんだ時ほど致命的で決定的な間違いをする。
そして言ってはいけない事を言ってしまうのだった…。
「ちょ~っと貧弱だけど見た目は美人だし、何時だってドンと来いって感じだな~」
モーイ視線の温度が辺りを凍らせ、静寂を生み出す。
フレイがヤラカシ一番ならミーティはうっかり失言大魔王と言える様な発言。
その時、容赦なきモーイの高速回転を掛けた廻し蹴りが神罰の如く背中に確実に打ち込まれ、ミーティは2メル程身体を飛ばし…意識も飛ばした。
タリクに言われて散々怒りを溜め込んでた "貧弱" と言う言葉は、確実にモーイ堪忍袋の緒を切った。
「お前がアタシの気を引けると思うなんて一億の天輝降り注ぐよりあり得ない! 生まれる前からやり直しやがれ!!」
怒りをぶつけると何だかちょっとスッキリした。
このミーティの懲りないお馬鹿っぷりに笑えてくるモーイだった。
「…20年位して少し落ち着いたら考えてやってもいいよ…」
つまびらかにする魔力とは関係なく、自分の意思でモーイは言葉にし告げた。
だが折角の言葉も聞き取るために必要なミーティの意識は未だ夢の中、当分戻りそうも無かったのだった。
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