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第三章 インゼル共和国編
24.失い進む先
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「闇石を使う指示が出ました」
耳にした隠者達は驚愕する。
闇石の扱いは命を必要とする。
闇石の魔力を動かした者は、その魔力と共に洗いざらい中身を持っていかれてしまうのだ。しかも隠者級の回路を持つものでないと魔力を動かすことさえ出来ずに取り込まれるだけであり、無駄足となる。
闇石は魔力回路を伴った魂そのものが封じられた空間転移魔石…では無いかとも言われている。この説は大量の研究者をその魔石の中へ送って得た極小さな推測でしか無かった。
かつてヴェステ王立魔石研究所でも闇石の研究に取り組むものが居た。
だが、今は一人も居ない。
研究していた者達が軒並み石に取り込まれ、研究がもたらす利益に対する損失の均衡が著しく崩れてしまい王宮より研究禁止令が出たのだ。
それでも武器としての開発に取り組む隠者達が王宮にて代々扱ってきたので、取り扱いの代償が命であることは皆知っていた。
先程ニュールに攻撃を仕掛けた隠者Ⅲは攻撃跡を確認しに行き、そこに最初から何も無いことを発見し激昂していた。
「逃げるとは卑怯千万! 天からの鉄槌下すべき悪である。奴のような者が大隠者に匹敵する大賢者であるなどとは、やはり思えん!!」
そう叫び腹わたが煮えくり返る様な思いに責め苛まれる…だが否定したい思いと共に、もうひとつの眉唾物の話を思い出す。
万に一つあるかは疑わしいが、それでも誠しやかに囁かれる風説。
彼の者が大賢者に至ったのはサルトゥスの夜を凌ぎ、ヴェステで用意した闇石に封じられた魂宿る死者の魔力を取り込んだからだと囁かれていた。
実際の大隠者…大賢者になった者からすれば流言飛語の類いである。
だがその噂に背中を押され決断する者が居た。
「私が行おう」
隠者Ⅲが申し出た。
「しかし上位の者が居なくなっては…」
下位の隠者が述べる。
「何故、居なくなること前提で話す!」
自信たっぷりにⅢは答える。
「目の前の塔に居る奴は、サルトゥスで我々が用意した闇石の魔力を一部取り込んだそうだ。奴にそれが出来るなら、取り込むわけでもなく魔力を動かすだけの事を私に出来ない訳が無い」
ヴェステにはもともと流説に近い通説があった。
他者の魔力伴う魂を取り込めた者が大隠者になれる…と言うものであり、ニュールの噂はこの説と混ぜ合わされ形成されたようだ。
『奴が至れて私が至れぬはずが無い…』
隠者Ⅲは野望を持ちその役割を望んだのだ。
申し出は受理され隠者Ⅲが闇石の起動役となった。
そして塔攻略の為に築き上げた橋の先端にて、闇石の到着を待つ。
闇石は厳重に防御結界陣を施した箱を二重にして封じ、4人で慎重に運ぶ。更に持ち歩く者達は、結界を張りながら移動する。
サルトゥスではこの状態の物を厳重に六方に防御結界陣を築いた部屋に運び込み、外部からも部屋を封じて魔力の取り出しを行うようだ。
待つ間に隠者Ⅲがその場に防御結界陣を築き上げる。
その間も他の隠者達は此の作戦の一環として、陽動で塔の反対側から攻撃を続けている。
『要は足止めされている奴の所へ私が有効な魔力の取り出しを行い、攻撃するだけのこと…』
自分の力に誇りを持ち、任務に取り組む隠者Ⅲ。
しかし根拠なき噂や知識や自信は、実際の力の前では何の役にも立たないと知ることになる。
闇石が入った箱を陣の中心に置く。
合図と共に陣の内より人々が立ち去る。
物凄まじく厳重に結界を施された箱に単独で対する隠者Ⅲ。
オドロオドロしきその箱に対峙し、隠者Ⅲは勇み高ぶり向かいあい1段目の箱を開ける。
開けた瞬間から侵食してくる圧力が、隠者Ⅲの中にジワリと染み込んでくる。
無謀な決断による蛮勇によって、少しずつ辛酸を味わい始める。
恐怖…とは己の中に生まれるモノである。
その教えの中で己を鍛え上げるよう指導され、修練を重ねてきた隠者Ⅲであった。
…だが本当の恐怖はもたらされるモノであった。
1段目の箱が空いた時点で後悔する。
『これは我が手にして良いものではない!』
気付きや学びは取り返しのつかない時点でやってきた。
2段目の箱は自分でない何かに支配され開けることになった…。呆気なく隠者Ⅲだった思い持つ魔力はその流れの一部となり目標目掛けて真っ直ぐに進む。
隠者Ⅲが役に立ったとしたら、その欲と執着でニュールへ向かう指向性を高める一助となった事だろうか。
結界施される箱より、悍ましき思いを持つ魔力達が導き出される。
夥しい数の念籠る魔力が行く宛を探し、収められた陣より溢れだし空高く立ち昇る。
指向性を持つ魔力は対象を求める。
執着する相手目掛けて突き進む。
高みより求める魔力の輝き見い出したる執着する心持つ魔力は、まるで愛するモノを発見した乙女の様に周囲を巻き込みつつ一途に駆け寄りニュールの心を射止める為その場所を目指すのだった。
塔攻めの隠者や攻撃力ある内包者の対応をしていたニュール。
ある程度の力持つ者を、殺さず尚且つ自身も傷つけられず対応するのは細かい魔力操作が必要で苦労する。
「気にせず、殺る」
隣にいたディリはいつもの様に淡々と言う。
「来たくて来た訳じゃない者だって居るだろ?」
『出来るなら対する者は少なく…穏便に済ませられるならその方が良い』
ニュールはそう思った。
その要らぬ気遣いを不思議に思うディリの視線に言い訳のようにニュールは付け足す。
「まぁ、来ちまった奴は自己責任なんだけどな…」
それでも、巻き込まれる人間は少ないに越したことは無いと思ったのだ。
その時ニュールは敵陣側からの突如生じた圧力に振り返る。
目の前で攻撃していた者達が自陣からの強大な魔力の流れに防御さえ出来ず、意識を持っていかれ表情が虚ろとなる。
瞬間、怨嗟の思い籠る魔力の流れが、一振りの剣の如くニュールを見定め指し貫く。
横に居たディリにも止めようがなかった。
全ての思い籠る魔力が怨嗟に導かれニュールへと少しずつ勢いを増し流れ込んでいく。
塔との繋がりを持つわけでもなく取り込みに慣れているでもないニュールは、サルトゥスの夜同様もがき苦しむ。
このまま続け様にニュール目指し遣って来る怨嗟籠る魔力を処理し続ければ、たとえ大賢者に至っているニュールであっても回路断たれた人形となるであろう。
何者かに支配されるか…中に残る何かが取って代わるか…空虚な器のまま彼方との接続が切れるか…どの結末かが訪れる。
ディリは悩むまでもなく決断する。
「ディリは今のニュールが好き…」
その思いを呟き告げる。
ディリはニュールに襲いかかっていた闇石から向かい来る破滅的な魔力との間に魔力障壁を築き、自身の彼方との扉を開く。
そして思い籠る邪悪な魔力を、自身の扉の内へと導き送り込む。
その膨大な魔力を導き適合する魔力へと変換し、賢者の石へと誘引し塔の魔力へと還元する。
ニュールの内側を破壊する如く振る舞う怨嗟籠る魔力の暴走は収まった。
攻撃は無効化された。
だがディリが取り込んだ魔力量は、彼方との接続の許容量を越えてしまった。
ディリの扉は破壊され…消失した。
ディリの器から今この瞬間まで存在していた此処にいたディリは消えてしまった。
器は次のディリを呼び込み目覚めるであろうが今までのディリでは無い。
「……」
苦しい意識の内でその事実を察知したニュールは愕然とする。
あっけない終焉。
ニュールはその現実に絶句すると共に、ディリがはにかみながら伝えた言葉を思い出し呟く。
「大人の身体手に入れるから…本気で…相手になってって…言って無かったか?」
途切れ途切れ呟くニュールの言葉に、何処へ向けるでも無い憤りと、遣る瀬無さと、哀しみが膨れ上がる。
押し込められたその感情の昂ぶりは鍵を開く。
その時ギラギラとした濃い黄色の輝きが爆発し、白い輝きを押さえ込み塔と辺り一帯を包む。
その中心には虚無の瞳持つ喪失感さえ消えた空虚な表情の男が、魂抜け抜け横たわる少女の下に跪き頭に手を置く姿があった。
其処にいつものニュールは居なかった。
静かなる怒りの中で解放されたニュールは、塔との接続を飛び越し接続の先にある…支配へと直接至っていた。
内在する全ての情報と力が意識の中を流れ通り過ぎて行く。
自身の存在も他者の存在もが紙の上に落としたインクの染み位の存在感にしか感じない。
塔に攻撃を仕掛けてきてディリを消滅に追いやる原因となった者達。
その只のインクの染みでしか無い者達が自身の大切な者を踏み潰した怒りに我を忘れる…そしてその怒りの先に、怒りとも言えない虚無の感情が生まれたのだ。
そして半径1キメルの場所に突如破壊的な魔力の圧がかかる。
その範囲内に居た全ての者達…先程の怨嗟籠る魔力の流れに巻き込まれなかった様な者も含め、意思ある生物全ての彼方との繋がりが知らぬ間にニュールの手の中に握りしめられていた。
そして繋がりは…躊躇いなく握りつぶされた。
動いてた者達全てが、操り人形の糸を切ったかのようにのように崩れ落ちる。
塔との接続なく怒りから繋がり突如至る…支配。
新たに表出したニュールの中身には、怒りと劣るモノへの蔑みしか含まれていなかった。
人格と呼べるようなモノは消え、理論も理性も持たぬ魔物の思考がそこにあった。
その思考の中にあるのは支配するものか従属するものかの2択である。
ニュールの中は先程の怨嗟籠る魔力で荒らされ、それが目指した先にあった黄緑色の光に守られた箱が開かれ晒されていた。
中に入ってたのは殲滅の記憶と魔物の心だった。
耳にした隠者達は驚愕する。
闇石の扱いは命を必要とする。
闇石の魔力を動かした者は、その魔力と共に洗いざらい中身を持っていかれてしまうのだ。しかも隠者級の回路を持つものでないと魔力を動かすことさえ出来ずに取り込まれるだけであり、無駄足となる。
闇石は魔力回路を伴った魂そのものが封じられた空間転移魔石…では無いかとも言われている。この説は大量の研究者をその魔石の中へ送って得た極小さな推測でしか無かった。
かつてヴェステ王立魔石研究所でも闇石の研究に取り組むものが居た。
だが、今は一人も居ない。
研究していた者達が軒並み石に取り込まれ、研究がもたらす利益に対する損失の均衡が著しく崩れてしまい王宮より研究禁止令が出たのだ。
それでも武器としての開発に取り組む隠者達が王宮にて代々扱ってきたので、取り扱いの代償が命であることは皆知っていた。
先程ニュールに攻撃を仕掛けた隠者Ⅲは攻撃跡を確認しに行き、そこに最初から何も無いことを発見し激昂していた。
「逃げるとは卑怯千万! 天からの鉄槌下すべき悪である。奴のような者が大隠者に匹敵する大賢者であるなどとは、やはり思えん!!」
そう叫び腹わたが煮えくり返る様な思いに責め苛まれる…だが否定したい思いと共に、もうひとつの眉唾物の話を思い出す。
万に一つあるかは疑わしいが、それでも誠しやかに囁かれる風説。
彼の者が大賢者に至ったのはサルトゥスの夜を凌ぎ、ヴェステで用意した闇石に封じられた魂宿る死者の魔力を取り込んだからだと囁かれていた。
実際の大隠者…大賢者になった者からすれば流言飛語の類いである。
だがその噂に背中を押され決断する者が居た。
「私が行おう」
隠者Ⅲが申し出た。
「しかし上位の者が居なくなっては…」
下位の隠者が述べる。
「何故、居なくなること前提で話す!」
自信たっぷりにⅢは答える。
「目の前の塔に居る奴は、サルトゥスで我々が用意した闇石の魔力を一部取り込んだそうだ。奴にそれが出来るなら、取り込むわけでもなく魔力を動かすだけの事を私に出来ない訳が無い」
ヴェステにはもともと流説に近い通説があった。
他者の魔力伴う魂を取り込めた者が大隠者になれる…と言うものであり、ニュールの噂はこの説と混ぜ合わされ形成されたようだ。
『奴が至れて私が至れぬはずが無い…』
隠者Ⅲは野望を持ちその役割を望んだのだ。
申し出は受理され隠者Ⅲが闇石の起動役となった。
そして塔攻略の為に築き上げた橋の先端にて、闇石の到着を待つ。
闇石は厳重に防御結界陣を施した箱を二重にして封じ、4人で慎重に運ぶ。更に持ち歩く者達は、結界を張りながら移動する。
サルトゥスではこの状態の物を厳重に六方に防御結界陣を築いた部屋に運び込み、外部からも部屋を封じて魔力の取り出しを行うようだ。
待つ間に隠者Ⅲがその場に防御結界陣を築き上げる。
その間も他の隠者達は此の作戦の一環として、陽動で塔の反対側から攻撃を続けている。
『要は足止めされている奴の所へ私が有効な魔力の取り出しを行い、攻撃するだけのこと…』
自分の力に誇りを持ち、任務に取り組む隠者Ⅲ。
しかし根拠なき噂や知識や自信は、実際の力の前では何の役にも立たないと知ることになる。
闇石が入った箱を陣の中心に置く。
合図と共に陣の内より人々が立ち去る。
物凄まじく厳重に結界を施された箱に単独で対する隠者Ⅲ。
オドロオドロしきその箱に対峙し、隠者Ⅲは勇み高ぶり向かいあい1段目の箱を開ける。
開けた瞬間から侵食してくる圧力が、隠者Ⅲの中にジワリと染み込んでくる。
無謀な決断による蛮勇によって、少しずつ辛酸を味わい始める。
恐怖…とは己の中に生まれるモノである。
その教えの中で己を鍛え上げるよう指導され、修練を重ねてきた隠者Ⅲであった。
…だが本当の恐怖はもたらされるモノであった。
1段目の箱が空いた時点で後悔する。
『これは我が手にして良いものではない!』
気付きや学びは取り返しのつかない時点でやってきた。
2段目の箱は自分でない何かに支配され開けることになった…。呆気なく隠者Ⅲだった思い持つ魔力はその流れの一部となり目標目掛けて真っ直ぐに進む。
隠者Ⅲが役に立ったとしたら、その欲と執着でニュールへ向かう指向性を高める一助となった事だろうか。
結界施される箱より、悍ましき思いを持つ魔力達が導き出される。
夥しい数の念籠る魔力が行く宛を探し、収められた陣より溢れだし空高く立ち昇る。
指向性を持つ魔力は対象を求める。
執着する相手目掛けて突き進む。
高みより求める魔力の輝き見い出したる執着する心持つ魔力は、まるで愛するモノを発見した乙女の様に周囲を巻き込みつつ一途に駆け寄りニュールの心を射止める為その場所を目指すのだった。
塔攻めの隠者や攻撃力ある内包者の対応をしていたニュール。
ある程度の力持つ者を、殺さず尚且つ自身も傷つけられず対応するのは細かい魔力操作が必要で苦労する。
「気にせず、殺る」
隣にいたディリはいつもの様に淡々と言う。
「来たくて来た訳じゃない者だって居るだろ?」
『出来るなら対する者は少なく…穏便に済ませられるならその方が良い』
ニュールはそう思った。
その要らぬ気遣いを不思議に思うディリの視線に言い訳のようにニュールは付け足す。
「まぁ、来ちまった奴は自己責任なんだけどな…」
それでも、巻き込まれる人間は少ないに越したことは無いと思ったのだ。
その時ニュールは敵陣側からの突如生じた圧力に振り返る。
目の前で攻撃していた者達が自陣からの強大な魔力の流れに防御さえ出来ず、意識を持っていかれ表情が虚ろとなる。
瞬間、怨嗟の思い籠る魔力の流れが、一振りの剣の如くニュールを見定め指し貫く。
横に居たディリにも止めようがなかった。
全ての思い籠る魔力が怨嗟に導かれニュールへと少しずつ勢いを増し流れ込んでいく。
塔との繋がりを持つわけでもなく取り込みに慣れているでもないニュールは、サルトゥスの夜同様もがき苦しむ。
このまま続け様にニュール目指し遣って来る怨嗟籠る魔力を処理し続ければ、たとえ大賢者に至っているニュールであっても回路断たれた人形となるであろう。
何者かに支配されるか…中に残る何かが取って代わるか…空虚な器のまま彼方との接続が切れるか…どの結末かが訪れる。
ディリは悩むまでもなく決断する。
「ディリは今のニュールが好き…」
その思いを呟き告げる。
ディリはニュールに襲いかかっていた闇石から向かい来る破滅的な魔力との間に魔力障壁を築き、自身の彼方との扉を開く。
そして思い籠る邪悪な魔力を、自身の扉の内へと導き送り込む。
その膨大な魔力を導き適合する魔力へと変換し、賢者の石へと誘引し塔の魔力へと還元する。
ニュールの内側を破壊する如く振る舞う怨嗟籠る魔力の暴走は収まった。
攻撃は無効化された。
だがディリが取り込んだ魔力量は、彼方との接続の許容量を越えてしまった。
ディリの扉は破壊され…消失した。
ディリの器から今この瞬間まで存在していた此処にいたディリは消えてしまった。
器は次のディリを呼び込み目覚めるであろうが今までのディリでは無い。
「……」
苦しい意識の内でその事実を察知したニュールは愕然とする。
あっけない終焉。
ニュールはその現実に絶句すると共に、ディリがはにかみながら伝えた言葉を思い出し呟く。
「大人の身体手に入れるから…本気で…相手になってって…言って無かったか?」
途切れ途切れ呟くニュールの言葉に、何処へ向けるでも無い憤りと、遣る瀬無さと、哀しみが膨れ上がる。
押し込められたその感情の昂ぶりは鍵を開く。
その時ギラギラとした濃い黄色の輝きが爆発し、白い輝きを押さえ込み塔と辺り一帯を包む。
その中心には虚無の瞳持つ喪失感さえ消えた空虚な表情の男が、魂抜け抜け横たわる少女の下に跪き頭に手を置く姿があった。
其処にいつものニュールは居なかった。
静かなる怒りの中で解放されたニュールは、塔との接続を飛び越し接続の先にある…支配へと直接至っていた。
内在する全ての情報と力が意識の中を流れ通り過ぎて行く。
自身の存在も他者の存在もが紙の上に落としたインクの染み位の存在感にしか感じない。
塔に攻撃を仕掛けてきてディリを消滅に追いやる原因となった者達。
その只のインクの染みでしか無い者達が自身の大切な者を踏み潰した怒りに我を忘れる…そしてその怒りの先に、怒りとも言えない虚無の感情が生まれたのだ。
そして半径1キメルの場所に突如破壊的な魔力の圧がかかる。
その範囲内に居た全ての者達…先程の怨嗟籠る魔力の流れに巻き込まれなかった様な者も含め、意思ある生物全ての彼方との繋がりが知らぬ間にニュールの手の中に握りしめられていた。
そして繋がりは…躊躇いなく握りつぶされた。
動いてた者達全てが、操り人形の糸を切ったかのようにのように崩れ落ちる。
塔との接続なく怒りから繋がり突如至る…支配。
新たに表出したニュールの中身には、怒りと劣るモノへの蔑みしか含まれていなかった。
人格と呼べるようなモノは消え、理論も理性も持たぬ魔物の思考がそこにあった。
その思考の中にあるのは支配するものか従属するものかの2択である。
ニュールの中は先程の怨嗟籠る魔力で荒らされ、それが目指した先にあった黄緑色の光に守られた箱が開かれ晒されていた。
中に入ってたのは殲滅の記憶と魔物の心だった。
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