魔輝石探索譚~大賢者を解放するため力ある魔石を探してぐるぐるしてみます~≪本編完結済み≫

3・T・Orion

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第三章 インゼル共和国編

20.進み落ちる

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クシロスから船で3日程の場所に首都ボハイラがある。
乗り込んで既に2日目。

最初は皆初めての船に興奮し、はしゃぎ回っていたが1日で十分だった。
岸から然程離れない場所を進むので変化がほとんど無いのだ。しかも走って追い付けるかと思われる速さ。
もしかしたら陸地を乗り物ででも進んだ方が早いのではと思われた。

「ここら辺の樹海は大岩蛇グロッタウの巣窟でして、樹海を進むと一歩進む度に10匹相手にすると言われてますし昼夜違わず襲ってきます」

「それは難儀だな」

「確かにそれは面倒ですわね」

案内の者の説明に皆納得する。

「ご存じのように大岩蛇は水を嫌いますので、この領域では水路を用いての移動が主となってます」

「なるほどな…だが、もう少し早く進めないのか?」

モーイは初日からこの遅さに苛ついていた。

「速さを出す為には水深のある場所の方が良いのですが、水深のある場所には大和邇鱶セラチモーファが居るので危険なんです」

大和邇鱶は大きいものだと、荷車を飲み込むぐらいの大きさのものが居るそうだ。民間の速さを求める船が蛮勇で深水域を航行してソイツに遭遇し、永遠に前へ進めなくなることが多々ある様だった。
魚釣りなどの娯楽もあるがフレイ達は目立つわけにもいかず、用意された個室でだらだら過ごす事しか出来なかった。

船の上…何事もなく過ごす時間。

油断していた。

モモハルムアの侍女として船に乗り込んだフレイリアルとモーイは特にダラケきっていた。
モモハルムアの方が侍女かと思うぐらい2人を接待してくれた。

「私、嬉しいんです…女友達とお茶するような機会もなく過ごしてきたので…」

モモハルムアの告白は予想外であった。
では、どんな日常だったのか…興味がありモーイは尋ねてみた。

「じゃあ何して過ごしてたんだ? 勉強か?」

「勉学の時間もとりましたが、基本は鍛練です」

モーイもフレイも吃驚仰天な回答だった。

「確かにモモハルムアは強いもんね! あの日だってニュールと一緒にしっかり戦っていたもんね」

フレイが振ったニュール話にモーイが乗り出す。

「どんな感じの戦いだった?」

モモハルムアも、最悪で苛烈な1日だったのにニュールの事だと目を輝かせ語る。

「えぇ、とてもとても凄かったです…私を庇って傷を負ってしまったのに笑顔で心配させないように気遣う様な…そんなお姿を見ていたら…私は…堪らなく…お慕い申し上げてしまったのです」

頬を染めながらのモモハルムアのニュール語りにモーイが同調する。

「そうなんだよなぁ~懐が大きいと言うか強さが半端ないのに優しくて可愛いんだ…」

「えぇ、気持ちをぶつけた時の動揺が本当に可愛らしくて…」

「「最高に愛しい!!」」

キャイキャイ叫びながら手を取り合い夢中になる2人。推し語りが激しくて付いて行けそうもないフレイは一旦席を外すことにした。
船の中を気軽に歩きながら思う。

『この船、貸しきりだったんだ…』

甲板ではタリクとフィーデスが、真剣に手合わせをして鍛練している。
邪魔するのも何なので、厩舎にミーティとクリールの様子を見に行く事にした。

船倉へ降りる階段を進み、手を振りながら声をかける。
いつもの様子と違い、辺りを窺い静かに佇むミーティと大人しくミーティに同調するクリール。

「ミーティどうしたの?元気無いか…」

「止まれ!!フレイ来るな!!」

被せるように叫び警告するミーティ。
それと同時に打ち込まれる攻撃魔力、影に隠れ防御で応じるミーティの姿。
戦闘が始まった。
船倉の仄暗さの中で、双方が魔力を立ち上げ打ち出し防御結界に当たり炸裂する光が飛び交う。
ミーティは確実に攻撃を防ぎ、自身からの攻撃を繰り出しつつフレイに伝える。

「オレもコイツらを何とかしたら皆の所へ行く。先に戻って船倉に襲撃が合ったことを知らせてくれ!」

「わかった!ミーティも気をつけて!!」

階段に隠れながら状況を確認したフレイは、ミーティの余裕が有りそうな姿に安心した。フレイリアルは階段を駆け上り、来た道を急ぎ戻る。

甲板で鍛練していたタリクとフィーデスも先程の場所からは消えていた。上空で光が飛び交っている。此処にも襲撃する者が現れたと言うことだ。
タリク無事応戦はしているのであろう。夜空に広がる攻撃の光と防御の光は、双方の遣り取りが互角で有ることを語っている。
守護者で有るフィーデスは、多分敵が現れた時点でモモハルムアの下へ向かったであろう。

『モーイも一緒だし大丈夫かな…』

モモハルムアの心配をしながらフレイリアルも自分を戒め十分警戒しながら行動する。
そして違和感に気付く。
戦いは彼方此方で有るのに光だけで魔力の気配が感じられない。
嫌な予感がして部屋へ戻る足を速めるが、ふと思い出す。

『この船、最初はお客さんが居た…』

部屋の前に着き扉を開けると、そこには誰もいなかった。
部屋の中に人の気配は無い。
船の甲板や船室…どこを探しても気配が無い上に、さっきまであった戦闘の気配まで消えている。

「おかしい…」

フレイリアルは呟く。中央の広間のような場所に出て壁を背にし目を瞑り、手持ち魔石で船全体に探索をかける。

「!!!」

四方八方に展開されたありとあらゆる陣の存在を感じる。
しかも陣を重ねがけすることで、空間認識が歪むほどの魔力が干渉し流れを妨害している感じがする。
此だと目の前にあるものでさえ知覚できないかもしれない。
魔法陣全部を消してしまいたいが、流石にこの場で陣解除を行うのはためらわれる。

『探査を掛けながら、陣をよけて影響の無い場所を探そう…』

場所を見極めながら進む。
一番影響が少なそうなのは甲板だった。
甲板へ出る扉まで行き、開けようとするその先に人の気配。

『みんなかも…』

喜び開けた瞬間…迂闊に扉を開き油断したことを、今更ながら後悔した。

そこにはリャーフ王国アスマクシル商会商会長エルシニアが居た。
過去に明らかな敵として現れてはいなかったが、敵であることは明らかだった。

そのリーシェライルに似ているような、似てないような微妙な類似感が心をざわつかせる。
感情の籠らぬ瞳で作り物の笑顔を浮かべているが、そこには内面の残忍冷酷さが隠しようもなく滲み出ている。

狂喜を帯びた愉悦と昂ぶりを、隠す事もなく声に出し楽しげに述べた。

「お久しぶりです《取り替え子》の姫よ! ガルレネの街の我が手より抜け出して、どれだけ心配した事か…大賢者リーシェライル様の代わりに私がエリミアで貴女を飼ってあげようと思っているのに! 貴女を捕まえて見せびらかしたら、大賢者様は歯噛みして悔しがってくれるでしょうか…それとも地団駄踏んでくれるでしょうか…今からとても楽しみです」

長々と垂れ流すように勝手なことを述べると、魔物のような心無い瞳で此方をじっと見つめフレイリアルに告げる。

「さて、その前のお楽しみ…狩の時間です。さぁ待っててあげるからお逃げなさい…じっくりと船が着くまで楽しみましょう…」

そして皮膚の表面を切り裂く程度…ちょっとした攻撃としては十分な魔力をフレイリアル目掛けて打ち出してくる。

「私は扱える魔力量が少なくて苦労したのですが、こう言う遊びにはもってこいの強さですよね…」

いきなり頬をかすめるように攻撃が通りすぎる。容赦なく狙ってくる。

「さぁ、逃げてくれないと詰まらないじゃないですか…」

猟奇的な輝きを放つ瞳を細め、心から嗜虐を楽しむ笑みを浮かべ美しく佇む。

ゆっくり一歩ずつ歩き出し、静まる船内に足音を響かせ此方へと近づく。
フレイは背中に泡立ちを感じ、その場から逃げ出す。
防御結界陣を刻んだ魔石を立ち上げつつ、振り返ることもできず息を切らすままに走り続けた。

『他の人は…皆は…』

陣の影響で気配がわからないのか、実際に此処に居なくて気配が無いのか分からない。
攻撃は間断無く届き、防御結界とぶつかる度に光を放つ。
独り走り続け逃げるしか無かった。
甲板への扉も船倉への階段に繋がる扉も、全て閉じられ開かない。ぐるぐると逃げ回るだけで何も前へ進む足掛かりがない。
それでも上へ下へ移動し少し距離を取れたので、据え付け家具の隙間に隠れ休み考えを巡らす。

『このままでは駄目だ! みんなだって助けが必要かもしれないのだから自分で遣らなくちゃ…』

今フレイが持っているのは生活魔石である柘榴魔石と、新しくリーシェにもらった緑透魔石と、リーシェの代わりに…と持つ灰簾魔石だった。
新しい魔石は、緑柱魔石をリーシェに所望された時…代わりの偽装用認証魔石として用意してくれたものだった。

その時も、守りの思い籠めた祝福を与えるためにリーシェは魔石に口付けてから緑透魔石を渡してくれた。

「此は天輝や地輝は入っていないけど力が強くて緑透魔輝石と通称で呼ばれることもあるんだ。少し硬度が弱いから僕の魔力で補強してあるからね…」

その魔石を握るとリーシェの魔力が巡り温かさを感じた。
フレイは無意識に魔石に口付けると握りしめ戦う決意をする。

『リーシェ!チョットだけ頑張ってみるよ…』

柘榴魔石を取り出し手に握る。
魔石との回路を繋ぎ丁寧に魔力を導き出す。

「純粋に取り出された柘榴魔石の魔力は、紅玉魔石に劣らぬ威力を持つんだぞ」

ニュールと旅している頃に教わった事。

「お前の大好きな魔石は可能性の宝庫だな。使い方次第で守る力が攻撃する力になったり、攻撃する力が移動する力になったり、力の弱い魔石だって強く変わるんだ。紐付けられた魔力は絶対じゃ無い…扱う者次第さ!」

2人の師匠を思い勇気を出す。
防御結界陣を刻んだ魔石を陣を起動させたまま見えにくい場所に置き、高度な隠蔽魔力を纏いその場から距離を置き、壁の隙間に潜み機会を待つ。

少し間を開けていた男の足音が近付く。
息を止め最適な瞬間を待つ。

防御結界陣の気配に向けて容赦なく攻撃しつつ距離を詰めてきた男は、結界が移動しないので訝しみ攻撃の手を休める。
その状況を理解し、リーシェに少しだけ似た表情を曇らせ舌打つ。
心緩むその瞬間を狙い、細く研ぎ澄ませ圧縮した柘榴魔石の魔力で男の防御結界を刺し貫くように攻撃した。

刹那、ヒビが入るように結界が消え男が無防備な状態でさらされる。
そこを狙いモーイ仕込みの魔力体術で護身用の短剣を男の喉元に突きつける。
状況を制し現状を打開した…様に思えた。

その男は、リーシェに似た甘い毒含む笑みを浮かべフレイに語りかける。

「とても良くできました…ある程度楽しめました。でも貴女の詰みです」

そう言って、男は喉元の短剣が皮膚を突き破るのも気にせず自分から近付き…血が滴る。
一瞬、プツリと剣が人に刺さる感覚があり・・・剣を突きつけてはいるが、手を引いてしまう。
動揺がフレイを捕らえる。

「貴方には次の手がありませんが、私にはあります…」

更にズイッと近づき男の手が短剣を握りしめた。

握る刃から鮮やかな流れが溢れ出し、フレイリアルの前にいる男の手を彩り華やかに飾って行く。
そこには鮮麗で血生臭い花束を持ち、瞳に残忍な輝きを宿し喜びに浸る…はち切れんばかりの笑顔を浮かべるリーシェライル似の美しい男がいた。

「アーハハハハッハハハハハッ!!」

愉悦に浸り興奮した高笑いを此方に向ける狂喜の姿。

フレイリアルは思わず無意識に後ずさってしまった。
決意の表情はその男の狂騒に崩され、怯える獲物の表情へと置き換わってしまった。二歩ほど下がった時、フレイの足元から緑色の輝きが生じ足元が固定される。

興奮の波去った男が呟く。

「それは貴女のために私が用意した捕縛結界陣です。なかなか良い仕上がりでしょ? 私は魔力が少ない分、陣が得意なのです…」

そう言うと足を陣に縫い止められたフレイの居る場所へ、鮮やかに染め付けられた手を伸ばす。
そして緋色に彩られた指でフレイの唇をなぞり血の紅で飾り、更にソレを十分味わえるよう…口の中へ注ぎ込むように指を差し入れた。
咄嗟に拒否するが、既に注ぎ込まれた味がフレイの口内に広がる。
その不快な鉄錆びた味にフレイの表情が歪む。

「貴女にはこの味を堪能し尽くす様な覚悟が足りなかった…そんな中途半端な足掻きは無駄だと悟りましたか?」

穏やかに諭すように、優しく告げる。

「諦めず進んだとしても状況が許さないこともあるんです。自身の思いなんて塵芥…環境を呪い自身の中に沈み…希望なんて浅薄な思い込みは手放しておしまいなさい…」

「……」

何も答えられなくなったフレイリアルを背にし、片手を上げ潜んでいた者たちを呼びつける。

「拘束しといて下さい」

その時、進路が変わるような動きと接岸する衝撃を感じた。

「ちょうど良かったみたいですね…それならば…」

先程の指示に詳細な要望を加える。

「作戦提案の為に青の将軍の前に持っていきますので、粗相のないよう厳重に拘束して下さい。でも、戦利品として見せびらかしたいので、誘うように魅惑的に…あの方の趣味に近づけて飾って下さいね。今後の餌になるかもしれませんから…」

そしてフレイリアル自身には何の興味も無いように其処に残し立ち去っていった。
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