85 / 193
第三章 インゼル共和国編
15.進む推測と確信
しおりを挟む
『既に魔物魔石と繋がり大賢者に至っているニュールが、更に塔を操る賢者の石を取り込んだら…何が起こるのか…』
反発か融合か最強か破滅か…ニュロの思考が奥へ奥へと真理を求めて踏み込んで行く。
通常、賢者から大賢者へ至るに当たって賢者の体内魔石は賢者の石の一部となり吸収され、体内には賢者の石が宿る。
体内に入った魔石が何処に存在するのか…生きている間でないと取り出せないが、生きている間は体内に感じることはない。
これはヴェステの魔石研究所でも至上の命題の一つとして取り上げられ、過去何度も残酷非道な決して口にできないような実験が繰り返されてきた。
白の巫女達の話や状況などから現在考え得る内容で、無限意識下集合記録と言う存在を推測してみる。
そして、集合知であり意志であり魔力を含むその無限意識下集合記録が存在する場所を彼方であると仮定する。
そうすると、魔石が生きている間でないと存在が消滅してしまうことが多いのは、生きている内しか彼方と繋がっていないからでは…と推論できる。
彼方と切れることで生命も事切れる。
故に魔力暴走による痛手は死に繋がるが、体内魔石と自身の回路が許容量以上の魔力の使用で断絶したとしても死へは繋がらない。
インゼルの白の塔とサルトゥスの時の神殿を比べると、同じ様に大賢者と繋がらぬ塔であるにも関わらず塔の持つ能力差は明らかであった。
サルトゥスは境界壁と塔や陣を維持している。
一方のインゼルは、塔の魔力さえ維持できず白の巫女達が自らを捧げ取り出す彼方からの魔力で塔の維持をしているが、国土を完全に水没から防ぐような力は失われているようだ。
『塔と繋がる大賢者が不在とは言え、賢者の石が人に取り込まれているサルトゥス。生物との繋がりが…生命そのものが彼方との扉となっているのか…』
そして、ニュロは自身が魔石を取り込み魔石になった時の事を考えた。
20年以上前の砂漠での日。
ニュールを確実に救うため…そして自身の冒険心が止められなかった為、風前の灯火となった砂漠王蛇から魔石を取り出したのだ。
そして魔石自身がニュロの中へ入って来ようとしたので受け入れた…これも探究心と言う名の好奇心だった。取り込めると思ったが代を重ねた砂漠王蛇の魔石であり、ニュロ自身が取り込まれそうになって苦痛に苛まれる。
既にニュロ自身の生物としての生命力の限界も感じている状態だったので、望んで自身の手で魔石の中へ身体ごと取り込まれた。
ソレをニュールが取り込んだ。
冷静に自身が魔石となった状況を分析し、他の賢者の石…魔石の状況を予測する。
自身の行ったあの魔石の取り出しは、ニュロは9割方の能力を維持したまま取り出せたと思っている。
ここ白の塔の魔石は、塔の能力から考えて完全な状態で取り出せていないと思われ、おおよそ3割。
サルトゥスは6割方。
エリミアの記録では先代大賢者の亡くなる瞬間、一番近くにいた賢者見習いだった現在の大賢者リーシェライルが偶々受け継いでしまったと言われているが詳細な記録は残っていないようであった。
しかしその能力は最強であり、完全に塔の回路と同調し繋る。
塔との親和性が半端ない様だ。
取り出しと継承を効率から推測すると、賢者の石の能力9割~10割得られているのかもしれない。
賢者の石継承後の能力や大賢者になった後の能力は様々であり、多少は個人の能力に左右されるだろうが基本は魔石の能力次第だろう。
ニュールの場合もともとが内包者で無かった為なのか、表面上の大賢者へ至る条件は取り込んだ瞬間に整っていたはずだが、その時点では大賢者には至らず魔物魔石の内包者でしかなかった。
『ニュールが大賢者へ至ったのは、あの時の爆発的な力の取り出しと強い思いのせいだと思われる。そして内包者の場合、条件が整っていれば…仮定する彼方との回路が出来上がっているため即…』
ピタリピタリと仮定する欠片で埋まり、強化される推論。
「ニュロ、どうしたんだ?」
昔の記憶と推論の中で漂うように過ごしているとニュールが声を掛けてきた。
『あぁ、昔を思い出していたんだ…』
「昔?」
『魔物を退治し取り込んだ遠いあの日を…』
ニュールが内在する記憶を検索出来ると認識してからも、ニュロの記憶の記録や感情や思いを決して覗かないことをニュロは知っていた。
だがニュロも自身の存在を意識できるようになってから、通常は意識を拡散し個人として表出する事は避けニュールの尊厳を守るようにしてきた。
お互いそれぞれの本心は把握してない。
『ニュール…後悔してるかい?』
ニュロは直接聞いてみた。
『魔物魔石を取り込んでしまった事…』
「あれは後悔しようの無い流れだったんだと思う…」
『流れ?』
「だってそうだろ?助けてもらわなきゃオレの人生終わってたし取り込んでしまったのだって、あの魔石を綺麗だと思って親父に見せたかったからだ!」
ニュロはその言葉に救われた。
ずっとこの道に引き込んでしまった大元の魔石を…自身も宿る魔物魔石を渡してしまった事を後悔していたのだ。
ニュールも何かを決意したように中のニュロへ向き合う姿勢が感じられた。
そして、この機会に聞いてみる決心をしたようだ。
「ニュロこそオレと偶々会ってしまったばかりに砂漠王蛇と戦うはめになって…人生そこで終わっちまって…後悔してないのか? 心残りは無かったのか…」
恐ろしく神妙だ。
『後悔は無いわけじゃないが、今になって叶ってるから良いんじゃないかな?』
「叶う?」
『あぁ、だって望んだのは家族と共にあることと生涯研究に携われること…だからね!』
47歳のオヤジ姿なのに顔をプイッと反らし照れているニュールの姿は、本来の年齢相応の27歳の表情だった。
そして更にニュールが気になっていた事を聞いてきた。
「思いを残す人は居なかったのか?」
『僕はニュールは程真面目じゃなかったから、程々楽しく遊べる娘と遊んでたからそう言うのは無いかな!』
ニュロの余裕ある涼しげな雰囲気から悟る。
「もしかしてモテ自慢か?」
『そんな事無いよ!それにニュールだってモテてるじゃないか…子供とか子供とか子供女子達に!』
さりげなく甥をからかう伯父だった。
「くぅぅぅぅ~クソォ!まだ現実が終わった訳じゃない!あぁ、この塔に居るの子供ばっかだぁ~」
『くっくっくっ、もっと早くに話してれば良かったね』
「そうだな、スッキリしたよ!」
其処に肩を組める肩は存在しない。だが気持ちの上ではニュールとニュロはしっかり肩を組み、背中を叩きあっていたのだった。
『ニュール、ついでに今までを検証して起こり得るこの先の事も検討してみよう』
そしてニュールに推論に対する考察を提示し慎重に検討していくのだった。
モモハルムアは叔父からニュールの情報を得てから気もそぞろとなっていた。
ニュールが囚われる様な状況が深刻なものである事が想像に易かったからこそ、心配でならなかったのだ。
強くて優しくて真面目で可愛らしくて見守り包み込んでくれる暖かさを持ち自ら手を差し出してくれるような人…。
モモハルムアにとってのニュールはそんな感じの人だった。
だがバルニフィカ公爵が教えてくれたエリミア第6王女の守護者は、残忍冷酷と言われている影の中でも精鋭中の精鋭と言われる特殊数《三》まで背負った者であったと言う。
あのエリミアでの忘れない1日に、ヴェステの影が現れニュールが対等に渡り合っていたことも、漏れ聞こえてくる会話から想像される立場も何とは無しに理解はしていた。
しかし、その残忍な功績を持つヴェステの人と、エリミアで出会った自分の中のその人と相容れない印象の者が一人の人物として語られるチグハグな感じがモモハルムアは凄く嫌でたまらなかった。
それなのにエシェリキアは嬉々として衰亡の賢者としてのニュールの情報を集めてくる。
「生きとし生けるものの生存を許さず、ダメ押しで街を爆炎で焼き尽くすような残忍な殲滅を行う輩だったらしいです。抵抗軍の殲滅命令時に、指令だけでは飽きたらず上司を惨殺したあげく逃走したようです」
とてつもなく嬉しそうに語るのであった。
モモハルムアはそういった話を聞くたびに、心の中に住む小さな小鳥が何かを叫ぶのが聞こえるような気がした。
「エリミアに潜り込んだ後何をするつもりだったやら…クックッ、エリミアと関係が切れて何よりです。そんな狂暴凶悪な輩なぞ…」
パシッ…と音がして、頬を叩かれ赤くするエシェリキアが立っていた。
予想外に叩いたのはフィーデスだった。
「…少なくともお前のその口より奴の方が潔く清々しい!口を閉じる気が無いのならモモハルムア様の周りから去ね!!」
静かな怒りを秘めた目をしていた。
共に戦い本質を知るものだけが持つ違和感をフィーデスも持ち、面白可笑しく話題にしたエシェリキアを許せなかったのだ。
モモハルムアの心に住む小鳥が必死に訴えていたのはこれだった。
モモハルムアの目からボロボロと涙が溢れていた。
「例えニュール様がその苛烈な破滅をもたらす賢者であろうと…何者であろうとも…私はお慕いしているのです…側にいたいのです」
真剣な表情のまま述べ、ひたすら涙を流し続けるモモハルムア。
それを見てフィーデスもエシェリキアもただ見守ることしか出来なかった。
いつの間にか本当に心の拠り所として思いを寄せていた事に、モモハルムア自身も驚いていた。
だが、それに気づくことで心のモヤモヤが薄れた。
自分の気持ちをしっかり把握できたモモハルムアには、もう戸惑いも躊躇もない。
「私はニュール様の背中を預かるに相応しい者を目指します。もう、一切の迷いは有りません!」
早速インゼルヘ向かうための手段を調べる。
「私は簡単には諦めないのです…」
呟くモモハルムアの口調は逞しく楽しげであった。
エシェリキアは今までの非礼を詫び、心入れ替え…る訳がない。
表面上は非礼を詫びたが、自身の策の浅はかさを悔いただけだった。
『思った以上の絆と執着ですね…でも、そこで諦めず前を向くモモハルムア様だからこそ、私は仕えたいと思ったのです』
策は失敗したが選択の正しさに、ほくそ笑むエシェリキアだった。
『手強い程遣り甲斐がありますし、私の策に落ちないなら落ちないで仕える甲斐のある主人と言うことですね…』
まだまだ、この少年の主人試しは続きそうであった。
反発か融合か最強か破滅か…ニュロの思考が奥へ奥へと真理を求めて踏み込んで行く。
通常、賢者から大賢者へ至るに当たって賢者の体内魔石は賢者の石の一部となり吸収され、体内には賢者の石が宿る。
体内に入った魔石が何処に存在するのか…生きている間でないと取り出せないが、生きている間は体内に感じることはない。
これはヴェステの魔石研究所でも至上の命題の一つとして取り上げられ、過去何度も残酷非道な決して口にできないような実験が繰り返されてきた。
白の巫女達の話や状況などから現在考え得る内容で、無限意識下集合記録と言う存在を推測してみる。
そして、集合知であり意志であり魔力を含むその無限意識下集合記録が存在する場所を彼方であると仮定する。
そうすると、魔石が生きている間でないと存在が消滅してしまうことが多いのは、生きている内しか彼方と繋がっていないからでは…と推論できる。
彼方と切れることで生命も事切れる。
故に魔力暴走による痛手は死に繋がるが、体内魔石と自身の回路が許容量以上の魔力の使用で断絶したとしても死へは繋がらない。
インゼルの白の塔とサルトゥスの時の神殿を比べると、同じ様に大賢者と繋がらぬ塔であるにも関わらず塔の持つ能力差は明らかであった。
サルトゥスは境界壁と塔や陣を維持している。
一方のインゼルは、塔の魔力さえ維持できず白の巫女達が自らを捧げ取り出す彼方からの魔力で塔の維持をしているが、国土を完全に水没から防ぐような力は失われているようだ。
『塔と繋がる大賢者が不在とは言え、賢者の石が人に取り込まれているサルトゥス。生物との繋がりが…生命そのものが彼方との扉となっているのか…』
そして、ニュロは自身が魔石を取り込み魔石になった時の事を考えた。
20年以上前の砂漠での日。
ニュールを確実に救うため…そして自身の冒険心が止められなかった為、風前の灯火となった砂漠王蛇から魔石を取り出したのだ。
そして魔石自身がニュロの中へ入って来ようとしたので受け入れた…これも探究心と言う名の好奇心だった。取り込めると思ったが代を重ねた砂漠王蛇の魔石であり、ニュロ自身が取り込まれそうになって苦痛に苛まれる。
既にニュロ自身の生物としての生命力の限界も感じている状態だったので、望んで自身の手で魔石の中へ身体ごと取り込まれた。
ソレをニュールが取り込んだ。
冷静に自身が魔石となった状況を分析し、他の賢者の石…魔石の状況を予測する。
自身の行ったあの魔石の取り出しは、ニュロは9割方の能力を維持したまま取り出せたと思っている。
ここ白の塔の魔石は、塔の能力から考えて完全な状態で取り出せていないと思われ、おおよそ3割。
サルトゥスは6割方。
エリミアの記録では先代大賢者の亡くなる瞬間、一番近くにいた賢者見習いだった現在の大賢者リーシェライルが偶々受け継いでしまったと言われているが詳細な記録は残っていないようであった。
しかしその能力は最強であり、完全に塔の回路と同調し繋る。
塔との親和性が半端ない様だ。
取り出しと継承を効率から推測すると、賢者の石の能力9割~10割得られているのかもしれない。
賢者の石継承後の能力や大賢者になった後の能力は様々であり、多少は個人の能力に左右されるだろうが基本は魔石の能力次第だろう。
ニュールの場合もともとが内包者で無かった為なのか、表面上の大賢者へ至る条件は取り込んだ瞬間に整っていたはずだが、その時点では大賢者には至らず魔物魔石の内包者でしかなかった。
『ニュールが大賢者へ至ったのは、あの時の爆発的な力の取り出しと強い思いのせいだと思われる。そして内包者の場合、条件が整っていれば…仮定する彼方との回路が出来上がっているため即…』
ピタリピタリと仮定する欠片で埋まり、強化される推論。
「ニュロ、どうしたんだ?」
昔の記憶と推論の中で漂うように過ごしているとニュールが声を掛けてきた。
『あぁ、昔を思い出していたんだ…』
「昔?」
『魔物を退治し取り込んだ遠いあの日を…』
ニュールが内在する記憶を検索出来ると認識してからも、ニュロの記憶の記録や感情や思いを決して覗かないことをニュロは知っていた。
だがニュロも自身の存在を意識できるようになってから、通常は意識を拡散し個人として表出する事は避けニュールの尊厳を守るようにしてきた。
お互いそれぞれの本心は把握してない。
『ニュール…後悔してるかい?』
ニュロは直接聞いてみた。
『魔物魔石を取り込んでしまった事…』
「あれは後悔しようの無い流れだったんだと思う…」
『流れ?』
「だってそうだろ?助けてもらわなきゃオレの人生終わってたし取り込んでしまったのだって、あの魔石を綺麗だと思って親父に見せたかったからだ!」
ニュロはその言葉に救われた。
ずっとこの道に引き込んでしまった大元の魔石を…自身も宿る魔物魔石を渡してしまった事を後悔していたのだ。
ニュールも何かを決意したように中のニュロへ向き合う姿勢が感じられた。
そして、この機会に聞いてみる決心をしたようだ。
「ニュロこそオレと偶々会ってしまったばかりに砂漠王蛇と戦うはめになって…人生そこで終わっちまって…後悔してないのか? 心残りは無かったのか…」
恐ろしく神妙だ。
『後悔は無いわけじゃないが、今になって叶ってるから良いんじゃないかな?』
「叶う?」
『あぁ、だって望んだのは家族と共にあることと生涯研究に携われること…だからね!』
47歳のオヤジ姿なのに顔をプイッと反らし照れているニュールの姿は、本来の年齢相応の27歳の表情だった。
そして更にニュールが気になっていた事を聞いてきた。
「思いを残す人は居なかったのか?」
『僕はニュールは程真面目じゃなかったから、程々楽しく遊べる娘と遊んでたからそう言うのは無いかな!』
ニュロの余裕ある涼しげな雰囲気から悟る。
「もしかしてモテ自慢か?」
『そんな事無いよ!それにニュールだってモテてるじゃないか…子供とか子供とか子供女子達に!』
さりげなく甥をからかう伯父だった。
「くぅぅぅぅ~クソォ!まだ現実が終わった訳じゃない!あぁ、この塔に居るの子供ばっかだぁ~」
『くっくっくっ、もっと早くに話してれば良かったね』
「そうだな、スッキリしたよ!」
其処に肩を組める肩は存在しない。だが気持ちの上ではニュールとニュロはしっかり肩を組み、背中を叩きあっていたのだった。
『ニュール、ついでに今までを検証して起こり得るこの先の事も検討してみよう』
そしてニュールに推論に対する考察を提示し慎重に検討していくのだった。
モモハルムアは叔父からニュールの情報を得てから気もそぞろとなっていた。
ニュールが囚われる様な状況が深刻なものである事が想像に易かったからこそ、心配でならなかったのだ。
強くて優しくて真面目で可愛らしくて見守り包み込んでくれる暖かさを持ち自ら手を差し出してくれるような人…。
モモハルムアにとってのニュールはそんな感じの人だった。
だがバルニフィカ公爵が教えてくれたエリミア第6王女の守護者は、残忍冷酷と言われている影の中でも精鋭中の精鋭と言われる特殊数《三》まで背負った者であったと言う。
あのエリミアでの忘れない1日に、ヴェステの影が現れニュールが対等に渡り合っていたことも、漏れ聞こえてくる会話から想像される立場も何とは無しに理解はしていた。
しかし、その残忍な功績を持つヴェステの人と、エリミアで出会った自分の中のその人と相容れない印象の者が一人の人物として語られるチグハグな感じがモモハルムアは凄く嫌でたまらなかった。
それなのにエシェリキアは嬉々として衰亡の賢者としてのニュールの情報を集めてくる。
「生きとし生けるものの生存を許さず、ダメ押しで街を爆炎で焼き尽くすような残忍な殲滅を行う輩だったらしいです。抵抗軍の殲滅命令時に、指令だけでは飽きたらず上司を惨殺したあげく逃走したようです」
とてつもなく嬉しそうに語るのであった。
モモハルムアはそういった話を聞くたびに、心の中に住む小さな小鳥が何かを叫ぶのが聞こえるような気がした。
「エリミアに潜り込んだ後何をするつもりだったやら…クックッ、エリミアと関係が切れて何よりです。そんな狂暴凶悪な輩なぞ…」
パシッ…と音がして、頬を叩かれ赤くするエシェリキアが立っていた。
予想外に叩いたのはフィーデスだった。
「…少なくともお前のその口より奴の方が潔く清々しい!口を閉じる気が無いのならモモハルムア様の周りから去ね!!」
静かな怒りを秘めた目をしていた。
共に戦い本質を知るものだけが持つ違和感をフィーデスも持ち、面白可笑しく話題にしたエシェリキアを許せなかったのだ。
モモハルムアの心に住む小鳥が必死に訴えていたのはこれだった。
モモハルムアの目からボロボロと涙が溢れていた。
「例えニュール様がその苛烈な破滅をもたらす賢者であろうと…何者であろうとも…私はお慕いしているのです…側にいたいのです」
真剣な表情のまま述べ、ひたすら涙を流し続けるモモハルムア。
それを見てフィーデスもエシェリキアもただ見守ることしか出来なかった。
いつの間にか本当に心の拠り所として思いを寄せていた事に、モモハルムア自身も驚いていた。
だが、それに気づくことで心のモヤモヤが薄れた。
自分の気持ちをしっかり把握できたモモハルムアには、もう戸惑いも躊躇もない。
「私はニュール様の背中を預かるに相応しい者を目指します。もう、一切の迷いは有りません!」
早速インゼルヘ向かうための手段を調べる。
「私は簡単には諦めないのです…」
呟くモモハルムアの口調は逞しく楽しげであった。
エシェリキアは今までの非礼を詫び、心入れ替え…る訳がない。
表面上は非礼を詫びたが、自身の策の浅はかさを悔いただけだった。
『思った以上の絆と執着ですね…でも、そこで諦めず前を向くモモハルムア様だからこそ、私は仕えたいと思ったのです』
策は失敗したが選択の正しさに、ほくそ笑むエシェリキアだった。
『手強い程遣り甲斐がありますし、私の策に落ちないなら落ちないで仕える甲斐のある主人と言うことですね…』
まだまだ、この少年の主人試しは続きそうであった。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
目の前で不細工だと王子に笑われ婚約破棄されました。余りに腹が立ったのでその場で王子を殴ったら、それ以来王子に復縁を迫られて困っています
榊与一
恋愛
ある日侯爵令嬢カルボ・ナーラは、顔も見た事も無い第一王子ペペロン・チーノの婚約者に指名される。所謂政略結婚だ。
そして運命のあの日。
初顔合わせの日に目の前で王子にブス呼ばわりされ、婚約破棄を言い渡された。
余りのショックにパニックになった私は思わず王子の顔面にグーパン。
何故か王子はその一撃にいたく感動し、破棄の事は忘れて私に是非結婚して欲しいと迫って来る様になる。
打ち所が悪くておかしくなったのか?
それとも何かの陰謀?
はたまた天性のドMなのか?
これはグーパンから始まる恋物語である。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
オッサン小説家が異世界転生したら無双だった件
桜坂詠恋
ファンタジー
「転生したら無双のイケメンに!? 元・カメムシ末端WEB作家の異世界スローライフが今、始まる!」
48歳独身の末端WEB小説家が、目覚めるとそこは広大な草原が広がる異世界だった。
自らを「陰キャ」「不細工」「カメムシ」と卑下していた彼が、なんと異世界では200倍増しのイケメンに!
戸惑いながらも、新たな容姿とまだ知らぬスキルに思いをはせ、異世界でのスローライフを模索する。
果たして、彼の異世界生活はどう展開するのか!
※普段はミステリやサイコサスペンスを書いてる人です。
宜しければ、他作品も是非ご覧下さい。
本作とは全く違う作品です(^^;
「審判」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/414186905/947894816
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる