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第三章 インゼル共和国編
9.辛く甘く進み
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スウェルの街から出立し、今回は急ぐためドリズルに寄らずにエリミアを目指す。
此処からはまたモーイとフレイの2人旅だ。
ミーティは陣を使える事が確定してからの同行になり、今は何時でも鉱山から出立出来るように準備してくれている。
行きはフレイリアルがかなり自由をしたため時間がかかったが、戻る道はあっけなかった。
そして、エリミアに入る手前の樹海の中で休憩を取る。
フレイは決意してモーイに話した。
エリミアでの自身の《取り替え子》と言われる立場と扱いの内容を話し、どんな状況にフレイが出会ってても、実際に危害を加えられていない限りは取り合わないよう伝えた。
「それって、おかしくないか?」
モーイがフレイの話の内容とその対応と態度にもの申した。
「だって悪いのがソイツラなら、正すべきはソイツラだ!!」
至極真っ当で…だけど難しい事を言う。
「1人で対応するのは難しかったんだ…」
自分以外は全て敵…と言うような状況下、一人で対応し逃げる道無く留まり押し潰されていた日々をフレイは思出していた。
「なら、今度はアタシが後ろに控えててやる」
モーイは困った顔をするフレイリアルを悲しげに悔しげに見つめる。
「ちょっかい出してくる奴が居るならアタシが立ち向かってやる…だから境遇を呪うな。呪うなら悪いことしたソコに居る奴らを呪え!境遇への呪いは自分を呪ってしまう…其れは逃げ道を潰してしまうだけだ」
「……」
モーイが自身を振り返る様な表情をした後、フレイに告げる。
「いざとなったら逃げちまおう!余裕がない時は、まずは自分優先で十分だぞ!!余計なものは抱え込むな。逃げる時も一緒に行ってやる!」
「ありがとう…」
思わずモーイに抱き付くと、照れながらも力強く言ってくれる。
「当たり前だろ!アタシはフレイの護衛で、友達で、姉で、母で、仲間だぜ。一緒に受けて立つのは当然さ」
只々、モーイが寄り添い側で支えてくれるのが嬉しかった。
フレイリアルは自分で自分を呪っていることに…今、気が付いたのだ。逃げ道無く其処に押し留まっていたのも、道を自分で潰していたから…。
この先また自分自身を押し留めて潰してしまいそうな状況が生じるとしても、諦めず逃げる道を教え…一緒に逃げてくれる存在が今はあると思うと心強かった。
あの日、ニュールと一緒に出たエリミア辺境王国境界門にフレイリアルは立つ。
そこには既に砂蜥蜴で引く客車の迎えが寄越されていた。
予想外の対応に戸惑う。
しかも王城からだ。
警戒していても先に進める訳でも無いので受け入れ従う。クリールは併走させる。
「普通に王族っぽい対応されてるゾ…」
小声でモーイがフレイに囁く。
「…私も今までに絶対無かった対応で吃驚だよ」
フレイも戸惑いを隠せない。
「じゃあ警戒必須って事だな」
モーイの言葉にフレイが返す。
「最大限の警戒体制でお願い!」
3の月近く空けていたエリミアの王都スフィアは、相変わらず画一的で面白みに欠ける街のような気がした。
しかし都市の造りの端正さは、他の都市の追随を許さぬぐらい完成度が高いのだと今なら分かる。それでも他の都市の活気を味わったフレイリアルには、祭りでもない普通の時のスフィアの街は味気ない。
建物も人々も画一的で変則的な面白さを受け入れない、其れは此の国自体も表していて窮屈で息が詰まりそうだ。
最大限の警戒とは言っていたが、モーイは初めて見るエリミア国内を余すことなく楽しんでいるようだった。
「何かスゲーなぁ、ボルデレともセイブルとも違う感じだ!大きくは無いけど何か箱で作ったみたいに規則正しい…これじゃあ確かに息が詰まっちまうな!!」
フレイの息苦しそうな表情を見てニカッと笑ってくれる。
すっかりニュール的な笑顔が御手の物になっていた。
王城外門の王城関係者専用門まで来るとフレイリアル自身での対応が必要になってくる。
今回は客車に乗っての登城のためか認証魔石の提示での嫌な反応もなく、今までで最高に王族として普通の対応を受けた。
ただ、モーイはその門兵達を見て警戒感を強める表情をした。
この門でモーイの為に王城関係者用の水晶魔石をもらった。
「内門ではソレをしっかりと持っていてね!」
内門前でニュールに伝えた様にモーイにも注意を促す。
そして門の中に立入る。
久々に通過する内門の濃い結界魔力は、主無き塔が作る結界の強さとは次元が異なった。全ての悪意宿る事柄も、害意持つ者も、一つの片鱗さえ見逃さず抜き出し排除するための結界だ。
モーイでさえも目を白黒させていた。
「えげつない結界だなぁ~骨まで覗かれそうな気分になったぜ」
モーイらしい言葉が返る。
その先に更に先導する者が立っていた。本当に予想外の対応だ。
「今までコンナ事無かった…」
フレイの呟きにモーイが答える。
「そこまで違うってんなら理由を突き止めた方が良いかもな…」
モーイはこの王城内のお人形の多さに寒気を感じた。
客車の御者も、外門の門兵も、通りすぎる侍女達の5人の内の1人が硝子目玉を光らすお人形だった。
『ニュール、ヤバイよ。今までで一番この城が魔物の巣窟感満載だ!!』
心のなかで久々にニュールの導きを求めたくなった。
案内され待つように言われた部屋にモーイだけ残しフレイリアルは塔を目指した。
すごく久々に賢者の塔中央塔の正面入り口に居る。
今まで散々勝手に入り込んでいたのに3の月程離れただけで別の場所の様な気がしてドキドキする。
リーシェに直接会えると思うと塔に久々に入る以上に鼓動が早まる。
もう3の月前の魔物や陰謀巡らせる者との戦いの傷跡は、周囲に全く残っていない。
あの出来事は無くて気のせいだったのでは無いかと思ってしまう。
入り口に入ろうとすると呼び止められる。
「すみません、こちら関係者以外の立ち入りは…」
「バカっ!大丈夫だ…お通ししろ!!」
通った後に最初はヒソヒソ声で話していたようだが聞こえてくる。
「あれは《取り替え子》だ、関わるな。この前の事件にも関係あるみたいなんだから気を付けろ!」
「アレがそうなんですねぇ~ヒェ~怖い怖い」
「そうだぞ~お前なんか一瞬で終わるぜ!ワハハハッ」
徐々に囁く様な気遣いさえ無くなった声と笑い声が伝わり、丸聞こえとなっていた。
『結局ここは変わらない…』
この国の外に出て普通に関われる人が増えた分、余計に此の国の一方的で勝手な思い込みが異常であると解るようになってしまった。
その分、環境ごと自身を呪ってしまいたくなる…。
モーイに言われてなければ自分自身の中に入り込んでしまう所だった。
『リーシェに会うまでに戻さないと…』
久々にリーシェライルに会うのに沈んだ瞳の自分でいたくなかった。
「嬉しいんだから最高の笑顔でないと!」
小さく呟き転移の間に至る。
此処もあの日の事を思い浮かべる様な物は無く、いつも通りの転移の間だった。
入り口の番をする当番の賢者に呼び止められる事も無く、すんなりと陣の上に立つ事が出来た。
懐かしい魔力に繋がる転移陣の魔力を動かす。
一瞬で18層に至り、青い魔力が全身を貫く…その快適で懐かしい清々しい魔力は、身体の中へと到達し活性化し全てを清め、余計なモノを循環へ連れ帰る。
その魔力を浴びながら一歩一歩踏みしめ歩く足が…早まる。
自分でも気づかぬ内にフレイリアルは走り出していた。
息を切らしながら辿り着く青の間の扉。
両開きの扉をいつものように勢いよく押し開ける。
「リーシェ!!!」
大声で叫ぶその先には、物憂げに頬杖つき外を眺め窓辺のクッションに埋もれているリーシェライルが居た。
少し疲れた様子は有ったが、相変わらず光り差す宵闇色の薄青紫の瞳と銀の月輝くようなさらりと腰まで伸びた髪が顔や肢体に絡み付く様は、艶麗で優美で見るものの心に刻み込まれる様な美しさだった。
ゆるりと振り返り、扉の方を向いたその顔に花が咲く。
「…フレイ…?」
言葉を発したその瞬間にフレイリアルはリーシェライルに飛び込んでいた。
フレイは扉を明け叫んだ瞬間、既にリーシェライル目掛けて走っていたのだ。
フレイの押さえていた心が、必要不可欠な者を求める衝動となりその者を目指す。
リーシェライルは一瞬の驚く顔と共に、飛び付いたフレイを受け止めしっかりと抱き締める。
感情が昂るフレイリアルが導き出した魔力が青の間に溢れ、リーシェライルへ向かい流れる。そこには以前構築された以上の魔力の循環が出来上がり、光が駆け巡る早さで循環し全てを癒し…過剰な魔力は輝きとして塔の奥底へと吸収され…その源を活性化させる。
昂る気持ちを魔力で発散させたフレイは少しずつリーシェの腕の中に馴染み、今度は感情の堰が切れ止めどなく涙が溢れてくる。
ずっと我慢していた何かが魔力の放出と共に崩れた。
リーシェライルは只々、優しく微笑み見守り抱き締める。
悠久の時が流れたかと思われる頃リーシェライルが声をかけた。
「まだまだ涙が出ちゃうかな?」
優しく声をかけ、面を上げたフレイから流れ落ちる涙を拭う…その美しき唇で。
ビックリして一瞬で固まるフレイと声を立てて笑うリーシェ。
「ふふふっ、そろそろ泣き止まないと涙が枯れちゃうからね」
一瞬固まったフレイだったが笑われた事で思い出す。ちょっと意地悪でお茶目なリーシェである事を。
笑顔になったフレイは、もう一度ひしとリーシェに抱き付き呟く。
「ただいま、リーシェ」
「お帰り、フレイ」
感情の交換から、言葉の交換へ移る。
「ここへ帰ってきたのは結界を通った時に分かったけど、青の間まで来るのが早かったからビックリしちゃったよ」
リーシェライルはフレイに抱きつかれたままだが、離れそうもないフレイを支えてやりながら話す。
「リーシェでも吃驚するんだね!」
「ここに至れる者は少ないから、塔内を常に警戒している訳ではないからね」
フレイと会話を交わすリーシェも嬉しそうだった。
「本当は王宮から連絡が来ると思ったけどリーシェが一番って決めてたの!」
さも当然と言う感じで話すフレイ。
「そう言う所は変わらないね…相当ニュールも苦労したかな」
ニュールの苦労を慮り苦笑するリーシェだったが、ニュールの名前にフレイの瞳に悲しみが宿る。
「ニュールが…」
真剣に詳細に告げようとするフレイの唇を、リーシェの細く白いすらりとした指が押さえ言葉を止める。
「大丈夫、把握しているよ。インゼルに向かうなら早めの方が良い」
不思議そうに見つめるフレイを見つめ返すリーシェが告げる。
「染まりが早いようだからね…」
リーシェは状況を的確に把握し指示してくれる。
「フレイの予想通り其処の転移陣は、この状態なら少し修繕すれば使えると思う」
フレイが調べて書き記して来たものを見て話す。
そして目の前にさらりと転移陣を作りその壊れた状態を再現する。
「魔力を動かしてごらん…多分そこの陣はこんな感触だったんじゃないかい?」
リーシェに言われた通りに魔力を流すと滞る感じが一緒だった。
「そう、こんな感じだったよ!」
フレイの特性を良く把握しているリーシェは、実践で的確に指導し納得させ修繕点を理解させた。ニュールやモーイは未だこの域に達するのは難しいだろう。
文字通り手取足取り教え諭し背後で抱きしめていてくれるリーシェに、もたれ掛かったまま学んでいるフレイ。
背中に感じる温かさが心地よく、フレイは掛け替えの無いものを感じる。
いつもと同じ空間でいつもと同じように過ごしていると全てが無かった事のように…全てが必要のない事のように思えてしまう。
2人の間に出来上がった循環の中に居ると、完全で完璧に完結している世界が出来上がる。
お互いだけを思う雁字搦めの思いの中で、心地よく絡め取られ沈んで行きそうになるフレイ。
「リーシェと居たい。ずっと居たい…」
フレイの呟きに答え背中から強く抱きしめるリーシェ。その腕に言葉無き思いが染み込んでいる。
そして囁き返す言葉に更なる思いが乗る。
「フレイをずっと抱きしめていたいな…」
その言葉から染み出てくる様な温かな思い…とは裏腹な表情を浮かべるリーシェライルが垣間見えた。
一瞬覗かせた無慈悲な表情の中に住んでいるモノは、巧みに獲物を絡め取り捕食する魔物の目を持つ。
フレイリアルを容赦なく付け狙い、視界の外から舌なめずりしつつ見つめる。
牙を食い込ませる瞬間を待ちその場に同居しているようだ。
『コレを手に入れ一気に状況を進めるのも手かもしれない…ここで仕上げてしまうのも一興…』
優しく広げたリーシェライルのかいなと繋がり、粛として潜む怪しい手。
宿主にさえ気付かれずに擬態し、思考的演算を駆使し一番確定的な瞬間を求める。
『世の果ては華やかであれ』
此処からはまたモーイとフレイの2人旅だ。
ミーティは陣を使える事が確定してからの同行になり、今は何時でも鉱山から出立出来るように準備してくれている。
行きはフレイリアルがかなり自由をしたため時間がかかったが、戻る道はあっけなかった。
そして、エリミアに入る手前の樹海の中で休憩を取る。
フレイは決意してモーイに話した。
エリミアでの自身の《取り替え子》と言われる立場と扱いの内容を話し、どんな状況にフレイが出会ってても、実際に危害を加えられていない限りは取り合わないよう伝えた。
「それって、おかしくないか?」
モーイがフレイの話の内容とその対応と態度にもの申した。
「だって悪いのがソイツラなら、正すべきはソイツラだ!!」
至極真っ当で…だけど難しい事を言う。
「1人で対応するのは難しかったんだ…」
自分以外は全て敵…と言うような状況下、一人で対応し逃げる道無く留まり押し潰されていた日々をフレイは思出していた。
「なら、今度はアタシが後ろに控えててやる」
モーイは困った顔をするフレイリアルを悲しげに悔しげに見つめる。
「ちょっかい出してくる奴が居るならアタシが立ち向かってやる…だから境遇を呪うな。呪うなら悪いことしたソコに居る奴らを呪え!境遇への呪いは自分を呪ってしまう…其れは逃げ道を潰してしまうだけだ」
「……」
モーイが自身を振り返る様な表情をした後、フレイに告げる。
「いざとなったら逃げちまおう!余裕がない時は、まずは自分優先で十分だぞ!!余計なものは抱え込むな。逃げる時も一緒に行ってやる!」
「ありがとう…」
思わずモーイに抱き付くと、照れながらも力強く言ってくれる。
「当たり前だろ!アタシはフレイの護衛で、友達で、姉で、母で、仲間だぜ。一緒に受けて立つのは当然さ」
只々、モーイが寄り添い側で支えてくれるのが嬉しかった。
フレイリアルは自分で自分を呪っていることに…今、気が付いたのだ。逃げ道無く其処に押し留まっていたのも、道を自分で潰していたから…。
この先また自分自身を押し留めて潰してしまいそうな状況が生じるとしても、諦めず逃げる道を教え…一緒に逃げてくれる存在が今はあると思うと心強かった。
あの日、ニュールと一緒に出たエリミア辺境王国境界門にフレイリアルは立つ。
そこには既に砂蜥蜴で引く客車の迎えが寄越されていた。
予想外の対応に戸惑う。
しかも王城からだ。
警戒していても先に進める訳でも無いので受け入れ従う。クリールは併走させる。
「普通に王族っぽい対応されてるゾ…」
小声でモーイがフレイに囁く。
「…私も今までに絶対無かった対応で吃驚だよ」
フレイも戸惑いを隠せない。
「じゃあ警戒必須って事だな」
モーイの言葉にフレイが返す。
「最大限の警戒体制でお願い!」
3の月近く空けていたエリミアの王都スフィアは、相変わらず画一的で面白みに欠ける街のような気がした。
しかし都市の造りの端正さは、他の都市の追随を許さぬぐらい完成度が高いのだと今なら分かる。それでも他の都市の活気を味わったフレイリアルには、祭りでもない普通の時のスフィアの街は味気ない。
建物も人々も画一的で変則的な面白さを受け入れない、其れは此の国自体も表していて窮屈で息が詰まりそうだ。
最大限の警戒とは言っていたが、モーイは初めて見るエリミア国内を余すことなく楽しんでいるようだった。
「何かスゲーなぁ、ボルデレともセイブルとも違う感じだ!大きくは無いけど何か箱で作ったみたいに規則正しい…これじゃあ確かに息が詰まっちまうな!!」
フレイの息苦しそうな表情を見てニカッと笑ってくれる。
すっかりニュール的な笑顔が御手の物になっていた。
王城外門の王城関係者専用門まで来るとフレイリアル自身での対応が必要になってくる。
今回は客車に乗っての登城のためか認証魔石の提示での嫌な反応もなく、今までで最高に王族として普通の対応を受けた。
ただ、モーイはその門兵達を見て警戒感を強める表情をした。
この門でモーイの為に王城関係者用の水晶魔石をもらった。
「内門ではソレをしっかりと持っていてね!」
内門前でニュールに伝えた様にモーイにも注意を促す。
そして門の中に立入る。
久々に通過する内門の濃い結界魔力は、主無き塔が作る結界の強さとは次元が異なった。全ての悪意宿る事柄も、害意持つ者も、一つの片鱗さえ見逃さず抜き出し排除するための結界だ。
モーイでさえも目を白黒させていた。
「えげつない結界だなぁ~骨まで覗かれそうな気分になったぜ」
モーイらしい言葉が返る。
その先に更に先導する者が立っていた。本当に予想外の対応だ。
「今までコンナ事無かった…」
フレイの呟きにモーイが答える。
「そこまで違うってんなら理由を突き止めた方が良いかもな…」
モーイはこの王城内のお人形の多さに寒気を感じた。
客車の御者も、外門の門兵も、通りすぎる侍女達の5人の内の1人が硝子目玉を光らすお人形だった。
『ニュール、ヤバイよ。今までで一番この城が魔物の巣窟感満載だ!!』
心のなかで久々にニュールの導きを求めたくなった。
案内され待つように言われた部屋にモーイだけ残しフレイリアルは塔を目指した。
すごく久々に賢者の塔中央塔の正面入り口に居る。
今まで散々勝手に入り込んでいたのに3の月程離れただけで別の場所の様な気がしてドキドキする。
リーシェに直接会えると思うと塔に久々に入る以上に鼓動が早まる。
もう3の月前の魔物や陰謀巡らせる者との戦いの傷跡は、周囲に全く残っていない。
あの出来事は無くて気のせいだったのでは無いかと思ってしまう。
入り口に入ろうとすると呼び止められる。
「すみません、こちら関係者以外の立ち入りは…」
「バカっ!大丈夫だ…お通ししろ!!」
通った後に最初はヒソヒソ声で話していたようだが聞こえてくる。
「あれは《取り替え子》だ、関わるな。この前の事件にも関係あるみたいなんだから気を付けろ!」
「アレがそうなんですねぇ~ヒェ~怖い怖い」
「そうだぞ~お前なんか一瞬で終わるぜ!ワハハハッ」
徐々に囁く様な気遣いさえ無くなった声と笑い声が伝わり、丸聞こえとなっていた。
『結局ここは変わらない…』
この国の外に出て普通に関われる人が増えた分、余計に此の国の一方的で勝手な思い込みが異常であると解るようになってしまった。
その分、環境ごと自身を呪ってしまいたくなる…。
モーイに言われてなければ自分自身の中に入り込んでしまう所だった。
『リーシェに会うまでに戻さないと…』
久々にリーシェライルに会うのに沈んだ瞳の自分でいたくなかった。
「嬉しいんだから最高の笑顔でないと!」
小さく呟き転移の間に至る。
此処もあの日の事を思い浮かべる様な物は無く、いつも通りの転移の間だった。
入り口の番をする当番の賢者に呼び止められる事も無く、すんなりと陣の上に立つ事が出来た。
懐かしい魔力に繋がる転移陣の魔力を動かす。
一瞬で18層に至り、青い魔力が全身を貫く…その快適で懐かしい清々しい魔力は、身体の中へと到達し活性化し全てを清め、余計なモノを循環へ連れ帰る。
その魔力を浴びながら一歩一歩踏みしめ歩く足が…早まる。
自分でも気づかぬ内にフレイリアルは走り出していた。
息を切らしながら辿り着く青の間の扉。
両開きの扉をいつものように勢いよく押し開ける。
「リーシェ!!!」
大声で叫ぶその先には、物憂げに頬杖つき外を眺め窓辺のクッションに埋もれているリーシェライルが居た。
少し疲れた様子は有ったが、相変わらず光り差す宵闇色の薄青紫の瞳と銀の月輝くようなさらりと腰まで伸びた髪が顔や肢体に絡み付く様は、艶麗で優美で見るものの心に刻み込まれる様な美しさだった。
ゆるりと振り返り、扉の方を向いたその顔に花が咲く。
「…フレイ…?」
言葉を発したその瞬間にフレイリアルはリーシェライルに飛び込んでいた。
フレイは扉を明け叫んだ瞬間、既にリーシェライル目掛けて走っていたのだ。
フレイの押さえていた心が、必要不可欠な者を求める衝動となりその者を目指す。
リーシェライルは一瞬の驚く顔と共に、飛び付いたフレイを受け止めしっかりと抱き締める。
感情が昂るフレイリアルが導き出した魔力が青の間に溢れ、リーシェライルへ向かい流れる。そこには以前構築された以上の魔力の循環が出来上がり、光が駆け巡る早さで循環し全てを癒し…過剰な魔力は輝きとして塔の奥底へと吸収され…その源を活性化させる。
昂る気持ちを魔力で発散させたフレイは少しずつリーシェの腕の中に馴染み、今度は感情の堰が切れ止めどなく涙が溢れてくる。
ずっと我慢していた何かが魔力の放出と共に崩れた。
リーシェライルは只々、優しく微笑み見守り抱き締める。
悠久の時が流れたかと思われる頃リーシェライルが声をかけた。
「まだまだ涙が出ちゃうかな?」
優しく声をかけ、面を上げたフレイから流れ落ちる涙を拭う…その美しき唇で。
ビックリして一瞬で固まるフレイと声を立てて笑うリーシェ。
「ふふふっ、そろそろ泣き止まないと涙が枯れちゃうからね」
一瞬固まったフレイだったが笑われた事で思い出す。ちょっと意地悪でお茶目なリーシェである事を。
笑顔になったフレイは、もう一度ひしとリーシェに抱き付き呟く。
「ただいま、リーシェ」
「お帰り、フレイ」
感情の交換から、言葉の交換へ移る。
「ここへ帰ってきたのは結界を通った時に分かったけど、青の間まで来るのが早かったからビックリしちゃったよ」
リーシェライルはフレイに抱きつかれたままだが、離れそうもないフレイを支えてやりながら話す。
「リーシェでも吃驚するんだね!」
「ここに至れる者は少ないから、塔内を常に警戒している訳ではないからね」
フレイと会話を交わすリーシェも嬉しそうだった。
「本当は王宮から連絡が来ると思ったけどリーシェが一番って決めてたの!」
さも当然と言う感じで話すフレイ。
「そう言う所は変わらないね…相当ニュールも苦労したかな」
ニュールの苦労を慮り苦笑するリーシェだったが、ニュールの名前にフレイの瞳に悲しみが宿る。
「ニュールが…」
真剣に詳細に告げようとするフレイの唇を、リーシェの細く白いすらりとした指が押さえ言葉を止める。
「大丈夫、把握しているよ。インゼルに向かうなら早めの方が良い」
不思議そうに見つめるフレイを見つめ返すリーシェが告げる。
「染まりが早いようだからね…」
リーシェは状況を的確に把握し指示してくれる。
「フレイの予想通り其処の転移陣は、この状態なら少し修繕すれば使えると思う」
フレイが調べて書き記して来たものを見て話す。
そして目の前にさらりと転移陣を作りその壊れた状態を再現する。
「魔力を動かしてごらん…多分そこの陣はこんな感触だったんじゃないかい?」
リーシェに言われた通りに魔力を流すと滞る感じが一緒だった。
「そう、こんな感じだったよ!」
フレイの特性を良く把握しているリーシェは、実践で的確に指導し納得させ修繕点を理解させた。ニュールやモーイは未だこの域に達するのは難しいだろう。
文字通り手取足取り教え諭し背後で抱きしめていてくれるリーシェに、もたれ掛かったまま学んでいるフレイ。
背中に感じる温かさが心地よく、フレイは掛け替えの無いものを感じる。
いつもと同じ空間でいつもと同じように過ごしていると全てが無かった事のように…全てが必要のない事のように思えてしまう。
2人の間に出来上がった循環の中に居ると、完全で完璧に完結している世界が出来上がる。
お互いだけを思う雁字搦めの思いの中で、心地よく絡め取られ沈んで行きそうになるフレイ。
「リーシェと居たい。ずっと居たい…」
フレイの呟きに答え背中から強く抱きしめるリーシェ。その腕に言葉無き思いが染み込んでいる。
そして囁き返す言葉に更なる思いが乗る。
「フレイをずっと抱きしめていたいな…」
その言葉から染み出てくる様な温かな思い…とは裏腹な表情を浮かべるリーシェライルが垣間見えた。
一瞬覗かせた無慈悲な表情の中に住んでいるモノは、巧みに獲物を絡め取り捕食する魔物の目を持つ。
フレイリアルを容赦なく付け狙い、視界の外から舌なめずりしつつ見つめる。
牙を食い込ませる瞬間を待ちその場に同居しているようだ。
『コレを手に入れ一気に状況を進めるのも手かもしれない…ここで仕上げてしまうのも一興…』
優しく広げたリーシェライルのかいなと繋がり、粛として潜む怪しい手。
宿主にさえ気付かれずに擬態し、思考的演算を駆使し一番確定的な瞬間を求める。
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神様からスキル【主婦/主夫】を授かった最弱の冒険者ママ、カチュアさんがワンオペ育児と冒険者生活頑張る話。
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