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第三章 インゼル共和国編

8.進み現れる謎

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ニュールは繰り返される白の塔での生活の中で、思わず全ての意識を手放し内に揺蕩うてしまいそうになる。
脱出出来るわけでも無く、外に接触する事も出来ない此の優しい檻の中での生活。
表面上の安寧の中で燻る生活は、ニュールの中の何かを余計に追い立てるような気がした。

資料庫のようになっている部屋で、表出し行動を律するニュロは嬉々として文献に向き合っている…まるで趣味の合う友の家で語らい寛ぐかのように資料と対話している。
ニュロが没頭するその間、ニュールは自身の中にある記憶の記録を映像として観てみることにした。

過去に連なる大賢者の記憶を参照する機能が自身の中にあるのは分かっていた。

ニュロの記憶の記録は容易に繋がるので閲覧出来るのだが、私的な事を見るのも憚られると思い何となく避けてしまう。
私的でない仕事の記録に直接行き当たる事も可能な様だが、ニュールはヴェステの研究所に良い思い出が無いので役に立つと言われても確認する気は起きないであろう。
勿論、自身の記録も詳細に閲覧出来るが、通りすぎた事を悔いても仕方ないので却下した。

ニュロが保護していると思われる、ニュールが近づけない箱に再度近づく。

自身の記憶と繋がっているのを感じ訝しむが、自身の中の "関わってはいけない" と言う思いに止められ強制的に意識が他へ向く。
自分が取り込んだのは魔物魔石であり、魔物の記憶も探れるのかと思い挑戦してみるが…繋がりの無いものはヤハリ難しい様だった。

少しずつ遡っていくと魔物が取り込んだ人のものなのか、今とは大分違う風体の者達が見えたりする。興味深くて更に記録の奥深くへ潜ってみようとした…。


『…ニュール…ニュール…』

遠くで微かな呼び掛けが聞こえる。意識を向けるとしっかりと把握できる。

『…ニュール、あまり深く潜らないでくれ。戻れなくなる!』

遠くで感じたのはニュロの呼び掛けだったのだ。

『戻れなくなるものなのか?』

『望んで深層に行ってしまうと表層からの呼び掛けが届かなくなるからね』

自身の中で迷子になりそうであったことを思うと、自身の行動の酔狂さに苦笑してしまう。
呼び戻されて自身の意識を保ち目の前を見ると、開いて置いてある其れは個人の日記のようなものに見えた。

「これは日記か?」

ニュールの呟きにニュロが答える。

『面白そうでしょう…退屈そうにしていたから、多分興味を持てるんじゃないか…と思える物だったので、一緒に検討してもらおうかと思ってね。他の文献や白の巫女の話の内容を解明する手懸かりになるかもしれないから…』

前々任の大賢者であるらしい、リベルザと言う者の記録…日記を読むことになった。

塔付きのおおよその寿命400年とし、二代前と考えても800の年以上前である。更に、この塔に大賢者が不在の年数も加えると、1000年近く前の記録の可能性もある。

   
5の月1―の日
賢者と人形のための人材受け入れ―。
塔の人間を、相変わらず―を取って食う―の様に――--。
    

流石に年数が経っているせいか擦れて文字が消えているところがある。
   

5の―15の日
塔へ入れた人材を奪い返しに来るものが現れた。
あれほど、強制はするな―行―場の無い者で出来た――包者で…と伝えたはず-―全く伝わって居ない。
悪者役も少し疲れてきた。理解者の居ない役を―――のは苦-―しか無い。
こんなことなら私も--明け渡してしまっても良いかと言う思いに傾いてくる。―---世界への執着が消――しまいそうだ。
今――塔の内4塔まで無意識下集―記録に――込まれ表層から本人達は脱―――しまっている。
此の大賢――全員の意志が統一され、―――――使わ――好きに―が作り替―――てしまう。折角、維持し育ん―――此の地が消し去られる。-――――飲み込まれ――――。
   

『かなり消えちゃってるけど、いきなり何か参考になりそうな事が書いてあるね』

「あぁ、大賢者の?全員の意志の統一で…何かを好きに使える?って事を言ってるのか…?今ひとつ、わからん」

2人で頭を捻るが読めない所が有る上に謎が多い。
思索に浸るニュロが小さく呟く。

大地創造魔法陣エザフォスマギエン…』

「大…地創造…魔法陣…?」

ニュールは効いたことない響きの言葉を繰り返す。

『いやっ、昔、聞いた話を少し思いついただけなんだ…』

ニュロにしては珍しく前置きをしてから話す。
研究者のおとぎ話的推論の中の魔法陣の名前…それが大地創造魔法陣エザフォスマギエンとのことだ。

『大地の成り立ちについての研究をしている者が提唱した説と言うか理論なんだけど、何らかの魔法陣の働きかけで人為的に大地が動き、形を変えたって言うんだ。そう言った陣が各地の特定の場所に施されていている…って言う眉唾物の推論の中での魔法陣の話なんだ』

確かにいきなり振られても困る内容かも知れない。

「う~ん、もう少し検証が必要そうだな…」

まだまだ解明すべき謎と資料が山ほどあると思うと少し気の遠くなるニュールだった。




フレイはミーティが自身を遠ざけていることに気付き、あらかじめイラダに全てを告白していた。

「そうだったんだね…大賢者様を解放しようとして旅をしていたら、もう1人の大賢者様も捕まっちまった訳さね…。全く大賢者様ってのはお偉い感じの癖に情けないねぇ」

泣きながら説明したフレイをイラダは抱き締め、魔力を循環させ繋ぎ心癒す。
その巡る温かさはリーシェライルやアルバシェルに近かった。

「やっぱりイラダさんは賢者なんだね…、流れが強いもん」

今度は自分から抱きつき繋がり、癒しの力を巡らす。そのお返しの癒しを受け入れフレイに言葉を返す。

「語り部を継ぐ予定の者は皆そうだね…あんたも強い魔石持ってそうだね」

「私は無いから…」

フレイは更なる真実を呟いてしまった。

「!!!」

「あっ…内緒にしといて、言っちゃいけないんだった」

フレイは既に取り消せない発せられてしまった言葉に、拙い隠蔽をかけるかの様なお願いをするが…問い質される。

「無い?!無いのか!!…あんたは!…あんたも…本物の巫女なんだね…そうか…選択される時が訪れ…満ちるのか…そうか…願い…開くのか…」

イラダは幼き頃目の前に現れた巫女と思われる者を思い出し、最初は強い口調で詰問する様に問うていた。だが次第に自身の思考の中に入ってしまい、未知の内容を独り言のようにフレイに告げるのだった。
物思いから復活したイラダは、フレイ自身にその内容を厳重に秘匿する事を時の巫女リオラリオ同様に忠告し約束させた。

「…あぁアタシは口にしないが、アンタも2度と口にしてはいけないよ。其の事は…時が至るまで秘すべき事柄…扉が見つかってしまえば事象が変わってしまうのだから…」

語り部として繋がる部分から、天啓と呼ぶべき警告が口を動かす。



思いがけない場で受けた重要な話がちょうど終わった頃、ミーティが到着した。

そして、フレイを泣かせた罪でイラダより鉄拳制裁を受ける事となったのだ。
一段落した後、フレイはミーティにお願いした。

「陣がもし使える様になったら一緒に付いてきてください。お願いします」

何だか申し込まれると偉くなった様な気がして気が大きくなるミーティ。可愛い子を苛んでみたい嗜虐的思考が持ち上がる。

「…あぁ~まぁ良いんだけど鉱山の守りとかあるしなぁ~」

勿体ぶる勿体ぶる…ミーティは既に行く気満々なのに、ついつい焦らして遊んでみたくなってしまう。
うるうるした目でお願いされると更にもっと意地悪したくなる。
そんな様子を見ていたイラダが背後からミーティを殴る。

「アンタ、あれは婆ちゃんの天啓だよ!逃げ回ってどうするんだい」

ミーティは再度叱られた。
樹海の集落で語り部が得た天啓は、そこに所属するものは従うべき啓示。
絶対的な指針であった。

「むしろ連れてってもらうべき立場なんだよ!」

母がミーティを諭す。

「其れにコンナ可愛い子をいじめる何てアタシが許さないよ!!」

イラダの渇が飛んだ。


そしてミーティにもフレイの本当の素性やニュールが拐われた経緯を話したが、ミーティは動じなかったし却って納得していた。

「そうだよな…あの人の強さは大賢者って感じだったもんな。フレイだってお姫様って…あんま感じねぇな」

「何それ、ひどーい」

…などと言いつつ戯れ、涙を少し溜めて嬉しそうに微笑みポカリと軽く叩いてくるフレイを見ていると、イラダの目を忘れミーティはフレイを捕まえてしまいたくなる。

そう思っていたら逆に捕まえられてしまった…。
ミーティはフレイに抱きしめられていた。

抱きつかれたミーティはフレイが密着するソノ感触と、見下ろしたときに見える押し当てられたソレがミーティに密着している光景…二重の衝撃となり、殴られたかの様に脳ミソを振盪させ働かなくさせる。

煩悩の極みの中で固まっていると、フレイの言葉と魔力循環の中で浄化される。
清らかな思いに置き換わり、桃色の霞が消し飛んだ。

「ありがとうミーティ。変わらないでいてくれて嬉しかった」

無意識に抱き締め返してしまったが、そこには純粋な慈しむ心があり母も見守った。
数瞬後、旺盛な煩悩が再び巻き返す時、母に殴られ引き剥がされた。
心のなかで叫ぶ。

『煩悩よ!記憶で我慢しておくれ!!』

そして言葉通り煩悩さんの為にシッカリと心に刻み、何度も思い出すのであった。
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