魔輝石探索譚~大賢者を解放するため力ある魔石を探してぐるぐるしてみます~≪本編完結済み≫

3・T・Orion

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第三章 インゼル共和国編

5.揺れて進む

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「その情報は確かなのか…」

「我々もごく最近得た情報なので何とも…」

「白の巫女が合意なく他国の大賢者を略取した…と」

「塔なき大賢者故に問題は無いと思われたが、所属を主張するものが2か国あり、抗議があった。更に略取せし場がその国々以外だった故にそこの国からも抗議が…」

「頭の痛い事よのぉ」

年に1度の首長会議の開会前。既に話題は白き塔、白の巫女に集中している。



『古い者達は塔を崇めるが、どれ程の意味が有るのか』

スクザルムは思っていた。

『毎年貴重な内包者インクルージョンの子供を各地より捧げて未来を断ち、人形にされるのを受け入れるほどの価値が、あの白の塔や白の巫女に有るのか…』

今までは只々苦汁を飲み見守るより無かったスクザルムだが、今年は自身が長となり疑問を呈す事が出来るようになった。

この鏡のような映像情報伝達も、時と場所が揃わねば今では使えない。いくら優秀な技術でも使い勝手が悪い。
時を待つより実際に皆で集えば良いでは無いか…。
水が街に満ちると言うなら来ない場所に新たに街を築けば良い。
敵が押し寄せると言うなら戦えば良い。むしろ塔が無ければこの国が攻められる様な事は無いのでは無いか。
…山ほどの憤りを塔に持つ。

何もかも塔に頼り自身で対処しようとしないから、いつまでたってもこの足枷を嵌められたような状況から抜け出せないのだ。

時間になり現在の宗主都市の首長が開会を宣言する。

会合前はあんなに活発に情報交換していたのに、実際に始まると何とも粛々と事が運ぶ。
 
結局、何時ものように現況報告と、皆で申し合わせたように前例に随従するばかり。何も変化がない。
スクザルムは今まで我慢していた意見をぶちまける。

「皆様、塔の存続と前例の踏襲にのみ重きを置いているようですが、塔は本当にこの国に必要ですか?」

各国の映像の中よりザワツキが伝わる。

「そろそろ無くても良い生活を得るべきなのでは無いでしょうか?」

映像の中の皆の顔を見回す。

「此処に塔への恭順に対し幕引きすることを提言致します」

場のザワツキが収まらない。宗主都市の首長が閉じていた目を徐に開き述べる。

「誰もが若いうちに通る意見の1つじゃのぉ~フォッフォッフォッ」

一気に場が和み、口々に自身もそうであったことを語る者が出る。スクザルムは苦々しげにお歴々の参加者を見回し再度宣う。

「決断する勇気を持たず、遣るべき時に遣らずにここまで来てしまったのだ。最終判断すべき局面のごとき此の機会を棄てれば、インゼルの先は険しいぞ」

皆へ強く語り掛けるが…届かない。

「若き蛮勇に国の命運を賭けるほど、愚かでも無ければ軽くも無いのじゃよ」

宗主都市の首長は閉会を宣言した。



どの国にも観察するものは存在し常に双方送り込まれている。

未来を見て現状を憂い、勇猛果敢に改変の風吹かせようと挑む若き長は、集う長ける者達に巧みに煙に巻かれ先への道を曲げられる。
だが、曲げられた道の先に潜む言葉巧みな者にいざなわれる。陰で蠢く者が、甘美な罠で贄を絡め取り、国の危機を招き入れる者へと変貌させるのは…いと容易き事か。


「貴方が抱く深刻な杞憂に目をつぶるとは、お歴々もだいぶお年を召された様ですな…」

閉じられた情報伝達機構の背後からスクザルムは突然に声を掛けられ吃驚した。

「失礼しました。此方ヴェステ王国国務局参事ベサルータと申します。今回特務大使として長にお目通り願い出ましたら此方へ案内されまして…」

「あぁ、済まなかったな…」

長の背後を取れてしまう様な規模の小さな都市クシロス。
都市の重要機関で有る首長官邸も執務室も、家庭的で有るが故に無防備であった。

「大した用件では無いのですが、今回、貴都市クシロスへ赴任したご挨拶にうかがいました」

「都市…と言ってくれるか」

クシロスはインゼル共和国の砂漠側3都市の1つである。由緒は正しいが規模はインゼルの中で最小であり、この都市の内であっても、その場が都市に属するのだと把握してないような者さえ居る。砂漠の田舎街と行って良いぐらいの小都市であった。

「えぇ、先を見通す良き長を持つ素晴らしき都市でございます」

嫌み無く心からの思いが入っているような仕草言動。
自身の憂いを理解してくれる者の存在はスクザルムの心に一時の安らぎ…と隙を与える。

「憂いは我々も同様なのです。今回、白き巫女が連れてきた大賢者が、どうやら過去ヴェステで影をやっていた者の様なのです。お恥ずかしい話ですが、我が国の事情で数の月前に外部へと行かせてしまった者であり、大賢者と言うのも我々としては疑わしく心痛めております。情報を得て、今回の此方への派遣のご挨拶と共にご相談できればと伺った次第なのです…」

ヴェステの使者からの予想外の告白。

「大賢者では無いのか?」

「力強き者であるのは間違い有りませんが、我々でも賢者であることまでは推測…いや確証を得ていましたが其れ以上は未だ確認に至っておりません。数の月で大賢者に至るとは思えませんし、見た目の変化なども賢者への変化時のままと…」

「……其のような不確かな者を連れてきたと言うのか」

塔の横暴を感じ、スクザルムは憤懣やるかたない…と言った感じだった。

「このままでは白の巫女と連れてきた大賢者を語る者の横暴に泣く国民が出ましょうぞ!」

その言葉に背中を押され決断する若き長。

「ヴェステは貴都市のため助力を惜しみません。共に純然たる人による未来のために…」

今回、手に入れるべきモノの為に動くのはヴェステ王国、青の将軍。
前回の失態の雪辱を果たし、再起を賭けて挑む事を王に誓った。慎重に謀略も取り入れ、あらゆる手段を講じ挑む。
今回は塔と共に、懐かしきヴェステの衰亡の賢者を王に捧げるため、其方も手に入れる予定だ。

「赤などに任せずとも国へ連れ帰ってやろう。楽しみに待っているが良い…」

彼方の空へ向けて述べる青の将軍であった。




「ミーティは15歳でモーイは16歳でしょ~」

フレイの声掛けに2人は仰天した。

「「コレが?」」

2人同時に返事が戻る。

「こいつが年上?」

ミーティが驚嘆の声をあげる。

「ほぅ、年下ってか」

モーイは見下すように呟く。

「2人とも、この2の月が誕生月でなければそうだよ!」

フレイは紹介の一貫として告げるが、小さな事だが大きく納得しかねるミーティと、事実を知り更に上から目線になるモーイだった。


この茶番的状況が始まったのは樹海の集落へ向かう時の中休み。道中あまりにも2人が揉めて噛み合わないのでフレイが策を講じた。
必殺仲良し作戦。一方的相互紹介をフレイが始めたのだ。
まさしく守護者ニュール譲りの愚策だった。

そのままモーイからの一方的な攻めで片が付きそうな現場を放置し、抜け出してフレイが始めたのは当然のように石拾いだった。

『切っ掛けは出来たのだから、後は二人にまかせよ~』

気楽で呑気な上に、ありがた迷惑な気遣いだった。

今回は探索魔力は使わず、本当に空き時間にやるお楽しみ的なフレイの魔石探しだった。
2人とは5メルほど離れた距離で行っている。
もう少し開けた場所に、不思議な小さな土の盛り上がりが沢山出来ている場所があった。
程よい距離感の其れは、他の子供がやっているのを見て試してみた石蹴り遊びの印のように渡り歩ける距離だ。
思わず渡ってみてた。
足で踏みしめるふんわりした土の盛り上がりは、何とも良い感触で繰り返し渡る。
10個目くらいの其れを踏み潰した時だった。

「ピギッ!!!」

「ぴぎ?」

小さな悲鳴のような音と共に小さな魔力が10箇所程の穴から立ち上がった。

魔力を感じモーイとミーティが駆けつける。

「月土竜だ!」

ミーティが叫んだ。

月土竜…累代魔物であり、狂暴性は少ない。だが魔物ゆえ魔力を持ち、ちょっとした災難を呼び込む。
驚異を感じると魔力を発動し、防衛の為に水を掛けるのだ。
普段は子供のイタズラに対するしっぺ返しの様な、少量の水を呼び寄せ掛ける。
ただし、月が満ちている日に攻撃を加えたり攻撃と思われる様な事をすると…呼び寄せた魔力で大量の水を降らせる。
まるで巨大な桶で真上から被せたかのように…。そして今日は満月だった様だ。

「うわぁ…やっちまったなぁ」

「濡れ鼠だな…」

心配して駆けつけた2人もとばっちりを食らう。

「…ごめんなさい」

またしても迂闊さから招いた出来事にフレイは少し反省する。

「いやっ、注意しとけば良かったな…其れに今日が満月だって気付かなかった」

「そうだな…水を降らすって言っても、満月の時以外ならチョロチョロぐらいで可愛いもんだからなぁ…」

沈むフレイを慰めるため、少し協力的に声を掛けるモーイとミーティ。
皆、雨にも耐えられるような防御陣を刻んだマントを着込んでいるが、流石にコレは耐えられない状況だった。

「まぁ、マント脱いで移動すりゃ乾くだろ!アタシはこんな状態で2人乗りは嫌だからコイツも~らい!」

モーイは早い者勝ちと言わんばかりに鉱山から連れてきた大叉角羚羊《プロングホーン》を奪い取り乗り込む。
しょうがないのでフレイと一緒にクリールに乗ろうと声を掛けるため、フレイの方へ振り替える。その場にいるマントを脱いだフレイは、内側の服が身体にピタリと張り付き…何とも悩ましい状態だった。

「ミーティも脱いどかないと乾かないよ」

優しく声を掛けてくれる。

だが再びの、目の毒。

これから2人乗りで密着しての道行きを考えると色々と危ない。脱がない言い訳をしてそのまま乗り込む。
密着しても問題無さそうな前側にフレイ乗せて進む。

でも結局、何処に乗せてもこの状況は途方もない身体と心への責苦となる。

クリールの疾走で流れが生じ、少し湿ったフレイの髪が後ろに届きミーティの頬をくすぐる。支える手に感じる腹の柔らかさ…密着で伝わる体温。
そして眼下には、フレイの肩越しに広がる霊峰2つが聳え立つ。走りの振動で何とも良い感じに揺れる景色が、ミーティの頭の中までポヨヨンと揺らすのであった。

集落に辿り着いた夕方。
ミーティは清々しい表情で疲れきっていた。

『オレは遣りきった!』

濡れたままの移動と精神的な疲れ…我慢の限界を超え、熱を出しミーティは倒れた。
だがその日は達成感と目に浮かぶ素晴らしい景色で良い夢を見る事が出来た。

そして良い夢の続きかと思う様な膝の上に居ることに気づいた。

もしやっ、と期待し目を開けると婆ちゃんの膝の上だった。
其れは其で安心感ある心地よい場所ではあるが一瞬期待したミーティはちょっとガッカリだった。
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