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第三章 インゼル共和国編

1.巻き込まれ流され進んでみる

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港湾都市ガルネレでの色々な出来事…本能が危険だと囁き、フレイとモーイはジワリと忍び寄る危険を回避するため逃げる決断をした。
更にそれを契機とし、サルトゥス王国を脱出しニュール奪還のためにインゼル共和国へと向かう道を探すため一歩を踏み出す。

宵時も終わる時間…真夜中、王都セイブル時の神殿から転移陣でムルタシア闇の神殿に戻る。そして最初に2人で行ったのは目指す場所の確認だった。

「取り敢えずの目標はアルドの境界門を昼までに突破か…」

「うん、その後、スウェルで鉱山の皆に会って、魔石の話を聞いて、イラダさんに樹海の民の集落に付いて聞いて、転移陣の事を確認してみる」

フレイの知り合いが樹海の集落出身であると聞いて、そこを目的地の一つに入れたのだが、モーイの耳にサクッと幻聴の様な関係ない魔石話が入ってくる…が聞かない振りをする。
その街はモーイにとっても暗い因縁ある街である…だが、ニュールに出会えた記念の街でもあった。


王宮への対応を、王都に残ったアルバシェルと時の巫女リオラリオがしてくれる事になっている。
その為に闇神殿への出発前の一時に詳しい聞き取りがされた。
フレイが港湾都市での出来事を話した時、戻ってくる為の陣の起動魔力に認証魔石を使って動かした…と言う事を伝えるとリオラリオに呆れられてしまった。

「貴女、他の者が出来ないことを出来ると見せびらかして何がしたいのかしら?」

フレイリアルはリオラリオに問い質されると、ひれ伏してゴメンナサイをするしか無い気がした。
リオラリオは溜め息をつきながら諭す。

「貴女は少し特殊な存在だと自覚なさい。利用価値を見出だされてしまえば、貴女の守護者以上に追われる事になるのだから…あぁ、そこらへんも誤魔化しておかないと…」

リオラリオは、それでも何も解ってないであろうフレイリアルを困惑の表情で見つめるのだった。


フレイ達の闇神殿への付き添いは、王宮や神殿対応で外せないアルバシェルに説得されたタリクが務める。
半強制的に面倒を見る役割を押し付けられて、不機嫌の極みの様だ。
アルバシェルが居ないと横柄さが倍増するタリクだが、今は更にその倍になっている。
そのため遠慮なくフレイとモーイをあしらう。

「足は魔物で良いですね。ボロと貧弱2人で乗れるのか試して、無理なようなら更に別の足を用意します」

ボロ…がフレイで、貧弱がモーイ、魔物がクリールの様だ。
1匹は我関せずだが、2人は直接的すぎて返答のしようもない。

「貧弱って…貧弱って…貧弱って…」

モーイは言われた言葉をブツブツと繰り返して呟き、怒りを増幅させている。

「他に必要な武器や魔石は此方で勝手に用意しておきましたので、確認してトットト出立して下さい」

木で鼻を括ったような態度。早く追い出してアルバシェルの下へ戻りたいんだ…と言う無言の訴え掛けが激しい。
但し、必要にして十分な荷物とルートへの配慮…気遣い、装備共に完璧だった。
アルバシェルの側近であり、本当に優秀な参謀であると言うことが良く分かった。
モーイはタリクに付けられたあだ名が相当不服でむくれているが、フレイは何も考えず素直に礼を言う。

「ありがとうタリク!凄く助かったよ」

そして満開の花咲くような満面の笑みを浮かべる。
流石のタリクも此には返す嫌味も忘れてしまい、横を向いて無言で照れている。

「無事で過ごしなさい。そうでないとアルバシェル様が悲しまれます」

タリクとしては精一杯の激励の言葉で2人を見送る。


クリールは魔物化してからも賢くて慣れっこくて厩舎で皆の人気者だった。
餞別でクリールが貰った食糧で、荷物が一袋増えていたぐらいだ。

だが、クリールはいつの間にか増えた荷物をものともしない大きさになっていた。
大獣視猟犬程サイトハウンドの大きさ程では無いが、小柄なフレイとモーイと荷物位なら余裕で運べそうな力強さと大きさだ。
魔物化の影響だと思われる。


ボルデッケの街を抜け、アルドへ向かう道を鎧小駝鳥アマドロマイオスの魔物で疾走する2人。
もうすぐ最初の時告げの鐘が鳴りそうな位、空が白み始めた。
あとひと山越えればアルドだ。


タリクからクリールに関しても忠告を受けた。

「それは今は魔物です…」

タリクはフレイとクリールを前にしてズバリと言う。

「いくら飼育可能な累代魔物の様に賢く穏やかでも、角が有る時点で遷化魔物と一緒の扱いになります。だから無事に連れ歩きたいなら角は隠してやりなさい」

なので今の所、布を巻いて誤魔化している。
移動しながらモーイと話してリボンか帽子…と言う意見までは辿り着いたがそこから先へ進めない。
だけど、こんな気楽な話し合いは久々でフレイは嬉しくなる。
モーイも同じような感じだった。
気軽さのついでに、今決まってる予定の先の個人的希望も話してみる事になった。

「アタシはスウェルで、少し時間をもらって裏組織とけりをつけてくるよ」

モーイの話は予想より重かった。

「あと、叔母と友達に会いたい…」

「…友達か…」

モーイの言葉に少しフレイは遠い気分になる。
あの環境で通常の人々との交流を持つ事は難しいとは思っていたが、何だか少し寂しかった。
フレイの呟きと沈黙の後。クリールの上でフレイの後ろに位置取るモーイが、急にフレイを片腕で強く抱き締め、もう片方の手で頭をワッシワッシと掻き回す。

「フレイはアタシにとって、妹で娘で友達で仲間だ!掛け替えが無い奴だぞ」

モーイはニュールと一緒で広く包み込んで心を温めてくれる。
嬉しくなってフレイは半分振り返りモーイに抱きつく。

『可愛い奴だ…だがソコだけは敵認定しても良いだろうか…』

モーイの眼下に広がるフレイの実り豊かでたわわな景色に、一寸だけ眉間にシワを寄せ背中に爪を立てて遣りたい気分になるのであった。


「昼時前にはアルドの街を越えなさい」

リオラリオに言われた言葉だ。
それが王宮の伝達処理が追い付かないであろう時間だからだ。境界門を越えて樹海側に入ってしまえば、王国からの望まない余計な手が伸びてくることも少なくなる。

この時間なら何とかギリギリ午前中に門を越えられそうだ。

アルドの街に入った時は昼時より1つ時ほど前、まだ昇陽時3つと言う感じだった。
かなりの余裕があったので、クリールの頭に被せる物を探して少しだけ店を見ることになった。

「フレイ、今だけは魔石買いは封印だぜ!」

「!!!」

モーイはいきなりフレイにとって厳しい事を言う。

「その代わりスウェルにアタシの知り合いで魔石屋やってる奴がいるから、ソコへ連れてって遣るから今は勘弁してくれ!」

『スウェルの街…鉱山の街に有る魔石屋…かなり魅力的だ…此処はこの前一応…見たかなぁ?』

フレイは、断腸の思いで我慢…する事にした。

「…うん…分かった」

守られるかは疑わしいが、モーイは取り敢えずフレイの言質は取る事に成功した。

モーイと話し合った結果、クリールの頭にはリボン付きの帽子を被せようと言うことになった。
何軒か店を見て二人で納得のいく物をみつけ購入出来た。

店の外に出ると、単騎の大叉角羚羊プロングホーン騎兵が街路を駆け抜け門の方へ向かうのが見えた。

「フレイ!急いだ方が良いかもしれない。王都からの連絡を運ぶ使者かもしれない…」

門へ急ぎ認証の列に並ぶ。外部に出る時は比較的監査が緩いので進みが早い。
擬装用のフレイの緑柱魔石を出し、確認してもらう。
問題無いようだが…通貨管理窓口に今置かれたばかりの新しい書類に目を通した職員の動きが止まり、少し処理が滞る。
そして職員から声が掛けられる。

「多分違うと思うのですが名前が重要保護確認対象者の方と一部一緒なので…」

モーイが咄嗟に話を作る。

「コイツの母ちゃん樹海の民で今…ヤバイんだよ…この一瞬で間に合わなかったら…」

悲痛な面持ちで境界門職員に訴える。フレイもモーイの話に合わせてウルウル目で職員を見つめる。

「確かに樹海の方の様ですし…あぁ~重要保護確認対象者の方とは出身が違うようですね…大丈夫なので、お通り下さい」

落ち着いて…だが急いで…少しずつ歩く速度を早め…そうかと言って目立たない絶妙な早さで進む。
息を殺すように、慎重にテレノの境界壁大橋管理事務所を通り過ぎ…職員に声を掛けられる…が聞こえないふりでクリールに飛び乗り走り出す。

2人とも少しだけ振り返ってみるが、特に追っ手がついてくるような事も無く脱出大成功だった。何だか声を出して2人とも大笑いし、抱き締め合った。

「ドキドキしたね、楽しいね!」

「やったぞ~最高だな!!」

本当に久々に心から笑える2人だった。
ここからが本番、ニュール救出作戦への女二人旅が始動する。
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