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第二章 サルトゥス王国編
26.流れは闇の中へ
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突き放すけれど見棄てない所、危機に陥っていたら自身を擲ってでも助けてしまう所…ニュールとその者の印象が重なってしまう所だとアルバシェルは思った。
リュマーノは姉の婚約者であり、幼い頃のアルバシェルには良い遊び相手だった。
姉の婚約者の割には身分が低くかったため、周りからは色々言われているようだった。
姉からの溺愛…といった感じで強引に婚約に至っていた部分もあり、責任の無い口が色々と余計な色を付けて触れ回る。
だが、リュマーノは気にする風もなく姉へ惜しみなく愛情を注ぎ、お互い思いやる暖かい関係だった。
身分低い割にリュマーノが王宮で取り立てられていたのは、他に無い発想で様々なモノを生み出す力を持っていたためだった。
アルバシェルにとっては大変面白い聞いた事の無い話を沢山知っている、とても興味深い人であり大好きだった。
ある日、アルバシェルはリュマーノに誘われ、いつもの城内の散策探険に出た。
リュマーノを誘うことは有っても誘われることは少なかったため、大変嬉しくはしゃいだ覚えがある。
いつもの様に、玉座の間に内緒で入って突き当たりの壁に触って戻ってくる…と言う度胸試しの遊びも組み込んでいた。
「さぁ、競争だ! 王子様相手だって、そう簡単に負けるつもりは無いよ」
リュマーノは本気で楽しそうに誘ってくる。
そんな風に畏まらず本気で遊んでくれる所も好きだった。
何だかんだ言いながらも上手く気持ちを前向きに盛り立てて遊び倒してくれる、負けても唯一悔しくない相手だった。
その日は珍しく気遣い、先頭を譲ってくれた様に感じた。
そして、其処にある滅多に目にしないソレを目にしてアルバシェルは一瞬で心奪われてしまった。
深い緑の森に誘われるような、全ての光を吸い込むのに中から虹色の様な輝きを放つ暗緑色の魔石。
その日に限って、普段は置かれていない虹色の輝き放つ賢者の石が、誰も居ない玉座の間の王座横の石座にそのままの状態で置かれていた。
結界を施された箱も外され、何一つ防御するものの無いままで…。
幼いアルバシェルはその魔石に魅入られた様に近付き…当然の様に触れてしまった。
多分適正があったのであろう…触れただけで魔力が動き始め循環が生まれた。
その膨大な量の魔力循環は、そのままならアルバシェルの中味を一掃してお人形にしてしまうか…魔石共々アルバシェルも玉座の間も消滅させてしまうか…どちらかであったろう。
だが一緒にいたリュマーノは、その身を捧げ魔石の魔力から守る盾となり、膨大な魔力を秘めた賢者の石と繋がってしまったアルバシェルを守った。
アルバシェルは意識を失い、気づいたときはリュマーノは居なくなり、大きくなった自分が残っていた。
起きた時は既に事が起こった時から気の遠くなるほどの日々が経過した後であり、姉は叶えるべき願いを胸に秘め清濁飲み干しながら前進していた…。
「そろそろ時が満ちるから起きて待ってなさい」
姉に起こされた時、最初に掛けられた言葉だ。
自分の手足を確認し、最終的には鏡で自分の姿に対面し、初めて若い大人の男になっていることを理解した。
そこから最低限の生活が出来るようになるまでの4年は王宮の奥深く閉じ籠っていた。
意識が戻る以前も体の機能を維持するため、大賢者の統合人格が日常生活を送っていたので自分の記憶の中に記録が残っていて、知らない場所でも物でも人でも探せたし辿り着く事が出来た。
アルバシェルは自身の中にリュマーノが存在するのは感じられたが、意思を交わすことは無かった。
満天の星空の様に優しく瞬きで包み込み見守るだけであった。
その分大賢者統合人格グティンゲが助言者となり導き、今のアルバシェルを育ててくれた。
少しずつ成長し生じた疑問…何故あの日リュマーノは玉座の間へ導き、其処に賢者の石があったのか…謎が残る。
転移の間は破壊されつつあった。
全く意味の無いような攻撃が意味の無い破壊を作り上げている。
転移の間にある高級魔石を大量に使った大きな陣を、同じ数を揃え回路を繋ぐ計画を立てたなら、この国の国家予算の半分になるのではと思われる金額だと言うのに、この者達は何も考えずに破壊している。
大規模な隊では無いが、曲がりなりにも国の精鋭を集めた皇太子直属の近衛隊。
大きめの紅玉魔石での集中砲火はニュールやアルバシェルの結界を破ることは無いが、ジワジワと包囲網を狭めている。
一見何も考えて無さそうな攻撃は、多大な被害を生み出しながら目的の人物を追い詰めつつあった。
「こいつらの目的は私だ…ニュールはフレイを連れて何とか抜けてくれ」
アルバシェルはこの原因となっている人物と対峙する気になっているようだ。だが問答無用の人間と言葉でやり取り出来るとは限らない。
「今はお前も引け!」
ニュールは状況を見て促すがアルバシェルは首を横に振る。
「ここで引いても何時までも繰り返す…ならば、この場で対峙しても同じこと…」
覚悟を決めた者の目をしていた。
「なら、逃げるために付き合うよ!」
ポンっと背中を軽く叩く。
「どっ、ど、どうしてもと言うのなら止めないがシッカリ逃げてクレ」
またアルバシェルがツンデレてシドロモドロな感じだ。
ニュールの事を完全に気に入ってしまったようだ…この状況なのに何だか微笑ましい。
フレイもそんな状況を楽しそうに見守りながら言う。
「私も邪魔にならないよう頑張るからね!!」
微妙な頑張りを宣言してくれた。
だが、この少人数…此方からも何らかの働きかけをしない限り、制圧され捉えられるのも時間の問題だろう。
そんな中、対応が一手早かったのは相手方だった。
転移の間の奥の壁、王族のみが把握している外部への待避経路があった。
神殿の者が知らぬのは排除されたから…現王家はそうした情報を拾い上げ自分達だけのモノにして有利な状況を作り出し、確固たる地盤を築き上げてきた。
ソノ経路を遡り、苔瑪瑙魔石で慎重に気配を断ち空間に潜み近づく者が居た。
全ての弱点となる力無き者を捕縛するため忍び寄る。
「このお嬢さんを大切に思うなら代わりに貴方の中にある賢者の石を差し出しなさい」
其処ではフレイが切れ味鋭い金剛石で出来たナイフを…喉元にほんのり紅い彩りを加える力加減で突き付けられていた。
サルトゥス王国皇太子フォルフィリオ・ディ・ルヴィリエによってフレイは拘束された。
「「「!!!」」」
皇太子の姿がそこに有るのは予想外だった。
一気に完全制圧されてしまい、展開していた結界も解除させられた。
だが、皇太子殿下は直ぐに全員を捉える事はしなかった。
一番最初に行ったのは、フレイをその手で拘束したままもう一つの手で自身の腰の小太刀を取り出し、アルバシェルの前に投げつける事だった。
「其で自分で自分の魔石を取り出せ」
「!!」
その予想外に不快感のある要求に、場に居合わせた者たち皆の空気が微妙になり皇太子の味方さえも動きが固まる。
だがアルバシェルは無言で其れを拾い上げようとした…しかし、タリクに阻止された。
「馬鹿なことはお止め下さい」
其れと一緒に拘束されているフレイも叫ぶ。
「こんな奴の言うこと聞いたらダメ!!」
予想外の手元からの抵抗に愉しげに皇太子は笑う。
「何の力も無い者が抵抗するとは面白い…此は持ち帰って利用するのも有りかもしれないのぉ」
アルバシェルの瞳に怒りの炎が灯る。
「愉快…愉快だ! いつも涼しい顔しかせぬ叔父上の表情が変わるとは面白い…この花を持ち帰り我が花畑に入れて愛でたらもっと面白いかのぉ…ははははっ!」
アルバシェルはいつの間にか拾い上げた皇太子の小太刀で、今にもその持ち主を切りつけるかの様に鋭い目で睨みつける。柄を強く握りしめた手からは血の気が引いている。
しかし周りに控える皇太子直属の近衛兵達が、解かれた結界の外から確実に狙いを定めている。
既に発射直前の段階で待機している攻撃魔力は、ニュール達が再度結界を張るより先に届くであろう。
八方塞がりな状況だった。
モーイはその状況を目にした瞬間、踵を返したくなった。
『いや、流石にこの状況無理だから!』
まさしく辿り着いた先は戦闘の渦中であった。
庭からテラスへのつなぎ目にある門に隠れながら、見つからない様に細心の注意を払い探索でさぐる。
追いかけてきた仲間全てがその中心地に居た。
『いやいやいやいやっ、これをドオしろって??』
モーイは辿り着いたは良いけど手に余る状況に悩みまくっていた。
だが、悩みまくっていた頭をクリールが真っ白にしてくれた。
その戦闘のただ中に向かって走り出したのだ。
『勘弁してくれよ!!!』
そう思いつつもモーイは隠蔽魔力をクリールに纏わせ同様に自分も纏い、その勇敢な鎧小駝鳥クリールを補助するために付いていった。
モーイにクリールを見捨てる選択肢は全く無かった。
『無謀な仲間が居たら助けてやらないとな!』
既に自身が無謀な事をしていると言う事は頭に無かった。
いきなり近衛隊の激しい魔力攻撃が一斉に止んだ。
モーイは先程の探索でみんなの気配の有った辺りの部屋へ、慎重に精密に隠蔽魔力を立ち上げ近付き、様子を探る。
フレイが何か豪華で綺麗だけどいけ好かない小僧に拘束されて酷い扱いを受けているのが見えた。
『ニュールも居た…さっきの美少女みたいな兄ちゃんもいるけど動けなさそう。もう一人のちょっとイイ男も剣は持ってるけど動けなさそう…』
モーイはいつもと違い丁寧に状況を分析する。
『これって身動きが取れない絶体絶命的危機じゃないか…』
モーイはそう思うとスッと冷静になる。
そして小さく呟く。
「これって、行くしか無いって場面だよね!」
今までのモーイなら確実にその場で速やかに退散していた。
冷静なのに馬鹿な選択…。
だけど今のモーイにとってはこれが正解だった。
『アタシはアタシが選んだ道を進む!正しくても間違ってても自分で選べたことが大切!』
何の躊躇も無かった。
『これが成功したらアタシってばニュールの中での価値が爆上がりじゃね?』
モーイらしく下心も満載だった。
慎重に慎重を重ね、巧妙で繊細な隠蔽を施す…そして3メルまで近づいた。
いけ好かない綺麗な兄ちゃんがフレイの首に当てているナイフを持つ力を強め、彩る紅さに滴る筋が加わる…。
その時クリールは、その鉄さびた臭いで危機を感じ反応し…飛び出してしまった。
いきなり乱入し場を乱す事には成功した。
一緒に飛び出すしか無いモーイだが、クリールは絶好の機会より一拍早かった。
モーイは隠蔽や結界に集中しながらも、器用に攻撃を繰り出し近づく。
ニュール達も状況変化に俊敏に反応し、体術でいけ好かない兄ちゃんをぶっ飛ばしフレイを匿い結界を展開する。
だがその瞬間、結界の形成より早く攻撃が到達する。
そして一番早くフレイの前に飛び出し庇ったクリールに当る。
その微妙な一拍のずれが、フレイを救い…クリールを傷つけた。
獣の叫びをあげ、その場に倒れる。
クリール自身から流れる鮮やかで暖かいモノが其処に広がっていく。
動かない。
時が止まってしまった様な空間が出来上がった。
リュマーノは姉の婚約者であり、幼い頃のアルバシェルには良い遊び相手だった。
姉の婚約者の割には身分が低くかったため、周りからは色々言われているようだった。
姉からの溺愛…といった感じで強引に婚約に至っていた部分もあり、責任の無い口が色々と余計な色を付けて触れ回る。
だが、リュマーノは気にする風もなく姉へ惜しみなく愛情を注ぎ、お互い思いやる暖かい関係だった。
身分低い割にリュマーノが王宮で取り立てられていたのは、他に無い発想で様々なモノを生み出す力を持っていたためだった。
アルバシェルにとっては大変面白い聞いた事の無い話を沢山知っている、とても興味深い人であり大好きだった。
ある日、アルバシェルはリュマーノに誘われ、いつもの城内の散策探険に出た。
リュマーノを誘うことは有っても誘われることは少なかったため、大変嬉しくはしゃいだ覚えがある。
いつもの様に、玉座の間に内緒で入って突き当たりの壁に触って戻ってくる…と言う度胸試しの遊びも組み込んでいた。
「さぁ、競争だ! 王子様相手だって、そう簡単に負けるつもりは無いよ」
リュマーノは本気で楽しそうに誘ってくる。
そんな風に畏まらず本気で遊んでくれる所も好きだった。
何だかんだ言いながらも上手く気持ちを前向きに盛り立てて遊び倒してくれる、負けても唯一悔しくない相手だった。
その日は珍しく気遣い、先頭を譲ってくれた様に感じた。
そして、其処にある滅多に目にしないソレを目にしてアルバシェルは一瞬で心奪われてしまった。
深い緑の森に誘われるような、全ての光を吸い込むのに中から虹色の様な輝きを放つ暗緑色の魔石。
その日に限って、普段は置かれていない虹色の輝き放つ賢者の石が、誰も居ない玉座の間の王座横の石座にそのままの状態で置かれていた。
結界を施された箱も外され、何一つ防御するものの無いままで…。
幼いアルバシェルはその魔石に魅入られた様に近付き…当然の様に触れてしまった。
多分適正があったのであろう…触れただけで魔力が動き始め循環が生まれた。
その膨大な量の魔力循環は、そのままならアルバシェルの中味を一掃してお人形にしてしまうか…魔石共々アルバシェルも玉座の間も消滅させてしまうか…どちらかであったろう。
だが一緒にいたリュマーノは、その身を捧げ魔石の魔力から守る盾となり、膨大な魔力を秘めた賢者の石と繋がってしまったアルバシェルを守った。
アルバシェルは意識を失い、気づいたときはリュマーノは居なくなり、大きくなった自分が残っていた。
起きた時は既に事が起こった時から気の遠くなるほどの日々が経過した後であり、姉は叶えるべき願いを胸に秘め清濁飲み干しながら前進していた…。
「そろそろ時が満ちるから起きて待ってなさい」
姉に起こされた時、最初に掛けられた言葉だ。
自分の手足を確認し、最終的には鏡で自分の姿に対面し、初めて若い大人の男になっていることを理解した。
そこから最低限の生活が出来るようになるまでの4年は王宮の奥深く閉じ籠っていた。
意識が戻る以前も体の機能を維持するため、大賢者の統合人格が日常生活を送っていたので自分の記憶の中に記録が残っていて、知らない場所でも物でも人でも探せたし辿り着く事が出来た。
アルバシェルは自身の中にリュマーノが存在するのは感じられたが、意思を交わすことは無かった。
満天の星空の様に優しく瞬きで包み込み見守るだけであった。
その分大賢者統合人格グティンゲが助言者となり導き、今のアルバシェルを育ててくれた。
少しずつ成長し生じた疑問…何故あの日リュマーノは玉座の間へ導き、其処に賢者の石があったのか…謎が残る。
転移の間は破壊されつつあった。
全く意味の無いような攻撃が意味の無い破壊を作り上げている。
転移の間にある高級魔石を大量に使った大きな陣を、同じ数を揃え回路を繋ぐ計画を立てたなら、この国の国家予算の半分になるのではと思われる金額だと言うのに、この者達は何も考えずに破壊している。
大規模な隊では無いが、曲がりなりにも国の精鋭を集めた皇太子直属の近衛隊。
大きめの紅玉魔石での集中砲火はニュールやアルバシェルの結界を破ることは無いが、ジワジワと包囲網を狭めている。
一見何も考えて無さそうな攻撃は、多大な被害を生み出しながら目的の人物を追い詰めつつあった。
「こいつらの目的は私だ…ニュールはフレイを連れて何とか抜けてくれ」
アルバシェルはこの原因となっている人物と対峙する気になっているようだ。だが問答無用の人間と言葉でやり取り出来るとは限らない。
「今はお前も引け!」
ニュールは状況を見て促すがアルバシェルは首を横に振る。
「ここで引いても何時までも繰り返す…ならば、この場で対峙しても同じこと…」
覚悟を決めた者の目をしていた。
「なら、逃げるために付き合うよ!」
ポンっと背中を軽く叩く。
「どっ、ど、どうしてもと言うのなら止めないがシッカリ逃げてクレ」
またアルバシェルがツンデレてシドロモドロな感じだ。
ニュールの事を完全に気に入ってしまったようだ…この状況なのに何だか微笑ましい。
フレイもそんな状況を楽しそうに見守りながら言う。
「私も邪魔にならないよう頑張るからね!!」
微妙な頑張りを宣言してくれた。
だが、この少人数…此方からも何らかの働きかけをしない限り、制圧され捉えられるのも時間の問題だろう。
そんな中、対応が一手早かったのは相手方だった。
転移の間の奥の壁、王族のみが把握している外部への待避経路があった。
神殿の者が知らぬのは排除されたから…現王家はそうした情報を拾い上げ自分達だけのモノにして有利な状況を作り出し、確固たる地盤を築き上げてきた。
ソノ経路を遡り、苔瑪瑙魔石で慎重に気配を断ち空間に潜み近づく者が居た。
全ての弱点となる力無き者を捕縛するため忍び寄る。
「このお嬢さんを大切に思うなら代わりに貴方の中にある賢者の石を差し出しなさい」
其処ではフレイが切れ味鋭い金剛石で出来たナイフを…喉元にほんのり紅い彩りを加える力加減で突き付けられていた。
サルトゥス王国皇太子フォルフィリオ・ディ・ルヴィリエによってフレイは拘束された。
「「「!!!」」」
皇太子の姿がそこに有るのは予想外だった。
一気に完全制圧されてしまい、展開していた結界も解除させられた。
だが、皇太子殿下は直ぐに全員を捉える事はしなかった。
一番最初に行ったのは、フレイをその手で拘束したままもう一つの手で自身の腰の小太刀を取り出し、アルバシェルの前に投げつける事だった。
「其で自分で自分の魔石を取り出せ」
「!!」
その予想外に不快感のある要求に、場に居合わせた者たち皆の空気が微妙になり皇太子の味方さえも動きが固まる。
だがアルバシェルは無言で其れを拾い上げようとした…しかし、タリクに阻止された。
「馬鹿なことはお止め下さい」
其れと一緒に拘束されているフレイも叫ぶ。
「こんな奴の言うこと聞いたらダメ!!」
予想外の手元からの抵抗に愉しげに皇太子は笑う。
「何の力も無い者が抵抗するとは面白い…此は持ち帰って利用するのも有りかもしれないのぉ」
アルバシェルの瞳に怒りの炎が灯る。
「愉快…愉快だ! いつも涼しい顔しかせぬ叔父上の表情が変わるとは面白い…この花を持ち帰り我が花畑に入れて愛でたらもっと面白いかのぉ…ははははっ!」
アルバシェルはいつの間にか拾い上げた皇太子の小太刀で、今にもその持ち主を切りつけるかの様に鋭い目で睨みつける。柄を強く握りしめた手からは血の気が引いている。
しかし周りに控える皇太子直属の近衛兵達が、解かれた結界の外から確実に狙いを定めている。
既に発射直前の段階で待機している攻撃魔力は、ニュール達が再度結界を張るより先に届くであろう。
八方塞がりな状況だった。
モーイはその状況を目にした瞬間、踵を返したくなった。
『いや、流石にこの状況無理だから!』
まさしく辿り着いた先は戦闘の渦中であった。
庭からテラスへのつなぎ目にある門に隠れながら、見つからない様に細心の注意を払い探索でさぐる。
追いかけてきた仲間全てがその中心地に居た。
『いやいやいやいやっ、これをドオしろって??』
モーイは辿り着いたは良いけど手に余る状況に悩みまくっていた。
だが、悩みまくっていた頭をクリールが真っ白にしてくれた。
その戦闘のただ中に向かって走り出したのだ。
『勘弁してくれよ!!!』
そう思いつつもモーイは隠蔽魔力をクリールに纏わせ同様に自分も纏い、その勇敢な鎧小駝鳥クリールを補助するために付いていった。
モーイにクリールを見捨てる選択肢は全く無かった。
『無謀な仲間が居たら助けてやらないとな!』
既に自身が無謀な事をしていると言う事は頭に無かった。
いきなり近衛隊の激しい魔力攻撃が一斉に止んだ。
モーイは先程の探索でみんなの気配の有った辺りの部屋へ、慎重に精密に隠蔽魔力を立ち上げ近付き、様子を探る。
フレイが何か豪華で綺麗だけどいけ好かない小僧に拘束されて酷い扱いを受けているのが見えた。
『ニュールも居た…さっきの美少女みたいな兄ちゃんもいるけど動けなさそう。もう一人のちょっとイイ男も剣は持ってるけど動けなさそう…』
モーイはいつもと違い丁寧に状況を分析する。
『これって身動きが取れない絶体絶命的危機じゃないか…』
モーイはそう思うとスッと冷静になる。
そして小さく呟く。
「これって、行くしか無いって場面だよね!」
今までのモーイなら確実にその場で速やかに退散していた。
冷静なのに馬鹿な選択…。
だけど今のモーイにとってはこれが正解だった。
『アタシはアタシが選んだ道を進む!正しくても間違ってても自分で選べたことが大切!』
何の躊躇も無かった。
『これが成功したらアタシってばニュールの中での価値が爆上がりじゃね?』
モーイらしく下心も満載だった。
慎重に慎重を重ね、巧妙で繊細な隠蔽を施す…そして3メルまで近づいた。
いけ好かない綺麗な兄ちゃんがフレイの首に当てているナイフを持つ力を強め、彩る紅さに滴る筋が加わる…。
その時クリールは、その鉄さびた臭いで危機を感じ反応し…飛び出してしまった。
いきなり乱入し場を乱す事には成功した。
一緒に飛び出すしか無いモーイだが、クリールは絶好の機会より一拍早かった。
モーイは隠蔽や結界に集中しながらも、器用に攻撃を繰り出し近づく。
ニュール達も状況変化に俊敏に反応し、体術でいけ好かない兄ちゃんをぶっ飛ばしフレイを匿い結界を展開する。
だがその瞬間、結界の形成より早く攻撃が到達する。
そして一番早くフレイの前に飛び出し庇ったクリールに当る。
その微妙な一拍のずれが、フレイを救い…クリールを傷つけた。
獣の叫びをあげ、その場に倒れる。
クリール自身から流れる鮮やかで暖かいモノが其処に広がっていく。
動かない。
時が止まってしまった様な空間が出来上がった。
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