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第二章 サルトゥス王国編
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フレイリアルが戻ってきたのは、時の巫女リオラリオが無理やり行き先を変えた転移陣では無く元々繋がっていたと思われる陣であった。
そのため、辿り着いた場所は最初に居た転移陣が集まる広場だった。
受け取った情報の多さに、フレイリアルは陣の真ん中で座り込み茫然自失状態になっていた。
その時、声がかけられた。
「フレイ!」
アルバシェルが近寄って来て陣の上で手を差し出してくれた。
お姉さんに色々聞かされた後だったので何だかフレイは少し照れてしまう。
そんなことにはお構い無くアルバシェルはフレイを掴み上げると、無事の帰還を喜びきつく抱き締めた。
『此れは見境ある状態だよね…』
フレイはお姉さんの言葉に踊らされて転移した場所で聞いた事をチョットだけ考えてみてしまった。すると今までと違う感覚が湧き上がり少しドギマギしてしまう。
そして、そんな状態を転移の間にあった転移陣でない陣より見咎める洒落にならない御方がいらっしゃるのに気づいたのは直後だった。
「その様な汚ないモノを内に秘めたまま、フレイに近づかないでくれるかな…」
鋭く響く声と共に、リーシェライルは顔にかかる銀の髪を優雅に後ろに払い、美しさを余すこと無く顕現させた。
絵に描いたような美貌に不快と侮蔑を混ぜ混んだ表情が現れているが、そのような表情でさえも空中に浮かぶ像は溜息が出るほど流麗だった。
アルバシェルは一瞬何処で言われ何が現れたのか理解できなかったが、自身の内に秘めるソレに負い目を持っていたため抱き締めていたフレイから身を放す…が離れようとした瞬間、フレイに手を捕まれる。
「リーシェ!アルバシェルさんは色々助けてくれたんだよ…だから良く分からないけど酷いこと言わないで」
ニュールは空気が凍るのが目に見えた様な気がした。
自身の境遇を突きつけられて呆然としていた頭が一気に冷やされハッキリとする。
リーシェライルの浮かべる美しい微笑みが持つ温度が、氷点下まで下がって行き辺りのもの全て氷結させるように包み込む。
「…そうだね。失礼なことをしてしまったのかな…」
残念そうな微笑みに残忍さが秘められた笑みを混ぜ微笑む…後者に気づかないのはフレイぐらいだろう。
ニュールはこの歪な三角が世界を滅ぼす前に手を打たねばと、色々と巡り重い頭を起こして問う。
「大賢者リーシェライル様。何故、斯様な場所へ…」
とりあえず自分の事は後にして状況を和やかにすべく奔走してみようと試みるが、リーシェライル様のご機嫌は嵐の海のごとく近場の人々を飲み込んで行く。
「あぁ、ニュール…久しいね。やっと自分の事が分かるようになった赤ちゃん大賢者…辿り着くための鍵は色々と親切で見せたと思ったんだけどなぁ…前にも言ったかも知れないけど僕を残念に思わせないでよね」
氷の華の如き鋭き笑みが、全ての者を切り裂き紅き海を造り出しそうな勢いで頬を撫で通り過ぎる。
もうニュールは、一言交わしただけで白旗上げて逃げ出したい気分になっていた。
『やっぱり大賢者リーシェライル様は健在だ…でも面白くないとダメって言われた気はするけど、残念に思わせるのもダメなんて聞いてないです!』
ニュールは何とも言えない困り顔の情けない表情をしていた様だ。そんなニュールを見て大賢者様は妖艶で意地悪な可愛らしい笑みを零された。
「くくっ! ニュールはからかい甲斐があって楽しいね」
久々にお会いすることになったリーシェライルはニュールを玩具にして少し不満を解消したようだ。
いつもの人をたぶらかすような極上の笑みを浮かべ事情を伝えてくる。
「この部屋の陣に、さっきフレイが魔力を流したでしょ? それでコノ陣も起動して繋がったんだ…」
フレイは何時ものようなリーシェを目にして先程強く言ってしまった事を後悔した。
「リーシェ…強く言ってごめんなさい…」
シュンと沈んで映像のリーシェに話しかける。
「いやっ、僕も心配しすぎてしまったね。チョット嫌な魔力を感じて警戒し過ぎちゃったんだ…ごめんね」
「…リーシェ…」
其処には何年もの孤独を埋めあってきた者達の、濃い思いの巡りが出来ていた。お互い映る姿に手を伸ばし、触れられない距離を哀しむ。
触れられない距離なのに其処に魔力による癒しの循環が生まれている。
その魔力で転移陣を起動させ希望の場所に飛んでしまいそうなぐらいの強く繋がる魔力…。
だが、空気を読まない自分を押し通す男がここにいた。
その循環を現実の接触で断ち切る。
気に入ったら見境の無いアルバシェルは、フレイリアルの背後に近づき抱き締め映像から引き剥がした。
「「「!!!」」」
突然の背後からの包容にドキドキして慌てるフレイリアル。
アルバシェルのその行動で世界が滅びるのでは無いかとバクバクのニュール。
そして怒りで心臓がドクドク脈打つリーシェライルはニュールを更に恐怖のどん底に突き落とすような笑みを浮かべ問う。
「ニュール、色々な者から守るように言ったけど、どう言うことかな?」
ニュールは今までに経験したことの無い種類の絶対絶命の危機に陥るのだった。
巻き込まれた事の無い型の修羅場に巻き込まれた。
タリクは皇太子との災難の様な出会いの後、嵐が通り過ぎるのを耐え忍んだ。
予想外の皇太子の来訪…アルバシェルの事が気遣われる。それなのに急ぎ西棟まで赴く途中、大殿司にまで遭遇してしまった。
タリクは本気でフレイの疫病神説を疑った。
「急ぎ何処へ行くのですか…」
軽い隠蔽を掛けてあったが見破られた。
礼を執り、無沙汰の詫びを入れる。
「ご無沙汰しております」
「少し付き合いなさい…」
大殿司はそう言ってタリクを伴い諸々の指示を他の同行する者に出しながら、北棟の処理後の状況確認へ赴く。そんなことは明日、時告げの鐘が鳴ってから遣れば良いと言うのに、生真面目で几帳面な大殿司には許せなかった様だ。
この大殿司イレーディオは決して悪事を働くような悪代官気質の者ではなく、寧ろ正義と正統を求める質であった。
それが故、王に忠誠を誓うが王宮とは反りが合わず、優秀で能力も高いのに辺境送りとなった男である。
だが同じ王宮と疎遠な者であるアルバシェルの事は、気遣い少なく思うがままに振る舞う自由すぎる人間と認定していて腹に据えかねている様だった。
その為、アルバシェルへの対応は儀礼的であり冷ややかだ。
ただし、タリクの様に才を持つのに傲らず謹厳実直であり…尚且つ見た目からの弊害で苦労していると言う様な者には惜しみ無く支援をする、チョット四角四面ではあるが良い方であった。
王宮に善意で推薦してくれたのもこの方だった。
その良い大殿司は、忌避する者の元にタリクの様な優秀な者がいつまでも仕えているのがずっと気に入らない。
神殿に来る度に呼び出し説得しようとする。
「いい加減将来の為にも戻ってきなさい」
「アルバシェル様に助けて頂いたご恩に報いるため、一生遣えたいと思っております」
いつもはタリクのこの一言で諦めてくれる。
「お前の将来をこの目でしっかり見定めたいのだ。だから頼む…」
いつもは軽く引き下がるのに今回は粘る。
「…? 、何かあるのですか…?」
四角四面で融通が利かないと言われている大殿司が、苦痛を秘めた面持ちで言い澱みながらも内部事情を漏らす。
「殿下が…決断されたのだ…」
今回の皇太子殿下の訪問はアルバシェルが目的だったのだ。
以前から皇太子フォルフィリオ・ディ・ルヴィリエ殿下はアルバシェルを討ち取り体内にある賢者の石をあるべき姿に戻そうとしていた。
体内にあるべきが本来の姿であるが、サルトゥスでは違った。
賢者の石は王位継承の証としての石であり、それが本来の姿なのだ。
それは王冠に等しく、継ぐべき者以外が持つのは不当だとフォルフィリオは思った。
他国ではあるが興味深い研究の多いヴェステ王立魔石研究所。以前出資者を募る事が有ったので喜んで参加した。
そして見返りとして定期的に届く最新の研究報告書…その中の一部にあった大変興味深い報告。
《魔物の体内魔石の取り出し理論》
既に確立した理論として組み上がり、検証まで終わっているとの内容だった。
『有るべき姿に戻せる…』
フォルフィリオは奥底から沸き上がる歓喜にうち震えた。
研究所に糸目を付けぬ金を流し込み正確な情報を得る。
そして入念に検討して構想を練り画策し、今に至る。
「そろそろ頃合いだな」
立ち上がり、王国の然るべき姿を取り戻すための行動を起こす。
「国宝たる王位の証の賢者の石を略取せし大罪人より今こそ取り返すべき時!」
皇太子は精鋭たる皇太子直属の騎兵近衛隊50名を伴い、賢者の石を正当な王位を継ぐ者の手に戻すと言う悲願を果たすため4階儀式の間へと決意して赴く。
そのため、辿り着いた場所は最初に居た転移陣が集まる広場だった。
受け取った情報の多さに、フレイリアルは陣の真ん中で座り込み茫然自失状態になっていた。
その時、声がかけられた。
「フレイ!」
アルバシェルが近寄って来て陣の上で手を差し出してくれた。
お姉さんに色々聞かされた後だったので何だかフレイは少し照れてしまう。
そんなことにはお構い無くアルバシェルはフレイを掴み上げると、無事の帰還を喜びきつく抱き締めた。
『此れは見境ある状態だよね…』
フレイはお姉さんの言葉に踊らされて転移した場所で聞いた事をチョットだけ考えてみてしまった。すると今までと違う感覚が湧き上がり少しドギマギしてしまう。
そして、そんな状態を転移の間にあった転移陣でない陣より見咎める洒落にならない御方がいらっしゃるのに気づいたのは直後だった。
「その様な汚ないモノを内に秘めたまま、フレイに近づかないでくれるかな…」
鋭く響く声と共に、リーシェライルは顔にかかる銀の髪を優雅に後ろに払い、美しさを余すこと無く顕現させた。
絵に描いたような美貌に不快と侮蔑を混ぜ混んだ表情が現れているが、そのような表情でさえも空中に浮かぶ像は溜息が出るほど流麗だった。
アルバシェルは一瞬何処で言われ何が現れたのか理解できなかったが、自身の内に秘めるソレに負い目を持っていたため抱き締めていたフレイから身を放す…が離れようとした瞬間、フレイに手を捕まれる。
「リーシェ!アルバシェルさんは色々助けてくれたんだよ…だから良く分からないけど酷いこと言わないで」
ニュールは空気が凍るのが目に見えた様な気がした。
自身の境遇を突きつけられて呆然としていた頭が一気に冷やされハッキリとする。
リーシェライルの浮かべる美しい微笑みが持つ温度が、氷点下まで下がって行き辺りのもの全て氷結させるように包み込む。
「…そうだね。失礼なことをしてしまったのかな…」
残念そうな微笑みに残忍さが秘められた笑みを混ぜ微笑む…後者に気づかないのはフレイぐらいだろう。
ニュールはこの歪な三角が世界を滅ぼす前に手を打たねばと、色々と巡り重い頭を起こして問う。
「大賢者リーシェライル様。何故、斯様な場所へ…」
とりあえず自分の事は後にして状況を和やかにすべく奔走してみようと試みるが、リーシェライル様のご機嫌は嵐の海のごとく近場の人々を飲み込んで行く。
「あぁ、ニュール…久しいね。やっと自分の事が分かるようになった赤ちゃん大賢者…辿り着くための鍵は色々と親切で見せたと思ったんだけどなぁ…前にも言ったかも知れないけど僕を残念に思わせないでよね」
氷の華の如き鋭き笑みが、全ての者を切り裂き紅き海を造り出しそうな勢いで頬を撫で通り過ぎる。
もうニュールは、一言交わしただけで白旗上げて逃げ出したい気分になっていた。
『やっぱり大賢者リーシェライル様は健在だ…でも面白くないとダメって言われた気はするけど、残念に思わせるのもダメなんて聞いてないです!』
ニュールは何とも言えない困り顔の情けない表情をしていた様だ。そんなニュールを見て大賢者様は妖艶で意地悪な可愛らしい笑みを零された。
「くくっ! ニュールはからかい甲斐があって楽しいね」
久々にお会いすることになったリーシェライルはニュールを玩具にして少し不満を解消したようだ。
いつもの人をたぶらかすような極上の笑みを浮かべ事情を伝えてくる。
「この部屋の陣に、さっきフレイが魔力を流したでしょ? それでコノ陣も起動して繋がったんだ…」
フレイは何時ものようなリーシェを目にして先程強く言ってしまった事を後悔した。
「リーシェ…強く言ってごめんなさい…」
シュンと沈んで映像のリーシェに話しかける。
「いやっ、僕も心配しすぎてしまったね。チョット嫌な魔力を感じて警戒し過ぎちゃったんだ…ごめんね」
「…リーシェ…」
其処には何年もの孤独を埋めあってきた者達の、濃い思いの巡りが出来ていた。お互い映る姿に手を伸ばし、触れられない距離を哀しむ。
触れられない距離なのに其処に魔力による癒しの循環が生まれている。
その魔力で転移陣を起動させ希望の場所に飛んでしまいそうなぐらいの強く繋がる魔力…。
だが、空気を読まない自分を押し通す男がここにいた。
その循環を現実の接触で断ち切る。
気に入ったら見境の無いアルバシェルは、フレイリアルの背後に近づき抱き締め映像から引き剥がした。
「「「!!!」」」
突然の背後からの包容にドキドキして慌てるフレイリアル。
アルバシェルのその行動で世界が滅びるのでは無いかとバクバクのニュール。
そして怒りで心臓がドクドク脈打つリーシェライルはニュールを更に恐怖のどん底に突き落とすような笑みを浮かべ問う。
「ニュール、色々な者から守るように言ったけど、どう言うことかな?」
ニュールは今までに経験したことの無い種類の絶対絶命の危機に陥るのだった。
巻き込まれた事の無い型の修羅場に巻き込まれた。
タリクは皇太子との災難の様な出会いの後、嵐が通り過ぎるのを耐え忍んだ。
予想外の皇太子の来訪…アルバシェルの事が気遣われる。それなのに急ぎ西棟まで赴く途中、大殿司にまで遭遇してしまった。
タリクは本気でフレイの疫病神説を疑った。
「急ぎ何処へ行くのですか…」
軽い隠蔽を掛けてあったが見破られた。
礼を執り、無沙汰の詫びを入れる。
「ご無沙汰しております」
「少し付き合いなさい…」
大殿司はそう言ってタリクを伴い諸々の指示を他の同行する者に出しながら、北棟の処理後の状況確認へ赴く。そんなことは明日、時告げの鐘が鳴ってから遣れば良いと言うのに、生真面目で几帳面な大殿司には許せなかった様だ。
この大殿司イレーディオは決して悪事を働くような悪代官気質の者ではなく、寧ろ正義と正統を求める質であった。
それが故、王に忠誠を誓うが王宮とは反りが合わず、優秀で能力も高いのに辺境送りとなった男である。
だが同じ王宮と疎遠な者であるアルバシェルの事は、気遣い少なく思うがままに振る舞う自由すぎる人間と認定していて腹に据えかねている様だった。
その為、アルバシェルへの対応は儀礼的であり冷ややかだ。
ただし、タリクの様に才を持つのに傲らず謹厳実直であり…尚且つ見た目からの弊害で苦労していると言う様な者には惜しみ無く支援をする、チョット四角四面ではあるが良い方であった。
王宮に善意で推薦してくれたのもこの方だった。
その良い大殿司は、忌避する者の元にタリクの様な優秀な者がいつまでも仕えているのがずっと気に入らない。
神殿に来る度に呼び出し説得しようとする。
「いい加減将来の為にも戻ってきなさい」
「アルバシェル様に助けて頂いたご恩に報いるため、一生遣えたいと思っております」
いつもはタリクのこの一言で諦めてくれる。
「お前の将来をこの目でしっかり見定めたいのだ。だから頼む…」
いつもは軽く引き下がるのに今回は粘る。
「…? 、何かあるのですか…?」
四角四面で融通が利かないと言われている大殿司が、苦痛を秘めた面持ちで言い澱みながらも内部事情を漏らす。
「殿下が…決断されたのだ…」
今回の皇太子殿下の訪問はアルバシェルが目的だったのだ。
以前から皇太子フォルフィリオ・ディ・ルヴィリエ殿下はアルバシェルを討ち取り体内にある賢者の石をあるべき姿に戻そうとしていた。
体内にあるべきが本来の姿であるが、サルトゥスでは違った。
賢者の石は王位継承の証としての石であり、それが本来の姿なのだ。
それは王冠に等しく、継ぐべき者以外が持つのは不当だとフォルフィリオは思った。
他国ではあるが興味深い研究の多いヴェステ王立魔石研究所。以前出資者を募る事が有ったので喜んで参加した。
そして見返りとして定期的に届く最新の研究報告書…その中の一部にあった大変興味深い報告。
《魔物の体内魔石の取り出し理論》
既に確立した理論として組み上がり、検証まで終わっているとの内容だった。
『有るべき姿に戻せる…』
フォルフィリオは奥底から沸き上がる歓喜にうち震えた。
研究所に糸目を付けぬ金を流し込み正確な情報を得る。
そして入念に検討して構想を練り画策し、今に至る。
「そろそろ頃合いだな」
立ち上がり、王国の然るべき姿を取り戻すための行動を起こす。
「国宝たる王位の証の賢者の石を略取せし大罪人より今こそ取り返すべき時!」
皇太子は精鋭たる皇太子直属の騎兵近衛隊50名を伴い、賢者の石を正当な王位を継ぐ者の手に戻すと言う悲願を果たすため4階儀式の間へと決意して赴く。
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