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第二章 サルトゥス王国編
16.進んでいく流れ
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《30》に誘導されて、フレイリアルが視界に入る範囲外の建物に入ったのは感知できた。
だが目の前に居る男が追うことを許してくれそうも無い。
最初の一撃を放った者が目の前までやって来て宣戦布告する。
「私がお前の足止め係を請け負うことになった。有り難いと思え!」
真面目で神経質そうなその男は残忍な笑みを浮かべてニュールに挑みかかる。
「おいっ!この往来で殺り合うのは不味いんじゃ無いのか?」
「既にそこの女はこちらの者を何名か排除しているぞ」
「…」
ニュールの無言の睨みに、そっぽを向きそ知らぬ顔をするモーイが居た。
「大丈夫!死んでるとは思わないようにして来たから…」
だが通りから憲兵が召集を掛ける笛や、通り沿いのざわめきが増していて明らかに事件が起きてしまったとわかる状態だ。
「中途半端…と言うなら、これで皆、避難するであろう!」
そう言うと、その男はニュールの後方にある門の内側を破壊した。
「!!!」
その場から蜘蛛の子を散らすように人々が去っていく…被害は最小限で効果は有ったようだ。
しかし、戦う場を用意する為に攻撃をすると言う横暴な考え方がニュールには不愉快だった。そんな思いにはお構いなく戦闘へと進みそうなので、モーイを退避させるために声を掛ける。
「すまんっ!モーイ、フレイの事頼めるか?」
「その為に雇ったんでしょ!」
予想外に頼もしいモーイの声。
「見つけても絶対に手を出すな!なるべく近づくな。場所の確認だけ頼む…」
ニュールがモーイに出す指示に被せるようにその男は告げる。
「神殿です。神殿へ連れて行く予定です…でも安心のための見届け人と言うことで一緒に行って頂くのも吝かではございません」
相手の承諾も取れた…と言うことでモーイを離脱させた。
「遅くなりましたが、私、現在《7》をやっております。今回此方に赴けた事は大変嬉しく思っております。…奴を唖然とさせるためにも胸を借りるのでは無く、突き破らせて頂きます」
そう言うとのっけから紅玉魔石の高度な魔力を精密に収束させ撃ち出す。ニュールが正面に張った防御結界で応じると、その攻撃はソレを回避し迂回して背後に回り込み着弾する。
一瞬戸惑うが難なく対応するニュール。
「さすがに此れ位では躱されてしまいますよね。望む所です!」
《7》と名乗るその男は影のわりには真っ直ぐな感じであった。
最近戦った《四》や、《14》も良く喋るが《7》とは少し違う喋り…何と言うか《7》は擦れてない感じだった。未だ染まりきってない感じが有った。
影に所属するのは訳がある者ばかりなのに、普通の優秀な若者とやりあっているような気分になる…。
『力が抜ける…』
そんな気分と一緒に実際の力も抜けているような気がして自身の違和感に気付く。
知らぬ間に足元に転がる魔石から、触手の様な魔力が伸びてきてニュールの足に絡み付いていた。
「ほぅ、流石早いな。もう気が付いたとは優秀、さすが元《三》ですね」
その男の歪さが表出した。
「私は物理と魔力を合わせた力を日々研究精進して磨いているのです。" 元 "など付く者に負けるわけがありません。フンッ!」
影相応の毒は含むがヤハリ子供な対応。
『…神経毒を含有させた魔石から魔力に乗せて相手に摂取させる…成る程。研究所の成果を取り入れ研鑽した…といった感じか…』
ニュールはその状態のまま分析する。
得意気な《7》が摂取した毒の働きを説明してくれる。
「御察しかもしれませんが、それは神経毒です。雨避蛇の毒を使用してあるのですが、本来なら絡み付いた時点で終わる優秀なモノなんですよ。まぁ、今回は捕縛依頼なので手加減しなければいけないので大変残念です。手足が動かなくなったら次は目に来るので、その時点で捕らえてあげましょう。動けば動く程早まりますよ…ハハハハッ」
長説明の後の高笑い。
「…ヤハリ蛇か…」
ニュールは呟き、納得し体勢を整えた。
「!!!…だから無理をして動くと…」
「無理はしてないんだ…」
ニュールは軽く鼻高々だった子供な影の足元に鋭利で強力な魔力を突き刺した。
「何で…」
先程効果が有ったモノが無効化されていることが腑に落ちないと言った表情でニュールを見る。
「…オレの中にある雑魚魔石は砂漠王蛇のモノ…魔物魔石はどうやらソノ特性も一緒に体に持ち込むのかも知れないな…」
砂漠王蛇は蛇と名の付くものの中での王であり、魔物蛇の毒も獣蛇の毒も無効である。
「今度は此方からの反撃回だと思うんだけど投降する気は無いか?」
一応確認してみたが、必殺の一手を封じられたからと言って諦める訳もなかった。戻る場所の無い影達は最期まで戦うしかないのだ。
だが戦闘能力の差はすぐに明らかとなった。
ニュールは先程の鋭利で強力な魔力を更に糸のように細く練り上げ、結界を貫通させる威力を持たせた最小限の攻撃を的確に放つ。
撃たれた本人が、何故動けなくなっているの分からない…と言う表情になるような微細な傷であった。しかし場所を狙い定めて撃った極小の攻撃は、最大限の痛手を負わせあっけなく戦闘終了となった。
「多分、1の週も過ぎれば動けるようにはなる…」
それだけ言い残しニュールは立ち去った。
ニュールからの願いを引き受けフレイを追う為、モーイは直前まで探索で魔石商のオヤジとフレイが居た辺りを隠蔽の魔力を纏い探る。
ある宿の前に大きめの客車が横付けている。
中からは神殿の禰宜4名に出仕2名が棺を担ぎ宿から出てくる。
『宿で死人?…それに迎えに来た神職の構成がおかしい…』
モーイは野性の感的なもので素早く違和感に気付く。
『こいつらだ!』
モーイは間に合った事に感謝し近づこうとした。その時、宿の中から最後にもう一人出てきた。
ソイツはフレイと一緒に居た魔石商のオヤジの顔をしていたが、そのオヤジでは無かった。着ている服も商人服から護衛の物に変わっていたが、纏う雰囲気が別人でしか無かったのだ。
あの気の良さそうな如何にも人好きのする商人らしい柔らかい雰囲気のオヤジから、ここまで冷徹無比で無表情無感動で無機質な人間に変わることが出来るのだろうか…。
でもモーイは一人思い当たってしまった。
ニュールがモーイに次は無いと言った時に纏った冷たい雰囲気と酷似していた。
『近づいてはイケナイ…』
モーイの本能が警告した。
モーイは、手を出すな!なるべく近づくな…と言っていたニュールの言葉を思い出した。
だがその時、既にモーイは視認されていた。
距離が有り、目が合うことは無いと思っていたその男はモーイと目を合わせた。
合わせた目から寒気が広がる…底の無い、永遠の虚無を孕んだ目。
モーイの動きが全て止まった。
動きたくても恐怖で動けない、視線で緊縛されてしまった。
宿の前から大獣視猟犬に引かれた神殿の客車が、棺を積み込み出立するのを見送るしかなかった。
時間の経過と共に自身を取り戻し、深呼吸をしてやっと動けるようになった。
後方での戦闘もまだ続いているようだがモーイは自分が任された任務を全うするため苦手な鎧小駝鳥に頼ることにした。
検査場の受け付けに行き、受け出す予定の獣と登録名を告げる。預かっている獣に付いている札に付けた目印用の魔力痕と提出した魔力痕が同一と確認されたのでクリールがやって来た。
何時も余り近付かないモーイが迎えに来てもクリールは非常に嬉しそうだ。
モーイは怖々とクリールに話しかける。
「お前の主が連れ去られているんだ。アタシの足じゃあ絶対に追い付かない。だから一緒にお前の主を探しに行こう」
クリールはモーイの頭一つ分高い位置にある頭を少し降ろし、腕に軽く擦り寄る。
その後モーイに背を向け足を折る。
そして後ろを振り返りモーイに乗れと言うように合図した。
モーイは恐怖心を押さえつけギュッと目をつぶり、覚悟してクリールの背に乗りしがみつく。
すると一瞬上がる感じがして、その後振動と共に風があたる。怖々と目を開くと疾走する鎧小駝鳥の上で一緒に進んでいた。
今までにない爽快感、それと共にクリールへの恐怖も消えていた。
モーイの心に小さな信頼が芽生えていた。
アルドの街からボルデッケの街までは真っ直ぐな一本道であり、窪地へ降りその後昇って行く…と言うのを3度程繰り返す。
草原地帯であり、ある程度、人や荷車や客車の通りはあり込み合ってはいるが、神殿の黒一色の客車は目立つのでどこを進んでいるのか最初の一番高い丘の上のコノ位置からなら一目瞭然であった。
既に窪地の一番下まで降りきって、登り始める所まで進んでいる。
ニュールがどの時点で追い付いてくれるかは分からない。本当にフレイが神殿に連れて行かれるにしても、神殿の何処へ向かうかも分からない。その分、しっかり把握することが大切だとモーイは思った。
『最低限の依頼は守らないと嫌われちゃう…』
モーイの幼い頃に刷り込まれた記憶が呼び覚まされた。
だが目の前に居る男が追うことを許してくれそうも無い。
最初の一撃を放った者が目の前までやって来て宣戦布告する。
「私がお前の足止め係を請け負うことになった。有り難いと思え!」
真面目で神経質そうなその男は残忍な笑みを浮かべてニュールに挑みかかる。
「おいっ!この往来で殺り合うのは不味いんじゃ無いのか?」
「既にそこの女はこちらの者を何名か排除しているぞ」
「…」
ニュールの無言の睨みに、そっぽを向きそ知らぬ顔をするモーイが居た。
「大丈夫!死んでるとは思わないようにして来たから…」
だが通りから憲兵が召集を掛ける笛や、通り沿いのざわめきが増していて明らかに事件が起きてしまったとわかる状態だ。
「中途半端…と言うなら、これで皆、避難するであろう!」
そう言うと、その男はニュールの後方にある門の内側を破壊した。
「!!!」
その場から蜘蛛の子を散らすように人々が去っていく…被害は最小限で効果は有ったようだ。
しかし、戦う場を用意する為に攻撃をすると言う横暴な考え方がニュールには不愉快だった。そんな思いにはお構いなく戦闘へと進みそうなので、モーイを退避させるために声を掛ける。
「すまんっ!モーイ、フレイの事頼めるか?」
「その為に雇ったんでしょ!」
予想外に頼もしいモーイの声。
「見つけても絶対に手を出すな!なるべく近づくな。場所の確認だけ頼む…」
ニュールがモーイに出す指示に被せるようにその男は告げる。
「神殿です。神殿へ連れて行く予定です…でも安心のための見届け人と言うことで一緒に行って頂くのも吝かではございません」
相手の承諾も取れた…と言うことでモーイを離脱させた。
「遅くなりましたが、私、現在《7》をやっております。今回此方に赴けた事は大変嬉しく思っております。…奴を唖然とさせるためにも胸を借りるのでは無く、突き破らせて頂きます」
そう言うとのっけから紅玉魔石の高度な魔力を精密に収束させ撃ち出す。ニュールが正面に張った防御結界で応じると、その攻撃はソレを回避し迂回して背後に回り込み着弾する。
一瞬戸惑うが難なく対応するニュール。
「さすがに此れ位では躱されてしまいますよね。望む所です!」
《7》と名乗るその男は影のわりには真っ直ぐな感じであった。
最近戦った《四》や、《14》も良く喋るが《7》とは少し違う喋り…何と言うか《7》は擦れてない感じだった。未だ染まりきってない感じが有った。
影に所属するのは訳がある者ばかりなのに、普通の優秀な若者とやりあっているような気分になる…。
『力が抜ける…』
そんな気分と一緒に実際の力も抜けているような気がして自身の違和感に気付く。
知らぬ間に足元に転がる魔石から、触手の様な魔力が伸びてきてニュールの足に絡み付いていた。
「ほぅ、流石早いな。もう気が付いたとは優秀、さすが元《三》ですね」
その男の歪さが表出した。
「私は物理と魔力を合わせた力を日々研究精進して磨いているのです。" 元 "など付く者に負けるわけがありません。フンッ!」
影相応の毒は含むがヤハリ子供な対応。
『…神経毒を含有させた魔石から魔力に乗せて相手に摂取させる…成る程。研究所の成果を取り入れ研鑽した…といった感じか…』
ニュールはその状態のまま分析する。
得意気な《7》が摂取した毒の働きを説明してくれる。
「御察しかもしれませんが、それは神経毒です。雨避蛇の毒を使用してあるのですが、本来なら絡み付いた時点で終わる優秀なモノなんですよ。まぁ、今回は捕縛依頼なので手加減しなければいけないので大変残念です。手足が動かなくなったら次は目に来るので、その時点で捕らえてあげましょう。動けば動く程早まりますよ…ハハハハッ」
長説明の後の高笑い。
「…ヤハリ蛇か…」
ニュールは呟き、納得し体勢を整えた。
「!!!…だから無理をして動くと…」
「無理はしてないんだ…」
ニュールは軽く鼻高々だった子供な影の足元に鋭利で強力な魔力を突き刺した。
「何で…」
先程効果が有ったモノが無効化されていることが腑に落ちないと言った表情でニュールを見る。
「…オレの中にある雑魚魔石は砂漠王蛇のモノ…魔物魔石はどうやらソノ特性も一緒に体に持ち込むのかも知れないな…」
砂漠王蛇は蛇と名の付くものの中での王であり、魔物蛇の毒も獣蛇の毒も無効である。
「今度は此方からの反撃回だと思うんだけど投降する気は無いか?」
一応確認してみたが、必殺の一手を封じられたからと言って諦める訳もなかった。戻る場所の無い影達は最期まで戦うしかないのだ。
だが戦闘能力の差はすぐに明らかとなった。
ニュールは先程の鋭利で強力な魔力を更に糸のように細く練り上げ、結界を貫通させる威力を持たせた最小限の攻撃を的確に放つ。
撃たれた本人が、何故動けなくなっているの分からない…と言う表情になるような微細な傷であった。しかし場所を狙い定めて撃った極小の攻撃は、最大限の痛手を負わせあっけなく戦闘終了となった。
「多分、1の週も過ぎれば動けるようにはなる…」
それだけ言い残しニュールは立ち去った。
ニュールからの願いを引き受けフレイを追う為、モーイは直前まで探索で魔石商のオヤジとフレイが居た辺りを隠蔽の魔力を纏い探る。
ある宿の前に大きめの客車が横付けている。
中からは神殿の禰宜4名に出仕2名が棺を担ぎ宿から出てくる。
『宿で死人?…それに迎えに来た神職の構成がおかしい…』
モーイは野性の感的なもので素早く違和感に気付く。
『こいつらだ!』
モーイは間に合った事に感謝し近づこうとした。その時、宿の中から最後にもう一人出てきた。
ソイツはフレイと一緒に居た魔石商のオヤジの顔をしていたが、そのオヤジでは無かった。着ている服も商人服から護衛の物に変わっていたが、纏う雰囲気が別人でしか無かったのだ。
あの気の良さそうな如何にも人好きのする商人らしい柔らかい雰囲気のオヤジから、ここまで冷徹無比で無表情無感動で無機質な人間に変わることが出来るのだろうか…。
でもモーイは一人思い当たってしまった。
ニュールがモーイに次は無いと言った時に纏った冷たい雰囲気と酷似していた。
『近づいてはイケナイ…』
モーイの本能が警告した。
モーイは、手を出すな!なるべく近づくな…と言っていたニュールの言葉を思い出した。
だがその時、既にモーイは視認されていた。
距離が有り、目が合うことは無いと思っていたその男はモーイと目を合わせた。
合わせた目から寒気が広がる…底の無い、永遠の虚無を孕んだ目。
モーイの動きが全て止まった。
動きたくても恐怖で動けない、視線で緊縛されてしまった。
宿の前から大獣視猟犬に引かれた神殿の客車が、棺を積み込み出立するのを見送るしかなかった。
時間の経過と共に自身を取り戻し、深呼吸をしてやっと動けるようになった。
後方での戦闘もまだ続いているようだがモーイは自分が任された任務を全うするため苦手な鎧小駝鳥に頼ることにした。
検査場の受け付けに行き、受け出す予定の獣と登録名を告げる。預かっている獣に付いている札に付けた目印用の魔力痕と提出した魔力痕が同一と確認されたのでクリールがやって来た。
何時も余り近付かないモーイが迎えに来てもクリールは非常に嬉しそうだ。
モーイは怖々とクリールに話しかける。
「お前の主が連れ去られているんだ。アタシの足じゃあ絶対に追い付かない。だから一緒にお前の主を探しに行こう」
クリールはモーイの頭一つ分高い位置にある頭を少し降ろし、腕に軽く擦り寄る。
その後モーイに背を向け足を折る。
そして後ろを振り返りモーイに乗れと言うように合図した。
モーイは恐怖心を押さえつけギュッと目をつぶり、覚悟してクリールの背に乗りしがみつく。
すると一瞬上がる感じがして、その後振動と共に風があたる。怖々と目を開くと疾走する鎧小駝鳥の上で一緒に進んでいた。
今までにない爽快感、それと共にクリールへの恐怖も消えていた。
モーイの心に小さな信頼が芽生えていた。
アルドの街からボルデッケの街までは真っ直ぐな一本道であり、窪地へ降りその後昇って行く…と言うのを3度程繰り返す。
草原地帯であり、ある程度、人や荷車や客車の通りはあり込み合ってはいるが、神殿の黒一色の客車は目立つのでどこを進んでいるのか最初の一番高い丘の上のコノ位置からなら一目瞭然であった。
既に窪地の一番下まで降りきって、登り始める所まで進んでいる。
ニュールがどの時点で追い付いてくれるかは分からない。本当にフレイが神殿に連れて行かれるにしても、神殿の何処へ向かうかも分からない。その分、しっかり把握することが大切だとモーイは思った。
『最低限の依頼は守らないと嫌われちゃう…』
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