魔輝石探索譚~大賢者を解放するため力ある魔石を探してぐるぐるしてみます~≪本編完結済み≫

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第一章 エリミア辺境王国編

19.蠢きに巻き込まれて行く

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選任の儀の1つ週を前にする頃、エシェリキアより国の禍根となる者を排除するための活動をすると言質を取りサランラキブとその配下は動き出した。

既にこの国の中にはヴェステの間者が現在40名ほど潜んでいる。
普段は各都市に潜み計画の実行に向けて静かに蠢く。
この5年をかけて密かに入り込んだ。
より実践を経験している精鋭の《影》も3名付き、一人はその中でも更に優れた《四》だった。

このエリミア辺境王国は大した特産物も鉱石も無く、取り立てて商売になるような物が手に入る場所でも無かった。国名の辺境が語るように、地理的にも袋小路であり土地としても利用価値は少なく面白味は皆無である。

ただ、一度国内に入ってみると解るが、文化水準と使われている機構の整合性が取れていない。
この国の都市に存在する機構は今の技術では産み出せないようなものなのに、管理され利用されていること事態がおかしい。

《超越遺物》
各国の重要文献を探しても、痕跡すら残っていないような機構や技術の総称。どの国でもこれを再現する事は難しい。
                          ヴェステ王立魔石研究所

纏められている資料にもたいしたことは載っていない。
この国で存在して利用されてる、その機構に対する疑問や関連した話が一切漏れ出てこない違和感。

『だからこそ、あの御方は自身の手で謎を解きたいのだろう』

サランラキブはあの御方を思い恍惚とした表情のなかに沈む。

「エリミアに存在すると思われる超越遺物は、大賢者の中に眠る莫大な情報礎石に基づいて利用されているか、残された文献等によって制御されているのではと思われる」

ヴェステの研究機関で直接回答された報告は中途半端であった。
ほとんど漏れてこない噂をかき集め、賢者の塔の秘密を解明したくて見悶えているであろう、あの御方の尊いお姿が目に浮かぶ。

『是非手に入れて差し上げねば自分自身が許せない』

そう決意し、サーラはサランラキブとなりこの国に入った。

だが、この国を侵略するための侵入は簡単ではない。

老朽化していて隙だらけの様だが、全周囲を取り囲む境界壁は健在である。
この壁の外にはそれぞれ、広がる砂漠と国境門前の渓谷、山側は人が踏み入る事の出来ない険しき峰々があり、残る場所は魔物が跋扈する樹海がある。
侵入するに当たって障害となるであろうものに囲まれている。

大規模な軍隊を用いて長期で攻略する事はできるであろう。
だが、密かに落とすのは難しい。
しかも、境界壁は綿密に連携した魔石によって繋がり動く強固な結界であると言うことは研究の成果として報告されている。
過去その壁の謎や、外から無効化することに挑んできた者達は沢山いたが、そこに至った者はまだいない。

防衛機構としては完璧と言える水準である。
この技術は未だ完全に再現する事は出来ていない超越遺物の一つであるが、弱点は解明している。
その強固な結界の中にいる人々は完璧ではない。

欲もあれば、抜けもある。

人の心ほど不安定で危うく攻略しやすいものは無いと研究所での勉強で理論を学び、それを更に実践で試してきたサランラキブには手に取るように理解できた。
実際、サランラキブや潜入した者達が入ったのは堂々と正面の国境門からである。

『僕にならこの国を内から破壊することは容易い。あの方の期待に答えなければ…』

既に心の境界を越えてしまったサランラキブには至高の御方のために尽くすことしか思い浮かばないし、それ以外に何が起きようと手段でしかないものに意味はない。

選任の儀のある昼下がり。

街中の噴水の縁に座り、幼い子供のように水を玩びながらサランラキブは実行部隊を纏める影達に確認した。
近くの建物の隙間に忍び、サランラキブ以外の物がその存在を悟ることなど無い状態で影達は潜む。

「準備は出来ているな」

「御意」

「時間を合わせて実行せよ」

その指令で無言で集まった影達は消え、動き出す。

サランラキブも念のため、怪しまれずに街中に出られる機会を狙った。選任の儀で与えられる試練を受けるための外出は格好の機会となった。
あとは実行までの時間を潰すだけだ。

偶然、ニュールとフレイリアルを見かけた。呑気に反対の縁で屋台で買った物を食べたりしているようだった。

「気を抜きすぎたら詰まらないよ…ふふっ、時間もあるし、僕も少しご挨拶しておこうかな」

既に高度な隠蔽と静穏の魔力を纏っているサランラキブは二人に気づかれることも無く、噴水の反対側の縁で寛ぎ小さくつぶやいた。

昼時が近づいたのか、商業組合の建物の一番上にある時告げの鐘に、時番が二人ほど現れた。それぞれが手元に高価な水晶魔石の期計りを持ち、鐘をつく準備をしている。
準備をしていた二人が頷き合い、一人が撞木を振り上げる。

サランラキブは高度な隠蔽魔力を展開したまま、更に両手に魔石を一つずつ追加した。そして、片方の手の魔石で二人の斜め向かい2階建ての建物の屋根辺りに反射結界を展開した。
更に撞木が鐘に当たる瞬間を待ち、魔石を上空へ投げ反射結界に上空から大火力の魔力を鋭利に研ぎ澄ませ打ち込んだ

昼時の鐘の音と共に、その魔力は見事ニュールが展開する結界に直撃した。

祭りの中心から距離のある商会地区は人も疎らであり、被害を受けた人は居なかったようだが驚いた人々は我先にと建物内へと避難して行った。

『結界を崩せなかったのは残念だけど、良い挨拶になったよね…それに手応えはあった方が面白いからね』

自身も避難する振りをしつつその場を立ち去る。
そして合図をして影を呼びつけ次の指示を出す。

既に主要な仕掛けは準備万端。

「影クン達はヤッパリ僕の守護者候補を引き受けてくれないでしょ? だから守護者候補No.4クンにでも知らせて成功したら守護者にしてあげるよって伝えてあげて」

『面白い方が盛り上がる。あの御方に報告する時、過程も楽しんで頂かないと…』

サランラキブは、あの御方に捧げる瞬間を想像し愉悦に浸る。

「既に境界壁が面白い事になっているから。次は王城内も面白くしないとね」


選任の儀 控えの間。


フレイリアルが爆弾発言をした責任を取り、皆に大賢者に纏わる知られざる説明をある程度打ち明けた。

「つまり大賢者様は塔と繋がりが絶たれるような状態になってしまうと、生命の維持が難しくなるんだな…」

ニュールはフレイの説明を掻い摘まんで確認した。
横で聞いていたモモハルムア様もニュールの後に、その後に続くべき要約を述べる。

「そして大賢者様の命が失われれば、この国は国として存続できないような状態になる…と」

「「「「………」」」」

その場の4人は沈黙し、その予想外の状況を反芻しつつ飲み込んだ。

「動揺したり悲しんだりしてる暇はありませんわ!」

モモハルムアが最初に動き始めた。そして皆に火をつける。

「大賢者様が危険な状態でそれが私たちに取っても危機ならば、大賢者様を救いに行けば良いのです」

前向きに語り始めた。

フレイ達が予想外の深刻な話をしている中、周りの普段とは違う物々しい雰囲気に当てられ怯えていたコレルラーダ様が近くの兵を捕まえ強圧的に問う。

「いっいったい…なっ何があったんだ!」

8歳なら当然だと思うが、怯えが前面に出てしまい一寸情けなさが漂う。

「詳しい事は分かりませんが、王城に何者かが侵入し危害を加えているとのことで此方で守らせていただいてますのでご安心ください」

兵は爽やかな面持ちで真面目そうに誠実に答え、コレルラーダ様を安心させた。

しかし、この兵は影であった。
エリミア王城門兵の一人として入り込んでいた。
その兵はコレルラーダの問いかけに答えた後、元居た配置に戻り小さく呟いた。

「でも、そろそろ時間が来るみたいだから動かないと怒られちゃいますから…」

それと同時に小さな鋭い魔力が、灯りを2つほど破壊した。すでに夕時は過ぎていたので外は薄暗く、部屋の照度が一気に下がる。

事態の変動に多くのものが動揺し、開け放たれている窓からベランダを通り抜け庭へ降りてゆく。
皆の流れに乗り室外への道程に着こうとすると、少し離れたところにいたいじめっ子筆頭のエシェリキアが、微笑みを浮かべながら仲間を率いてやってきてフレイリアル達の進路を断つ。

『何かコイツは…』

ニュールはエシェリキアが発する純粋に研ぎ澄まされた思いを察知した。
それを察知すると同時にエシェリキアが手にした魔石から、大威力の魔力が此方に向けて迸る…純粋で迷いの無い殺意として。
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