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第一章 エリミア辺境王国編
17.動き始めた渦に巻き込まれつつ
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「ヴェステには賢者などという下賎の者は存在しませぬ」
悪びれぬ顔で下卑た微笑みを浮かべながら、モモハルムアの案内や説明を全て見下していく者がいた。
選任の儀より2つ程月を遡る頃、伯父に請われて観光案内と言う事でヴェステから来た高官御子息と一緒に過ごすことになった。しかし、最初からやる事となす事すべて頭の痛い方だった。
モモハルムアの父は前王の娘で王女であった母と結婚した。
父自身も一応王家に連なるものであり母とは学舎で過ごす一緒の時間や、選任の儀への参加などで親しくなり結婚へ至ったようだ。其所には純粋にお互いを思い合う気持ちだけで思惑などはなかった。
周りもそうかと言うと、その関係を利用しようとする者は沢山いた。
伯父もその一人だった。
伯父は国から正式に依頼された外交官として長く過ごしていたが、国外に出ることで沢山の資金や繋がりを得てきたようだ。
父は王の代替わり後、第三都市トレスの地を任される代官の一人としてこの地を守り育てる努力をしてきた。しかし資金的に苦しいことも多々あり伯父に頼ることも多かったようだ。
民のための開墾や街道整備など諸事全般に先立つものが必要になる。
そんな父へ、伯父から声がかかった。
「ヴェステの高官を勤める貴族御子息の案内をモモハルムアにやらせたい」
この国では王族の紹介者を持つ者以外の入国は許されていない。
その御一家は伯父の推薦で、観光目的で入国出来たようだ。一応、商談も兼ねて来ているようなので伯父もそちらに同行するため、御子息に案内役が欲しい様だった。
相手方が成人より少し手前といった感じで年齢的にも近く身分的にも継承権12位のモモハルムアは申し分なく、そのため伯父に目を付けられたようだった。
父はその役目を任せる事をためらったが、伯父からの依頼は父の側からの融資依頼を円滑にするためにも必要である…とモモハルムアは判断し受け入れた。
父のため…とモモハルムアは笑顔で我慢したが、その方は尊大で…とても鼻持ちならない奴だった。
モモハルムアは様々な面から、この国やこの都市の様相を説明し案内して行く。
「此方の国はまだ、そのような体制をお取りになっていらっしゃるのか…」
「ちゃんとした軍も持たず、いざと言うときに賢者の塔頼りとは…」
「ヴェステには隠者と呼ばれる謙虚なる気高き魂の持ち主が、賢者より優れた働きをしております」
ヴェステの高官のご子息であり、王族の一翼を担う貴族であり代々公爵家と言う肩書きのある素晴らしい家柄の方のようだ。しかし、最低限の礼儀として対する者に敬意を持って当たると言った常識的な対応は身についていない様だった。
ご立派な家格に似合うような矜持を持つ…と言うことは、その方に取ってはさほど重要ではなかったのだろう。
『こんな男と同行して愛想を振り撒かねばならないのなら断れば良かった…』
モモハルムアは心底思った。
案内終了後、丁度予定してた時間が来たので別れの挨拶した。すると、いきなり近い距離にやって来てモモハルムアの手を掴んだ。
挨拶の一環と、我慢してみたが訳のわからないことを言い始める。
「このように将来有望な美しいお嬢様が…何て忍びない。もし、この国に何か有れば私があなたをお守りしますので、是非頼って下さい」
…と宣うた。
『願い下げだわ!!』
心のなかで叫んでやった。
その方たちは10日程滞在されて、その後ご自身の国へ向かわれた。
伯父がその方たちの見送りの後、珍しく父の所へ立ち寄り今までにない申し出をしてきた。
「今度ヴェステに行くのだが、モモハルムアも同行してみないか?」
そもそも今まで伯父の方から父のもとを訪れることも少なかったのに、いきなり妙なことを言い出したものだと一緒に居た父と思わず顔を見合わせてしまった。
伯父が言う旅の時期は選任の儀で王城内に滞在している頃だ。
「私、今年は選任の儀を受けますので残念ながらご一緒できません」
伯父はしつこく何度も父とモモハルムアを説得しようとした。
「今年の選任の儀は見送り、一緒に行く方がお前の将来の利となるはずだ!」
「ありがたい申し出でありますが、もう決めておりますので…」
父はモモハルムアに任せてくれていた。そして伯父は、その答えを聞くと鋭い視線で睨み付けながら言った。
「自身の選択を後悔しない事だな。まぁ、次の機会があるなら申し出ることだ…」
思う通りにならないモモハルムア達に捨てぜりふののような言葉を投げつけ立ち去った。
王城の選任の儀を待つための控えの間。
ニュールが渦中の人から脱出するために出した秘策の効果は、合ったのか無かったのか分からない。
選任の儀を待つ者達の中に、時間が近づいたのに案内が無いことを不振に思う者が出始めたことで、ニュールについてのアレやコレやの話は無かったことになった…とニュールは思いたかった。
そんな状況の中、王宮の警備兵が扉を叩く音と共に入ってきた。
「皆さま方におかれましては、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。今回、お集まり頂いているのにお待たせしており大変申し訳ありません。しかし、少々問題が生じましたため、この控えの間にて、もう暫しのお時間を頂きますことご了承下さい。儀式の開始時刻は少し遅らせて頂きます…」
恭しく述べるわりには畏まる様子もなく事務的に説明する。
顔を見せた兵は10名、外にもこの中から人を出すようなので、連れ立って来た者はそれで全部だろう。扉の外と内に2名ずつ。室内の窓4ヶ所に残りが散らばる。
『何かちょっとヤバいな』
ニュールは一部の者が隠蔽魔力を展開しつつ、攻撃や防御の魔力を導き出し待機させているのに気づいた。ただの兵では無い者が混ざっている可能性が高い。
選任の儀に参加予定の者たちの大半がブツブツ文句を言いながらも兵達の言葉に従い再度椅子に腰掛け寛ぎ始めた。
ニュール自身も皆と似たような雰囲気の行動を取った。
その場を探るため手首に隠し持つ魔石を密かに握り、兵の魔力に干渉しないよう巧みに操り会話や魔力を探る。
『兵達の中で隠蔽かけつつ魔力を導き出し、即使えるようにしている者が4名はいるな…儀式を待つ者達の中で、兵の巧妙に隠蔽された魔力の揺らぎに気づいた者は5組かな…残りは違和感を覚えてもペアの一方が気付かない…と言った感じのが何組か、他は全く気づいて無いようだな。不穏な動きをする者も…4組。いじめっこ筆頭とその仲間…あれ1組増えてる?……っっん!!! 』
ニュールは咄嗟に魔力を切る。
『…ヴェステの影が居る』
ニュールの表情は曇る。
「ニュール大丈夫?」
フレイリアルが、ニュールのその態度と表情に困惑して声を掛けてきた。
「あぁ、すまん。少し状況がな…」
先程近くにいたモモハルムア達が他の者や兵達に声がけしながら一周してニュール達の所へ戻ってきた。一部の兵達が状況をわかる範囲で教えてくれたそうだ。
やはり不穏さを感じ、手元の魔石で静穏の魔力を展開して話し始めた。
「王妃様が拉致されたそうなのです」
「「!!!」」
王妃様は普通に考えるとフレイリアルの母と言う事になると思われるが、フレイは驚いてはいたがそれ以上でもそれ以下でも無いと言った風に見えた。
「なので安全のため、私達にも警備が着いたそうです」
「結界が機能しているんじゃなかったのか?」
ニュールの質問にモモハルムアは顔を曇らせ答える。
「中から一部破壊されていた様です…」
結界は外からの侵入や攻撃には万能と言えるぐらい完璧なようだった。ただ、中からの…内部からの攻撃には脆弱な部分があった様だ。モモハルムアは更に言い淀みながら先を伝える。
「そして拉致した者は、国に対して要求したそうです。大賢者リーシェライル様の引き渡しと賢者の塔の明け渡しを…」
『内部からの結界の破壊…そして賢者の塔への要求…一部の不満を抱えた者達…』
ニュールの一瞬巡らせた思考を乱したのはフレイの声だった。
「ダメ! リーシェは塔から離れられない!!」
フレイは王妃様が拉致されたという情報を聞いた時は然したる動揺を見せなかったが、大賢者様に対しての情報には酷く揺らぎ興奮し取り乱していた。
静穏の魔力展開があったからこそ注目を浴びずに済んだが、相当な大きさの声。
だが、続いて出された声は振り絞るように呟く悲しげな囁きとなっていた。
「塔から離れたら…生きていられない…」
「「「?!」」」
悪びれぬ顔で下卑た微笑みを浮かべながら、モモハルムアの案内や説明を全て見下していく者がいた。
選任の儀より2つ程月を遡る頃、伯父に請われて観光案内と言う事でヴェステから来た高官御子息と一緒に過ごすことになった。しかし、最初からやる事となす事すべて頭の痛い方だった。
モモハルムアの父は前王の娘で王女であった母と結婚した。
父自身も一応王家に連なるものであり母とは学舎で過ごす一緒の時間や、選任の儀への参加などで親しくなり結婚へ至ったようだ。其所には純粋にお互いを思い合う気持ちだけで思惑などはなかった。
周りもそうかと言うと、その関係を利用しようとする者は沢山いた。
伯父もその一人だった。
伯父は国から正式に依頼された外交官として長く過ごしていたが、国外に出ることで沢山の資金や繋がりを得てきたようだ。
父は王の代替わり後、第三都市トレスの地を任される代官の一人としてこの地を守り育てる努力をしてきた。しかし資金的に苦しいことも多々あり伯父に頼ることも多かったようだ。
民のための開墾や街道整備など諸事全般に先立つものが必要になる。
そんな父へ、伯父から声がかかった。
「ヴェステの高官を勤める貴族御子息の案内をモモハルムアにやらせたい」
この国では王族の紹介者を持つ者以外の入国は許されていない。
その御一家は伯父の推薦で、観光目的で入国出来たようだ。一応、商談も兼ねて来ているようなので伯父もそちらに同行するため、御子息に案内役が欲しい様だった。
相手方が成人より少し手前といった感じで年齢的にも近く身分的にも継承権12位のモモハルムアは申し分なく、そのため伯父に目を付けられたようだった。
父はその役目を任せる事をためらったが、伯父からの依頼は父の側からの融資依頼を円滑にするためにも必要である…とモモハルムアは判断し受け入れた。
父のため…とモモハルムアは笑顔で我慢したが、その方は尊大で…とても鼻持ちならない奴だった。
モモハルムアは様々な面から、この国やこの都市の様相を説明し案内して行く。
「此方の国はまだ、そのような体制をお取りになっていらっしゃるのか…」
「ちゃんとした軍も持たず、いざと言うときに賢者の塔頼りとは…」
「ヴェステには隠者と呼ばれる謙虚なる気高き魂の持ち主が、賢者より優れた働きをしております」
ヴェステの高官のご子息であり、王族の一翼を担う貴族であり代々公爵家と言う肩書きのある素晴らしい家柄の方のようだ。しかし、最低限の礼儀として対する者に敬意を持って当たると言った常識的な対応は身についていない様だった。
ご立派な家格に似合うような矜持を持つ…と言うことは、その方に取ってはさほど重要ではなかったのだろう。
『こんな男と同行して愛想を振り撒かねばならないのなら断れば良かった…』
モモハルムアは心底思った。
案内終了後、丁度予定してた時間が来たので別れの挨拶した。すると、いきなり近い距離にやって来てモモハルムアの手を掴んだ。
挨拶の一環と、我慢してみたが訳のわからないことを言い始める。
「このように将来有望な美しいお嬢様が…何て忍びない。もし、この国に何か有れば私があなたをお守りしますので、是非頼って下さい」
…と宣うた。
『願い下げだわ!!』
心のなかで叫んでやった。
その方たちは10日程滞在されて、その後ご自身の国へ向かわれた。
伯父がその方たちの見送りの後、珍しく父の所へ立ち寄り今までにない申し出をしてきた。
「今度ヴェステに行くのだが、モモハルムアも同行してみないか?」
そもそも今まで伯父の方から父のもとを訪れることも少なかったのに、いきなり妙なことを言い出したものだと一緒に居た父と思わず顔を見合わせてしまった。
伯父が言う旅の時期は選任の儀で王城内に滞在している頃だ。
「私、今年は選任の儀を受けますので残念ながらご一緒できません」
伯父はしつこく何度も父とモモハルムアを説得しようとした。
「今年の選任の儀は見送り、一緒に行く方がお前の将来の利となるはずだ!」
「ありがたい申し出でありますが、もう決めておりますので…」
父はモモハルムアに任せてくれていた。そして伯父は、その答えを聞くと鋭い視線で睨み付けながら言った。
「自身の選択を後悔しない事だな。まぁ、次の機会があるなら申し出ることだ…」
思う通りにならないモモハルムア達に捨てぜりふののような言葉を投げつけ立ち去った。
王城の選任の儀を待つための控えの間。
ニュールが渦中の人から脱出するために出した秘策の効果は、合ったのか無かったのか分からない。
選任の儀を待つ者達の中に、時間が近づいたのに案内が無いことを不振に思う者が出始めたことで、ニュールについてのアレやコレやの話は無かったことになった…とニュールは思いたかった。
そんな状況の中、王宮の警備兵が扉を叩く音と共に入ってきた。
「皆さま方におかれましては、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。今回、お集まり頂いているのにお待たせしており大変申し訳ありません。しかし、少々問題が生じましたため、この控えの間にて、もう暫しのお時間を頂きますことご了承下さい。儀式の開始時刻は少し遅らせて頂きます…」
恭しく述べるわりには畏まる様子もなく事務的に説明する。
顔を見せた兵は10名、外にもこの中から人を出すようなので、連れ立って来た者はそれで全部だろう。扉の外と内に2名ずつ。室内の窓4ヶ所に残りが散らばる。
『何かちょっとヤバいな』
ニュールは一部の者が隠蔽魔力を展開しつつ、攻撃や防御の魔力を導き出し待機させているのに気づいた。ただの兵では無い者が混ざっている可能性が高い。
選任の儀に参加予定の者たちの大半がブツブツ文句を言いながらも兵達の言葉に従い再度椅子に腰掛け寛ぎ始めた。
ニュール自身も皆と似たような雰囲気の行動を取った。
その場を探るため手首に隠し持つ魔石を密かに握り、兵の魔力に干渉しないよう巧みに操り会話や魔力を探る。
『兵達の中で隠蔽かけつつ魔力を導き出し、即使えるようにしている者が4名はいるな…儀式を待つ者達の中で、兵の巧妙に隠蔽された魔力の揺らぎに気づいた者は5組かな…残りは違和感を覚えてもペアの一方が気付かない…と言った感じのが何組か、他は全く気づいて無いようだな。不穏な動きをする者も…4組。いじめっこ筆頭とその仲間…あれ1組増えてる?……っっん!!! 』
ニュールは咄嗟に魔力を切る。
『…ヴェステの影が居る』
ニュールの表情は曇る。
「ニュール大丈夫?」
フレイリアルが、ニュールのその態度と表情に困惑して声を掛けてきた。
「あぁ、すまん。少し状況がな…」
先程近くにいたモモハルムア達が他の者や兵達に声がけしながら一周してニュール達の所へ戻ってきた。一部の兵達が状況をわかる範囲で教えてくれたそうだ。
やはり不穏さを感じ、手元の魔石で静穏の魔力を展開して話し始めた。
「王妃様が拉致されたそうなのです」
「「!!!」」
王妃様は普通に考えるとフレイリアルの母と言う事になると思われるが、フレイは驚いてはいたがそれ以上でもそれ以下でも無いと言った風に見えた。
「なので安全のため、私達にも警備が着いたそうです」
「結界が機能しているんじゃなかったのか?」
ニュールの質問にモモハルムアは顔を曇らせ答える。
「中から一部破壊されていた様です…」
結界は外からの侵入や攻撃には万能と言えるぐらい完璧なようだった。ただ、中からの…内部からの攻撃には脆弱な部分があった様だ。モモハルムアは更に言い淀みながら先を伝える。
「そして拉致した者は、国に対して要求したそうです。大賢者リーシェライル様の引き渡しと賢者の塔の明け渡しを…」
『内部からの結界の破壊…そして賢者の塔への要求…一部の不満を抱えた者達…』
ニュールの一瞬巡らせた思考を乱したのはフレイの声だった。
「ダメ! リーシェは塔から離れられない!!」
フレイは王妃様が拉致されたという情報を聞いた時は然したる動揺を見せなかったが、大賢者様に対しての情報には酷く揺らぎ興奮し取り乱していた。
静穏の魔力展開があったからこそ注目を浴びずに済んだが、相当な大きさの声。
だが、続いて出された声は振り絞るように呟く悲しげな囁きとなっていた。
「塔から離れたら…生きていられない…」
「「「?!」」」
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