魔輝石探索譚~大賢者を解放するため力ある魔石を探してぐるぐるしてみます~≪本編完結済み≫

3・T・Orion

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第一章 エリミア辺境王国編

2.不注意で巻き込まれ

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「これはやっぱり元は砂蜥蜴サンドリザードの魔石だと思うんだけど、多分…魔物由来魔石に鉱石由来魔石みたいに天輝が降り注いだんだと思う! 此処ら辺の魔石は元から色々な魔力として取り出しやすいから、直ぐに採取されちゃうんだよね。だから魔石が此処に残ってただけでも珍しいんだ…」

ゆったり進む砂蜥蜴が引く荷車の御者台で、その火竜サラマンダーのような強烈な魔力を出す異様な魔石を大事そうに横に置きながら、子供は自分が見つけたという魔石の説明を楽しそうにしていた。
だがニュールは黙って状況を受け入れてはいるが、嫌な汗が出るのを感じる。
その魔石は隣り合って座っているだけでも、ゾワゾワした感覚が押し寄せ気力体力を消耗させていく魔力を持つ。
其れなのに…この能天気な子供は、あっけらかんと好き勝手に絶え間なく語り続ける。
この両者から押し寄せる迷惑な圧にニュールは頭を痛め、じわりじわりと…病むような気分になっていく。

「此の大きさ…此の状態の魔石は、滅多に見つけられないんだよ!」

目を輝かせ魔石を語る子供は、相変わらず周囲への配慮は一切無く…逆にニュールを警戒することも無い。

「元の魔石自体珍しいのに、膨大な魔輝を帯びてる状態なんて…!!」

魔輝…と言う威圧感ある魔力がひたすら溢れ続ける状況下でもケロリとし、子供は延々と魔石語りをする。

「だけど…天輝で力を増した魔石は放出も早いから、見つけたら直ぐに移動させて接点を離さないと。だから凄く助かったんだ」

そもそもニュールは、王都との往復後のもう一仕事で身体も心も疲れきっていた。
その上で厄介事を背負い込み…はっきり言えば三重苦と言った状態、既に無心の境地に辿り着き…耳も口も塞ぎ遣り過ごしたい気分。
それでも気になることは多く、放置は出来ない。
一方的に魔石について饒舌に語る子供の勢いを削ぐ意味もあり、ニュールは
重くなっていた口を開き問いかける。

「どうやって見つけたんだ?」

「探索をかけただけだよ…」

一転して子供の口が重くなった。

『確かに少し遠くても大きな魔石なら探索をかければ反応は出るだろうが、ここは第1都市と王都の中間地点。普通は探査をかけてもどっちの街からだって届かない場所。荒れ地に出てから探索をかけつつ魔石を見つけるにしても、時間と距離が不自然すぎる』

警戒心の欠片さえ持ち合わせていないかのような子供の言い淀みに、ニュールはそれ以上の追求をせず話題を変えてやった。

「そういえば名前をまだ聞いてなかったよな。俺はニュールだ。主にエイスからの便を中心にナルキサ商会の荷物を配送してる」

「フレイだよ。石拾い…見習いかな。今日はコレに呼ばれてここまで出てきちゃった」

その大きく強力な魔石を気軽にポンポンと叩きながら答える。
子供が陥るにしては不審な状況であるにも関わらず、解っているのか解らないでいるのか悪びれず微笑むフレイ。
その暢気な言動に、ニュールは今までのフレイの行動を思い出し、自分もかつて言われた年を重ねた者からのお小言を口にしてしまう。

「不用意にも程があるぞ。お前の師匠は何も指導しなかったのか?」

「リーシェには、良い事だってダメな事だって魔石の事だっていっぱい教えてもらってるよ。だけどコレは急がないと消えちゃうし、今日は絶対行った方が良い気がしたから…でもコレを探してたのはリーシェも知ってるよ」

あわてて師匠をかばうフレイだが、半家出人状態の子供である事には変わらない。
そして、ニュールがそれを拾ってしまったと言うことも事実だ。

「でも、ここまで出てきてるのは知らないんだろ? そもそも人が通りかからなかったどうするつもりだったんだ…気付いても手伝ってもらえなかったら?」

「…」

「俺が野盗だったらどうするつもりだったんだ?」

畳み掛けるように問う。

「それは無いよ。ニュールは違う」

そう答えるフレイの笑顔、根拠なき信頼と…どうしようもない無計画な考え無しの行動。苛立ち以上に脱力感を覚え、ニュールはフレイの師匠やその回りの人々の気苦労を思いやり思わず溜め息をつく。

「ふぅ…。自分を大切に思っている人間のためにも、自分を大切にしろ…」

「…ごめんなさい」

素直に反省して謝るフレイの姿見て、かつてニュール自身がかけられてきた言葉に込められた思いを実感することになる。
期せずして振り返る我が身に、思わず苦笑いが浮かんでしまうニュール。
だが説教相手のフレイの方は…一瞬の反省はあったようではあるが、その後の道程でも自身が手に入れたり気になった魔石についてひたすら語り続ける。

「天輝を浴びて魔輝が宿る魔石を見付けた事も何度かあるけど、魔物魔石のは…あっという間なんだ。直ぐに放出した上に、壊れちゃう。鉱物系のは、荒れ地で大きいのに出会ったことないぁ…。魔輝石と呼べる水準には至らない感じなんだよねぇ…」

フレイの一方的魔石語りは止め処なく続くが、ニュールは耳を傾ける。

「前に偶然荒れ地で大岩蛇グロッタウのを見つけたよ。普通の魔石っぽかったけど、黄色く輝いていて透明でとても綺麗だったんだ。コレの四分の一ぐらいだったから鎧子駝鳥でも平気だったの。魔輝は感じなかったんだけど、力は普通の魔石よりは強かったからやっぱり天輝が降りて入ってたのかな? 周りでみつけた水袋甲虫マイヤルの魔石も普通のより良かったから、役立ったんだ」

フレイはニュールの顔に目を向け、ちゃんと聞いてもらえている事を確認し…嬉しそうに続ける。

「今回のは今までの中でも一番の大きさかな。明け方から力が大きくなってきてたから急いで来ちゃった。だから鎧子駝鳥しか連れ出せなくて…本当は砂蜥蜴に乗って来たかったけど今日はダメだった」

「砂蜥蜴? 砂蜥蜴は大きい商会や王城が管理してるから個人じゃ連れ出せないだろ?」

野生の砂蜥蜴は沢山いるが、騎乗出来るものは卵から孵して人馴れしたものだけである。
この近隣の土地柄である砂漠や荒野、森林、岩山や荒れ地で共通して使える唯一の足であり、希少で優秀で貴重なのだ。
個人での管理は禁止され、国から委託された飼育場でのみ育成され貸し出されているので普通の人間では短期間に許可を得て使用することは難しい。

「ははっ! そうだよね。挑戦してみようかと思ったんだけどねぇ~」

「捕まっちまうぞ」

ニュールの言葉に一瞬目を泳がせ口をつぐむが、すぐにまた魔石について語り始める。
フレイは身振り手振りを交えながら引き続き楽しそうに語っていたが、ほぼ一方的に語られ聞くような形でいるうちに目的地が見えてきた。

「そろそろ王都砦が見えてきたがどうする、門で降りるか? 俺は商会の荷下ろし場へ行くが、お前もそこで良いか?」

「ここでいいよ!」

笑顔での返事と同時に、フレイは並走していた鎧子駝鳥を荷車に引き寄せ飛び移った。ニュールは何故かどんくさいと思っていたフレイが、予想外の身軽さを持っていた事に衝撃を受ける。
驚き唖然とする間にフレイは鎧子駝鳥を加速させ、ニュールが残る砂蜥蜴の荷車を引き離していく。

「おおい、魔石はどうするんだ?! 」

「後で取りに行くー!」

「後でって?? 俺はまたエイスに戻るんだからな! それに、コレ持って検問って大丈夫なのかー!!」

「大丈夫、大丈夫!!」

どちらの言葉への返事か解らないような適当な返事を残し、フレイは1キメル程度先の王都砦へ向かって走り去った。

突然現れて吹き抜けていく、小さな砂含む新緑の風の様な子供。
その子供がニュールが得た此の土地での穏やかな時間を全て吹き飛ばし、運命の流れを加速させ巻き込む大砂嵐であると気づくのはそう遠くない先である。
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