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前編 楽しく物語る

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そろそろ砂漠は乾季に入る。魔石で汲み上げる井戸の水位さえも下がる季節。

「今年は水を導く魔石が不足しそうだねぇ~」

リビエラが公演前のひと時に溜息をつきながら、隣にいた旦那である座長に話しかける。

「まぁ何年かに1回はそうだな…」

「そろそろ水袋甲虫マイヤルでも集めに言っとくかね」

水袋甲虫は水を導き出す魔石を持ち、その体自体も水を貯められる袋を持つので乾季には生活の必需品である。
井戸の水位が下がると水を汲み上げる魔力も多く消費され、魔石の消耗が激しくなる。

「確かに…丁度穴場も近いし行っとく方が良いな」

そうして一座の中から5名出して隊を組んで狩りをすることになった。
其の中に自分が入れられてる事にウィアは少し不満がある。

ウィアは見習いではあるが、踊り子と言う職に誇りを持っている…そして女子である事にも。

なのでリビエラに抗議する。

「何でアタシが入れられてるんだ?」

「だってお前さん、狩りは得意で上手いって言ってたじゃないか!!」

確かにウィアは実家の酒場兼、宿屋の食料調達の隊に兄たちと共に参加していた。
4歳のリビエラの娘ルマ位の時には、既に捕った獲物を捌く係りなどもしていて一丁前に戦力となっていた。
6歳のサファルと同じ頃には矢をつがえ、砂漠鼠ザントラシャぐらいならバシバシと狙いを定め百発百中だ。腕がよい。
狩を生業とする猟師になら、優秀な成績を納め最速での見習い卒業となったと思われる。護衛だっていけるかもしれない。
それでも可憐な女子と自称するウィアにとっては納得いかない。
楽士見習いの雑用のビントとトーノは3歳上の立派な年上男子なのに行かない…なのに何故ウィアが指名なのか。

その理由は、今回の狩りに参加を希望する者としてニウカとサファルが名乗りを上げたからだ。

ニウカとサファルは最近誕生月が来て1歳増えて9歳と6歳になった。
特に9歳になったニウカは偉そうに毎回言う。

「2歳しか違わないくせに~」とか「2歳なんてゴミみたいな差だ!」とかいつも以上に主張して五月蝿い。

余りに言うので腹が立ちニウカに言ってやった。

「おあいにく様だけど、後3の月で12歳なのだからまた3歳差だ!」

言った後に見たニウカの本当に悔しそうな姿を見て、大人げないことをしてしまったと思った。
そしてニウカはむきになる。
ちょっとプライドを傷つけられ…お臍を曲げてしまったようだ。

そして狩りへの参加を申し出た。
リビエラはウィアの抗議をさらりと流し、良い感じの笑顔とウィンクまで付けて言う。

「子守りは頼んだよ!」

軽く言うリビエラに心の中で思いっきり舌を出して叫んだ。

『アタシは踊り子見習いだ! 子守り見習いでも猟師見習いでも無いんだ!』

心の声が聞こえたのか報酬まで上乗せされた。

「近々、舞台にも出してやるからさ!」



結局いつもの子守り仕事の延長になってしまった。
狩りへの他の参加者は、4弦楽士のエノルメと一座経営見習いのゼクト。

エノルメは一見すると兵士か傭兵にしか見えない戦う人っぽい見た目をしているが、予想外の楽士だ。
ゼクトは楽士見習いの者達と同年のウィアの3つほど年上だ。落ち着いていて頼りがいがある感じであり、ウィアは上の兄さんに似ていると思った。だから気軽に頼り、気軽に面倒を見てもらっていた。

「ウィア、そこ滑るから手を貸すよ」

そう言ってゼクトは手を貸してくれる。

「此処はちょっと…届かないね」

更に状況を見て、持ち上げてくれるゼクト。

『何だがお姫様気分になれるなぁ~』

などと思いホクホク顔でいると、ジットその様子を見ていたニウカがサファルを連れてやって来ていきなり腕を組む。

「ウィアはオレ達の面倒見るために来たんだぞ! ウィアの面倒見るのもオレ達だ!」

ちょっと照れながらそっぽを向いてニウカが可愛いことを言う。
そして真似をするサファルが反対の腕に絡み付く。
左右の腕を取られ重い思いをさせられ、よろけそうになりながら歩くことになった。
でも思わずウィアの顔から笑みが零れる。

『これもある意味お姫様気分だな』

足元は少し不安定になるけれど心はホカホカだ。
だが、お姫様気分からすぐに侍女気分へと転落した。

「子守りなんだから、何か楽しい話をしてよ!」

ニウカ王子がご所望された。

「楽しい話聞きたい」

それにサファル王子が同意する。
侍女ウィアは王子様方の望みを叶えるしかなかった。短い姫様人生だった!

「どうせ今も此れからもここでは水浸しなんだから、月土竜の話でで良いよ」

ニウカが希望し催促する。
ゼクトも楽しげに少し離れた所で様子を見ながら聞いている。
後はこのまま緩い真っ直ぐな道を行くだけで目的地の水袋甲虫の巣だから、話しながら進んでも大丈夫だとエノルメも言う。

「じゃあご希望通り月土竜の話をさせていただきます~」

ウィアはおどけた感じに舞台挨拶のように一礼する。

「これは森の国のお話です」

「森の国って何処?」

サファルが始まる前から質問をぶつけてきた。

「サルトゥスだろ? いやインゼルだっけ…」

それだけ他の国を知ってるだけでもニウカは偉い。

「詳しくは聞いてないから森って事で続けるよ!」

そう言ってウィアは話し始める。

「ある石拾いの家の話だ。天輝が降り注いだと思われる日の翌日、降り注がれた魔力で力強めた大物魔石を拾えることを期待して家族皆で近くの川原に石拾いに行ったんだって…」

「天輝が川原に降りりゃ石だらけだから魔石も結構入ってるんじゃね?」

「うわぁ、凄い魔石に変身したのが沢山取れそう!!」

「ここいらじゃあ、砂漠にしか降りないもんなぁ」

話が進む前に逸れていく…まぁいつもの事であった。
でも1度聞いたことのあるニウカは黙っていて欲しい…と思いウィアが目で訴えると気まずそうに目線を外した。
理解はしてくれた…と思う。

「川原から然程離れてない所に木が生えてる所もあったので、石拾いの家の三男がそこにも無いかと思って探したら魔石は無かったけど小さな可愛い森鼠の子がいて凄くなついてきたそうなんだ」

「絶対それが月土竜だよね! それで何かやらかすんだよね!」

「…そうだなぁ~じゃあそう言う事で終わりにすっか?」

チョット意地悪を言って、遠回しに嗜めると慌てて次を促す。

「ごめん!! 続きを聞きたいです」

サファルが居住まいを正し謝る。ふふんっと勝ち誇る笑みを浮かべてウィアは続ける。

「…で、お察しの通り親の言いつけ守らず森の生き物を家に連れ帰っちまったんだ…」

「母さんの言うこと守らないの悪いね!」

サファルが大いに同意する。

「そうだぞ~リビエラ母さんだったらどうなるのかな?」

「その日ご飯抜きで、その後1の月おやつ抜きで、2の週は外に遊びに行かないで家のお手伝い!」

「随分と豪勢な罰だなぁ!」

「うん、ニウカが良く遣ってるね」

子守りとは言っても日中は躍りの稽古や他の家事手伝いを遣ったりしてるので、ウィアも日中の子供達の行動は知らなかった。
ニウカがごまかすように先を促す。

「それで、どうしたんだっけ?」

何だか可笑しかったが笑うとニウカが拗ねそうなので我慢して先を続ける。

「その子は毎日自分の食事を少しずつ部屋に持ち帰り、内緒で飼い始めてしまったんだ。最初は何事もなく、可愛く餌をねだる姿に癒されチョット外へ行くときにも連れ歩いていたそうだ」

「良く見つからないよなぁ、オレなんか即日で生きた水袋甲虫見つかっちまってリビエラに大目玉だったぜ!」

目線を送るとニウカがニシシッとオヤジ臭く笑い黙る。

『誰の笑い方なんだかな?』

そう思いつつ話を進める。

「ある朝、その子は母さんに怒られる…「誰が漏らしたんだい!」そう怒る母さんに長男も次男も首を降る。三男も身に覚えは無いが、確かに自分が干した位置にある布団だった。誰かが悪戯で水を掛けたのかと思い見張ってみるが誰も悪さをしてない。だけど起きると微妙な位置に地図が出来ている」

サファルの目が泳ぎ虚ろになっているのは、身に積まされる話だからだろうか。
ウィアは自尊心傷付かぬよう下手に気にせず続けて行く。

「ある日、夜寝た振りをして眠い目を擦りながら起きていると、可愛がっていた森鼠の子が窓際に立っている。外に仲間と思われるもう少し大きな…チョット森鼠とは違う姿形の動物が居た。その動物が去ると森鼠の子は三男の頬にすり寄りに来て、その後お尻の辺りにくっついて寝たんだそうだ」

「あっ! 犯人だね?!」

サファルが思い付いた…と言う様に叫ぶ。

「さぁ~どうかな? 続きを聞くかい?」

「うん!!」

大きく頷き答える。

『目をキラキラさせながら聞いてくれると、こっちまでワクワクしちまう!』

ウィアもサファルの反応に大満足だったので、更に気分がのって身ぶり手振りをつけて楽しんでもらえるように続きを話始める。

「予想通り犯人は可愛がっていた森鼠の子だった。翌朝もしっかりと水浸しになっていて怒られたそうだ。その3男はお漏らし疑惑を晴らすために、寝るときは森鼠の子を蓋付きの篭に入れておくことにしたそうだ」

「森鼠が遣ったって言えば違うって分かるのに!」

また怒られた三男に感情移入したのか、サファルは何故か目に涙をため強く憤慨する。

『誰かに濡れ衣着せられた事でも有るのか?』

ニウカがこちらをうかがう気配があったので見ると視線を逸らした。

『こいつの悪戯か…悪い兄ちゃんだ!』

ウィアはニウカをキッと睨みつつ続ける。

「篭に入れた日は天輝がまた降りたらしくて家族で石拾いに行くことになった。片時も放さなかった森鼠の子だが、篭も用意したので置いていくことにしたらしい。だが、丁度乾期に入る頃でもあり集落に鬼火が出てしまったそうだ」

「鬼火って?」

サファルが普通に質問してきた。いつの間にかニウカと手を繋ぎ楽しそうにしている。
何だかんだと仲良しな兄弟を見たらチョット自分も兄達に会いたくなる。
何となくごまかしたニウカには拳固を遣りたくなるが、取り敢えず質問に答えつつ話を続ける。

「鬼火って言うのは魔物の一種とも言われているけれど、火がない所に火事が起こることを言うらしい。森は燃える物がイッパイだし、家も木で出来ているから一度燃えちまうと大変らしいんだ」

「砂漠じゃあ、石の家は残るもんね。それに砂は燃えないもんね」

何だか妙な所で自慢気な表情のサファル。微笑ましくて思わず笑ってしまう。

「そうだな、でも内側も人も燃えちまうから気をつけないとな! それで集落は戻ると大混乱だったそうだ。三男は家に森鼠の子を置いてきた事を思いだし大慌てで家に帰ると、家は燃え始めていた。だから助けようと皆が家に戻る前に中に入っちまったそうだ!」

「燃えてる家に入っちゃったの?」

目を丸くしてサファルが聞き返す。

「心配だったんだな…。それで家族が家に着いた時は入り口が燃え始めて、もう出入りできなくなっていたそうだ」

「えっ、えっ、死んじゃうよ!」

泣きそうになる。

「嫌々、死んじゃう話じゃ面白くないからしないよ」

泣きそうなニウカをどうにかなだめ、続きを話そうとしたら目的地に着いた。

「今日は砂蛇も少ないから、その中に紛れている危険な魔物蛇の紫砂蛇も少なく、作業もしやすそうだ。だからお話の続きも出来そうだよ。僕らも警戒しておくからね」

ニウカ達の後ろでウィアの話を聞いていたゼクトがエノルメと顔を見合わせた後、微笑みながら言ってくれた。

『皆が聞いていてくれるなら、ウィアさんは頑張るよぉ~期待されたら答えたくなっちまう。アタシは踊り子! ノリも良いのさ!!』

気持ちを高めて続ける。
勿論、手はゼクトとエノルメが仕留めて放ってくるマイヤルに完全に止めを刺し、水袋を別にし、袋に入れていく作業は皆で行う。

「家に入った三男は自分の部屋に戻ると篭から森鼠の子を出してやった。すると三男に駆け上り頬擦りしてきたそうだ。三男は泣きながら抱き寄せ森鼠の子に怖かったね…ごめんね…って謝った。でも、その時には全体に火が回り始め、部屋の中にも煙と熱が入り始める。森鼠の子なら逃げられるかも…と思い、高い位置の小窓を開けてやると窓辺には行くが出ていかない…」

作業の手が止まってしまっていたので声を掛ける。

「耳だけこっち、目と手はそっち!」

ウィアの声掛けでサファルが動き出す。

「三男が煙が入り込み始めた部屋で咳き込んでいると、いきなり頭から水が降ってきた。吃驚して水が降ってきた上の方を見ると窓辺に森鼠の子が夜中に窓越しに会っていた森鼠とチョット違う動物がそこに何匹も居たそうだ」

息を飲むようにこちらを向き聞き入ってるので、声に出さず手振りで作業の継続を促す。
そして話を続ける。

「そいつらの目が赤く光ると、上に靄が現れ水の塊が現れドサッと落ちてくる。三男が吃驚しているうちに煙が薄れ、扉が開けられると泣きそうな父さんと母さんが立っていて無事な三男を見ると飛び付いてきて無事を喜んだそうだ」

作業の手は動き出し、サファルはかなりホッとした様だ。

「おわかりの通り、拾ってきたのは月土竜の子供で夜な夜な迎えに来ていたのは家族だったんだろうな。月土竜の子供が家族を呼び火を消してくれたのだろう。その日は丁度満月になる日だった様で集落じゅうに水をたっぷり撒いて火を消してくれたそうだ。まだ日中だったから、火が消え水浸しで水煙るになった集落には小さな虹があちこちに見られたそうだよ」

お話に入り込みまた作業が止まっていたので、最後に追加で寓話的お説教を追加した。

「勿論、その三男は後でこっぴどく叱られたそうだ。言われたことを守らず勝手な行動をした事は十分怒られる対象になるんだよ~」

はたと気付いたサファルは、真面目に動き出す。

「これならアタシも狩の方に行けるかな…」

呟き立ち上がった時、ゼクトが警戒し動きを制し、音を確認する。

「まずい!蛇どもが一気に戻ってきたようだ」

エノルメとゼクトが弓から剣に持ち代える。

「ウィア、もと来た道を戻れるか?」

「あぁ、大丈夫だ!」

「音が押し寄せるのはコッチだから大丈夫だと思うが十分注意して行け」

滅多に喋らないエノルメが注意を促す。結構ヤバイ状況と言うことだろう。

「万が一、出口方向から現れたら近場の道を行け。但し登るんだ」

ザッと注意をすると出発を促された。
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