守護者契約~自由な大賢者達

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おまけ 護衛契約書は大切に保管される 1

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     ──────────────────────────────
クルストム村 モーイ 

    エリミア辺境王国護衛雇用契約書

業務:エリミア辺境王国第六王女フレイリアル・レクス・リトスの警護業務
  (護衛)  
報酬:エリミア辺境王国第六王女フレイリアル・レクス・リトスの守護者ニュールの
   奉仕活動により支払い


雇用者:エリミア辺境王国第六王女フレイリアル・レクス・リトス
被用者:クルストム村 モーイ

     ──────────────────────────────


「これが契約書だったよな」

1の年程前…フレイリアルと交わした契約書を、モーイが2人の間に広げる。

「うん…何だか懐かしいね…」

特別報酬…として与えられたエリミア行き。
ニュールと同じ旅仲間であり…モーイの妹分とも言えるぐらいに親しき存在になった、フレイリアルとの再会希望。
願い叶い、今此の場に在る。
どうせ同じ方面に行くのならと、帰りがけに得る楽しいオマケが欲しくなり希望した御褒美であった。
国王ニュールニアから直接与えられた任務は、樹海の集落へミーティに同行する事。
旅仲間ニュールとしてのお願いでもあり、気は進まなくとも…引き受けざるを得なかった。
そんなモーイが、ちょっとした我が儘で特典を要求したのだ。

だが、非常に…複雑な思いを抱える事になる。

モーイが希望した場所にニュールも同行すると聞いた時、思い寄せるニュールと私的な時を共有出来るであろう事…たとえお邪魔虫ミーティの同行が必須であったとしても…モーイは喜び期待を持つ。

だが…樹海での任務を達成する事で、以前思い描いた気持ちとは別の思いがモーイの胸の中に生まれる。
何となくの…後ろめたさと、気恥ずかしさ。
モーイが樹海の集落で受け取った…真剣な眼差しと思いは、思考を混乱させ…心乱す。
そして当初のフレイリアルとの御褒美的再会には、モーイの女子的な心情の相談…が渇望…っと言った水準で求められる事になった。

ニュールがエリミアへ同行したのは、守護者契約を破棄するためだと知らされた。
其の目的は着いてから知ったのだが、モーイはある事に気付く。
自身が結んでいるフレイリアルとの "護衛契約" についても話す機会である…と。
もっとも紙面での契約であり、契約書が無ければ始まらないのだが…都合の良い事にモーイは携行していた。
だから…何となく素直になれないモーイは、重要な相談の取っ掛かりとして…持ち出したのだ。

「あぁ、懐かしいだろ。気持ちが追い付かないぐらい、あっと言う間に…時が過ぎた気がするよな…」

2人の…時の経過表す言葉に、実感が籠る。

「でも良く持ってたよね」

「重要書類や金は持ち歩かないと安心出来ないからな」

昔からの…物心ついた頃からの癖であり、 "大切" なものは肌身離さず持ち歩く。
それだけ、重要なもの保管するのも…身を置くのも…怪しく信じられぬ救いようのない場所。
所属する場や居場所はあっても、信用は出来る者は存在しなかった。
だからこそ…ニュールに出会い、唯一信用出来ると感じ…初めて執着したいと思えたのだ。

「私なら落としたり、失くしたりしちゃいそうだよ。まぁ何を持ってるわけでもないから良いけどね」

フレイリアルはフレイリアルで "大切" …と思えるものを見出せない、物質的には恵まれているのに…誰かから何かを与えられる機会さえも持たず…大切と思える品を持ったことが無い。
リーシェライルと出会い…青の間に出入りするようになってからも、本来の居場所であるべき王宮に過ごす場は結局…何も持てなかった。
自分で集めた魔石は勿論大切ではあるが、執着はない。
もしかしたらリーシェライルにさえ、大切ではあるが…執着しないのかもしれない。

どっちがどっちとも言えない境遇だが、思い繋がる他者が少ない…執着が少ない所は共通している。

「確かに、手に余るモノは捨てちまうのが一番。持たなけりゃ失くす事も…奪われる事も無いからな!」

明るく気軽に言い捨てるが、環境が特殊であった事には思い至らない。
モーイもフレイリアルも、未だ何かに愛着を持たぬ…其の根底の部分は変わらないのかもしれないない。
だが…2人とも自身の数奇さには気付かぬし、気付いても今は関係無いであろう。

不遇も…不運も…勝手に押し寄せるものではあるし、幸福である事も選べないと知る。
だが…不幸か不幸じゃ無いかは、自らで選べると学び…悟る。
自棄になることも…諦める事も無い心の強さは、囚われぬ自由を与えるのだった。


ニュールとフレイリアルの守護者契約とは違い、モーイの護衛契約は紙面での契約であり…有耶無耶にしても何ら問題は無い。
一応公式の契約ではあるので魔力付与された刻印持つ書面での契約にはなっている。
だが、偽造防止などの観点からのもの。
契約を破ることで特段制裁が加わる訳でもなく、本当に便宜上結んだ契約だ。
それでもモーイにとって…其の契約書は何となく手放せないものであり、結果として…数少ない大切なものとして持ち歩く事になった。

「此って拉致られたニュールを探しに行くために結んだ契約だったよなぁ」

「うん、問題なく一緒に居られるようにね。状況は変わり過ぎて、1の年前…ってだけなのに凄い昔の気がする」

「色々…本当に色々あったな」

「そうだね…」

チョットだけしんみりと懐かしみつつ語り合えるのは、とてつもなく慌ただしく襲い来る問題を乗り越え…やっと辿り着いた安寧なる時の狭間であったから。
プラーデラ一行が帰るまでの間の…一晩の内の…更に一時、寝台の上…フレイリアルとモーイは寝間着姿で顔を突き合わせる。

「そんじゃ始めっか!!」

「うんっ! こう言うの初めてだから緊張しちゃう~」

「アタシは仲間と良く遣ってたぞ」

2人は見つめあい…思わず吹き出す。
ただただ、何か理由ある訳でもないのに楽しい気分。

「こんな時間だけど、飲み物もお菓子も果物も少し食事も用意しちゃったよ」

寝台横の…少し洒落た小机には、色とりどり…可愛らしく整えられたお茶菓子と軽食が用意されている。

「何だかんだと遅くなっちまったからなぁ」

「でも、まだまだ夜は長いよ~!」

「ふっ、酒…が欲しくなっちまう所だよなぁ~」

「へへっ、そう言うと思って用意してあるんだよぉ~」

寝台の下に隠してあるような状態から、取り出すフレイリアル。
驚かせるため隠してあったのか、常備しているため隠してあったのかは詮索無用。

「おぉ~気が利くじゃん!」

「あったり前だよ! だって私はモーイの妹分で弟子でもあるんだよ!」

体術など教えてもらっていたし、生活全般も女子らしい事は全てモーイから学んだ。

「そうだな! 呑気でブッ飛んでるけど、こう言う所は外さないよな」

「モーイを見てきたからねぇ」

2人だけの慎ましやかな? 女子会が開かれる。
安寧…とは言っても未だ色々と落ち着かない部分持ち火種燻る…此の国…此の世界、其れでも気楽に2人語り合う時を持てるぐらいなのは…平和と呼べるのかもしれない。

「普通に…ちんけに…チビチビ暮らしてたら、10の年でも収まりきらない場面の連続だよな。寿命が伸びたんだか縮んだんだか…」

「私は延びちゃったのかな…」

フレイリアルの何気ない…軽く答えたかの様な言葉の中に、其の響き以上の重さが乗る。

巫女…と言う未知数含む不安定な存在だったフレイリアル。

大魔力を行使する事で彼方との繋がり深め、確実に命を縮め…存在そのものを失いそうになった。
大賢者に変化して何とか寿命を延ばしたが、それさえも…リーシェライルが現身を放棄すると言う究極の選択で得た…失うものが大きすぎた綱渡り的回避。
後悔も悲しみも付き纏うが、通り過ぎた選択は変えることは出来ぬ。
故に、言葉受け取るモーイは必要以上に軽く返す。

「…まっ…長かろうが短かろうが、楽しーく…思うがままに過ごせりゃ一瞬さ。それに普通の闇稼業のモンが、姫さんと仲良しになるなんて…人生あるか無いか分からない機会だって巡って来るんだぞ?! 人生長けりゃ長い程、面白い事だって沢山あるさ!」

確かに普通出会う機会の無いもの同士の出会い。
若干…普通とは相容れぬ闇稼業と言う特殊な職に就いていたモーイ…ではあるのだが、フレイリアル自身も負けず劣らずの常識外れの姫である。
其の巡り会いに必然性は無い。

「そうだね。特別な…意図的な力が働きかけなくても、色んな機会は巡る…んだよね…」

世界の外にあるモノに運命握られ動かされた部分を…巫女として知るフレイリアルにとって、作為無き流れを実感させてくれるモーイの言葉は救いとなる。
何も考えてなさそうな気の抜けた雰囲気を持っていても、未だ違う道が無かったのか模索してしまうフレイリアル。
心の機微に敏感なモーイは、真の身内であるかのようにフレイリアルを抱き締める。

「悔いる気持ちを消せなくとも、選んだ道を進む自身を責めるな。今…此処にいるお前に、アタシは救われてきたんだからさ」

暖かな優しい抱擁が、フレイリアルの心を和らげる。

「私はリーシェ以外に近くで親しくなるような間柄の人は絶対に持てない…と思っていたよ」

「アタシも…思いが繋がる関係なんて存在しないと思ってた」

2人とも血の繋がる身内…家族への期待は一切持っていない、だからこそ…身近な仲間を…大切な繋がりとして認識する。
優しい思いが2人に巡り、魔力の循環を引き起こす。
久々の心地よい環境に、ただ無性に嬉しくて…笑いが込み上げる。

「モーイは私の仲間であり、姉であり友であるんだよね!」

「あぁ、母さんにもなろうと思ったんだけどなぁ」

「ニュールがお父さんみたいな存在だからね。ふふっ、だから此の条件での契約で良かったんでしょ?」

再び契約書に目を落としながら笑いが零れる。

「此の無理矢理こじつけて作り出した奉仕活動を対価として受け取るって凄いよね」

「ホントだな」

「ニュールから十分に報酬は巻き上げることが出来た?」

「あぁ、十分奉仕してもらった…逆にもらい過ぎて返せないぐらいだよ…」

ヴェステ王城砦の地下にある幽閉施設…ほぼ地下監獄…と言った場所から抜け出そうとし、命失いかけ…助かっても永遠に自身の存在と別れ人形になりそうになった危機的状況からの生還。
ニュールが手を差し伸べ救い上げてくれたからこそだった。

返しきれない恩義を得て…ニュールへの思いは、恋慕や憧れなどよりも一段上がった…尊崇…崇敬とも言える畏敬の念へと昇華した気がするモーイ。

与えられた力と施しへの見返りを捧げるために一生費やしても良いと思える気持ちへと、思いは変化していた。
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