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23. 穏当で適切なお片付け

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"数々の名案?" に疲れた表情示すニュールに対し、輝く美麗な表情を曇らせ…残念そうに呟くリーシェライル。

「さっき提案したものは…今取れる措置の中で…一番フレイや君好みの穏当な案だと思うんだけどなぁ。だって王都そのものを滅する…って選択肢もあるんだよ。まぁ…何にしても納得してくれたのならそれで良いけどね!」

気軽に提案する…驚くべき内容。
そもそも先程の策とて…最初の提案以外は人数の差こそあれ誰かしらの抹消含むもの、ニュール的にも一番最後の策については提案されなかった…とは言え若干物申したくなる。

『其れ実行したら殺戮者認定受けちまうから…』

全てが帰結してしまいそうな提案を…あっけらかんと企図するリーシェライルに、心の中で突っ込みを入れるニュール。
だが、比較対照が鮮烈過ぎて他の提案がマシに思えるのだから…ある意味凄い。

ニュール自ら動くのが一番真っ当であるが、権力・武力行使と言う力業になってしまうのは否めない。
だからと言ってニュールにも、手間暇かけず…他を巻き込まず…その条件で今出来る事は、同じ事しか思い浮かびそうもなかった。

「穏当に…宰相君かニュール自身…どちらかがエリミアの国王に謁見申し入れてみたら良いんじゃない? 此の状況なら応じるでしょ? まぁ…どうやって赴くかは問題じゃないから、受け入れないなら無理矢理赴けば良いでしょ。まずは目の前まで辿り着かないとね…」

提案はしてくれたが臨機応変…という名の適当でいい加減な内容であり、あまり参考にならないし…具体的な計画とは程遠い。
その様な雑な場当たり的計画だが…他の手段や考えがある訳でもなく、決断するしか選択肢は無かった。

「後は、ニュールの言葉と力でゴリ押しして解決! …って感じが、一番丸く収まると思うよ」

そして、ふと表情を変えて囁くようにリーシェライルが耳元で告げる。

「だって国王様なんだし、その上…大賢者様なんだよ。其れぐらい強気で遣っちゃっても良いんじゃない?」

ダメ押しするかのように飛び切り美しい笑み浮かべ…妖しく心誑かす眼差し向けて、ニュールの中の躊躇いを許容へと導く。

『だあぁぁ!!』

ニュールは世界を傾けそうな究極の魔物を相手にしている気がして、思わず心の中で叫び…理性呼び戻すのであった。


エリミアの王が控える国王執務室に様々な伝令が届く。

「急報です。外務司る大臣様の側近、継承59位のエルギノ様とその護衛ユモーナの死体が王城壁付近で発見されました」

「共に居たはずのプラーデラ宰相様と側近の所在が不明ですので引き続き手配…捜索中です」

「一応賓客である。何事か起これば国際問題。十分に注意して行え」

「了解しました!」

王城壁内の異変と賢者の塔への襲撃…についての報告が終了した後、国王は他国からの映像伴う伝令に対応するため…外務司る大臣と共に席を外す。

自身の側近1名を亡くした大臣ではあるが、失ったのは末席の側近。しかも縁故採用による御飾り側近であり、業務への支障は皆無である。
縁故と言っても…一族末席に辛うじて名を連ねる家の子息であり、ハッキリ言えば金で売ったような席次に入り込んだ者。
失っても痛くも痒くもないし思い入れもない、むしろスッキリ片付いた事に感謝の意を示しそうだった。
それ故に状況を把握しても、顔色変えずに国王に付き従う。

そして残る者は…国王の執務室横にある談話室に移動した。
その中に在るのは側近中の側近…宰相と内務司る大臣、そして警備司る大臣…である。
忠義の仮面被る胡散臭い者共が、手に入りそうな高級魔物蜥蜴の皮でも数えるように…まだ手に入ってもおらぬ益に対して算段始める。

「彼の御方のご提案通りの運びとなっております」

「…してプラーデラ卑俗な宰相殿は何方に逃げ込まれているか…」

「賢き屋根の下に宿って居られると思われます」

「ならば、その屋根ごと引っ剥がすが良いでしょう。先程の小雨の如き贈り物では、流石に物足りなそうですからね」

誰とは無しに進められる会話。

「屋根の主は如何に?」

「逆らうならば仕置きを加えよ…本人より周囲に対してが良かろう」

「では、使えぬ婚約者あたりを…見せしめに…これまた引っ剥がしますか…」

「樹海近くの者ゆえ…そのまま剥ぎ取り放り出すのも良し」

「そうですな…少し融通の利く…聡い者をあてがい…大人しくしてもらわねばな」

この1年、フレイリアルの近くでリーシェライルに仕込まれ…忠実に働く仮の婚約者ブルグドレフは、重鎮の方々にとっては…既に思うように使えぬ…目の上の瘤のような存在になっていた。

「…そう言えば色合いはともかく、先程確認した御姿は…成人してないのに良い御体…婀娜な姿態をお持ちのようで…」

1人が好色な話題持ち出し、下卑た笑いを漏らす。
同様に他の者も、目にした姿を…その愚劣な頭の中…貧弱で卑猥な思考に落とし込み…思い浮かべる。

「確かにアレならば相手も程よく得られよう…塔で能力繋ぐ子を生させれば良い」

「あの様な色合いとは言え、曲りなりにも王族。問題は無かろう」

「そうですな…大賢者でもありますし、様々な血筋で試みるのも1つの策かと…」

「そのように素晴らしき計画ならば、是非私どもも協力させて頂きたいですな」

「えぇ、その際は…機会を設け…存分に御協力頂きたいと思います」

国王の執務室横で…自国の王女を、不埒な視線で品定め…利用しようとする下衆な輩が国の中枢に在る。
様々な利益求め…手に入れ味わうための算段つける…不届きな者達。

虫の湧いた腐った幹を救うには切り倒すしかない、ただし其れを救う…と言って良いかは最早疑わしい。


青の塔…計画の最終確認で王城の様子を探っていたニュールとリーシェライル。

リーシェライルが思うがままに激しく怒り昂らせ、周囲から魔力を導き出す。
更に我失い…自身では決して望まぬ、フレイリアルに繋がる賢者の石の力まで導き出しそうになっていた。

「やっぱり僕がブチッと踏み潰してきても良いかな…」

激しい憤りから来る魔力の導出を何とか押し留めつつ、押さえきれぬ気持ちを凄惨な微笑みに作り変え…ニュールに話し掛けるリーシェライル。

耳にしてしまった会話に、既にリーシェライルの理性は崩壊し始める。
本能だけで制御される…抑制効かぬ…純粋な怒りによる魔力は、その暗愚な会話繰り広げし大臣達の下へ飛翔するが如く荒ぶり高まる。
もし…其の状態のままリーシェライルが其処へ辿り着いてしまったのなら、自ら天誅下すべく脳天素手で握り潰し…永遠に呪い込め続ける怨毒持つ様な存在へと変化してしまったかもしれない。

ニュールへと向けた怒りでは無いのに、間近にいたニュールが一番その毒気にあてられ被害被りそうな状態である。
リーシェライルの怒り昂る魔力は、目に見える程の力持ち…周囲を暴圧する。

状況探るため…王城に設置した転移の登録地点に一部繋ぎ、音声拾った結果である。

そうして聞き捨てならぬ算段を聞くこととなったがため、リーシェライルが氷る笑顔浮かべ…王城滅ぼしそうな魔力を導き出し…自らが一番最後に持ち出した案を実行してしまいそうになったのだ。

「己の口にした罪に気付かぬ…愚昧な者って、存在する価値無いよね…抹消しちゃって良いんじゃないかな?」

「…では貴方が行くか?」

リーシェライルの目に宿る、爆発しそうな冷たい憎悪の炎を目の当たりにし…鎮める為の提案をするニュール。
ニュールは多少温かみある心を持ちつつある…とは言え、基本…魔物な心持つ者。
生物としての禁忌を堅持するよりは、魔物としての本能…怒りの源は潰してスッキリする…と言う意識は揺るがない。

「嫌っ、僕が行ったら本当に綺麗サッパリ掃除をしてしまいそうだ。君がヴェステで作ったのより深くて暗い生暖かな泉を作ってしまいそうだから止めておくよ…僕が遣らかす事は全てフレイの経験の一部になってしまうからね…」

今のリーシェライルは何処までもフレイリアルの助言者コンシリアトゥールである事を忘れない。
どれだけ意識を離しても内在する存在であるのだ。
結局予定通り、ニュールが力業で平穏を手に入れるべく…エリミアの国王の前を目指す事になった。


「自分で直接…王の面前へ赴くことにするよ」

ニュールはリーシェライルに告げるとプラーデラから呼び寄せた5人を集める。

最初はある程度良識に従い、礼節をもって当たる予定だったが…却下した。
探った場所で耳した会話は、リーシェライルだけではなく…勿論ニュールにも静かな憤怒を引き起こしていたのだ。
守護していた者への無礼であり、保護者として許すまじき内容に怒り覚えるのは当然であろう。

「先触れもせず赴くことになるが、これからエリミア国王を訪ねる。不意の訪問であり、歓迎はしてもらえないと思うが…我が国が嵌められて被るであろう不利益を取り除くために必要な訪問である」

ピオを含む此の5人はニュール直属の者であり、表の地位も持つが…ピオが管理する組織 "零" に所属して裏の活動もこなす者達である。
2名はピオが直接勧誘活動で連れてきた者であり、2名はヴェステから差し向けられた者をニュールが懐柔し引き込み…信奉者…信者にしてしまった者達だ。

プラーデラではある意味ニュールは国王様以上に教祖様…であり、ほぼ神様…的な崇められ方をしている。
確実に100年も経てば国教になっているんじゃないかと思われる状態。
もっとも…教義はピオ辺りの監修となり、怪しい事この上ない。

そもそもプラーデラでのニュールの祀り上げ…布教活動は、全てピオが裏で糸を引いている。

「何でニュールを神様みたいにしてるの?」

ピオはミーティにズバリ尋ねられたことがある。

「私にとって正しく神であり、素晴らしき御方。我が君を語れば自ずと信奉者が集まってしまうのは当然の成り行きです」

淀みなくスラスラと心からの言葉持ち…踊りだすように熱く語る。
まさしく信者であり…狂信者…とも言える。

「でも…突き詰めれば貴方も御同類ですよね…」

「…確かに否定出来ないかもなぁ…」

ピオの問いかけに、自身の中に類似した思いがある事に気付くミーティ。

「そうでしょ? 全てを許容する幅を持ち、慈悲深き心で導き…生物として悪しき行いには冷酷な裁きを加える…力持つのに無駄に行使せず、制裁加える時には容赦なく行う者…って神様的定義に当て嵌まるんです」

目を輝かせながらニュール語りをするピオの言葉を、思わずミーティは完全に受け入れてしまう。
ピオの布教は、ニュールの存在知らぬ者には崇高な姿を熱く語り…知る者には気付きを与える言葉で導く。

ニュールにとって…目も当てられてない惨状が身近な場所で起こっていたのを知るのは、ピオによる国内への布教がほぼ完了した頃となるのだった。
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