守護者契約~自由な大賢者達

3・T・Orion

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10. 王女様の許し難き存在

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"自国王女の暴走による外交問題の勃発?!" …とエリミア側の者達は慌てる。

それでも挨拶述べたプラーデラ側の今回の使節団筆頭である宰相ピオは、どの様な扱い受けようとも…柔らかな笑顔を絶えず浮かべ…余裕持ち全てを許容するかのように振舞う。
だがフレイリアルにとって…仮面被るように穏やかに対応するピオの一挙手一投足…吸う空気…存在する空間自体が許し難きものであり、自身の其の思いを悔い改める気は毛頭ない。

ピオ的にも…フレイリアルに対して今まで好き放題…散々遣らかしてきた自覚はあり、この温和で殊勝な姿や…神妙な態度は…御機嫌取る思いをも込めた…自身の安全性を体現するためのものであった。

「今回、大賢者であらせられます王女様にお招き頂き…こうして実際お会いできただけでも僥倖…光栄でございます」

「……」

だが一時的な懐柔策など、フレイリアルは受け付ける気は無さそうだ。
憮然とした表情を崩さず、一切の言葉を返すことが無い。

「遠路遥々お越し頂き、こちらこそ感謝致します」

「お疲れは御座いませぬか?」

「この後、国王との謁見の場に御案内いたしますが、その後は王城に移り…ゆるりと御過ごし頂きたい」

まったく反応示さぬ自国の王女を捨て置き、大臣やその補佐を務める者達が…取り繕うように口々に歓迎の挨拶を述べてきた。

「御高配に感謝致します」

高潔なる者に擬態し…万人に愛想振り撒き答えるピオに対し、フレイリアルは相変わらず唇かみしめ…顔しかめ…瞳燃やし…視線合わぬ場所で激しく睨みつける。

「いえいえ…大した配慮も出来ませぬが、両国の未来のために…最大限の歓待をさせて頂きます」

周囲の者たちがピオの挨拶に対応し…白々しい微笑み浮かべ言葉返していく中、引き続きフレイリアルは終始無言を貫く。
しかも…あからさまな不快感示す表情が崩れることはなく、フレイリアルに対する周囲の不信感は更に広がり…不快なざわめきを作り出していく。

気まずい雰囲気の中…エリミア王国の外務司る大臣の咳払いし…対応した補佐務める者達が謁見終了を宣言する掛け声があがり、言葉通り国王と対面するための次なる拝謁の場へと向かうことになった。

最初の謁見終了後の空気感は、非常に冷ややかなものとなる。

「やっぱり使えない…むしろ禍根となりそうな愚劣さだ」

「守護者繋がりで招待出来ただけだ。森の色持つ者など、所詮そんな程度」

「表に出すこと自体間違っているんだ…。恥にしかならない」

移動の準備をする者たちの口から、小さく漏れ出るフレイリアルに対しての…見下す様な悪意に満ちた陰口。
たとえ自国の王女が不躾であろうと…賓客迎えている場にて、継承権持ちの王族に対し決して持つべきではない蔑みの感情。
小馬鹿にし貶める…侮蔑する悪感情が、躊躇いなく表に出始めている。
険悪な雰囲気が、フレイリアルを包囲する。

一連の様子を眺めていた…大臣や…補佐の職務こなすような上位の者達も他の雑魚同様、フレイリアルに向ける視線はとても冷ややかで…侮りと嘲笑混ざるものだった。

フレイリアルの背後には、表面上穏やかに見える微笑み浮かべ…グレイシャムの器の中のリーシェライルが悠然と控え立つ。
だが周囲の節度なき諸行に…彫像のように張り付いた笑みを少しだけ歪ませ、ポソリと呟く。

「きっとみんな、命が惜しく無いんだね…」

其の声が誰かに届くことは無かったが、失礼な態度を取る輩どもは十把一絡げに…敵認定された。

フレイリアルに向けられた侮りの視線に対抗し生み出された、狂気孕む…惨殺予告のような重々しい怨嗟込められた殺意。
リーシェライルが留まる器が持つ…金の瞳の奥底に、静かな怒りと共に激しく降り積もっていく。
その凍てつくような殺意を編み込みながら、密かに高まった高出力の魔力。
綺麗に首を落とせる威力持つ…鋭き刃となり、高度な隠蔽魔力纏い…敵認定した者達の首もとに静かに忍び寄る。

自国の王女に対しての浅はかな行動に…気付きもせぬ雑魚どもは、あと1言…余計な言葉を加えたのなら…一瞬で血祭りに上げられたであろう。
自身が鮮やかなる大海に沈められる危機的状況に陥ってる…等とは、露ほども理解しておらぬ様子だった。

他人を嘲笑う凡愚な者達への警告は、突然に示される。

「痛い!」

「何だこりゃっ…」

「切れてるぞ!」

愚かなる生け贄10名程の首に…鮮やかな彩り持ち微かに錆臭さ放つ印が、小さな贈りものとして刻まれた。

だが受け取った者達は、なぜ其のような状態になっているのか…思い当たる理由に辿り着けない。不意に現れた痛みと…流れ出る暖かきものに驚愕しつつ、不思議そうに傷口に手をあて首を傾げる。

その攻撃には高度な隠蔽が掛けられていたため、一般の者達には何も感じ取ることは出来ない。
恐怖で震え上がるような殺意に気付くのは、常に周囲を観察する注意深き者か…高い察知能力持つ者だけであった。

だが条件に当て嵌まりそうなフレイリアルは、相変わらずリーシェライルに対しては…ポンコツであり…能力高くても此の状況を察知出来ないのだった。


「怖いもの知らずって、ああ言う者達の事を言うんだろうなぁ…。あんな化け物を敵にするなんて、僕には到底出来ません。まぁ他人事だから良いけど、今晩あたりアイツら微塵切りになっちゃってんじゃないのかねぇ…くくっ全く愉快だなぁ」

フレイリアルとの謁見後…賢者の塔から王宮の謁見の間へ向かう途中、フレイリアルの背後に付き従い歩き…状況静観していたピオの心の声が…そのまま口からだだ漏れる。

フレイリアルの嫌悪感を、未だ一身に浴びるピオ。

今でこそニュールの下で忠実な僕として有能に働くピオではあるが、ヴェステ王国の元影であり…隠者も務めた上に無難に生き残ってきた其れなりの強者である。
しかもエリミアの賢者の塔…青の塔奪取作戦での実行部隊の一員でもあり、其の後もズット敵として関わって来た者。
何度もフレイリアルを付け狙い、小意地の悪い手口で行く手を阻んできた。

比較的呑気で大らかなフレイリアルを苛立たせる唯一の者であり、不快感増幅させるような因縁の相手である。
思わず睨みつけても仕様がないぐらい憎らしい相手、気持ちを逆撫でるように弄ぶ…心底嫌な奴…としかフレイリアルは認識していない。

ある意味、大変に印象深い。
キライ…という感情が高まるほど、余計に記憶に刻み付けられ…頭のなかに居座ってしまうのである。
プラーデラの使節団の一員として…本性隠し…取り繕い澄ました表情ではなく、残忍で冷笑的な…狂気を心から楽しむ陰惨な姿が…フレイリアルの脳裏に刻み付けられている。
決して忘れ得ぬ者。

フレイリアル達が居る側の人間になった…としても、大嫌いな者であり…どこまでも腹の立つ信用ならぬ相手である事に変わりない。

警戒しまくるフレイリアルは、自国の大臣達から向けられる悪意や蔑みは気にならなくとも…ピオの呟きには必要以上に反応する。
ことごとく気になるし…気に入らない、まさしく嫌悪感…ではあるのだが相当に根深く執拗だ。
ただし "執着" とも呼べそうな感情…等と口にする者がいたとしたら、間違いなくリーシェライルとフレイリアル両名から抹殺されるであろう。

「敵って何!!」

存在自体がイラつくピオが呟いた、不穏な言葉。
耳にしたフレイリアルは問い質さずにいられなかった。

「おやぁ? クックックッ…高貴な王女様がやぁっと口を開いて下さいましたか?」

前を歩くフレイリアルから飛び出した唐突な疑問の言葉に、ピオは揶揄う様にクツクツと笑いながら答える。
その答えを聞いただけでムカムカが止まらず闘志湧きあがりそうなフレイリアル。
元気が無い時に近づくなら、気力奮い立たせる存在…丁度良い刺激になるかもしれない。

ピオと縦に並び…歩き進んでいるのに…思わず立ち止まり完全に振り返ってしまいそうになるが、半分体をひねった時点で制止される。

「おぉっと、足は進め…前を向いたままでお願いしますよ。これ以上愚かな王女様に思われたくないでしょ? 愚鈍な王女様では周囲にも迷惑をかけてしまいますからね! あぁ既に皆さん…相当迷惑そうですね!」

「!!!!」

一瞬、顔だけピオの方へ向け…フレイリアルはキッと憎々し気に激しく睨む。
賢者の塔での謁見で、自身の状況を把握された事に羞恥を覚える。
それでもグッと言葉飲み込み、苦々しくもピオの言葉に従う。

「一応、間抜けな王女さまのために目くらましの魔力展開はしてありますので、昂らずに言葉で向けられる罵詈雑言なら受け付けられます。勿論、愛の告白でも宜しいですよぉ。あぁ、でも凄い方達に睨まれちゃいそうですからヤッパリ遠慮しておきます。首と胴体は離れないに越したことありませんからねぇ…」

先程の状況を正しく観察できた数少ない者であるピオは、周囲の魔力を探りつつ軽口を放つ。
グレイシャムに入るリーシェライルは国王との謁見へ向かう列には入ってなかったが、警戒しておくに越したことはないとピオは判断する。
あのようなモノを相手にするほど愚かでは無い。

「…まぁ、ナイショで一夜だけ…とか言うお願いなら、何時でもお付き合いしますよ! 早速今晩試してみます?」

あの恐ろしいモノが監視する気配が無いのを良いことに…羽を伸ばしたピオのお遊びはが始まる。

「ナイショで一夜…とかって、一体何ふざけた事言ってるの?!!!」

揶揄い混じりのピオの腹立たしい提案に、フレイリアルの頭に血が上る。

「しかも何で此方が願うの!!」

微妙な所に引っ掛かる。

「仕方ないですねぇ、じゃーあ此方からお願いしてみても良いですよぉ~」

ニマニマと…嫌がらせの様な厭らしい笑みを浮かべるピオ。

ピオの奔放すぎる言動と…煽り立てるような表情は、フレイリアルの堪忍袋を爆散させ…忍耐力の限界を突き破る。吹き飛ばされた理性は、あの日のように…あらゆるモノから魔力導き出すように…無意識に周囲を操り動かし始めた。

『…此処で我を失っては、再び魔力暴走が…今度はエリミアの地で起きてしまう』

自身が魔力を動かしている感覚が流れ込み、過去の記憶を連動させ…フレイリアルは自戒する。
サルトゥスの夜…と呼ばれるようになった、無意識に樹海の大魔力を集め…何名かの運命を断ち切る事になった惨事。
フレイリアルは、自身が招いた結果を…罪を忘れない。

久々に暴走手前まで来ている自分を諌めるように深呼吸を繰り返し、魔力の導き出しを止める。最近の訓練で其れぐらいは出来るようになったが、此のままでは怒りが収まりそうもない。
暴走の危険回避するため、フレイリアルは言葉に怒りを乗せ…吐き出す。

「はぁあ???? 何ゾッとする様な事言ってるの? 気持ち悪っ!! 全く何でこっち側に来たのかな…今まで通り敵…って言う方が余程信じられるよ」

フレイリアルは完全にピオのおふざけを拒否し、嵐吹くが如く昂ぶり憤る。

「貴方が遣ってる事…言ってる事がホントに本気なのかさえ分かんないけど、私の場所や周りの人に危害を加えたら絶対に許さないからね!」

全てを守る覚悟持ち、フレイリアルは啖呵を切るのだった。
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