守護者契約~自由な大賢者達

3・T・Orion

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22. 目論見を探り目論む

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何だかんだと色々背負わされ、無償労働が続くニュール。
自分の益とは関係の無い所で動いていく事態に、つい…気力失せる様な気分になっていた。

その為、代償を…対価を求めたくなったのかもしれない。
もっとも此の数々の作業を割り振った御方に何かを求めてしまった日には、未来永劫に続く…存在を捧げる様な隷属を約束させられてしまうかもしれない。

『あぁ、口に出さなくて良かった…』

自身の心からの呟きを、人知れず収められた事に若干安心する。
だが…実際に口に出さない事が、覚られない事と同義でない事を…いつかニュールは知ることになるかもしれない。

余計なしがらみに振り回されない…重い役割から抜け出す日々を目指し、取り敢えず既に出来上がっている…濃いい御縁を無難に遣り過ごすべく…枯渇しそうな気力を掻き集め…再度動き始める。

束の間の逡巡を心に仕舞い込み、他の報告もこの場で受けることとし…ピオに促す。

「…同行していたエリミアの大臣の側近とその護衛が王城壁付近で処分されました。側近は…塔への攻撃と同時に護衛に消され、護衛は逃走に転じました。ですが闇組織が扱う…魔石製の拘束具による制裁を受け、結局…内部燃焼により事切れました」

「色々多方面から手を出されているようだな…」

報告を受けたニュールは静かに思案する。

フレイリアルが捉え拘束しておいた者達は、フレイリアルが聞き取った言動からすると…エリミアの者のようであった。
"樹海の色合い" 等と反応するのは此のエリミア辺境王国ぐらいである。
他国に行けば幾らでもフレイリアル同様の髪色持つ者など存在すると言うのに、多くのものを受け入れる懐持たぬ…閉ざされた国故の不寛容で醜悪な偏見。

閉鎖した環境に住む事で失った、多様性の本質を理解出来ぬ哀れな者達。
守るのと…拒否するのは…異なると言う事に気付かぬ、愚かしき行い。

それでもニュールはふと重ねてしまう。
…大賢者達が選んだ外部からの理不尽な干渉の拒否と…エリミアの閉塞性、似て非なるモノであるが…幾ばくかの…自身の選択に対する憂慮が生まれてしまうのだ。

過去の選択に対する考察は一先ず置いておき、更に他の視点から検討する。

確認した襲撃者の所持している武器は、ヴェステのモノが多く混ざっていた。
但し此れは個人所有の武器ばかりであり、自身で仕入れた…と言われれば其れまでの事柄である。
塔の攻撃に使った…肝心の魔力砲は何処を経由してきたかは不明である。
其れはプラーデラ製であり、罪の所在を偽装するような…明らかな害意も感じられた。
しかも…其処に含まれる悪意さえ利用し、切り捨てられるものとして扱う。
だが、動かすモノの真意は未だ不明である。

「底意地の悪い遣り口だな…」

「えぇ、変わらないです」

「…はい」

所属した事があるからこそ、実行する者達の裏で動く存在を実感する3人。
ニュールもピオもカームも、其処にヴェステ王国の暗躍を確信する。
自分達の居た組織…影…が行う操作そのものであり、自分達が行ってきた行動だ。

プラーデラ王国の宰相務めるピオを襲撃したのも、殺っても…殺られても…良い状況を作っている上に…絶妙な機会を利用し動いている。
とてもエリミアのお粗末な首脳陣には実行しきれまい。

「まぁ、此の国の奴らは体よく使われた…って事か…」

「有るものは全て使うのが組織の信条ですから」

ニュールの呟きに…相槌のように答えるピオだが、其処に賛否を表す感情は無く…事実を述べるのみ。
ピオが此処に有るのはニュールが居るからであり、古巣に嫌気が差した訳でもない。
もし同様の任務がニュールから下されたのなら、更にえげつなき手段講じることも厭わぬであろう。

多方向からの賢者の塔への襲撃や諸々全ての事が…道化を導き動かしていた…ヴェステの最高責任者務めるモノによる、単純な存在の誇示であるとも感じた。
其れは最高責任者務める国王の意思の中へ、彼方に…無限意識下集合記録の存在する領域に在った…カノモノの一部が…紛れ込み息づき動いている証だと言える。

『今更…契約違反を憤っていては後れを取る。奴らは…奴らの求める…興味引く物事を用意すれば自ら赴きそうだし…理由も明らかになりそうだな』

ニュールは、複雑な行動取るわりに目的は単純である事が多いアレの嗜好を推察し先を読む。

「まずはこの状況を収拾すべき良案を捻りださないと、準備する間もなく複数国から攻められてしまいそうだな」

ニュールは其処に転がされている捕らえた者たちや…攻撃された塔、戦い荒れた庭園など…周囲を見回し溜息をつく。
エリミア側が目指したのは、単純にプラーデラの非公式使節団の来訪による…混乱と不祥事のでっち上げ。
そして塔を統べる大賢者の不始末…と糾弾する予定であったのだろう。

裏で動くモノの目的はともかく…この明確な表向きの目的を回避し、事を穏便に運び…この地を去る。
来た時の目標以上に困難な任務に頭を抱える。

「もう塔を襲っている人達は消えたみたいだね。なら塔に…リーシェの所に戻ろう!」

フレイリアルの一言で取り敢えずの行動が定まった。



「流石に王宮も…国王側も全ての状況を把握していると思うよ。正しい分析や判断が出来る者がいるかは別としてね…」

賢者の塔…青の間に…捉えた襲撃者共々移動してから設けた話し合いの場。

プラーデラから使節団として表立った行動を担う者達も…エリミア側に察知されない様に呼び寄せたつもりだった。
それなのに開口一番リーシェライルが皆に告げた内容。

「だから此処に誰が居るかも…守護者の解約行われた事も、少なくとも国王達は…把握しているはずだよ」

続けて伝えられたリーシェライルの言葉は、ニュール以外の其処にいる者にとっては予想外の内容であり…驚く。
1人驚かなかったニュールが補足のように付け加える。

「"正統なる王" の承認は大地との契約でもあるから、常に微かな兆しが伝わってくる。故意に契約との繋がりを感じないようにしない限り、当然…状況は伝わるだろう。まぁ、どっちにしろフレイに会えば分かってしまうだろうがな」

「だから国王側も本格的に動き出すと思う」

リーシェライルはそう告げると、フレイリアルに問い質すように続ける。

「塔の賢者を動かして…僕らで此の国を制圧しちゃっても良いんだけど、フレイは望まないんでしょ?」

「私は此の国に居たくない。だから…私が負うべき責任を果たしたら、後は此処の人たちが勝手にすれば良いと思う」

未だに樹海の色合いなどと難癖つけるような者達が住む国。
王城に留まる事はフレイリアルにとって苦痛にしかならず…未練も感慨も感傷も…何の思いも、此の城の人々に対し持てなかった。

「でも此のまま僕とフレイが国を去れば、ニュールの所に責任の所在を求められちゃうだろうね。それはプラーデラの使節団が此のまま去っても同じことだと思うよ…」

「そうだな…どっちにしろ突かれるだろう。手を出すための口実作り…でもあっただろうからな…」

「僕はそれでも構わないんじゃあないかと思うけどね」

そう言いながら…リーシェライルはニュールに向け、柔らかく微笑む。

「…もう暫く猶予は欲しいんだがな」

ヴェステ国王シュトラに布告を受けた時から、ニュールも…いずれ訪れるであろう対峙せねばならぬ状況を覚悟している。だが、本当の敵が内に巣食う "アレ" であるのなら…もう少し準備を整えたい…と言うのが本音だ。

「逃げちゃう…って言うのが、僕的には最上の策なんだけどなぁ…」

リーシェライルは可愛らしく道化ながら…勝手な策を口にし、意味深げにニュールや周りの者を見やるのだった。
1つ目の策として "逃げる" を提示した後、更なる提案を持ち出す。

「他に僕が考えられる策としては、ニュールが…プラーデラ国王ニュールニアとして表立ち来訪する…と言う案が1つ。宰相君に死んでもらう案が1つ。エリミア国王に死んでもらう案が1つ。関わった襲撃犯全員を葬る案が1つ…かな。複合技でも良いよ!」

「オレが来訪する以外は死人が出る案ばかりだぞ…それに何でウチのピオ…宰相を片付けるんだ?」

ニュールが思わず不満を述べる。

横で聞いていたピオが目を潤ませ…歓喜の表情浮かべ恍惚としている。
ニュールが "ウチの…" と口にしたことに感動し、感極まった…様だ。

其れを見聞きしていたフレイリアルが "ケッ!" と小さく音を漏らし顔を背ける。どうもピオの言動には過剰に反応してしまう様で…とても姫様とは思えぬ行儀悪さ。

ニュールは気付いた状況を、見て見ぬふりで黙って遣り過ごし…面倒事を避ける。
リーシェライルは珍しくフレイリアル以外を目に映し…冷たく綺麗に…そして穏やかに微笑む。
其れがチョット怖い…。

「僕が示したのは手早い方策だよ、だって口を塞いでしまうのが一番簡単でしょ? ニュールが前面に出る案も、結局エリミアを…プラーデラを代表する者の言葉と力で無理やり黙らせるだけだから…あんまり変わらないと思うんだけどなぁ…」

悪びれず言ってのける口が、其処に説明を継ぎ足す。

「あぁ、君の所の宰相君を片付ける案は、エリミア側に罪を擦り付け…お前らが殺っちゃったんだからソッチにも非があるよっ…ていう妥協引き出す為の犠牲って感じ。まぁ、死んだふりして表舞台から消えてもらうのも有りだけど…ね」

事も無げに提案し、軽い感じで語る。

「後はフレイに対して失礼だし、君ん所の優秀な戦力でもあるから…イザという時の為に削いでおこうかな…って感じでもあるよ。均衡…って大事だからさっ」

にこやかに…冷血で酷薄な事を簡単に述べる。

「分かったよ…オレが何とかすりゃあ良いんだろ?」

嫌々了承するかのようなニュールに、リーシェライルは引き続き美麗な笑顔を浮かべ言葉返す。

「相変わらず…君の仲間認定は緩いんだねぇ。そんなんだと…僕ぐらいの繋がりあれば親友…って自称しちゃうよ…ふふふっ」

リーシェライルが蛇型魔物の如き妖しい笑み浮かべ、笑い声たて…丸ごと飲み込む様にニュールを包み込む。
一瞬、ウゲっとした表情を浮かべてしまったニュールを捕まえ、寛大な許しの言葉を与える。

「まったく…その反応って本当に酷いよね! まぁ、君と僕の仲だからさ…多めに見てあげるよっ。ねっ、親友!」

借金の様に…絶対に後から取り立てられそうな許しをニュールは背負ってしまった。
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