守護者契約~自由な大賢者達

3・T・Orion

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8. 大賢者其々の性質

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ニュールはリーシェライルの言葉に踊らされているのを十分に自覚している。

其れにも関わらず、自ら進み出て…自責の念を覆い被される状況に陥る脆弱さ。
単純な言葉の罠に嵌まり…足元すくわれ泥沼に沈めらてしまった間抜けたモノ。

『強いのに弱くて愚かしいのは、長所なのだろうか…短所なのだろうか…』

容易に操られ…弄ばれるニュールに、思わずリーシェライルは呆れる。

責めを負うべき事でもないのに背負ってしまうのは、常日頃からニュールの中に残る…人としての心持ちによる罪悪感か…未だ持つ清廉潔白さの証明とでも言うのかもしれない。

大賢者に至った17の歳から…生命力奪われ50の歳近くに見えるが、今では中身も28の歳。
まだまだ中堅ではあるが、既に中途半端に程良き齢。
ヴェステの影…と言う表立てぬ世界で10の年近く過ごしてきた経歴まで考えれば、清濁飲み干し揺るぎなく在って然るべき。
そんな経歴や年齢であると言うのに、善良であった只人としての部分が未だ際立つ。

リーシェライルにとって…狡猾で無情な強者である非道な魔物な部分を未だ受け入れきれていないニュールは、甘さが痛々しく…腹立たしい。
其れなのに、心地よい距離感保てる貴重な存在。
だからこそリーシェライルはニュールを玩具にし、つい…揶揄い苛むように遊んでしまうのかもしれない。

だが混迷に陥っている魔物でも、侮っていると…無意識に攻撃を放つこともある。

『取り敢えず儀式を行うにあたって、必要な確認だけは行わねば…』

ニュールは此の苦境から抜け出すべく…軽く頭を振り、攻め立てられ…乱れた思考を少しだけ取り戻す。
そして…リーシェライルと言う毒が仕込まれた…危険なクモの巣型迷宮の様な場所から抜け出すべく、足掻き…脱出する努力をする。

未だ自嘲ぎみなニュールはチョット面倒くさい感じではあるが、少しずつ正常思考取り戻し…前向きに活動始める。

「スマン、その他諸々は…無事儀式が終わったら対応させてもらう。…儀式執り行うには、もう1人大賢者が居たほうが良いんじゃないのか?」

その瞬間、リーシェライルの表情に歪みが生じる。
だが、ニュールは気付かない。

元々心の機微に疎いニュールだが、激しく掌で転がされた後であり…いつも以上にヘッポコだった。
ニュールが発した単純な事務的確認に近い問いは、予想外にも…リーシェライルへの反撃の力を持っていた。

「僕が此の器を使って大賢者役はやるんだし、繋がりを外すだけだから問題無いよ」

一見…冷静に判断して答えた言葉に聞こえるが、次に発せられた言葉から…隠された思いが漏れ出る。

「それに…人を増やすと…面倒じゃあないか…」

罠に掛かったニュールを弄び楽しみ…悦に入り浮かべていた笑みは、子供の言い訳のような言葉とともに消えていた。


携わる大賢者を増し…解約の儀を執り行うとしたら、頼るのはサルトゥスの大賢者。

声を掛けたならば、文字通り一瞬にして飛んで来るであろう…フレイリアルに従順に尽くすモノ。

そしてリーシェライルが絶対にフレイリアルに近付かせたくない、鬱陶しいぐらいに生命力溢れる熱い男。
その者と繋がりそうな糸が、リーシェライルに生物としての思いを作り出し…余裕を吹き飛ばす。

美しき金の面から冷静沈着さを剥がされ、華麗で冷酷な微笑みを失うリーシェライルの入ったグレイシャムの器。
其処には嫌悪と敵意まる出しの…余裕のない感情をあらわにした、彩り鮮やかな不快感を面に刻み…血生臭さ漂わせる男が立つ。
器の表情は、そのままリーシェライル自身の思いを表していた。

ニュールが通常状態だったなら…逆にリーシェライルをおちょくり究極の地雷を踏んでいたかもしれないが、今はまだニュールの気持ちも戻らず…其れ所じゃない。

「…貴方が全て取り仕切るなら問題無いとは思うが、…まぁ、良いだろう」

幸いな事に、通常路線から逸れずに遣り過ごす。
ニュールはリーシェライルの言葉を信じて良いか疑いつつ、了承するしかなかった。

一瞬で余裕の笑みに戻ったリーシェライルは、無意識に操り出したニュールの攻撃に報復するかのように…再度魅惑的な微笑み浮かべ切り出す。

リーシェライルと言うモノは、たとえ…息絶そうになるまで攻撃してきたとしても…決して反撃してはいけない存在。
手違いや無意識による… "他意無き損害" であったとしても、其れを攻撃と認識された瞬間…自動追尾による報復攻撃を受けることになる。
其れは肉体的攻撃であっても、精神的攻撃であっても…全く変わらない。
ある意味…公平に平等な制裁を加えてくる存在…である。

そして今回は "アルバシェル" …と言う存在を匂わせる、一寸した地雷を仕掛けてしまった事へのお仕置きとして…精神的に削られる事になる。
其処には…お茶目で残酷で小意地悪な美しき魔物が、玩具で遊ぶように再びニュールにちょっかい出そうと手ぐすね引いて待っていた。

「あぁ…そう言えば…これも伝えておくべきかな…」

ニュールが同意した直後…今気付きましたとばかりに、追加事項述べようとする。

「一応…大賢者役は僕が行うけど、フレイは守護者契約結ぶ時に体内魔石ではなく彼方に繋がる魔力塊そのものと回路開き…導き…契約しているんだ。その分ちょっと繋がりが複雑かもしれないから、こっちの補助も宜しくね…」

リーシェライルは重大な懸案事項を気軽に付け足してきた。
ほんの直前まで…リーシェライルが入るグレイシャムであった器は、全てを超越するような美しい微笑み浮かべ "問題無い" と言ってた…はず。
その舌先乾かぬうちに…愉悦の表情浮かべ…言葉翻す。

『そうだ…此の御方はこう言うモノ…だった』

改めて思い出す…魔物な心持つニュールさえも翻弄する、傑物と言うか…妖怪…本物の魔物的なモノ。
お陰様でリーシェラル様の手持ち人形でもないのに、恩を着て責任背負い込む重装備へと…ニュールは着せ替えられてしまった。
まぁ…既に友人と言う名の下僕である事を了承してしまっているニュールには、文句を述べる権利は無い。

リーシェライルが万人を魅了する…高貴で此の世のものとは思えない美しい笑みを面に浮かべる時、示す感情は大概どちらかである場合が多い。

その笑みに冷たさが入ってなければ無茶振りする享楽に浸る愉悦の笑みであり…絶対零度の冷たさ持つ場合は究極の不快感込められた最終宣告もたらす笑みとなる。

そこに込められた共通する意味は、 "何がもたらされても拒否することは不可" …であると言うこと。

器は異なれど表す意味合いは同じ。
本来のリーシェライルの中性的外見より野性味の増した美麗さ持つ今の器は、残忍な秀麗さを力強く際立たせる。
リーシェライルとの付き合いが長い訳では無いが、曲者の扱いに長けていると自負を持つニュール。そのニュールさえもたじろがせる。

微笑み付きの1つの "宜しく" で、10倍の厄介事を処理しなければいけないであろうことを…ニュールは覚悟する。
そしてリーシェライルに、今後とも良いように使われる道への通行手形が発行されてしまったことを悟るのだった。

それでも…程よき関わりで済むことを切に願うニュールだったが、リーシェライルに興味を示されれば退けるのは難しい。
リーシェライルが関心示すのは、弄ぶ為の面白きモノか…保護する愛しきモノ。
後者はフレイリアルだけである。
それ故に度が過ぎ、他者への迷惑省みぬ事も…多々あるようだ。


ニュール達がエリミアを訪れる大分前、大事変…起きた後。程々に世の中が落ち着き取り戻し、其々が自身の立ち位置を模索して活動していた頃。

自重知らぬフレイリアルは、自身が置かれている政治的状況などは一切考慮せず…大事変で破壊された…国内にある水の旧機構の修繕・復旧などなど精力的に手を加えていた。

「遣りすぎは危険だよ。フレイ自身が疎まれ狙われる」

内なる状態のリーシェライルからも、注意促す声を掛けを何度も受けていた。

「疎まれるのは慣れっこだよ。此の国を縛り付ける機構から…末端を切り離して独立させ、その後さっさと逃げちゃえば大丈夫だよ!」

朗らかにあっけらかんと聞く耳を持たないフレイリアル。
過信では無く…成し遂げる能力も回避する能力も持つのだが、危険である事に変わりない。

エリミアの第6王女であり、賢者の塔を引き継ぐ大賢者でもあるフレイリアルは、権力争いとは縁遠くとも…中枢に在るモノ。
其れなのに…王国内の権力的均衡など何も考えずに行う…フレイリアルの自由気儘な活動は "王権揺るがす行為" と認識され、意図せずに…若干とは言えないぐらいの危険視し糾弾する者達を生み出す。

「アレを自由にさせていて良いものか!」

「利用価値はある…」

「時満ちるまでは穏便に…その後は…」

国王や其の周囲の妥協や思惑により…結局利用すべく担ぎ上げられたフレイリアル、色々な意味で注目を浴びる存在となる。
表面上は往古の機構修繕・復旧の功績称える…と持ち上げてくるが、隙を伺い…監視しながら排除の機会を狙う。
そんな目論見が、あからさまに透けて見えた。

更にフレイリアルが修繕・復旧…と言っていた機構の改修行為は、実際には改変であり…旧機構からの切り離しと独立した新機構の再構築である。
其れは利権求める王族が介入する余地を持っていた…賢者の塔が中央で集中管理する…往古の機構から導く魔力供給に頼るものではなく、賢者の塔での管理が不要な新機構。
末端で解決出来る機構として、フレイリアルが新しく作り上げたものだった。

旧体制下の影響受けぬ新機構へと少しずつ改良する事で、実際利用する者達は恩恵を受ける。だが…魔力供給の優遇や修繕について…中央への口利きを希望する者達から別口の恩恵を受けていた地方の末端王族は、状況の変化に…少しずつ不満募らせる。

そして新たなる事態引き起こしたフレイリアルを目の敵にし、表から裏から手を尽くし…口撃と攻撃を強める。

「余計なことをする愚昧な異端の王女め!」

「力を手に入れたからと言って、この国の色合い持たぬ者は出ていくのが必定…」

「不正に手に入れた力を塔に返すべく、塔に繋ぎ幽閉してしまえ!」

エリミアでの樹海的な色合いへの忌避は…相変わらず健在であり、フレイリアルは再び過激に狙われることになったのだ。


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