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5. 腹立たしき邂逅
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ニュールが見学したいものがある場所はヴェステ王国王宮。
他国の王宮…しかもニュールのプラーデラ王国とは、友好的関係を築く間柄…とは決して言えない国。
むしろ敵対的関係の国だが、現在は休戦中…と言った感じの関係であった。
それでもニュールは今までの因縁など気にせず、自ら向かう。
以前ヴェステに赴き勝手に登録しておいた地点へ、着の身着のまま直接転移する。
「あぁ、以前よりは大分工夫された防御結界陣が築かれているようだな…」
以前ニュールが容易に侵入してしまった分、ヴェステ王城全体に其れなりの対抗策講じてはあったようだ。
この前より水準を上げた、数段高度で複雑な防御結界陣が築かれていた。
ただし…大賢者の能力を活用すれば、陣の構造読み取り隙間探して入り込む事は楽勝であり…難なく王宮に入り込んだニュール。
其の上で展開されていた陣の改良に対し、 "称賛" …のような感想を述べたのだ。
もし…陣を築いた者が聞いたのなら嫌味にしか思えないであろう。
遥か高みから見下ろす目線での…凡愚な者へ向けた、虫けらの如き小さな努力への…労い。
ある種の憐れみ含む様な感想…ではあるが、一切の悪気は無い。
賢者水準で…通常の転移陣を使った転移をする…と考えたのなら、他者が築いた結界の中へ転移すること自体が本来不可能であり…此処までの水準の防御結界陣を必要としない。
だから、此処に用意された陣は…ニュールの為にのみ…大賢者に対してのみ用意された、努力の痕跡である…と理解しての感想だった。
防御結界陣が張り巡らせてあるような場所での転移は、其の都度結界を一部解除するか…部分的に結界を築かない場所を作り転移陣を置く。
最先端の研究の中には、大賢者が行うような転移を可能にする道具を開発中…ではあるようだ。
賢者と大賢者の能力の違い、それは基本法則を無視するかの如き卓越した魔力操作能力…と内包魔石自身が持つ魔力量の差。
単純に言えば、賢者の石と…ただの魔石が持つ魔力量の差。
勿論…大賢者となった者の資質が大きく関与するが、そもそも資質なければ賢者の石を内包出来ず…大賢者になり得ない。
大賢者に至れる者のみ、常識を越えた存在として "有り得ない" …と言われる状況を創り出す能力を得るのだった。
「こんな厳重に結界張り巡らされた城の深層に…問題なく侵入している時点で、向こうにとっては工夫云々以上の大問題だと思うんだがなぁ…」
相変わらずのニュールの化け物っぷり溢れる魔力操作を目にし、思わず呆れるしかないディアスティス。
此のあっけない他国の城への侵入は、それと同時に感知されないためのあらゆる魔力が展開されている状態にもなっていた。
大賢者と言うモノは、1人で最先端の研究を凌駕してしまうようだ。
「流石ニュールニア様、美しく完璧で理想的で完全無欠の転移です。貴方様の御目を汚すように存在した、こんな玩具の様に浅薄な結界を褒めるのは止めて下さい。匠の技お持ちになる我が君に太刀打ち出来る者など存在しないのは当然ですし、秀逸な貴方様を阻もうとすること自体が愚かしい上に烏滸がましいのです」
ピオは聞くのも面倒臭くなるぐらいの称賛の言葉を捧げる。
そして…おどけた雰囲気ではあるのだが、何処か狂気孕む本気の言葉で…気持ちとも…意見とも言えない希望を主張する。
「お願いですから此のような児戯に等しき技に、評価を与えるなどと仰らないで下さい。僕…悔しくなっちゃいます。ミーティくんは僕も可愛がってるから何とか許せますが、此処の方々が…この程度の技術で誉められるなんて許せません…」
何故だかピオの目が久々に壊れた輝きを帯び、取り繕った仮面が剥がれた…僕呼びになっている。ミーティに時々向けるのと同じ、羨望含む眼差しを虚空へ向け…いつも以上に殺伐として危うい。
ふざけて見せてるが、瞳が本気であり…此のまま放置すれば此処の防御結界陣を築いた者達の命が危うくなりそうだ。
基本…鬱陶しく面倒な奴であるため、何をしようが害悪にならない限り…ニュールはピオを放置してきた。
だが、能力的には大変に優秀…と言えるピオ。
国王ニュールニアの…身の回りの雑務的補佐から…宰相としての政務補佐、何でも立案何でも実行する。
口に出せないような案件まで片付ける1人実動部隊であり、卒なくこなす。
魔物な心持ちのニュールに近い…狂気秘めた冷酷な者であるが、ニュールに付き従い甲斐甲斐しく働きまくっていたのだ。
ニュールに心酔し…敵方から寝返り…此の場にあるが、ピオを敢えて評価し労った事が無い事に…ニュールは気付く。
『こいつが違和感なく横にいるというのに、ちゃんと対応してなかったんだな…』
他の者に対しても基本…同様に放置しているニュールだが、変質的な執着を感じる…美辞麗句並べ立て鬱陶しさ全開で寄り添うピオに対して…他の者より一層冷たく対応していたかもしれないと反省する。
来るもの拒まぬニュールは、其処らへん…魔物的冷淡さが過ぎる。
ニュールは無表情なままピオに向かうと、いきなりポスリっと頭に手を乗せる。
「すまなかったな。おまえの優秀さと働きは、此処の陣など比べものにならないぐらい評価しているぞ…」
其の瞬間空気が緩和する。
いつものピオならば…其の初めての称賛に対し、感謝感激の過剰な言葉が帰って来そうなものだが…視線逸らし無言・無表情と言う反応。
口の端が僅かに上がり、素直とは程遠い喜び方をしているのだった。
ちょっとした悪ノリや予想外の反応はあったものの、ピオはきっちり仕事をこなす。
周囲への警戒怠らず、話を持ち込んだ者として…目的地となる不明の陣までしっかりと誘導するのだった。
陣が発見されたのは、謁見の間横に設けられた控えの間から。
丁度ニュールが最初にヴェステから脱出し…エリミアに逃れた頃に見つかったらしい。
控えの間の改修行うために壊された床から発見されたのだ。
「これが其の陣です」
ピオが指し示したモノは直径2メル程の魔法陣であり、あらかじめ聞いていた通り…一見しただけでは目的を図りかねるモノであった。
部屋の改修時一部壊してしまったような痕跡はあるが、陣として魔力流れるまでに修復されてはいるようだ。座標が特定の場所に繋がっているのは分かるのだが、それ以上でもそれ以下でもない。
陣を築くのに使用されている魔石で半永久的に持続しそうな構造をしているが、これと言った働き持たなそうな陣なのである。
実際に触れ確認しても、特に魔力動き出すような…新たなる現象起こる気配は無い。
「確かに座標が刻まれているが、魔力を流し込み動かしても何の働きも起きぬか…」
自分の体内魔石や手持ちの魔石の魔力を注いでも、陣が動き始めることはなかった。
「作動させる…と言うより、魔力送り込むための…もの…?」
更にニュールは床に刻まれた陣に触れ、其の座標を読み取り気付く。
「?? この場所は…」
ニュールが何らかの気付きを得た時、隠蔽や静穏、探索に防御…騒動起きぬように広げていた様々な魔力に…無理矢理押し入るように干渉しながら入り込んだモノが現れた。
「久しぶり…になるのかな?」
そこには名乗らずとも知った顔があった。
此の城の主であるヴェステ王国国王、シュトラ・バタル・ドンジェが立っていた。
生粋の王族らしい優雅な仕草で微笑み、ゆるりと…たおやかな風情で入口から声を掛けてくる。
ゆるゆると…余裕持ち歩み寄ってくるが、その動きに一切の無駄が無い。ニュールの前に自然とピオとディアスティスが壁を作る。
一見して高貴なるモノの風情持つのに…人懐こいような無邪気な表情を浮かべる妖しげなモノ。
優雅であるのに、決して隙を見せぬ…肉食魔物的動きと重なる所作。
現れたヴェステ国王に一分の隙もない。
しかし…敵意…と言ったものは感じられ無いのだが、示される好奇心が不快に纏いつき…思わず払いのけたい気分になる。
友好的な笑顔で打ち解けたモノの様に近付いて来るが、空虚な瞳の内に本来あるべき意思は…存在しなかった。
「確かに久しぶり…だな、その器とも…中身とも…」
「さすがに君の眼はごまかせないよねぇ」
「なぜお前が其処に居るんだ?」
ニュールの表面上の様子は沈着冷静であり…さざ波一つ無い…感情の動きの全く感じられぬ状態だった。
むしろ相手に負けず劣らず、虚無が巣食うが如き空洞感…スッポリ抜け落ちたような漆黒の闇を抱えているかのように見える。
だが察知する能力のある者は気付くだろう。
その薄氷の下に、圧し殺すように隠した…寒気催す程の憎しみがニュールの奥底から渦巻く様に湧き上がってるのを…。
連れの2人…相当な強者であるピオとディアスティスでさえも、ニュールの内に潜む尋常ならざる殺気を感じ…背筋に冷たいものが走り意識が凍り付く。
「願いの代償として肉体を受け取ったんだ。彼は魂の自由を求めていたからね…」
気軽に気楽に返答しニュールの殺意を受け流すモノ。その返答でニュールの気持ちを一気にザワつかせ、秘めていた憎悪を表面に浮き上がらせる。
ニュールの前に立つのはヴェステ王国の国王の器持つが中身は別物だった。
中身は…あの日、大地創造魔法陣を動かしたモノ。
全体の意思を表す個であり、無限意識下集合記録が持つ人格…グレイシャムの中に入っていたモノだった。
「人を馬鹿にする様な契約結ばせた上に、早速の契約不履行か? 遣りたい放題だな…。所詮そのような低次元な存在だった…と言うことか」
ニュールが吐き捨てるように、次々と怒り持つ蔑みの言葉を叩きつける。
「そんなに怒んないでよ! これは君らの契約とは別口…この体の主との契約だよ。それに此の器の主だった者との契約や…君達との契約に縛られているから、自由に干渉は出来ないんだからね。基本的に情報取り入れるための目としてしか使えないんだから安心してよ」
一切悪びれずに…却ってニュールを責めるかのように状況説明する。
「幾らでも言いようがあるな…」
「本当だよ。此の器の持ち主が希望した、この国が現状維持出来る位の…程々な感じの発展と人々の安寧。それが、我の活動範囲だよ…」
いくら彼の地のモノが問題ないと訴えても、凍り付いたニュールの心は動かない。
簡単に当然の様に主張するそのモノの存在自体が、ニュールにとって納得がいかないのだ。
だが、そのモノは更に主張を続ける。
「我が、器との契約によって維持すべき状態を保てるならば…其れ以上は望まないし、他に干渉するつもりもないよ」
楽し気に微笑みながら、人外の…世界の外から入り込む意思は述べる。
「我が此処に在るための契約は、この器との間で交わされたもの。つまり器滅びれば、完全に我らの側からの干渉は消える…」
相手の望む先を描き叶えるかのような…誘惑する言葉操り…自身の望む未来へ相手を陥れようとする。
「この器を滅ぼす努力…してみるのも一興だと思うよ。我もこの世界での戦いを生身で感じてみたいのだがなぁ」
余裕の笑みを浮かべ、ニュールを煽り立てソソノカスのだった。
他国の王宮…しかもニュールのプラーデラ王国とは、友好的関係を築く間柄…とは決して言えない国。
むしろ敵対的関係の国だが、現在は休戦中…と言った感じの関係であった。
それでもニュールは今までの因縁など気にせず、自ら向かう。
以前ヴェステに赴き勝手に登録しておいた地点へ、着の身着のまま直接転移する。
「あぁ、以前よりは大分工夫された防御結界陣が築かれているようだな…」
以前ニュールが容易に侵入してしまった分、ヴェステ王城全体に其れなりの対抗策講じてはあったようだ。
この前より水準を上げた、数段高度で複雑な防御結界陣が築かれていた。
ただし…大賢者の能力を活用すれば、陣の構造読み取り隙間探して入り込む事は楽勝であり…難なく王宮に入り込んだニュール。
其の上で展開されていた陣の改良に対し、 "称賛" …のような感想を述べたのだ。
もし…陣を築いた者が聞いたのなら嫌味にしか思えないであろう。
遥か高みから見下ろす目線での…凡愚な者へ向けた、虫けらの如き小さな努力への…労い。
ある種の憐れみ含む様な感想…ではあるが、一切の悪気は無い。
賢者水準で…通常の転移陣を使った転移をする…と考えたのなら、他者が築いた結界の中へ転移すること自体が本来不可能であり…此処までの水準の防御結界陣を必要としない。
だから、此処に用意された陣は…ニュールの為にのみ…大賢者に対してのみ用意された、努力の痕跡である…と理解しての感想だった。
防御結界陣が張り巡らせてあるような場所での転移は、其の都度結界を一部解除するか…部分的に結界を築かない場所を作り転移陣を置く。
最先端の研究の中には、大賢者が行うような転移を可能にする道具を開発中…ではあるようだ。
賢者と大賢者の能力の違い、それは基本法則を無視するかの如き卓越した魔力操作能力…と内包魔石自身が持つ魔力量の差。
単純に言えば、賢者の石と…ただの魔石が持つ魔力量の差。
勿論…大賢者となった者の資質が大きく関与するが、そもそも資質なければ賢者の石を内包出来ず…大賢者になり得ない。
大賢者に至れる者のみ、常識を越えた存在として "有り得ない" …と言われる状況を創り出す能力を得るのだった。
「こんな厳重に結界張り巡らされた城の深層に…問題なく侵入している時点で、向こうにとっては工夫云々以上の大問題だと思うんだがなぁ…」
相変わらずのニュールの化け物っぷり溢れる魔力操作を目にし、思わず呆れるしかないディアスティス。
此のあっけない他国の城への侵入は、それと同時に感知されないためのあらゆる魔力が展開されている状態にもなっていた。
大賢者と言うモノは、1人で最先端の研究を凌駕してしまうようだ。
「流石ニュールニア様、美しく完璧で理想的で完全無欠の転移です。貴方様の御目を汚すように存在した、こんな玩具の様に浅薄な結界を褒めるのは止めて下さい。匠の技お持ちになる我が君に太刀打ち出来る者など存在しないのは当然ですし、秀逸な貴方様を阻もうとすること自体が愚かしい上に烏滸がましいのです」
ピオは聞くのも面倒臭くなるぐらいの称賛の言葉を捧げる。
そして…おどけた雰囲気ではあるのだが、何処か狂気孕む本気の言葉で…気持ちとも…意見とも言えない希望を主張する。
「お願いですから此のような児戯に等しき技に、評価を与えるなどと仰らないで下さい。僕…悔しくなっちゃいます。ミーティくんは僕も可愛がってるから何とか許せますが、此処の方々が…この程度の技術で誉められるなんて許せません…」
何故だかピオの目が久々に壊れた輝きを帯び、取り繕った仮面が剥がれた…僕呼びになっている。ミーティに時々向けるのと同じ、羨望含む眼差しを虚空へ向け…いつも以上に殺伐として危うい。
ふざけて見せてるが、瞳が本気であり…此のまま放置すれば此処の防御結界陣を築いた者達の命が危うくなりそうだ。
基本…鬱陶しく面倒な奴であるため、何をしようが害悪にならない限り…ニュールはピオを放置してきた。
だが、能力的には大変に優秀…と言えるピオ。
国王ニュールニアの…身の回りの雑務的補佐から…宰相としての政務補佐、何でも立案何でも実行する。
口に出せないような案件まで片付ける1人実動部隊であり、卒なくこなす。
魔物な心持ちのニュールに近い…狂気秘めた冷酷な者であるが、ニュールに付き従い甲斐甲斐しく働きまくっていたのだ。
ニュールに心酔し…敵方から寝返り…此の場にあるが、ピオを敢えて評価し労った事が無い事に…ニュールは気付く。
『こいつが違和感なく横にいるというのに、ちゃんと対応してなかったんだな…』
他の者に対しても基本…同様に放置しているニュールだが、変質的な執着を感じる…美辞麗句並べ立て鬱陶しさ全開で寄り添うピオに対して…他の者より一層冷たく対応していたかもしれないと反省する。
来るもの拒まぬニュールは、其処らへん…魔物的冷淡さが過ぎる。
ニュールは無表情なままピオに向かうと、いきなりポスリっと頭に手を乗せる。
「すまなかったな。おまえの優秀さと働きは、此処の陣など比べものにならないぐらい評価しているぞ…」
其の瞬間空気が緩和する。
いつものピオならば…其の初めての称賛に対し、感謝感激の過剰な言葉が帰って来そうなものだが…視線逸らし無言・無表情と言う反応。
口の端が僅かに上がり、素直とは程遠い喜び方をしているのだった。
ちょっとした悪ノリや予想外の反応はあったものの、ピオはきっちり仕事をこなす。
周囲への警戒怠らず、話を持ち込んだ者として…目的地となる不明の陣までしっかりと誘導するのだった。
陣が発見されたのは、謁見の間横に設けられた控えの間から。
丁度ニュールが最初にヴェステから脱出し…エリミアに逃れた頃に見つかったらしい。
控えの間の改修行うために壊された床から発見されたのだ。
「これが其の陣です」
ピオが指し示したモノは直径2メル程の魔法陣であり、あらかじめ聞いていた通り…一見しただけでは目的を図りかねるモノであった。
部屋の改修時一部壊してしまったような痕跡はあるが、陣として魔力流れるまでに修復されてはいるようだ。座標が特定の場所に繋がっているのは分かるのだが、それ以上でもそれ以下でもない。
陣を築くのに使用されている魔石で半永久的に持続しそうな構造をしているが、これと言った働き持たなそうな陣なのである。
実際に触れ確認しても、特に魔力動き出すような…新たなる現象起こる気配は無い。
「確かに座標が刻まれているが、魔力を流し込み動かしても何の働きも起きぬか…」
自分の体内魔石や手持ちの魔石の魔力を注いでも、陣が動き始めることはなかった。
「作動させる…と言うより、魔力送り込むための…もの…?」
更にニュールは床に刻まれた陣に触れ、其の座標を読み取り気付く。
「?? この場所は…」
ニュールが何らかの気付きを得た時、隠蔽や静穏、探索に防御…騒動起きぬように広げていた様々な魔力に…無理矢理押し入るように干渉しながら入り込んだモノが現れた。
「久しぶり…になるのかな?」
そこには名乗らずとも知った顔があった。
此の城の主であるヴェステ王国国王、シュトラ・バタル・ドンジェが立っていた。
生粋の王族らしい優雅な仕草で微笑み、ゆるりと…たおやかな風情で入口から声を掛けてくる。
ゆるゆると…余裕持ち歩み寄ってくるが、その動きに一切の無駄が無い。ニュールの前に自然とピオとディアスティスが壁を作る。
一見して高貴なるモノの風情持つのに…人懐こいような無邪気な表情を浮かべる妖しげなモノ。
優雅であるのに、決して隙を見せぬ…肉食魔物的動きと重なる所作。
現れたヴェステ国王に一分の隙もない。
しかし…敵意…と言ったものは感じられ無いのだが、示される好奇心が不快に纏いつき…思わず払いのけたい気分になる。
友好的な笑顔で打ち解けたモノの様に近付いて来るが、空虚な瞳の内に本来あるべき意思は…存在しなかった。
「確かに久しぶり…だな、その器とも…中身とも…」
「さすがに君の眼はごまかせないよねぇ」
「なぜお前が其処に居るんだ?」
ニュールの表面上の様子は沈着冷静であり…さざ波一つ無い…感情の動きの全く感じられぬ状態だった。
むしろ相手に負けず劣らず、虚無が巣食うが如き空洞感…スッポリ抜け落ちたような漆黒の闇を抱えているかのように見える。
だが察知する能力のある者は気付くだろう。
その薄氷の下に、圧し殺すように隠した…寒気催す程の憎しみがニュールの奥底から渦巻く様に湧き上がってるのを…。
連れの2人…相当な強者であるピオとディアスティスでさえも、ニュールの内に潜む尋常ならざる殺気を感じ…背筋に冷たいものが走り意識が凍り付く。
「願いの代償として肉体を受け取ったんだ。彼は魂の自由を求めていたからね…」
気軽に気楽に返答しニュールの殺意を受け流すモノ。その返答でニュールの気持ちを一気にザワつかせ、秘めていた憎悪を表面に浮き上がらせる。
ニュールの前に立つのはヴェステ王国の国王の器持つが中身は別物だった。
中身は…あの日、大地創造魔法陣を動かしたモノ。
全体の意思を表す個であり、無限意識下集合記録が持つ人格…グレイシャムの中に入っていたモノだった。
「人を馬鹿にする様な契約結ばせた上に、早速の契約不履行か? 遣りたい放題だな…。所詮そのような低次元な存在だった…と言うことか」
ニュールが吐き捨てるように、次々と怒り持つ蔑みの言葉を叩きつける。
「そんなに怒んないでよ! これは君らの契約とは別口…この体の主との契約だよ。それに此の器の主だった者との契約や…君達との契約に縛られているから、自由に干渉は出来ないんだからね。基本的に情報取り入れるための目としてしか使えないんだから安心してよ」
一切悪びれずに…却ってニュールを責めるかのように状況説明する。
「幾らでも言いようがあるな…」
「本当だよ。此の器の持ち主が希望した、この国が現状維持出来る位の…程々な感じの発展と人々の安寧。それが、我の活動範囲だよ…」
いくら彼の地のモノが問題ないと訴えても、凍り付いたニュールの心は動かない。
簡単に当然の様に主張するそのモノの存在自体が、ニュールにとって納得がいかないのだ。
だが、そのモノは更に主張を続ける。
「我が、器との契約によって維持すべき状態を保てるならば…其れ以上は望まないし、他に干渉するつもりもないよ」
楽し気に微笑みながら、人外の…世界の外から入り込む意思は述べる。
「我が此処に在るための契約は、この器との間で交わされたもの。つまり器滅びれば、完全に我らの側からの干渉は消える…」
相手の望む先を描き叶えるかのような…誘惑する言葉操り…自身の望む未来へ相手を陥れようとする。
「この器を滅ぼす努力…してみるのも一興だと思うよ。我もこの世界での戦いを生身で感じてみたいのだがなぁ」
余裕の笑みを浮かべ、ニュールを煽り立てソソノカスのだった。
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