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1. 思い返してみたならば…
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"プラーデラ王国の勇猛果敢なる御一行"
"そう呼ぶに相応しき…強き正しき力持つプラーデラ王国・国王ニュールニア様と周辺の者達は、闇石の暴走を終息させ…危地を救う輝かしき栄光を背に、颯爽と神聖なる樹海より出立する"
「なんだ?! 此のクソ痒くなりそうな文章は…記録…石…か?」
ニュールが微かな魔力の痕跡に注目し、歩み寄り見つけた魔力によって文字を刻まれた石板。
刻まれた文章を読み、顔をしかめて呟く。
其の背後からミーティが覗き込み、黒髪黒目の均整の取れた容貌に…悪戯っぽく楽し気な表情浮かべ…揶揄う気満々で説明を加える。
「此れ…中央広場にあるメチャメチャ目立つ石碑に、語り部の記録として貼り付けて保存されるやつだ。1000年経っても同じ状態を保てるらしいぞ!」
樹海の集落では、語り部達による記録無き…記憶による記録の継承以外にも文書として大きな出来事は記録して保存する。
近くで静観していたモーイも、そっぽを向いたまま金の巻き毛をクルリと指で巻き…青の瞳持つ美神のような整った容貌に小意地悪な笑みを浮かべ…楽し気に口を開く。
「この文章だと…恥ずかしくなるぐらい凄いヤツに感じるよな…」
「…勘弁して欲しいんだが…」
モーイの言葉に、呟き漏らし…額に手を当て天を仰ぎ…ニュールは途方に暮れる。
ぼやく姿は、プラーデラ国王ニュールニア…として祀り上げられるたモノにしては…何処から見ても普通のオッサンとしか言いようのない冴えない男。
「えっ? ニュールは格好よく名前も書いてあるからいいじゃん! オレなんて名無しの周辺の者…其の1って感じだ…ですよ!」
半分揶揄い…半分心からの思い…で慰めのような言葉を追加するミーティだが、ふと思い出したように…若干言葉を改める。
樹海の集落での事件に巻き込まれ…自身の明確な意思を見出したミーティ。
忠義捧げる者としての決意を新たに胸に刻み、自身の内での "ケジメ" と言った思いを掲げ…国王に仕える者としての努力を始める。
だが…時の刻みの長短以上に…繋がり深き仲間であり、一筋縄では変えられない。
それでも…以前より芯の通った表情でキリリと傍で控えるミーティは、未だ少年っぽい面差しを真面目一色に染め上げ…鍛え上げられた青年らしい肉体をシャキッと伸ばし、今回プラーデラ王国将軍補佐として…国王ニュールニアを警護するために懸命に張り付く。
護衛と言う立場で行動共にはするのだが、建前…としか言いようがない警護役。
ミーティ達が守るべき国王は…優れた魔力操作と魔石なくとも大魔力を扱える…世界の外側との繋がり深き存在、体内魔石として賢者の石を保有する…大賢者。
護衛を助けに行ってしまうぐらい強い。
魔力操る能力高い高位魔石を内包する者や…特別な能力として往古からの知識を継承する語り部が存在する能力高き者を排出する樹海の集落。
力ある集落の中だけで片付けられなかった不祥事。
内部の者が引き起こした、穢れ絡みつく魔力内包せし闇石の…暴走。
最終的に…突如現れて壊滅的な被害を防ぎ、危機に瀕するミーティとモーイ…そしてミーティの祖母である語り部の長アクテを…さらりと救ったモノ。
美味しい所を掻っさらい現れたのは、プラーデラ王国の国王ニュールニア…ニュールだった。
黄土の髪色と橙色の瞳持つ…一見すると40代後半と言った感じの、人の良さそうなオッサン。賢者の石に若さ奪われ…オッサンと化し、代償として与えられた…呪いのような大賢者としての力を受け取ったモノ。
もし…力そのままに解き放つのなら、体内に持つ賢者の石へと変化した魔物魔石から…人を威圧し恐慌もたらす様な魔力が導き出され…周囲を飲み込むであろう。
其れを巧みに隠蔽までしている。
「げに恐ろしきモノよ…」
アクテが誰にも覚られず呟いた、ニュールに対し思わず出た言葉。
皆が笑顔で囲む…呑気で緩い雰囲気の其のモノが、表情崩さぬままに…害となる者を処断する…冷酷にして無慈悲かつ陰惨な面をも含有する…魔物な心を併せ持つ存在であると気付く者は少ない。
其の両極にある本質を覚るのは、極一部の者だけだった。
事件の後…ニュールの公的立場が明らかになり、樹海の集落でも丁重で慎重な対応を要する滅多にお目にかかれない珍客への対処に慌てる。
珍客ではあるが賓客…その様な要人が集落の恩人にまでなっているのだから、崇め奉られるは必然。
即…公式な奉迎の宴が催されたのも致し方ない。
有難くも…有難くない短期間に詰め込まれた歓待の嵐が収束する頃、樹海の集落からエリミア王国へ向かう準備も整い…やっと生まれた隙間時間。
思うままに去る訳にもいかなくなったニュール達は、集落内の見学をしながら…次の場へ赴くための最後の儀礼を通過すべく…門へゆっくりと向かう。
此の緩やかな時の流れに…ケジメを持つべく努力していたミーティも、旅をしているような雰囲気に流されていた。プラーデラ王国の国王ニュールニアと其の周辺の者としてではなく、旅の仲間だったニュールへの気安い対応に戻る。
「そう言えば、なんでニュールはフレイの守護者やってるんだ?」
相変わらず脈絡なく質問するミーティ。
「あぁ、アタシも聞いた事ないぞ」
横にいたモーイも、ミーティ同様…いつものままに興味を示す。
ニュールは2人の突然の問い掛けに苦笑しつつ、変わらぬミーティとモーイに安堵し…自身も取り繕わぬ気持ち其のままに…答えを返す。
「まぁ、何だかんだと引き受けざるを得なかったんだよ…」
人の良さそうな…少し困った感じの笑みは、其の頃と変わらない…人間味溢れるモノに見えた。
エリミア辺境王国第6王女フレイリアル・レクス・リトスの守護者。
巻き込まれ…願い乞われ…引き受けた形ではあったが、ニュール自身が決断した任。
其々が大賢者になってしまったと言うのに未だ結ばれている契約。
「エリミアの王族が活動するためには確かに必須だったからなぁ。まぁ、差し迫った状態で余程焦ってたんだろうな」
ニュールはフレイリアルとの出会いを思い返し、ほんの1の年程の前の事だと言うのに…少し懐かしい…と言った表情を浮かべる。
意思持つ新緑の瞳と…其の地では異端と言われる肥沃な大地の色した髪を持つ、1人でエリミアの荒地をうろつくには幼過ぎるように見えた少女。
庇護されるべき年齢の容貌であるのに、中身は目的を遂げるのに余念無きモノだった。
其の少女から声を掛けられ…騙されるように引き入れられ、最終的には共に選任の儀…守護者任命の儀へ参加していた。
「餓鬼だからって…全く知らない奴からの頼みを引き受けたのか?」
経験上…餓鬼でさえも信用ならないのを知っているモーイから、 "呆れた" …と言った表情で…当然のように突っ込みを入れられる。
「マントは被ってたけど6~7の歳ってぐらいにしか見えなかったし、見捨てる訳にも行かなかったんだよ」
「まだ其の頃は、身体だけお姉ちゃんな感じになってなかったのか?」
ミーティの素朴で正直な疑問と…豊満な体つき表す身振り手振りに、隣のモーイが…無言で容赦なく脳天に手刀振り下ろす。
ニュールは其の様子を微笑ましそうに見ながら、話を続ける。
「あぁ、思いっ切り子供だったからな」
そしてチョット遠い目をし…残念そうに言葉漏らす。
「…お陰で憧れていた平穏な暮らしを…早々に切り上げる事になっちまったんだがな…ふふふっぅ」
出身がヴェステの影…暗躍を生業とするような場所に所属していたニュール。
人間らしからぬ場所から脱出し…逃れた先のエリミアで…夢に見た普通で平穏な生活を叶えた…と言うのに、結局巻き込まれ手放す事になる。
自嘲する様な言葉には、笑いのような深い溜息まで追加されていた。
刺客や追手…賢者の塔への襲撃、守護者の任命までに怒涛の如く押し寄せた様々な出来事。ヴェステ王国によってもたらされた、数々の因縁を思い浮かべる。
「自分自身が選んだ道とは言え…フレイの願い…天空の天輝石を求める旅へ同行して、手助けするだけの予定だったんだ…。まぁ…リーシェライル様にお会いして、選択の余地は無くなったんだけどな」
「リーシェライル様に出会った時点で確かに終わりだな…」
モーイはニュールの其の言葉に心から同意する。
会った事の無いミーティだけが1人不思議そうに尋ねる。
「なんでだ? 性別を超えた絶世の美しさ持つ、取っ付きにくいけど…凄く優しい奴だってフレイは言ってたぞ」
思わずニュールとモーイが固まる。
「月光を反射したような銀糸の髪と宵闇の光移るような薄青紫の瞳の…壮絶に美麗な面差しの…性別を超越した畏怖する美しさを持つ御方…だな」
「確かに…美しく恐ろしい…って言葉しか出てこない、落ちたら二度と戻れない…深淵覗き込む様な美貌だった…」
「恐ろしく美しい…なんじゃないのか?」
ミーティが、ヘロっと笑いながら揚げ足取りのような突っ込みを入れるが…答えたのはニュールだった。
「いやっ、モーイが言う通り…美しく恐ろしい…が正解だ」
リーシェライルの事を語る2人から何だか魂が抜けていくような…抗うのが無駄…と言った雰囲気が漏れ出てくる。
『…詳しく知ってはイケナイモノ…って事か…』
察しが良い方でも…気が利く方でも無いが、勘だけは働くミーティ。
2人の雰囲気で何となく理解した。
ミーティは…フレイと他の者達との感想の落差について、詳しく追及しないことに決めた。
一瞬の沈黙の後、ニュールが其の先の流れを呟く。
「守護者の任命を受け、友好使節を引き受けると申し出て…それでサルトゥスへ向けて旅しながらフレイが求める天空の天輝石を探し始めたんだ」
「オレもモーイも2人とサルトゥスで出会ったんだよな」
自然発生的高魔力である天輝や地輝を受けた魔輝石は、樹海の河原や鉱山で得る確率が高い。
其の為に魔輝石である天空の天輝石を求めてフレイとニュールはサルトゥスを選び、樹海を渡り歩く事で…其々の者と出会ったのだ。
「魔輝降り注ぐ事の多い樹海だから探し物に期待したんだが、サルトゥスでは見つからなかった。その分、お前らに出会えたって事かな…」
少し感慨深げに状況を思い出すニュールに、モーイとミーティが嬉しそうに微笑む。
「でもサルトゥスでニュールが白の巫女様に捕まっちゃった時はビックリしたけどなぁ」
「何とも弁解の余地が無い…」
モーイの言葉にニュールが若干恐縮する。だがモーイは、全く気にせず他の話題へ進んでいく。
「ビックリと言えば…フレイも最初は天然系不思議箱入りお嬢だと思ったけど、見かけより肝が据わってて驚いた。まぁ、インゼルに行く前に寄ったエリミアで…理由は理解したけどな…」
「あぁ…アイツは意外と苦労してるんだ。だからこそ守護者を引き受けちまったのかもしれない…」
ニュールが守護者を引き受けた気持ちを呟く。
「その上オレ達までインゼルで囚われて、散々だったよなぁ」
ミーティは護衛と言う立ち位置を諦めたのか…忘れたのか…窮屈になり投げ捨てたのか、いつも通りの口調で呑気に続ける。
「白の塔でのニュールってば魔物感が激しくてチョットやばかったよ…。あん時ってまだ内側の魔物の記憶を受け入れてなかったんだろ?」
「あぁ、だからこそ…少し暴走しちまって…皆にも随分と迷惑掛けた。スマンな…」
ニュールから改めて謝罪の言葉受け、ミーティもモーイも俯き…一瞬会話が途切れる。
次に口を開いたのはミーティだった。
「うんにゃ、オレなんか…弱っちくて…何の役にも立たなかった。だからヴェステでも捕まって…其のせいで…」
唇噛み締め悔恨の表情を浮かべる。
ニュールが拒絶していた内なる魔物を自身で受け入れ、融合した切っ掛け。
ヴェステの地下監獄で、瀕死の状態になっていたミーティやモーイを救うために選んだ道。
其の事に大きな負い目を持っていた。
「ホントにお荷物になってしまったのは私らだから…」
「うん、だからこそ今度は何があっても役に立ってみせる」
ミーティとモーイが真剣な目でニュールを見つめる。
それに答えるようにニュールが無言で2人の頭に手を置きワシワシと撫でる。
「ちょっ…、ニュールってばオレら餓鬼じゃないんだから止めろよな」
「アタシは何かちょっと嬉しいかも…」
「モーイ! オレがいくらでも撫でてやるぞ!」
「ミーティが言うと何かヤラシくて蹴りたくなる!!」
じゃれあう2人を久々に父親目線の暖かさ持つ目で眺めるニュール。
世界を消し去るような魔力が天から降り注いだ日、此の世界の外側…理にまで手を加えられるような彼方の存在と大賢者達が結んだ契約。
理の外の存在との…遊びのような干渉を排除するための誓約を取り付けるため、要求された…対価。
少数が理不尽を強いられる世界に抗うために望んだ願いに対し、本当に自身だけが背負うことになった代償。
「あぁ、お前らみたいな仲間と思えるもんがいるから守りたいと思えるんだな。だからこそ独り立ちしてもらわないとな…」
ニュールが独り言のように呟く。
そして…真横で守るモノから少し離れて見守るモノへ…新たな立ち位置得るために、ニュールは目的地のエリミアへと向かうのだった。
"そう呼ぶに相応しき…強き正しき力持つプラーデラ王国・国王ニュールニア様と周辺の者達は、闇石の暴走を終息させ…危地を救う輝かしき栄光を背に、颯爽と神聖なる樹海より出立する"
「なんだ?! 此のクソ痒くなりそうな文章は…記録…石…か?」
ニュールが微かな魔力の痕跡に注目し、歩み寄り見つけた魔力によって文字を刻まれた石板。
刻まれた文章を読み、顔をしかめて呟く。
其の背後からミーティが覗き込み、黒髪黒目の均整の取れた容貌に…悪戯っぽく楽し気な表情浮かべ…揶揄う気満々で説明を加える。
「此れ…中央広場にあるメチャメチャ目立つ石碑に、語り部の記録として貼り付けて保存されるやつだ。1000年経っても同じ状態を保てるらしいぞ!」
樹海の集落では、語り部達による記録無き…記憶による記録の継承以外にも文書として大きな出来事は記録して保存する。
近くで静観していたモーイも、そっぽを向いたまま金の巻き毛をクルリと指で巻き…青の瞳持つ美神のような整った容貌に小意地悪な笑みを浮かべ…楽し気に口を開く。
「この文章だと…恥ずかしくなるぐらい凄いヤツに感じるよな…」
「…勘弁して欲しいんだが…」
モーイの言葉に、呟き漏らし…額に手を当て天を仰ぎ…ニュールは途方に暮れる。
ぼやく姿は、プラーデラ国王ニュールニア…として祀り上げられるたモノにしては…何処から見ても普通のオッサンとしか言いようのない冴えない男。
「えっ? ニュールは格好よく名前も書いてあるからいいじゃん! オレなんて名無しの周辺の者…其の1って感じだ…ですよ!」
半分揶揄い…半分心からの思い…で慰めのような言葉を追加するミーティだが、ふと思い出したように…若干言葉を改める。
樹海の集落での事件に巻き込まれ…自身の明確な意思を見出したミーティ。
忠義捧げる者としての決意を新たに胸に刻み、自身の内での "ケジメ" と言った思いを掲げ…国王に仕える者としての努力を始める。
だが…時の刻みの長短以上に…繋がり深き仲間であり、一筋縄では変えられない。
それでも…以前より芯の通った表情でキリリと傍で控えるミーティは、未だ少年っぽい面差しを真面目一色に染め上げ…鍛え上げられた青年らしい肉体をシャキッと伸ばし、今回プラーデラ王国将軍補佐として…国王ニュールニアを警護するために懸命に張り付く。
護衛と言う立場で行動共にはするのだが、建前…としか言いようがない警護役。
ミーティ達が守るべき国王は…優れた魔力操作と魔石なくとも大魔力を扱える…世界の外側との繋がり深き存在、体内魔石として賢者の石を保有する…大賢者。
護衛を助けに行ってしまうぐらい強い。
魔力操る能力高い高位魔石を内包する者や…特別な能力として往古からの知識を継承する語り部が存在する能力高き者を排出する樹海の集落。
力ある集落の中だけで片付けられなかった不祥事。
内部の者が引き起こした、穢れ絡みつく魔力内包せし闇石の…暴走。
最終的に…突如現れて壊滅的な被害を防ぎ、危機に瀕するミーティとモーイ…そしてミーティの祖母である語り部の長アクテを…さらりと救ったモノ。
美味しい所を掻っさらい現れたのは、プラーデラ王国の国王ニュールニア…ニュールだった。
黄土の髪色と橙色の瞳持つ…一見すると40代後半と言った感じの、人の良さそうなオッサン。賢者の石に若さ奪われ…オッサンと化し、代償として与えられた…呪いのような大賢者としての力を受け取ったモノ。
もし…力そのままに解き放つのなら、体内に持つ賢者の石へと変化した魔物魔石から…人を威圧し恐慌もたらす様な魔力が導き出され…周囲を飲み込むであろう。
其れを巧みに隠蔽までしている。
「げに恐ろしきモノよ…」
アクテが誰にも覚られず呟いた、ニュールに対し思わず出た言葉。
皆が笑顔で囲む…呑気で緩い雰囲気の其のモノが、表情崩さぬままに…害となる者を処断する…冷酷にして無慈悲かつ陰惨な面をも含有する…魔物な心を併せ持つ存在であると気付く者は少ない。
其の両極にある本質を覚るのは、極一部の者だけだった。
事件の後…ニュールの公的立場が明らかになり、樹海の集落でも丁重で慎重な対応を要する滅多にお目にかかれない珍客への対処に慌てる。
珍客ではあるが賓客…その様な要人が集落の恩人にまでなっているのだから、崇め奉られるは必然。
即…公式な奉迎の宴が催されたのも致し方ない。
有難くも…有難くない短期間に詰め込まれた歓待の嵐が収束する頃、樹海の集落からエリミア王国へ向かう準備も整い…やっと生まれた隙間時間。
思うままに去る訳にもいかなくなったニュール達は、集落内の見学をしながら…次の場へ赴くための最後の儀礼を通過すべく…門へゆっくりと向かう。
此の緩やかな時の流れに…ケジメを持つべく努力していたミーティも、旅をしているような雰囲気に流されていた。プラーデラ王国の国王ニュールニアと其の周辺の者としてではなく、旅の仲間だったニュールへの気安い対応に戻る。
「そう言えば、なんでニュールはフレイの守護者やってるんだ?」
相変わらず脈絡なく質問するミーティ。
「あぁ、アタシも聞いた事ないぞ」
横にいたモーイも、ミーティ同様…いつものままに興味を示す。
ニュールは2人の突然の問い掛けに苦笑しつつ、変わらぬミーティとモーイに安堵し…自身も取り繕わぬ気持ち其のままに…答えを返す。
「まぁ、何だかんだと引き受けざるを得なかったんだよ…」
人の良さそうな…少し困った感じの笑みは、其の頃と変わらない…人間味溢れるモノに見えた。
エリミア辺境王国第6王女フレイリアル・レクス・リトスの守護者。
巻き込まれ…願い乞われ…引き受けた形ではあったが、ニュール自身が決断した任。
其々が大賢者になってしまったと言うのに未だ結ばれている契約。
「エリミアの王族が活動するためには確かに必須だったからなぁ。まぁ、差し迫った状態で余程焦ってたんだろうな」
ニュールはフレイリアルとの出会いを思い返し、ほんの1の年程の前の事だと言うのに…少し懐かしい…と言った表情を浮かべる。
意思持つ新緑の瞳と…其の地では異端と言われる肥沃な大地の色した髪を持つ、1人でエリミアの荒地をうろつくには幼過ぎるように見えた少女。
庇護されるべき年齢の容貌であるのに、中身は目的を遂げるのに余念無きモノだった。
其の少女から声を掛けられ…騙されるように引き入れられ、最終的には共に選任の儀…守護者任命の儀へ参加していた。
「餓鬼だからって…全く知らない奴からの頼みを引き受けたのか?」
経験上…餓鬼でさえも信用ならないのを知っているモーイから、 "呆れた" …と言った表情で…当然のように突っ込みを入れられる。
「マントは被ってたけど6~7の歳ってぐらいにしか見えなかったし、見捨てる訳にも行かなかったんだよ」
「まだ其の頃は、身体だけお姉ちゃんな感じになってなかったのか?」
ミーティの素朴で正直な疑問と…豊満な体つき表す身振り手振りに、隣のモーイが…無言で容赦なく脳天に手刀振り下ろす。
ニュールは其の様子を微笑ましそうに見ながら、話を続ける。
「あぁ、思いっ切り子供だったからな」
そしてチョット遠い目をし…残念そうに言葉漏らす。
「…お陰で憧れていた平穏な暮らしを…早々に切り上げる事になっちまったんだがな…ふふふっぅ」
出身がヴェステの影…暗躍を生業とするような場所に所属していたニュール。
人間らしからぬ場所から脱出し…逃れた先のエリミアで…夢に見た普通で平穏な生活を叶えた…と言うのに、結局巻き込まれ手放す事になる。
自嘲する様な言葉には、笑いのような深い溜息まで追加されていた。
刺客や追手…賢者の塔への襲撃、守護者の任命までに怒涛の如く押し寄せた様々な出来事。ヴェステ王国によってもたらされた、数々の因縁を思い浮かべる。
「自分自身が選んだ道とは言え…フレイの願い…天空の天輝石を求める旅へ同行して、手助けするだけの予定だったんだ…。まぁ…リーシェライル様にお会いして、選択の余地は無くなったんだけどな」
「リーシェライル様に出会った時点で確かに終わりだな…」
モーイはニュールの其の言葉に心から同意する。
会った事の無いミーティだけが1人不思議そうに尋ねる。
「なんでだ? 性別を超えた絶世の美しさ持つ、取っ付きにくいけど…凄く優しい奴だってフレイは言ってたぞ」
思わずニュールとモーイが固まる。
「月光を反射したような銀糸の髪と宵闇の光移るような薄青紫の瞳の…壮絶に美麗な面差しの…性別を超越した畏怖する美しさを持つ御方…だな」
「確かに…美しく恐ろしい…って言葉しか出てこない、落ちたら二度と戻れない…深淵覗き込む様な美貌だった…」
「恐ろしく美しい…なんじゃないのか?」
ミーティが、ヘロっと笑いながら揚げ足取りのような突っ込みを入れるが…答えたのはニュールだった。
「いやっ、モーイが言う通り…美しく恐ろしい…が正解だ」
リーシェライルの事を語る2人から何だか魂が抜けていくような…抗うのが無駄…と言った雰囲気が漏れ出てくる。
『…詳しく知ってはイケナイモノ…って事か…』
察しが良い方でも…気が利く方でも無いが、勘だけは働くミーティ。
2人の雰囲気で何となく理解した。
ミーティは…フレイと他の者達との感想の落差について、詳しく追及しないことに決めた。
一瞬の沈黙の後、ニュールが其の先の流れを呟く。
「守護者の任命を受け、友好使節を引き受けると申し出て…それでサルトゥスへ向けて旅しながらフレイが求める天空の天輝石を探し始めたんだ」
「オレもモーイも2人とサルトゥスで出会ったんだよな」
自然発生的高魔力である天輝や地輝を受けた魔輝石は、樹海の河原や鉱山で得る確率が高い。
其の為に魔輝石である天空の天輝石を求めてフレイとニュールはサルトゥスを選び、樹海を渡り歩く事で…其々の者と出会ったのだ。
「魔輝降り注ぐ事の多い樹海だから探し物に期待したんだが、サルトゥスでは見つからなかった。その分、お前らに出会えたって事かな…」
少し感慨深げに状況を思い出すニュールに、モーイとミーティが嬉しそうに微笑む。
「でもサルトゥスでニュールが白の巫女様に捕まっちゃった時はビックリしたけどなぁ」
「何とも弁解の余地が無い…」
モーイの言葉にニュールが若干恐縮する。だがモーイは、全く気にせず他の話題へ進んでいく。
「ビックリと言えば…フレイも最初は天然系不思議箱入りお嬢だと思ったけど、見かけより肝が据わってて驚いた。まぁ、インゼルに行く前に寄ったエリミアで…理由は理解したけどな…」
「あぁ…アイツは意外と苦労してるんだ。だからこそ守護者を引き受けちまったのかもしれない…」
ニュールが守護者を引き受けた気持ちを呟く。
「その上オレ達までインゼルで囚われて、散々だったよなぁ」
ミーティは護衛と言う立ち位置を諦めたのか…忘れたのか…窮屈になり投げ捨てたのか、いつも通りの口調で呑気に続ける。
「白の塔でのニュールってば魔物感が激しくてチョットやばかったよ…。あん時ってまだ内側の魔物の記憶を受け入れてなかったんだろ?」
「あぁ、だからこそ…少し暴走しちまって…皆にも随分と迷惑掛けた。スマンな…」
ニュールから改めて謝罪の言葉受け、ミーティもモーイも俯き…一瞬会話が途切れる。
次に口を開いたのはミーティだった。
「うんにゃ、オレなんか…弱っちくて…何の役にも立たなかった。だからヴェステでも捕まって…其のせいで…」
唇噛み締め悔恨の表情を浮かべる。
ニュールが拒絶していた内なる魔物を自身で受け入れ、融合した切っ掛け。
ヴェステの地下監獄で、瀕死の状態になっていたミーティやモーイを救うために選んだ道。
其の事に大きな負い目を持っていた。
「ホントにお荷物になってしまったのは私らだから…」
「うん、だからこそ今度は何があっても役に立ってみせる」
ミーティとモーイが真剣な目でニュールを見つめる。
それに答えるようにニュールが無言で2人の頭に手を置きワシワシと撫でる。
「ちょっ…、ニュールってばオレら餓鬼じゃないんだから止めろよな」
「アタシは何かちょっと嬉しいかも…」
「モーイ! オレがいくらでも撫でてやるぞ!」
「ミーティが言うと何かヤラシくて蹴りたくなる!!」
じゃれあう2人を久々に父親目線の暖かさ持つ目で眺めるニュール。
世界を消し去るような魔力が天から降り注いだ日、此の世界の外側…理にまで手を加えられるような彼方の存在と大賢者達が結んだ契約。
理の外の存在との…遊びのような干渉を排除するための誓約を取り付けるため、要求された…対価。
少数が理不尽を強いられる世界に抗うために望んだ願いに対し、本当に自身だけが背負うことになった代償。
「あぁ、お前らみたいな仲間と思えるもんがいるから守りたいと思えるんだな。だからこそ独り立ちしてもらわないとな…」
ニュールが独り言のように呟く。
そして…真横で守るモノから少し離れて見守るモノへ…新たな立ち位置得るために、ニュールは目的地のエリミアへと向かうのだった。
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「道具に心は不要だ」
父である国王に、そう言われて育った聖女。
彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。
聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。
そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。
旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。
しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。
ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー!
※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!
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