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20.選択の時

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2人にとって必要な情報であり…作戦持ち掛けるための前置きとして話すのは良い機会…とばかりに、アクテは集落の昔語り…語り部として継承される内容の一部を掻い摘んで…意識下の口頭にて伝授する。

「モーイが聞いたことあるのは当たり前だい。色んな所で歌われている滅びから始まる詩のシッポの方で歌われてる内容じゃ。まぁ、最近の詩歌う詩人はシッポの方の詩はあまり使わないから珍しいかもしれんな…」

モーイが耳にした理由をアクテが語った。

「まぁ、往古の時代については、一般の伝承にも…語り部の記憶から取り出した記録にも…無いから本当のところは分からないがな…」

往古の滅びは、語り部の記憶の記録の始まり以前の出来事らしかった。

「じゃがな、樹海の均衡と遷化の波については詳細ではないが…記録があるんだい。負の魔力が溢れ満ちるときに起こる…とされているだ」

ミーティとモーイは黙って聞き入る。

「そして集落がある場所は、負の魔力が集まり湧き出す場所なんじゃよ…。往古よりデュアービル…神通る地…と、この土地が呼ばれていたのはそのせいだい。魔輝は管理も制御出来んが、湧き出しは管理できる…だからワシら樹海の民は、サルトゥスで往古の機構働かぬようになった時、王国と取引したんだい」

「取引?」

ミーティが思わず疑問投げかける。

「穢れた魔力を闇石に集め、王国に納品することで…王国の管理地だった此の場所を使用する許可をもらい、代わりに湧き出しの処理を…使命として請け負ったんだい」

アクテが話す…とばっちりの様な迷惑としか言い様のない余計な契約に、思わず呆れるミーティ。

「なにも…この広い樹海でワザワザそんな場所を選んで許可をもらわなくたって…」

「もともと王国の管理地だった時からワシら一族が責任者じゃった…だからまぁ、ある意味、王国からの独立…と言った感じだったんじゃ。それに、遣らにゃぁ全体が住めん土地になっちまうだい…この地に住むなら必要なことなんじゃ」

アクテは諦めとも達観とも取れるような口調で話す。

「まぁ、これ以上を知りたければ…此の空間を掌握して探す能力展開出来るようになれば、自ずと謎は解けるだい。それよりも今は集まっちゃったヤツを何とかせんとな…」

そしてニタリと企む笑みを浮かべる。

「方法は3つ程考えられる」

指を立てながら提示する。

「まず1つめ。お前さんの闇石を剥がす方法。此れは手順を探し出すのに時間がかかるから直ぐには難しい…だが、お前さんの様な2種持ちならでは可能な非常手段として伝えておく。但し実行した場合の相応の危険性もある」

ミーティは予想外の方法を聞き、呆気にとられて継ぐ言葉思い付かなかったが…アクテは構わず続ける。

「2つめは、穢れと魔力を分離して穢れのみを処理して消すこと。実際に出来るなら最善ではあるが…今のお前さんには難しいだろう…」

此れは負の魔力…穢れた魔力を取り込んだ本人のみが出来る技。穢れと魔力を分離して回路の行きつく先へ穢れのみを送り届ける…大賢者が用いる方法である。
それ故に、今のミーティには出来ない…とアクテは判断した。

「3つめは、今集まっている穢れた魔力を方向付け、回路の先へ送ること。此れが残されている選択肢であり…実質はこの一択だ」

アクテが可能であると判断し選んだ方法。
これは賢者が行う方法であり、器を要する技である…。

「ワシらが遣るべきことは、ミーティの回路を使いモーイが魔力操作し、ワシが導く…此れが最良の道筋だい」

「…なぁ、それって婆ちゃんどうなるんだ?」

「まぁ、なるようになるだよ…」

アクテは強い意志持つ笑みを浮かべるが、それを打ち砕くぐらい強い真剣な表情でミーティが述べる。

「婆ちゃんも助かる策で無ければ、オレはその話に乗らないよ」

「…遣らざるを得ないんじゃ。遣らねばこの一帯…集落は勿論、近場の街まで負の魔力に飲み込まれるぞ…穢れた魔力の導きが連鎖して起こってしまった時点で、個人の思いなんぞ越えた話になっちまってるんだ」

その言葉から感じられるアクテの覚悟に、ミーティもモーイも説得する言葉を失う。

危機的状態であり、残り時間少ないのは理解しているが納得はできる選択ではなかった。それでも動かざるを得なかったのだ。
意識下…3人で手を繋ぐ。
不服はあるが意思をまとめ、穢れた魔力の流れを探り…辿り着く。
そして、アクテが事態終息させるために指示を出していく。

「モーイは魔力の流れに干渉して少し流れを乱し紛れ込み、此方の魔力の影響を刻み込むんだ」

「アタシは魔力回路が…」

「関係ないだ。此処はミーティの意識下に存在する空間、魔力も回路もミーティのが存在する。必要なのは操作する意思と動かす技術だい」

力強くアクテが断言する。

「大丈夫だい。こんだけ太っとい回路なら、少しぐらい潰しちまっても問題ないさ」

生命に関わり魔力の根源となる回路を事も無げに適当に扱おうとする2人に、少し怯えて情けない顔をするミーティ。その横で、アクテは楽しげにニタリと悪い笑みを浮かべる。

「わかった、遣ってみるよ」

いつもの雰囲気を感じられる会話で少し肩の力抜けたモーイが、アクテの導きで魔力操作を行い始める。
アクテはモーイの背後から手を添え、補助してくれた。
優しく力強く手本となる魔力の流れを作り出し、一緒に穢れた魔力へ干渉する。

「ミーティの意識下であり…直接関わるよりは影響受けにくい。だが奴ほどお気楽呑気じゃないワシらは、負の魔力の影響を受けやすいから気を付けろ! 特にワシが手を離したら気を抜くな! …初めの衝撃に耐えれば、その後は楽になるぞ」

その言葉と共にアクテの手が離れる。

「!!!!!」

モーイは絶句する。
魔力そのものの強さや衝撃は大したことは無かったが、穢れた魔力の影響力は凄まじかった。

自分自身の中に存在する悪しき…忌まわしき記憶。両親の願いを聞き入れてしまった事や、仕事で片付けてきた者達の事など、そこから吐き気のするような感情が掘り起こされる。

自身を奈落の底へ突き落とし…更に追いかけ…くびり殺していく様な…過去にもたらされた、ありとあらゆる不快な記憶と感情…自虐的思いが次から次へと溢れ出す。
目の前に引きずり出された心を責め苛む様な数々の記憶から、顔を背けひたすら耐える。それでも湧き起こる苦しさに、無意識に…意識下なのに…涙が溢れ出る。

その時、背後から支える様に…ふわりと包み込まれた。
ミーティが、優しくモーイを包み込んでいる。

「オレが一緒に居るから…側に居るから…」

心配そうにミーティはモーイを抱き締めていた。

「ばっ、婆ちゃんも居るだろ!!!」

思わず正気を取り戻す。

「あぁ、まぁだくたばっとらんぞぉ! 曾孫が出来る日が近付くのぉ、善き事だい」

生暖かい目で見守られてしまい居たたまれないモーイ。

「ミーティの熱い包容で落ち着いたか? 上手く干渉し制御する事は出来た様だな…立派に支え手となれる男子に育ってて婆は安心しただい…」

そしてアクテが真剣な目で2人を見やり口を開く。

「そんじゃあ、ワシが出口開き持っていくから、モーイは魔力が逸れない様に流れを維持して…ミーティは押し出す様に圧をかけ続けるんじゃ」

そして満面の笑みを浮かべ…別れの言葉を告げる。

「辛い時はお互い支え合えば乗り越えられる事も多かろう…お前さん達が幸せであることを心から願っとるだい」

するとアクテは有無を言わせる間を与えず闇石に流れ込んだ魔力を掴み、流れ込みつつある魔力を誘い…闇石の中へ一歩進み…其の身を捧げ負の魔力を導こうとした瞬間…ミーティが叫び拒絶する。

「ダメだ!!」

その断固とした行動を制止する叫びは、ミーティの意識下での最終的な事象の権限持つ自身での決定。それは入り込んだ他者の意思だろうと何だろうと、この意識下全てのモノの行動を縛る。

「オレ、こんな選択望んでないよ! 婆ちゃんの犠牲の上に立ちたくない!」

「この期に及んで馬鹿言ってるんじゃないだ!!」

その一刻を争うかの様な状況下での制止に、アクテが憤る。それでも駄々っ子の様に譲らない。

「それでも嫌なもんは嫌だ!」

「あぁ、アタシも同じだ」

モーイもミーティに同意する。

「馬鹿もんが!!! お前さん達の…集落の…周りのもんらの…未来が…!」

「オレらだって勿論だけど、婆ちゃんだって大切だ! 手をこまねいて見過ごすのは悪手だけど、犠牲になることが凄いことじゃない!! 一緒に助かった方がもっと凄いんだ!!」

「今から何が出来ると言うんじゃ」

「2番目の作戦で行こう! オレ頑張るから、穢れを魔力から引き剥がそう! そうすれば勝手に消えるじゃんか」

穢れた魔力の問題点は、魔力に負の意思伴う故に悪影響もたらすことである。

それが別物ならば…魔力は魔石の中に留まれば良い。
穢れた…負の思い纏う意思は留まる力を持たぬ…ただの思いでしかなくなる。

妄執の分離は、通常大賢者が賢者の石を介して行うものである。しかも大賢者でさえも失敗することもあるのだ。
それだけ手強い執着と言うことであり、その力が魔力を歪める。

「可能性が有るならオレはそっちを選びたい」

そしてモーイの方を向く。

「丸く収めるための手っ取り早くて楽な方法は、誰かが犠牲になることかも知れない。だけど、オレはオレの婆ちゃんを見捨てたくない…巻き込んでごめんな!」

「アタシも同じ思いだ…って言っただろ!」

「そんじゃあ、オレ魔力操作は下手くそだからさ、手伝ってくれ」

「あぁ、任せろ!」

モーイは自信持ち力強く答える。

「婆ちゃんもその導いたヤツ、チャッチャと持ってきてくれよ」

事も無げに言うミーティに、アクテは大きな溜め息をつく。

「全く、とんだ頑固者めが…」

そして諦めと共に…少し嬉しそうにアクテも覚悟を決めるのだった。
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