魔心を持つ大賢者の周りの子~一度出直して来いって本気?

3・T・Orion

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12.見えない流れ

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頭に血が上り…感情と言葉の統制を失ったニドルの口から、溢れ出て明かされる事実。

「えっ、どう言う事? 婆ちゃん倒れてるって…オレのせいって? 記憶って??」

戸惑い質問発するミーティに対し、兄からの叱責を食らい…制約を受けていたことを思い出し…気まずそうに視線を逸らし口をつぐむニドル。
ラオブが溜息つきつつ、弟の不始末による暴露話を収拾するために重い口を開く。

「まず、門外の魔物を排除して頂いたことに感謝します。おっしゃるように今晩はアレで十分保てるでしょう」

弟の言動を有耶無耶にするためミーティの成果を取り上げ、話題を別方向に向かわせるための策として心籠らぬ謝辞を口にするラオブ。

格上魔物の死骸は格下魔物を退ける。
獣だったなら、何体あろうが死骸は死骸。放置されるなら、他の獣を呼び寄せる餌となる。
魔物の場合…獣よりも身体機能が各部発達している上、頭脳も例外なく進化している。そのため、獣より優れた思考巡らすようになるモノが多い。
魔物の死骸が1体だけなら…獣と同様、餌として認識した他の魔物を誘き寄せることになる。だが大量の上位魔物の新鮮な死臭放つ骸の山は、格下魔物の警戒感高め此の場所への忌避効果を発揮するであろう。

山積みになった魔物熊を凝視した後、無感情にミーティに対峙し更なる言葉継ぐラオブ。

「貴方への詳しい説明は、集落の長と語り部の長代理…上の者達より禁じられています。申し訳ありませんが、私どもに問い質すことはご容赦下さい」

そう釘を刺すと、再度謝意を表すかのように深々と頭を下げた。
そして、制約を解除する権限持つ者達への道筋を差し示す。

「この時間なら長は家の執務室に戻っていると思います。私にはこれ以上の説明をすること出来ませんが、丁度家に戻りますので案内させて頂きます」

慇懃無礼な態度で対峙するラオブだが、ミーティはアクテの安否について仄めかされたまま放置され非常に落ち着かない。

「詳しい説明なんて良いから、婆ちゃんが無事かどうかだけは聞かせてくれよ!」

「語り部の長アクテ様は、貴方が前回いらした時…樹海の館にある転移陣を動かしてから…療養されています。お体は…ある程度回復されてます。それ以上は…どうか長から直接ご確認下さい」

「禁じられてるって、どう言うことだ!」

「………」

「…くそっ」

ラオブは言葉通り其所からは、疑問投げかけようとも一切…制約に触れる事について語らなかった。


今回は直接ラオブに先導され、叔父でもある集落の長に再び会うために門から中央部へ移動する。ミーティにとっては気乗りしない、憂鬱…としか言いようのない道程。
冷ややかで不機嫌な感じのラオブに従い、歩みを進めるミーティの足取りはドンドン重くなる。

一応、依頼? …された門外に押し寄せる魔物熊の処理は、完璧に討ち果たす形で完了した。
だが、此の騙し討ちの様な集落側からの依頼は、強制的に応じるように仕組んだ明確な罠である。もし…以前の実力のままのミーティだったならば、叔父の思惑通りの結果になっていたであろう仕打ち。

流石のお気楽なミーティでも、許せる範囲を越えていた。
それでも相対する予定の者の面倒さに溜息が出る。

「此方で少々お待ちください」

屋敷に到着し、取り次ぎの間待つようにラオブに告げられ…暫く入口すぐの広間に留まる。
魔物が集まってしまう騒ぎの大元の事態に対しての、仮の指令部になっている様な場所であり、集落の今を担っている者達が行き交う。
ミーティにとって殆どが見知った者達であったが、誰一人として視線合わせる者は居なかった。
再度現れたラオブが執務室まで案内してくれる。

中に入ると、粗方の経緯を聞いたであろう…集落の長であり叔父でもあるラームスが、憮然とした表情で待っていた。

「役目を見事に果たされた…とのこと。無事に戻られて何よりです」

心にも無い言葉を吐き出し真正面から対する叔父は、今まで浮かべていた表情を覆し…胡散臭い余裕ぶった作り笑いを浮かべていた。そして尊大な態度でにミーティ達を迎え入れる。
ラームスは、門でミーティ達を罵倒しながら門外へ追い出した事などおくびにも出さない。

だが、死地へ追い遣ったはずの者達が、見事に使命を果たし無傷で戻ってきたのは事実。
まるで "貴方の愚かな計画は失敗しましたよ" と…ほくそ笑みながら面と向かってミーティが伝えに来たかの様なこの状況…ラームスは苛立つ。
内心、体面を傷つけられ腸煮えくり返る思いであったのだ。

逆にミーティは、思わず気の毒過ぎて…苦笑い浮かべる…と言った感じだが、表面上はいつもの様に気おくれするかの様に取り繕う。
そして気遣うような…憐れむような…微妙な表情を浮かべる。
勿論、其の憐れみの様な思いや表情こそ、相手の苛立ち焚き付ける最高の燃料になることは承知している。ミーティも其れを理解しているが故にわざと表情作り…煽る。
基本的には毒気少なく気の良いミーティだが、遣られっ放しにはしない。

ミーティ達を門外に追い出して始末する意図を打ち砕いたからと言って、決して高慢にならないように…穏やかに気遣いながら謙虚な風貌装う。
企んだ叔父に相応のお返しの気持ちを込めて、ミーティは密かに立ち向かう。

「集落の長殿。しがないプラーデラ王国の将軍補佐の身ですが、今日のところは襲来しそうな魔物を処理しておきました。此方に来れば事情を伺えると聞き及びましたので、ご報告を兼ねて参りました」

ミーティは、礼儀正しい対応と笑顔の下に…侮蔑の心をたっぷりと底に敷き込みつつも丁重な態度で挨拶述べる。
此れぞ正にピオ直伝…究極の慇懃無礼な応対である。
邪気の無さそうな笑顔で伝える報告は、集落の長である叔父の様な…自尊心高めな心持ちの者にとっては、聞いているだけで腹立たしくなるだろう。
故に、これは最上級の特別なおもてなしとなる。
案の定、内心穏やかとは言えない表情で挨拶返してくれた。

「あぁ、それは有難い。流石、将軍補佐殿ですな…」

だが、其の言葉と共に…今まで表面に浮かべていた怒りをスッと納め、正面からミーティに向き合う長。
一見、今までの態度を改め…真摯に向き合うかのように見えた。
だが集落の長であり叔父である者の…瞳の奥底に揺らめく暗い思い籠る輝きは、ミーティを捕らえ放さない。
そして…苦い思いを押し留めるべく、手に爪食い込ませている様子がありありと伺えた。

本当ならここで最高の笑顔を残して立ち去りたい所だが、ミーティも祖母の現在の様子や集落内の状況を確認したいので、合わせたくもない顔を眺めつつ留まる。

「婆ちゃんはどこ?」

此処からは集落にいる血縁者を訪ねてきた者として、立場を切り替え問う。
その応対に叔父も茶番は終了…とばかりに、憮然とした表情に戻し敵意を解放する。

「アクテ様は集い…に参加している」

「調子悪いんじゃないの?」

「回路に負荷がかかったために、9の月程…意識を…意思を失われていた。完全ではないが現在は復帰していらっしゃる」

「えっ? ほぼ1の年寝たきり…って…そんな状態だったのに大丈夫なの?」

その言葉にラームスは目を見開き、苛立ち最高潮に答えを返す。

「アクテ様の意思だ! …それに寝たきりではなかった。…イラダ…様も戻ってる」

「何で母さんが!!」

ミーティは告げられた予想外の事柄に戸惑い…色々と情報聞き漏らしてしまう。

「イラダ様自身の判断で戻られた…詳しくは本人から聞け。語り部の長の家近くにある聖域で、集いと浄化が行われている。ラオブに案内させるから好きにするがよい…」

そしてラームスはブスッした表情のまま、ラオブに向かい指示を出す。

「今言ったように、語り部達の下へ導け。集落の長の権限で制限されていた説明の許可は与えるので、我々の思いまで含めて…十分に理解するよう説明せよ…」

「…承知しました」

そう言うと、ラオブに責任押し付けるようにしてラームスは出て行ってしまった。
唖然とする、ミーティとモーイ。
ラオブは何事もなかったかの様にミーティ達に向かい、今後の行動の説明をする。

「本日は遅いですので、明日改めて…」

「このまま語り部達の下へ行きたいんだけど…」

ミーティは提案に異を唱え、今すぐ行動する事を希望する。

「問題ありません。では、このまま向かう…と言うことでよろしいでしょうか?」

「お願いします」

ラオブに語り部達の居る場所まで導いてもらうことになった。

「では道すがら、説明させていただきます」

ミーティとモーイは、ラオブの後ろに従うように付いて行く。
ラオブは淡々と指示された説明を始める。

「この地が、デュアービル…神通る地…とも呼ばれていることはご存じでしょうか?」

唐突な質問から説明が始まった。
ミーティにとっては、かつて集落で時々参加していた学び舎で聞きかじった話。そしてモーイにとっては、聞いたこともない話だった。
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