魔心を持つ大賢者の周りの子~一度出直して来いって本気?

3・T・Orion

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11.討伐と事実

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結界が張られた安全な門内で、中心部に居たモノが袋叩きに合う様子を観ていた者達。
後味の悪い思い抱く者…と、安堵する者…思いは二分する。

「所詮、口先だけの鍛練怠る者。当然の帰結に心痛める義理は無い」

苦々しい表情浮かべる者達に向かい、長と入れ替わりに門に戻って来ていたラオブが吐き捨てるように事の顛末を嘲笑う。

「此で奪われた記憶も、正当な引き継ぎの流れへ戻るであろう」

そして満足のいく結果を手に入れたように笑む。
未だラオブにとってミーティは、負うべき責任から逃れ怠けさぼる…半端者であり、抹消しても良い存在として認識であり、集落のために始末されるのは当然のこと…正当な報いを受けただけであると思っていた。


門外に居た魔物達は敵と認識した者を排除し、門へ向かって来た。
だが、再び何かを囲み攻撃している姿が目に入る。
別口の魔物が現れ、魔物同士での潰し合いが始まったのかと思って居ると、再度3頭の熊型魔物が中心で仲間の手により潰されている。

繰り返し集合散会を繰り返す魔物達は、いつの間にか5頭を残し…自滅していた。

「此ぐらい間引けば、後は直接殺っちゃっても良いか!」

集落の者達の応対で鬱々としていた気持ちを、魔物熊相手に発散して一気に心軽くなったミーティ。
いつもの調子取り戻し、気軽に気楽に述べる。
まだ完全に駆除しきれていないが、既に余裕がある。
時々隠蔽魔力纏い、戦った場所の後始末的な作業こなしているモーイがブチ切れつつある。

「此のドロドロの中、転移魔石を回収するのは一苦労なんだぞ。お前の師匠にくれぐれも放置してくれるなって注意されてたじゃないか」

「そんなこと言ってたっけ?」

大らかで大雑把なミーティは、毎度の事ながら細かい指示は覚えてない。

「それにモーイなら楽勝で探し出せるだろ? 万全じゃないとは思えない…緻密で繊細かつ大胆な、とてつもなく優秀な魔力操作じゃないか」

無邪気に満面の笑みで、シレッと褒め称える。
言われた相手は毒気を抜かれる。

ミーティは思ったままの考えを、そのまま言葉にしてしまう事が多い。
代表的なものとして、うっかり発する失礼発言が得意中の得意であり…山程のヘマをやらかしている。
だが其れは、褒めるときにも取り繕わない思いを述べていることを表す。

上辺を飾らない…思いを込めた…素直な言葉で紡ぎ出される、心に響くような賞賛が得意である…と言うことだ。
其の上にピオの直伝の胡散臭い小手先の技術まで習得していたので、相当な口先上級者になりつつある。

可愛い寄りのカッコ良さと肉体美…高品質な仕様であるため、うっかり発言さえ減らせば本人の希望通りに相当にモテる女タラシになれそうな才を秘めている…と思われる。
見た目が普通のピオでさえ、口先と態度と行動でモテモテなのである。少しばかり見た目が優れているミーティの実力は計り知れない。

尤もそんな才能が開花してしまった日には、 "打倒、筋肉!" 及び、 "高顔面偏差値、撲滅!" を掲げるピオによって、真っ先に闇に葬られるであろう。

モーイはそんなミーティの言葉を、いつもの様に流して掃いて捨てる。

「おだてたからって、これ以上の面倒は引き受けないぞ。攻撃系魔力は、未だ前みたいには扱えないんだから!」

「オレが命を掛けて貴女の守護をさせて頂きますので、貴女様はご安心下さい」

モーイの牽制に、冗談の紳士風丁寧さで応じるミーティ。

「何かそう言う軽さは、ニュールって言うよりもピオが真の師匠って感じだぞ!」

「ひっでー、我が師にして主は一人のみ。それはお前も一緒だろ」

「……」

軽口の様に聞こえても真実の思いを語るミーティの宣言に、沈黙をもって同意を示す。
支配される訳でもなく、魅了される訳でもなく…只々心酔し、全てを捧げたくなる此の気持ち…抱いた者にしか理解出来ぬ境地。
ミーティとモーイは、同じモノに自身を捧げ仕える思いを共有する者でもあった。


門外の魔物との戦闘…そこに欠片も興味示さず、見向きもしなかった門内の人々。
門外で戦いが起こるのは、筋書き通りであったからだ。

魔物熊の群れ…多勢に無勢…勝敗は明らかだと思い、幾ばくか残された良心が予想される惨劇を目にすることを拒み、現実から目を背ける。

だが、ちらりと目を向けた門外で、少しずつ魔物達の数が減っているような気がして…門の内に留まる者達は訝しみ、しっかりと目を向けてみる。
そして、傷つき倒れ…地面に転がり動かなくなる魔物熊が少しずつ増えることで、門の内に留まる者達にも何が起こっているのか理解できるようになってきた。

魔物熊が門外に溢れている時は、門内からは見えなかったミーティの作戦。

ミーティは魔物熊に切りつけると中心部の魔物を巻き込むように誘導し、乱戦…と言った感じになった所で中心部から消えていた。
興奮し前後見境無くなった魔物熊達は中心部で乱闘を起こし、倒れるモノが現れるまで死闘を繰り広げる。
魔物熊の気が済むと再度門を目指すので、同じ作戦を繰り返す。
それによって、徐々に魔物熊は数を減らしていったのだ。
中心部から隠蔽魔力のみで抜けると、魔力に敏感な個体に察知されてしまう可能性がある。その為、転移陣刻んだ魔石を利用した。潜んでいた樹上に出口用の転移陣魔石を設置し、程良い加減で隠蔽かけつつ転移して退避していた。
ひとつ欠点があるとすれば、入り口となった転移陣魔石はその場に残るので回収が必要な事…。
そうして考えなしに適当に退出しながら戦った結果…魔石回収役のモーイの苛立ちが最高潮になったのだ。

プラーデラで毎日のようにピオとディアスティスに戦闘訓練を受け、魔力増えた土地に集まってきた魔物を狩る実戦で磨き上げられてきた。
もともと恵まれた肉体持つミーティは、駆け引き伴う戦いではまだまだ劣るが、単純に戦闘行う技術として見るならば…極めて優秀な戦力に育っていた。
剣1つであっても時間をかければ、魔物熊30頭程度は楽勝で殲滅できたであろう。
連れがいることと、集落の様子が気になること、門や壁を破壊しない…この点から今回の作戦をミーティは選択したのだ。

結果、粗方の魔物熊をミーティが処分した…という事実を目の当たりにした集落の者達は、呆然と見守るしかなかった。

最後の5頭の魔物熊は、一斉に脅威を感じるミーティへ向かって攻撃を始める。
今度こそしっかり囲まれてしまうが、ミーティは余裕の笑みを浮かべると舞うように優雅に動き魔物熊を切り裂いていく。

「やっぱりプラーデラの荒野で相手にした魔物の束よりましかな…」

そう呟いたミーティの目の前には最後の魔物熊がバッサリと切り捨てられていた。
その場に残ったのは、短時間で出来上った討伐された魔物熊の破片と血みどろの毛皮の山だった。

門の外で醸し出されている気楽な雰囲気とは逆に、門の内で嘲る様に見下していた者たちの顔色が徐々に青白く変化していく。
起こっている状況は理解できるが、何故起こっているのか…その予想外の状況を戸惑い見守る。

「一応外に押し寄せた大物は処分したよ。毛皮を積んどきゃ、こいつらより弱い魔物や獣は暫く近付かないでしょ! 今晩ぐらいは外も安全なんじゃないの?」

ミーティは処理を終えると、疲れた様子もなく門の内に居る者に語り掛け微笑む。

…魔物熊の血を全身に被り抜き身の剣を握ったまま、片手で倒した魔物熊を門の前へ放り投げ集める姿はチョッピリ人外な危ないモノの姿であり、心からの主であり師匠でもあるモノを彷彿とさせる。

此処に居るのはミーティではあるが、誰の下にいる何者であるのかを門の内の者へ行動で示した。

かつて、鉱山から集落を時々訪れる…能力劣ると思い込み全てを受容していた…道化の仮面を被った気弱な者の姿は、其処には無かった。
良くも悪くも、その場に居た者達の心をザワつかせる。

「入れてくれないの? 防御結界壊すなって言ってたけど、無理矢理入った方が良い?」

血塗られた剣こそ収めたが、未だ魔力纏ったまま爽やかに圧力掛ける。直接的な強制はしなかったが、当然の結果として…門は開かれた。
そして真っ当な権利として、いままでの経緯の説明を要求する。

「何でこんな事になってんの?」

ミーティの問いは、 "全てを白日の下に晒せ" と言う、目に見えぬ圧力を伴う命令だった。
門で魔物の侵入からの防衛業務を行っていた者達はラオブも含め押し黙る。
其の中でラオブと一緒に来ていたニドルが、今まで思っていたのと違うミーティの姿に…少し怯えながら1人口火を切る。

「おっ、お前のせいじゃないか!」

「???」

突然の責める言葉に戸惑うミーティ。

「…お前達が…お前が語り部の長様の…!」

「おい、黙れ! 掟を破るな!!」

ラオブはニドルが告げようとした言葉を制止する。ニドルも制止された事で、禁忌を思い出し…強く口をつぐむ。

「婆ちゃんの何? 理由があるならちゃんと言ってくれよ! 察するのは苦手なんだ。そもそも、この負の魔力が集落内に漂う状態は何だ? 時々魔物が集ってこんな風になる事はあるのは知ってるけど…婆ちゃん達が浄化して…」

「だから、お前のせいじゃないか!! 語り部様達が上手く穢れを処理できないのも、語り部の長…アクテ様がお倒れになったのも、お前が記憶を奪ったせいじゃないか!!!!」

ミーティの知らぬが故のお気楽さは、ニドルの気持ちを逆立てた。そして、口にする事を止められていた内容が吐き出され、ミーティは今事実を知る事になった。
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