魔心を持つ大賢者の周りの子~一度出直して来いって本気?

3・T・Orion

文字の大きさ
上 下
12 / 30

11.討伐と事実

しおりを挟む
結界が張られた安全な門内で、中心部に居たモノが袋叩きに合う様子を観ていた者達。
後味の悪い思い抱く者…と、安堵する者…思いは二分する。

「所詮、口先だけの鍛練怠る者。当然の帰結に心痛める義理は無い」

苦々しい表情浮かべる者達に向かい、長と入れ替わりに門に戻って来ていたラオブが吐き捨てるように事の顛末を嘲笑う。

「此で奪われた記憶も、正当な引き継ぎの流れへ戻るであろう」

そして満足のいく結果を手に入れたように笑む。
未だラオブにとってミーティは、負うべき責任から逃れ怠けさぼる…半端者であり、抹消しても良い存在として認識であり、集落のために始末されるのは当然のこと…正当な報いを受けただけであると思っていた。


門外に居た魔物達は敵と認識した者を排除し、門へ向かって来た。
だが、再び何かを囲み攻撃している姿が目に入る。
別口の魔物が現れ、魔物同士での潰し合いが始まったのかと思って居ると、再度3頭の熊型魔物が中心で仲間の手により潰されている。

繰り返し集合散会を繰り返す魔物達は、いつの間にか5頭を残し…自滅していた。

「此ぐらい間引けば、後は直接殺っちゃっても良いか!」

集落の者達の応対で鬱々としていた気持ちを、魔物熊相手に発散して一気に心軽くなったミーティ。
いつもの調子取り戻し、気軽に気楽に述べる。
まだ完全に駆除しきれていないが、既に余裕がある。
時々隠蔽魔力纏い、戦った場所の後始末的な作業こなしているモーイがブチ切れつつある。

「此のドロドロの中、転移魔石を回収するのは一苦労なんだぞ。お前の師匠にくれぐれも放置してくれるなって注意されてたじゃないか」

「そんなこと言ってたっけ?」

大らかで大雑把なミーティは、毎度の事ながら細かい指示は覚えてない。

「それにモーイなら楽勝で探し出せるだろ? 万全じゃないとは思えない…緻密で繊細かつ大胆な、とてつもなく優秀な魔力操作じゃないか」

無邪気に満面の笑みで、シレッと褒め称える。
言われた相手は毒気を抜かれる。

ミーティは思ったままの考えを、そのまま言葉にしてしまう事が多い。
代表的なものとして、うっかり発する失礼発言が得意中の得意であり…山程のヘマをやらかしている。
だが其れは、褒めるときにも取り繕わない思いを述べていることを表す。

上辺を飾らない…思いを込めた…素直な言葉で紡ぎ出される、心に響くような賞賛が得意である…と言うことだ。
其の上にピオの直伝の胡散臭い小手先の技術まで習得していたので、相当な口先上級者になりつつある。

可愛い寄りのカッコ良さと肉体美…高品質な仕様であるため、うっかり発言さえ減らせば本人の希望通りに相当にモテる女タラシになれそうな才を秘めている…と思われる。
見た目が普通のピオでさえ、口先と態度と行動でモテモテなのである。少しばかり見た目が優れているミーティの実力は計り知れない。

尤もそんな才能が開花してしまった日には、 "打倒、筋肉!" 及び、 "高顔面偏差値、撲滅!" を掲げるピオによって、真っ先に闇に葬られるであろう。

モーイはそんなミーティの言葉を、いつもの様に流して掃いて捨てる。

「おだてたからって、これ以上の面倒は引き受けないぞ。攻撃系魔力は、未だ前みたいには扱えないんだから!」

「オレが命を掛けて貴女の守護をさせて頂きますので、貴女様はご安心下さい」

モーイの牽制に、冗談の紳士風丁寧さで応じるミーティ。

「何かそう言う軽さは、ニュールって言うよりもピオが真の師匠って感じだぞ!」

「ひっでー、我が師にして主は一人のみ。それはお前も一緒だろ」

「……」

軽口の様に聞こえても真実の思いを語るミーティの宣言に、沈黙をもって同意を示す。
支配される訳でもなく、魅了される訳でもなく…只々心酔し、全てを捧げたくなる此の気持ち…抱いた者にしか理解出来ぬ境地。
ミーティとモーイは、同じモノに自身を捧げ仕える思いを共有する者でもあった。


門外の魔物との戦闘…そこに欠片も興味示さず、見向きもしなかった門内の人々。
門外で戦いが起こるのは、筋書き通りであったからだ。

魔物熊の群れ…多勢に無勢…勝敗は明らかだと思い、幾ばくか残された良心が予想される惨劇を目にすることを拒み、現実から目を背ける。

だが、ちらりと目を向けた門外で、少しずつ魔物達の数が減っているような気がして…門の内に留まる者達は訝しみ、しっかりと目を向けてみる。
そして、傷つき倒れ…地面に転がり動かなくなる魔物熊が少しずつ増えることで、門の内に留まる者達にも何が起こっているのか理解できるようになってきた。

魔物熊が門外に溢れている時は、門内からは見えなかったミーティの作戦。

ミーティは魔物熊に切りつけると中心部の魔物を巻き込むように誘導し、乱戦…と言った感じになった所で中心部から消えていた。
興奮し前後見境無くなった魔物熊達は中心部で乱闘を起こし、倒れるモノが現れるまで死闘を繰り広げる。
魔物熊の気が済むと再度門を目指すので、同じ作戦を繰り返す。
それによって、徐々に魔物熊は数を減らしていったのだ。
中心部から隠蔽魔力のみで抜けると、魔力に敏感な個体に察知されてしまう可能性がある。その為、転移陣刻んだ魔石を利用した。潜んでいた樹上に出口用の転移陣魔石を設置し、程良い加減で隠蔽かけつつ転移して退避していた。
ひとつ欠点があるとすれば、入り口となった転移陣魔石はその場に残るので回収が必要な事…。
そうして考えなしに適当に退出しながら戦った結果…魔石回収役のモーイの苛立ちが最高潮になったのだ。

プラーデラで毎日のようにピオとディアスティスに戦闘訓練を受け、魔力増えた土地に集まってきた魔物を狩る実戦で磨き上げられてきた。
もともと恵まれた肉体持つミーティは、駆け引き伴う戦いではまだまだ劣るが、単純に戦闘行う技術として見るならば…極めて優秀な戦力に育っていた。
剣1つであっても時間をかければ、魔物熊30頭程度は楽勝で殲滅できたであろう。
連れがいることと、集落の様子が気になること、門や壁を破壊しない…この点から今回の作戦をミーティは選択したのだ。

結果、粗方の魔物熊をミーティが処分した…という事実を目の当たりにした集落の者達は、呆然と見守るしかなかった。

最後の5頭の魔物熊は、一斉に脅威を感じるミーティへ向かって攻撃を始める。
今度こそしっかり囲まれてしまうが、ミーティは余裕の笑みを浮かべると舞うように優雅に動き魔物熊を切り裂いていく。

「やっぱりプラーデラの荒野で相手にした魔物の束よりましかな…」

そう呟いたミーティの目の前には最後の魔物熊がバッサリと切り捨てられていた。
その場に残ったのは、短時間で出来上った討伐された魔物熊の破片と血みどろの毛皮の山だった。

門の外で醸し出されている気楽な雰囲気とは逆に、門の内で嘲る様に見下していた者たちの顔色が徐々に青白く変化していく。
起こっている状況は理解できるが、何故起こっているのか…その予想外の状況を戸惑い見守る。

「一応外に押し寄せた大物は処分したよ。毛皮を積んどきゃ、こいつらより弱い魔物や獣は暫く近付かないでしょ! 今晩ぐらいは外も安全なんじゃないの?」

ミーティは処理を終えると、疲れた様子もなく門の内に居る者に語り掛け微笑む。

…魔物熊の血を全身に被り抜き身の剣を握ったまま、片手で倒した魔物熊を門の前へ放り投げ集める姿はチョッピリ人外な危ないモノの姿であり、心からの主であり師匠でもあるモノを彷彿とさせる。

此処に居るのはミーティではあるが、誰の下にいる何者であるのかを門の内の者へ行動で示した。

かつて、鉱山から集落を時々訪れる…能力劣ると思い込み全てを受容していた…道化の仮面を被った気弱な者の姿は、其処には無かった。
良くも悪くも、その場に居た者達の心をザワつかせる。

「入れてくれないの? 防御結界壊すなって言ってたけど、無理矢理入った方が良い?」

血塗られた剣こそ収めたが、未だ魔力纏ったまま爽やかに圧力掛ける。直接的な強制はしなかったが、当然の結果として…門は開かれた。
そして真っ当な権利として、いままでの経緯の説明を要求する。

「何でこんな事になってんの?」

ミーティの問いは、 "全てを白日の下に晒せ" と言う、目に見えぬ圧力を伴う命令だった。
門で魔物の侵入からの防衛業務を行っていた者達はラオブも含め押し黙る。
其の中でラオブと一緒に来ていたニドルが、今まで思っていたのと違うミーティの姿に…少し怯えながら1人口火を切る。

「おっ、お前のせいじゃないか!」

「???」

突然の責める言葉に戸惑うミーティ。

「…お前達が…お前が語り部の長様の…!」

「おい、黙れ! 掟を破るな!!」

ラオブはニドルが告げようとした言葉を制止する。ニドルも制止された事で、禁忌を思い出し…強く口をつぐむ。

「婆ちゃんの何? 理由があるならちゃんと言ってくれよ! 察するのは苦手なんだ。そもそも、この負の魔力が集落内に漂う状態は何だ? 時々魔物が集ってこんな風になる事はあるのは知ってるけど…婆ちゃん達が浄化して…」

「だから、お前のせいじゃないか!! 語り部様達が上手く穢れを処理できないのも、語り部の長…アクテ様がお倒れになったのも、お前が記憶を奪ったせいじゃないか!!!!」

ミーティの知らぬが故のお気楽さは、ニドルの気持ちを逆立てた。そして、口にする事を止められていた内容が吐き出され、ミーティは今事実を知る事になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉
ファンタジー
普通の高校生の樹(いつき)は、勇者召喚された友人達に巻き込まれ、異世界へ。 勇者ではない一般人の樹は元の世界に返してくれと訴えるが。 事態は段々怪しい雲行きとなっていく。 実は、樹には自分自身も知らない秘密があった。 異世界の中心である世界樹、その世界樹を守護する、最高位の八枚の翅を持つ精霊だという秘密が。 【重要なお知らせ】 ※書籍2018/6/25発売。書籍化記念に第三部<過去編>を掲載しました。 ※本編第一部・第二部、2017年10月8日に完結済み。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

宮廷彫金師は魔石コレクター 変態コレクター魔石沼にハマる

銀黒
ファンタジー
18歳の男爵子息オリヴィン・ユングは、魔石を見るとその力が見えてしまう変わった目を待っている。面白い石、綺麗な石、変わった石が大好物。魔石を掘りに行った先で、輝く月夜の下で水浴びする長い髪の女の子を見てしまう。彼女はいったい何者なのか?少しずつその正体が明かされていく。 平穏な王都での暮らしに突然暗雲が立ち込める。迫り来る試練に、魔石で作った魔道具で危機を乗り越えることはできるのか?

守護者契約~自由な大賢者達

3・T・Orion
ファンタジー
守護者契約の必要性は消えた。 願い叶えるために動き始めた少女が、近くに居たオッサンを巻き込み結んだ守護者契約。 時は流れ…守護していた少女は大賢者となり、オッサンも別の地に新たなる大きな立場を得る。 変化した状況は、少女とオッサンの2人に…全てを見直す決断を促した。 しかも2人の守護者と言う繋がりを利用できると感じた者達が、様々な策謀巡らし始める。 更に…ごく身近で過剰に守護する者が、1つの願うような欲望を抱き始める。 色々な場所で各々の思惑が蠢く。 国王に王女に大賢者、立場を持つことになった力あるオッサンに…力を得た立場ある少女。 国と国…人と人…大賢者と大賢者。 目指す場所へ向け、進んでいく。 ※魔輝石探索譚の外伝です。魔心を持つ大賢者の周りの子~から繋がる流れになります。 ※小説家になろうさんで魔輝石探索譚のおまけ話として載せてたモノに若干加筆したものです。長めだったので、別話として立ち上げました。 ※此のおまけ話は、此処だけのおまけ話です。

異世界踊り子見習いの聞き語り3 月土竜の見る夢~魔輝石探索譚異聞~

3・T・Orion
ファンタジー
魔石と魔力のある世界。 踊り子見習いを続けるウィアの今回のお仕事は、踊りの師匠リビエラのやんちゃ兄弟ニウカとサファル狩りの付き添い兼、子守り。 何故に狩りに!…と思いつつも何だかんだ任されてしまったウィア。 今回は目の前に魔物蛇も…! 本職の踊り子修行は中々進まないが、後ろを向かずに笑い飛ばす。 道中のお供は、旅人から聞いて楽しかった魔物のお話…今回は自分も物語の主人公のように…。 楽しませることは踊ることと一緒、皆を楽しい顔にしていく。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

魔輝石探索譚~大賢者を解放するため力ある魔石を探してぐるぐるしてみます~≪本編完結済み≫

3・T・Orion
ファンタジー
周りと違う異端の色合いを持つ少女は、通りすがりの若くしてオジサンになった訳あり男に力を借り、賢者の塔に縛られ続ける大切な美しき大賢者様の開放を目指し力ある魔石を求める。 助けを求めたオジサン、実は逃亡中の強者であり…ちょっと情けないのに強い。 見た目ギリ40代、実年齢…自称26歳の…人は好さそうなオジサン。 体内に持つ魔物魔石により、17歳の時に今の見た目となり…時が止まる。 隠された素性が少しずつ明らかになってゆくが、其の強さの理由は…少女達と同じ様な存在だったから。 少女もオジサンも…自身が持つ運命に、気付かぬ内に巻き込まれていく。 少女は自身の抱える不自由さと戦いながら、守護者となったオジサンや…途中得た仲間と共に目的に向かい道を進める。 だが…選んだ道は険しく、狙われ…翻弄され…其々が望む結果から少しずつズレていく…。 それでも守られるだけだった少女は、一歩踏み出し…困難に立ち向かうべく…思い定め進む。 賢者の石を体内に持つ、大賢者たちが継承する繋がりが鍵となる。 魔石から魔力を導き出し縦横無尽に戦う世界。 脱出し…求め…助け出し…逃れ…勝ち取り収める、5章完結。 力ある希有な魔輝石・天空の天輝石を探して少女もオジサンも周りもぐるぐると、運命に吹き飛ばされつつ色々な場所を回りながら…願い叶えます。 本編完結済みで、完結後のおまけ話を時々追加。 おまけ1は、オジサンと思いを寄せる美少女との話。2話完結 おまけ2は、他国の賢者の塔での、大賢者継承の話。3話完結 おまけ3は、少女と賢者の石に取り込まれた麗しの大賢者様のその後の話。6話完結 おまけ4は、少女のちょっとした悩みと仲間の日常。別立ての "守護者契約" と平行した話。7話完結 別に立ち上げてある2つも、本編のおまけ話。 魔心を持つ大賢者の周りの子 は、樹海の集落で自身の手で進む道を選び取る若者の話。26話+おまけ4話 完結 守護者契約~自由な大賢者達 は、守護者契約の解約の話。26話+おまけ4話 完結 ※小説家になろうさんに投稿したものです。(直接投稿もしてみることにしました。結末は同じですが、一部変更点あり。)

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

処理中です...