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6.其々の思い

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今、集落内で何か大きな事が起こっているいのは確実である。
謎を解く手掛かりとなりそうな事から確認していく…と言う方針も決まった。
予定通り来るはずのない者達として扱われた…と言った事はさておき、用意されていた夕食を2人で眺める。

先程の探索魔力の展開で刺客や見張りは置いてないことは分かったし、敵意や悪意は感じ取れたが殺意や害意は認められなかった。それでも念のため安全性の高そうなモノを選び食すことに決めた。

丸のままの果物や野菜…肉を丸焼きにしたモノなど、量はあるが簡素なものだけだ。
立て込んでいる状況のせいなのか…あまり歓迎するつもりも無かったのであろうが、辿り着くはずが無い故に手を抜いたのか…仮にも一国家から送られた賓客に対してのもてなしとは程遠かった。
幸いにも食材に過度に手を加えてある料理と言えるようなものは少なかったので、色々と疑いたくはないがある意味安心して食べられそうな物が多く安堵した。

微妙な状況の中…世話する者もなく向かい合い摂る夕食。
勿論、防御・静穏・探索の3点の基本的結界陣立ち上げつつ一休みする。
最近プラーデラでも行動を共にすることが少なかったので、それぞれの身近に居た仲間達や旅をした仲間の話しなど…意外と楽しく話題は尽きなかった。

「こんな状況だけど、すっごく久しぶりにモーイとゆっくり話せて嬉しいや」

ミーティは無邪気に楽しそうに微笑む。

「本当だな…プラーデラにいると落ち着かないぐらい、色々と賑やかだからな」

モーイも微笑むが、青く澄んだ瞳が一瞬何処か苦しさ含む遠い目になっていた。
意思を取り戻したあと魔力取り戻す訓練をしながら、プラーデラ国王周辺や賓客として来訪する者の警護の仕事をモーイは担当していた。その中には、割と頻繁にプラーデラを訪れる敬愛する友であるモモハルムアも入っている。
…モーイの特別に大切な者の…特別な大切を手に入れつつある者が…。
友を慕う気持ちと、心から自身を捧げたいと願う特別に大切なモノへの思い。
両立はするが、苦しさを生む。

食事も終わり、心地よく吹き抜ける風を感じながら2人窓辺で横並び、もう少し気楽な感じの雑談を続けることにする。
鬱蒼と生い茂る木々に囲まれた樹海だが、集落の部分は切り開かれ少し丘になっている。樹海の木々の天辺よりは低い位置だが、集落の長の家はその一番上の部分にあり、定住する人々の家を見渡せるようになっていた。

モーイが今までの雰囲気と違い酷く真剣な表情で話しかけてくる。

「何か色々と悪いな…」

「えっ?」

「結局、何だかんだ言ったってアタシの為に連れてきてもらったようなモンだからさ。来たくなかったんだろ?…手間かけさせて…嫌な思いさせてすまない」

今回の集落の者達の対応で、ミーティがこの地に来ることを嫌がっていたことを察した。

「……!! 、ずっと旅してた仲間だろ? 水臭いこと言うなよ!」

いつも偉そうで鼻っ柱の強いモーイには、数えきれない程負かされてきたミーティ。それなのにミーティに負けてしまいそうな雰囲気のモーイが…あまりにも繊細な感じで…壊れてしまいそうで…調子が狂う。

「ありがとうな…」

その上嬉しそうに柔らかな笑顔で礼を言うモーイのクルクルの金の髪に縁どられた横顔があまりにも綺麗過ぎて、息を飲み次の言葉を発せらなかった。

以前からミーティはモーイの中の隠れた清廉さに憧れていた。
モーイはいつでも周囲に辛辣で冷めている…ように見え、斜に構えて世の中をせせら笑っているような態度をとる。だが真実は周囲に対して義理を忘れず、隠れた所で温かく見守るような者であった。その上に日々努力し自身を律し高めていく孤高な姿をも目にし、モーイへの思いはミーティ本人さえも知らぬうち…強く募っていた。

勿論…ニュールへ向けるモーイの思いも知っている。

ミーティの目は泳ぎ…モーイの様子とこの状況にドギマギする。
今までは言い合いをしたりしながらも、尊敬できる友人だと思っていた。
2人だけの空間…いつも勝ち気でアタリの強いモーイが儚げで…その落差に驚くとともに、守りたいと言う衝動に駆られる。
ミーティは突然…逆上せている自分を感じ…自身の思いに気付く。

掌は汗ばみ、顔も熱いし、心臓はバクバクしている…窓辺の魔石灯火が旧式で薄暗い事に感謝したくなった。
無意識に抱き締めたい…と思っている自身の思いに気付き、ミーティは余計に赤面が酷くなってしまうのを自覚する。しかも、自分が考えなしに…思ったままの行動をとっている状況が、想定内だけど予想外すぎて唖然とした。

ミーティは横に座るモーイに向かい合い…気付いた時にはモーイの華奢な身体を自身の腕の中に納め…強く抱き締めていた。

「!!!」

モーイは驚きで絶句し身体を硬くしたが…拒絶せず、ミーティが抱き締めるままに留まっている。

「オレは、いつでもモーイの力になりたいと思っているよ…だから、色々と…焦るなよ」

その言葉と思いと行動にモーイの心がほぐれ、力が抜ける。

「ミーティ…ありがとう」

ミーティは感謝の言葉を聞き、少しだけ身体を離すと…覗き込むようにモーイを見つめる。そこには、美しくキラキラと輝く女神様の様な笑顔があった。
腕の内にある輝く宝石を目にした瞬間…元々少なめの理性はぶっ飛び、ミーティは考えになる前に行動していた。
ミーティは自分が考えなしの人間…行動型の者であるのは分かっていたが、ここまで本能とでも言えるような衝動に突き動かされる人間だとは思っていなかった。
心が切なくて痛くて昂る…どうしようもなく止まらない。

だが衝動以上の…それだけで納まりきらない、熱い心籠る思いが突き抜け…モーイの唇塞ぎ…気持ち捧げる。
その思い届いたかのように、モーイは拒絶する事なく受け入れてるかのようだった。

『何故受け入れているのだろう…』

モーイも自分が抵抗なく許容していることに驚きを持つ。
確かに以前…インゼルで共に戦った時、ミーティの実直さと仲間への献身的思いに感動し…自ら労りの口付けを捧げたことはあった。
苦しさ感じながらも…全てを捧げたいと思っているのは他のモノである。
それなのに、今現在出来上がっている状況が…決して雰囲気に流された訳ではない…自身の思いも入っている…と言うことも理解できた。
モーイの混乱する頭の中に、何かが…外部からの感覚が過る。

ミーティはそのまま何度も何度も繰り返しモーイの唇に…近付き…更に深い繋がりを求める。
モーイと深く交わす口付けは、ニュールの治療で昂り生み出される時のように…ミーティの中の更なる先を求める衝動を呼び覚ます。
だが、此れは本能の昂ぶりだけではなく…愛しさ伴う思いのある衝動だった。

『今、ちゃんと伝えないといけない!』

湧き上がる直感がミーティに指示を出す。

「オレ…モーイの事、大切な仲間だと思ってたけど、それ以上の特別…」

思い繋がり見つめあっていると感じていたモーイの表情が怪訝なモノを見る表情となり、ミーティは選択を誤ってしまったと感じた。

『いっ、今は言うべき時では無かった?』

動揺し混乱する。

「でも有耶無耶に事を進めちゃうのは…あれっ、雰囲気壊しちゃったか? 無理やり…とかじゃ無かったよね? 今回は余計な事も言ってないよな? 内面は以前からキツイけど優しくて頼りがいがあったし、体だって前よりズット柔らかそうに育ってるなって思ってたし…ピオが語る背中から足に向けての線がグッとそそる…って言うのも納得できるようになったし…」

思わずミーティは焦りから、声に出して…褒める? ように…告白? していた。

ミーティの最大の長所であり、最高に残念な点…正直者であるが故に空気を全く読まない点。

聞いていたら間違いなく鉄拳制裁加わるであろう内容だったが、幸いにも聞こえなかったのか…聞いてても其れ所では無かったのか…強ばった表情のまま固まっているモーイ。
実際には現時点で何が起きて、この状況になっているか不明であり、ミーティは動揺の極致…と言った感じだった。

モーイの視線は、窓辺から見える外の世界へと漠然と広範囲に…しかし表情鋭く何かを見極めるように向けられていた。
ミーティもモーイが見つめる方向に目をこらし、その何かを探す。
しばらく其の方向を探ると、転移陣でこの地に着いたとき館の周囲で感じた重苦しい魔力…それと同じような雰囲気のモノが地面の所々に漂っているのを感じた。
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