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第2章 龍の里編
25話-差しのべられる手
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「お主らに小枝を助けることは出来ん」
「やってみないとわからないよ!」
「二度言わすなっ!・・・・・・もう、これ以上っ・・・・・・」
黎紅は小枝の必死な瞳を見て言葉が出てこない。
小枝は優しい。そしてその優しさに自分自身が押し潰されているのだ。黎紅はそのことに気付き、無力感と同時に、なんとしてでもこの理不尽な儀式を止めなければならないと強く思った。
「オイ、小枝」
まんじゅうが小枝に問いかける。
「『これ以上』、ナンだ?今までコノ里に来た死神ガいるンだな?お前ハソイツらの行方を知ってるンだろう?だからワザワザ俺たちに里の住民の存在をオシエタんダロウ?」
すべて疑問形だが、いじわるなことにまんじゅうはそれらを確信しているのだ。あえて小枝を追い詰めるように問いかけているのだ。
「っ、小枝はっ」
言葉が紡がれようとしていたとき、あの無口な少年が両者の間に割って出た。
「・・・・・・お前ハ、あいつラが言ってタ『口無し』ダナ」
なんと、この無口な少年が一族の恥さらし、『口無し』だとまんじゅうが言いきる。
「・・・・・・」
「お前がナンで喋らないのか、いや、『喋れない』のかはオオカタ検討ハ付いてる」
「え、まんじゅう何で分かるの?」
「蔦風にはワカンネーよ」
「俺には!?」
「うルセェ」
無口な少年、まんじゅう曰く『口無し』が小枝の手を取ったと思うと、蔦風の手も取り、手を繋がせた。
「?」
蔦風はこの動きの意味が分からず困惑し、小枝は目を丸くした。
「・・・・・・オマエは小枝ヲ助けたいンだロ?」
「小枝を・・・・・・助ける・・・・・・?」
無口な少年が蔦風たちに里の巫女である小枝の居場所を教えたのも、小枝を助けようとしていたからだ。恐らくこの里で唯一の考えの持ち主だろう。
蔦風と繋いでいる手を振りほどき、小枝は叫ぶ。
「小枝は、小枝はっ・・・・・・お主を哀れんで側に居させたのだっ・・・・・・!先の儀式でお主が犯した失敗のせいで里の者から蔑まれているのを知ってっ・・・・・・そんなお主が小枝を助ける?お主は小枝を哀れんでいるのか!小枝が里の者に崇められておった時も、巫女らしく口調を変えた時もっ!お主はずっと哀れんでいたのか!この小枝を!」
小枝の大きな瞳から涙が溢れる。
無口な少年は優しく微笑み、首を振る。歩み寄り、小枝の小さな身体を両腕で抱きしめた。
「・・・・・・たい
・・・・・・生きたいよ
小枝だって、望んだわけじゃない、死にたくない、もっと、自由に、外の世界を知りたい」
小枝は少年のぬくもりに、涙を堪えることができなかった。
「・・・・・・まんじゅう、説明して欲しい。俺には小枝が『哀れ』だとしか思えない。でも小枝は『哀れ』じゃないって言ってる。よく分からない」
「蔦風ニハ難しいかもな。・・・・・・小枝は小枝で独りで頑張ってイタのに、それを哀れむッテことは小枝の努力ヲ否定スルってことだ。それがイヤだったんだろう。小枝は最期まで『巫女』デあろうとシテタんだ。全部全部我慢シテ、生きることサエも諦めてナ」
「・・・・・・なるほど」
理解はできたが、共感は難しいようだ。
確かミアやシタラも『助ける』という言葉に大きく反応してたな、と振り返る。
「・・・・・・っ、助けたい、って思ってるんだ。小枝ちゃんにとったら屈辱だと分かってる。どうしてこんな任務を『臣』は俺たち新人に投げつけたのかは知らないけど、任務じゃなくても、俺は君をこの理不尽な里から救いだしたい、きっとそう思う。だから、どうか、俺たちが差しのべる手に掴まってはくれなだろうか」
黎紅が優しく問いかける。
小枝は少年の胸に埋めていた顔を上げ、黎紅の手をとった。
「小枝ちゃん、儀式のこと、里のことを詳しく教えてくれないかな?」
黎紅は幼い子どもをなだめるように優しく問いかけた。
小枝は小さくうなずく。無口な少年の袖を握っていた手をゆっくりと離し、まっすぐに蔦風と黎紅を見つめた。
「・・・・・・昔話で聞いただけのことしか分からない」
水、炎、大地、風など自然の力を司るあやかしが龍である。龍はあやかしの中でも高等な種族であり、種族の垣根を越え、人間からも崇められた。
数だけが取り柄の人間の祈りを無視するわけにもいかず、やがて力を使い尽くし、退化していき、数を大幅に減らした。
能力を失いかけている恥ずべき姿を外界に晒すなどということは彼らにとって屈辱であり、残り僅かな龍の血を絶やすことを恐れた。
そしてある龍がある考えに至る。龍の最後の地を創ろう、と。
その龍が初代巫女にして龍神、名を『ひのと』。
ひのとはその命をもって人間の目には見えない孤島を築き、繁栄と平和を祈った。
龍たちが孤島に住むようになってから退化は著しいものとなり、今や人の姿で暮らすことの方が多く、龍本来の姿を忘れた者も出てきた。
龍たちはこのままでは尊厳がたもたれかねないと危惧しだし、ひのとが巫女としてその命を捧げたように、今一度巫女を用意して捧げようと言い出したのだ。それが『儀式』の始まり。
『儀式』と評したそれに捧げられる者には条件があり、女児であること、龍本来の姿を忘れていないことが大前提である。選ばれた巫女は龍神の生まれ変わりとされ、儀式のために清められ、崇められ続けるのだ。
今回は小枝が選ばれた。
「儀式はイツだ?」
「次の満月」
「フーン、一週間クライか。準備の時間はアンマねえナ」
「まんじゅう、準備ってなにするの」
「決まってルダロ、里の調査ダ。無口小僧、案内シロ」
『口無し』と呼ばないあたり、まんじゅうの優しさが垣間見える。
無口な少年はコクリと頷き、部屋に置いてある引き出しから紙と筆と墨を取り出した。
何やらごそごそと描いている。
「・・・・・・地図だ」
黎紅が呟く。
「おお、わ、わかりやすい・・・・・・ね」
「わかりにくいよ」
「ワカリニクイな」
「・・・・・・ハハハ」
辛辣な蔦風とまんじゅうのおかげで黎紅のフォローも無にかえる。
お世辞でも上手いとは言えないが、分からなくもない地図である。
周りは海。北?に大きな山。今の居場所であろうバツ印。
少年は筆の頭でちょんちょんと山を指す。
「そう、そこだ。小枝はそこの山の火口に身を投げろと言われた」
「誰に?」
小枝は口をとがらせ、目線を流す。
「••••••母さん」
「・・・・・・無口小僧、とりあえずあの山二案内シロ」
まんじゅうは人使いが荒いのだ。
さらっと流されたが、小枝に母親がいたということ。いや、子がいれば親がいるのは当たり前だが今まで盲点だった。小枝を助けようと動くそれらしき人物を見ていないので、我が子が儀式の巫女に選ばれて誇らしく思っているのだろう。習慣とは恐ろしいものである。
まず屋敷から出ねばならない。
「・・・・・・里の奴らニ見つかっタラ厄介ダナ」
そう、巫女大好き龍の里のひとたちをまずどうにかしないと自由に動けない。
屋敷の外には出られたが、他の大木の幹に架かる足場や吊り橋に多くの龍の里の者がいる。小枝の持つ宝玉でこちらの存在は気付いていないようだ。
「ねえ、蔦風、まんじゅう、俺に任せて?」
黎紅が呟く。
「ア?」
「レイ?どうするの?」
「ふふん、まあ見ててよ。これでも鬼薔薇一族の一人なんでね」
すると、黎紅の影から薔薇のツルが出てきた。緑の艶やかなツルには薔薇らしいトゲも。
「ぐるぐる巻きに?」
「いや、もうちょい優しいよ?・・・・・・久し振りだから妖力の調整が難しいや・・・・・・こんな、もんか!」
影から出てきた薔薇のツルは大木の幹を伝い、あっという間に一帯の大木に巻き付いた。
次にツルは白いの薔薇を咲かせた。
里のひとたちは何だこれ?という状態である。
が、バタバタと倒れ始めたのだ。
「え?皆倒れてってる・・・・・・」
「鬼薔薇一族ノ薔薇カ・・・・・・」
まんじゅうがナルほどと頷いた。
「そう。俺達鬼薔薇一族は自分達の妖力で薔薇を咲かせるんだ。その薔薇にも色々な種類があって、極めれば毒も薬も作れちゃう。この白い薔薇が出す花粉には睡眠作用が含まれてるから、暫くおねんねしてもらうね」
どうやら花粉とやらは下に貯まる特徴があり、全ての家よりも高い位置にあったこの屋敷には届かないようだ。
しおしおと枯れてゆく薔薇とツル。
「・・・・・・俺、まだ駆け出しだからこれくらいしか続かないんだ・・・・・・」
「イヤ、上出来ダゼ小僧。思ったヨリ使えそうダ」
「凄いレイ。もしかしてこの薔薇が奥の手?」
「まあね。まだあるけど」
「小枝も出来るかのう!?」
「ちょーっと難しいかな!」
蔦風がアイビーを下に伸ばし、一行は一段下の吊り橋に足をつける。
小枝にとって数年ぶりの外だ。
「・・・・・・蔦風、大変だな」
「そう?」
「小枝は問題無いぞ」
小枝に至っては、一人でアイビーをつたって下ろすのは心もとないので、蔦風にアイビーでグルグル巻きにされて抱えられている。
黎紅は、衣装を纏った見た目幼女を自身の腹に抱えてツルでグルグル巻きにしている蔦風の様に苦笑い。
「蔦風、これは何だ?」
「これは花」
「はな・・・・・・?」
「多分。俺が知ってる花は地面に咲くんだけど」
「そうか、じゃああれは?」
「あれは虫」
「むしか!蔦風は何でも知っているのだな!先生だ!」
「『先生』っていう言葉は知ってるんだ」
「小枝の世話をしている者が母さんを先生と呼んでいたぞ。だから先生だ」
「俺は何でも良いよ」
本来ならば屋敷に置いていくべきなのだろうが、寂しがっていたので連れてきたのである。
屋敷の中の世界しか知らない小枝は、見るもの全てが新鮮で興奮冷めない様子だ。
ある木の枝に花がたくさん咲いていた。黎紅はあっという間に花かんむりを作り、各々の頭に乗せる。まんじゅうも案外似合うのだ。蔦風はらしくない。小枝は初めての花かんむりに目をキラキラさせ、無口な少年は照れくさそうにはにかむ。
奥に進むほど整備がされておらず、仕方なく吊り橋を降りて地面を歩き、時折大木の枝に登る。
「オイ小僧ども、見えてキタゾ」
巨大な山。
山肌に木々は無く、と言うより蔦風達が立っている枝の大木より高い。
「こんなでっかい山、どうして今まで見えなかったんだ・・・・・・」
「ま、オオカタ初代巫女サンの気遣いだろうよ。たまーに見えるホウがレア感増すしな」
儀式の時だけ姿を現す謎の山。そこの火口に巫女が身を捧げれば、数百年の平和が約束されると言う迷信付き。
「・・・・・・ん、どうしたの?」
黎紅が無口な少年の異変に気付く。
足が震え、手で喉を押さえているのだ。
「ナンダ、こえーのカヨ」
まんじゅうが挑発ぎみに問う。
少年は首を振る。が、その顔は強ばっている。
そんな強がりをしているが、少年はかつてあの火口で見てはいけないものを見ていたのだ。
かつて見たあの大穴はこの無口な少年にもあいた。
「やってみないとわからないよ!」
「二度言わすなっ!・・・・・・もう、これ以上っ・・・・・・」
黎紅は小枝の必死な瞳を見て言葉が出てこない。
小枝は優しい。そしてその優しさに自分自身が押し潰されているのだ。黎紅はそのことに気付き、無力感と同時に、なんとしてでもこの理不尽な儀式を止めなければならないと強く思った。
「オイ、小枝」
まんじゅうが小枝に問いかける。
「『これ以上』、ナンだ?今までコノ里に来た死神ガいるンだな?お前ハソイツらの行方を知ってるンだろう?だからワザワザ俺たちに里の住民の存在をオシエタんダロウ?」
すべて疑問形だが、いじわるなことにまんじゅうはそれらを確信しているのだ。あえて小枝を追い詰めるように問いかけているのだ。
「っ、小枝はっ」
言葉が紡がれようとしていたとき、あの無口な少年が両者の間に割って出た。
「・・・・・・お前ハ、あいつラが言ってタ『口無し』ダナ」
なんと、この無口な少年が一族の恥さらし、『口無し』だとまんじゅうが言いきる。
「・・・・・・」
「お前がナンで喋らないのか、いや、『喋れない』のかはオオカタ検討ハ付いてる」
「え、まんじゅう何で分かるの?」
「蔦風にはワカンネーよ」
「俺には!?」
「うルセェ」
無口な少年、まんじゅう曰く『口無し』が小枝の手を取ったと思うと、蔦風の手も取り、手を繋がせた。
「?」
蔦風はこの動きの意味が分からず困惑し、小枝は目を丸くした。
「・・・・・・オマエは小枝ヲ助けたいンだロ?」
「小枝を・・・・・・助ける・・・・・・?」
無口な少年が蔦風たちに里の巫女である小枝の居場所を教えたのも、小枝を助けようとしていたからだ。恐らくこの里で唯一の考えの持ち主だろう。
蔦風と繋いでいる手を振りほどき、小枝は叫ぶ。
「小枝は、小枝はっ・・・・・・お主を哀れんで側に居させたのだっ・・・・・・!先の儀式でお主が犯した失敗のせいで里の者から蔑まれているのを知ってっ・・・・・・そんなお主が小枝を助ける?お主は小枝を哀れんでいるのか!小枝が里の者に崇められておった時も、巫女らしく口調を変えた時もっ!お主はずっと哀れんでいたのか!この小枝を!」
小枝の大きな瞳から涙が溢れる。
無口な少年は優しく微笑み、首を振る。歩み寄り、小枝の小さな身体を両腕で抱きしめた。
「・・・・・・たい
・・・・・・生きたいよ
小枝だって、望んだわけじゃない、死にたくない、もっと、自由に、外の世界を知りたい」
小枝は少年のぬくもりに、涙を堪えることができなかった。
「・・・・・・まんじゅう、説明して欲しい。俺には小枝が『哀れ』だとしか思えない。でも小枝は『哀れ』じゃないって言ってる。よく分からない」
「蔦風ニハ難しいかもな。・・・・・・小枝は小枝で独りで頑張ってイタのに、それを哀れむッテことは小枝の努力ヲ否定スルってことだ。それがイヤだったんだろう。小枝は最期まで『巫女』デあろうとシテタんだ。全部全部我慢シテ、生きることサエも諦めてナ」
「・・・・・・なるほど」
理解はできたが、共感は難しいようだ。
確かミアやシタラも『助ける』という言葉に大きく反応してたな、と振り返る。
「・・・・・・っ、助けたい、って思ってるんだ。小枝ちゃんにとったら屈辱だと分かってる。どうしてこんな任務を『臣』は俺たち新人に投げつけたのかは知らないけど、任務じゃなくても、俺は君をこの理不尽な里から救いだしたい、きっとそう思う。だから、どうか、俺たちが差しのべる手に掴まってはくれなだろうか」
黎紅が優しく問いかける。
小枝は少年の胸に埋めていた顔を上げ、黎紅の手をとった。
「小枝ちゃん、儀式のこと、里のことを詳しく教えてくれないかな?」
黎紅は幼い子どもをなだめるように優しく問いかけた。
小枝は小さくうなずく。無口な少年の袖を握っていた手をゆっくりと離し、まっすぐに蔦風と黎紅を見つめた。
「・・・・・・昔話で聞いただけのことしか分からない」
水、炎、大地、風など自然の力を司るあやかしが龍である。龍はあやかしの中でも高等な種族であり、種族の垣根を越え、人間からも崇められた。
数だけが取り柄の人間の祈りを無視するわけにもいかず、やがて力を使い尽くし、退化していき、数を大幅に減らした。
能力を失いかけている恥ずべき姿を外界に晒すなどということは彼らにとって屈辱であり、残り僅かな龍の血を絶やすことを恐れた。
そしてある龍がある考えに至る。龍の最後の地を創ろう、と。
その龍が初代巫女にして龍神、名を『ひのと』。
ひのとはその命をもって人間の目には見えない孤島を築き、繁栄と平和を祈った。
龍たちが孤島に住むようになってから退化は著しいものとなり、今や人の姿で暮らすことの方が多く、龍本来の姿を忘れた者も出てきた。
龍たちはこのままでは尊厳がたもたれかねないと危惧しだし、ひのとが巫女としてその命を捧げたように、今一度巫女を用意して捧げようと言い出したのだ。それが『儀式』の始まり。
『儀式』と評したそれに捧げられる者には条件があり、女児であること、龍本来の姿を忘れていないことが大前提である。選ばれた巫女は龍神の生まれ変わりとされ、儀式のために清められ、崇められ続けるのだ。
今回は小枝が選ばれた。
「儀式はイツだ?」
「次の満月」
「フーン、一週間クライか。準備の時間はアンマねえナ」
「まんじゅう、準備ってなにするの」
「決まってルダロ、里の調査ダ。無口小僧、案内シロ」
『口無し』と呼ばないあたり、まんじゅうの優しさが垣間見える。
無口な少年はコクリと頷き、部屋に置いてある引き出しから紙と筆と墨を取り出した。
何やらごそごそと描いている。
「・・・・・・地図だ」
黎紅が呟く。
「おお、わ、わかりやすい・・・・・・ね」
「わかりにくいよ」
「ワカリニクイな」
「・・・・・・ハハハ」
辛辣な蔦風とまんじゅうのおかげで黎紅のフォローも無にかえる。
お世辞でも上手いとは言えないが、分からなくもない地図である。
周りは海。北?に大きな山。今の居場所であろうバツ印。
少年は筆の頭でちょんちょんと山を指す。
「そう、そこだ。小枝はそこの山の火口に身を投げろと言われた」
「誰に?」
小枝は口をとがらせ、目線を流す。
「••••••母さん」
「・・・・・・無口小僧、とりあえずあの山二案内シロ」
まんじゅうは人使いが荒いのだ。
さらっと流されたが、小枝に母親がいたということ。いや、子がいれば親がいるのは当たり前だが今まで盲点だった。小枝を助けようと動くそれらしき人物を見ていないので、我が子が儀式の巫女に選ばれて誇らしく思っているのだろう。習慣とは恐ろしいものである。
まず屋敷から出ねばならない。
「・・・・・・里の奴らニ見つかっタラ厄介ダナ」
そう、巫女大好き龍の里のひとたちをまずどうにかしないと自由に動けない。
屋敷の外には出られたが、他の大木の幹に架かる足場や吊り橋に多くの龍の里の者がいる。小枝の持つ宝玉でこちらの存在は気付いていないようだ。
「ねえ、蔦風、まんじゅう、俺に任せて?」
黎紅が呟く。
「ア?」
「レイ?どうするの?」
「ふふん、まあ見ててよ。これでも鬼薔薇一族の一人なんでね」
すると、黎紅の影から薔薇のツルが出てきた。緑の艶やかなツルには薔薇らしいトゲも。
「ぐるぐる巻きに?」
「いや、もうちょい優しいよ?・・・・・・久し振りだから妖力の調整が難しいや・・・・・・こんな、もんか!」
影から出てきた薔薇のツルは大木の幹を伝い、あっという間に一帯の大木に巻き付いた。
次にツルは白いの薔薇を咲かせた。
里のひとたちは何だこれ?という状態である。
が、バタバタと倒れ始めたのだ。
「え?皆倒れてってる・・・・・・」
「鬼薔薇一族ノ薔薇カ・・・・・・」
まんじゅうがナルほどと頷いた。
「そう。俺達鬼薔薇一族は自分達の妖力で薔薇を咲かせるんだ。その薔薇にも色々な種類があって、極めれば毒も薬も作れちゃう。この白い薔薇が出す花粉には睡眠作用が含まれてるから、暫くおねんねしてもらうね」
どうやら花粉とやらは下に貯まる特徴があり、全ての家よりも高い位置にあったこの屋敷には届かないようだ。
しおしおと枯れてゆく薔薇とツル。
「・・・・・・俺、まだ駆け出しだからこれくらいしか続かないんだ・・・・・・」
「イヤ、上出来ダゼ小僧。思ったヨリ使えそうダ」
「凄いレイ。もしかしてこの薔薇が奥の手?」
「まあね。まだあるけど」
「小枝も出来るかのう!?」
「ちょーっと難しいかな!」
蔦風がアイビーを下に伸ばし、一行は一段下の吊り橋に足をつける。
小枝にとって数年ぶりの外だ。
「・・・・・・蔦風、大変だな」
「そう?」
「小枝は問題無いぞ」
小枝に至っては、一人でアイビーをつたって下ろすのは心もとないので、蔦風にアイビーでグルグル巻きにされて抱えられている。
黎紅は、衣装を纏った見た目幼女を自身の腹に抱えてツルでグルグル巻きにしている蔦風の様に苦笑い。
「蔦風、これは何だ?」
「これは花」
「はな・・・・・・?」
「多分。俺が知ってる花は地面に咲くんだけど」
「そうか、じゃああれは?」
「あれは虫」
「むしか!蔦風は何でも知っているのだな!先生だ!」
「『先生』っていう言葉は知ってるんだ」
「小枝の世話をしている者が母さんを先生と呼んでいたぞ。だから先生だ」
「俺は何でも良いよ」
本来ならば屋敷に置いていくべきなのだろうが、寂しがっていたので連れてきたのである。
屋敷の中の世界しか知らない小枝は、見るもの全てが新鮮で興奮冷めない様子だ。
ある木の枝に花がたくさん咲いていた。黎紅はあっという間に花かんむりを作り、各々の頭に乗せる。まんじゅうも案外似合うのだ。蔦風はらしくない。小枝は初めての花かんむりに目をキラキラさせ、無口な少年は照れくさそうにはにかむ。
奥に進むほど整備がされておらず、仕方なく吊り橋を降りて地面を歩き、時折大木の枝に登る。
「オイ小僧ども、見えてキタゾ」
巨大な山。
山肌に木々は無く、と言うより蔦風達が立っている枝の大木より高い。
「こんなでっかい山、どうして今まで見えなかったんだ・・・・・・」
「ま、オオカタ初代巫女サンの気遣いだろうよ。たまーに見えるホウがレア感増すしな」
儀式の時だけ姿を現す謎の山。そこの火口に巫女が身を捧げれば、数百年の平和が約束されると言う迷信付き。
「・・・・・・ん、どうしたの?」
黎紅が無口な少年の異変に気付く。
足が震え、手で喉を押さえているのだ。
「ナンダ、こえーのカヨ」
まんじゅうが挑発ぎみに問う。
少年は首を振る。が、その顔は強ばっている。
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あすぎさんの作品読ませてもらいました(^o^) ファンタジー系ですね(^^)私には書けない物語なので尊敬します。サクッと読ませて面白かったのでお気に入り登録させてもらいました(^o^)
良かったら私の作品も観てくださいね(^^)
読んでいただきありがとうございます。
花雨さんの作品も拝見させて頂きました。ほほえましい…
なるほど、イラストを用いることが可能なのですね。少し編集してみます。
お気に入り登録!?してくださったのですか!!ありがとうございます。先の話まで完成しているので投稿は速いと思います。どうぞご贔屓に<(_ _*)>