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第1章 死神への道
1話-よい来世は送れないそうで。
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身体がふわりと浮いたかと思えば強い衝撃を感じ、冷たくなって温かくなった。
ここのまま死ぬんだろう。
ようやく解放されたと思い、安堵する。
薄れ行く意識の中、少年はハッキリと思い出す。己の悪運の強さを。
○
目が、開く。立っている。少年は老人の長い列の最後尾にいた。
すぐ前の老人がこちらに気がついて振りかえる。大きな目元のほくろと深いシワ。ネックレスのようなものをつけている。
「お前さん、若いねえ。いくつだい?」
ニコッと元々細い目が無くなるほどの優しい顔で語りかけてきた。
「・・・・・・十四です。」
「こりゃたまげた、十四とな。かわいそうに。・・・・・・こんなことを聞くのは野暮かもしれんが、事故かい?」
「ああ、いえ、自分で川に身を投げたからだと思います」
「自分で身を投げたのかい!そうかそうか。大変だったんだねえ。髪もわしに負けじと真っ白だ」
「・・・・・・そう、ですね」
短髪の真っ白の髪を少しいじる。
老人は遠い目をしながら言った。
「お前さんのように全てを投げ捨てたいと思ったことは星の数ほどある。でもな投げ捨てようとは思わんかった。自分の未来を信じたのさ。言うなれば、未来の自分に今の自分を賭けたってとこだな」
少年はただ、老人を見つめていた。
これは、死んだ人間が閻魔大王に魂の選別をうけるための列だと老人が言った。
先頭の方は何やら黒い部屋へ繋がっているようだ。入り口には門番らしき人が二人。いや、この場では人間ではないのかもしれない。
周りには膝丈ほどの草が一面に生えており、建物らしきものは一つもないのに扉だけがいくつも建っている。
「まだまだ選別は先のようだねぇ。どれ若いの、一つおもしろい話をしてやろう。なあに、暇潰し位にはなる。これは、先に逝った妻の話でね・・・・・・」
なんとも不思議だ。
この世には『あやかし』が存在する。
それは人間を脅かす存在であり、守る存在でもある。
それが見える人間は多からず、少なからずいる。
人間とあやかしの均衡を保つために大きな力が働いており、均衡を崩さんとするものは、大きな力によって握り潰される。
「あやかし・・・・・・ですか・・・・・・」
少年は老人の話を黙って聞いていた。
「そうさ。わしは見たことないが、妻は一度出会ったことがあるらしくてね?それはそれは美しい存在であったそうだ」
老人は目を細めてかつての妻を思い出す。
「そうなんですか・・・・・・あやかし、なるものは沢山いるのですか?」
「ああ、いるとも。妖怪みたいなものさ。わしらには見えんがな」
老人はハハハッと笑った。
「妻は信じないわしにずーっと同じ話をしてくれた。そんな妻を見るのが好きじゃった・・・・・・」
正面を見ると黒い部屋の入り口が老人の目の前にあった。黒子のような門番が二人は鎌を持っている。左側の門番が持っている竹籠に手を入れ、老人に向かって白い粉をかけた。
「加藤道雄。享年九十六。死因心不全。合っているな?」
老人が自分の服をまくりあげ、胸元を番人に見せた。そこには心臓の上であろう皮膚の部分に赤い蓮の花の痣が浮かび上がっていた。白い粉のせいだろうか。
「よし、入れ」
「若いの、先に行くぞ」
「はい、お元気で。ありがとうございました」
老人はおぼつかない足どりで黒い部屋の中へ入っていった。
「・・・・・・お前、変わった死人だな」
唐突に門番の一人が話しかけてきた。黒子のように目元以外を隠し、全身黒い袴で身を包んでいる。
話かけてきたのは入り口の右側に立っている赤目の門番だ。
「・・・・・・そうですか?」
「ああ。先の老人にお元気で、と言っていた。お互いもう死んでるのに元気もクソもあるかってんだい」
確かに。
「・・・・・・確かに。撤回します。よい来世を、と言えば良かったでしょうか?」
今はもう見えない老人の背中を見る。
「フグッ・・・・・・ハハハハハハッ!よい来世を、だって!?お前!お前に良い来世なんてこねえよ!ハハハッ」
腹を抱えて笑う。そんなにひどい来世になるのか・・・・・・。
少年が赤目の門番のリアクションに驚いていた時、左側の門番がこちらに向かって鎌を突き立てた。
「うるさいぞ、寝言は地獄で言え」
こちらの門番は緑の目だ。
老人と同じように白い粉をかけられ、額に赤い蓮の花の痣が浮かび上がった。恐る恐る触れてみるが消えそうにない。やはりあの白い粉・・・・・・あの世のブツだろうか・・・・・・
「大川原光。享年十四。死因頭部強打。合っているな?」
そっか、やはり、死んだのか。
「恐らくそうです」
「よし、入れ」
「お世話になりました」
少年は暗闇へと一歩踏み出す。
さあ、天国か地獄か。はたまた・・・・・・
○
「あの小僧、お前と同じく赤目だったな」
「ああ、俺と、俺の子とおんなじ。楽しみだ」
ここのまま死ぬんだろう。
ようやく解放されたと思い、安堵する。
薄れ行く意識の中、少年はハッキリと思い出す。己の悪運の強さを。
○
目が、開く。立っている。少年は老人の長い列の最後尾にいた。
すぐ前の老人がこちらに気がついて振りかえる。大きな目元のほくろと深いシワ。ネックレスのようなものをつけている。
「お前さん、若いねえ。いくつだい?」
ニコッと元々細い目が無くなるほどの優しい顔で語りかけてきた。
「・・・・・・十四です。」
「こりゃたまげた、十四とな。かわいそうに。・・・・・・こんなことを聞くのは野暮かもしれんが、事故かい?」
「ああ、いえ、自分で川に身を投げたからだと思います」
「自分で身を投げたのかい!そうかそうか。大変だったんだねえ。髪もわしに負けじと真っ白だ」
「・・・・・・そう、ですね」
短髪の真っ白の髪を少しいじる。
老人は遠い目をしながら言った。
「お前さんのように全てを投げ捨てたいと思ったことは星の数ほどある。でもな投げ捨てようとは思わんかった。自分の未来を信じたのさ。言うなれば、未来の自分に今の自分を賭けたってとこだな」
少年はただ、老人を見つめていた。
これは、死んだ人間が閻魔大王に魂の選別をうけるための列だと老人が言った。
先頭の方は何やら黒い部屋へ繋がっているようだ。入り口には門番らしき人が二人。いや、この場では人間ではないのかもしれない。
周りには膝丈ほどの草が一面に生えており、建物らしきものは一つもないのに扉だけがいくつも建っている。
「まだまだ選別は先のようだねぇ。どれ若いの、一つおもしろい話をしてやろう。なあに、暇潰し位にはなる。これは、先に逝った妻の話でね・・・・・・」
なんとも不思議だ。
この世には『あやかし』が存在する。
それは人間を脅かす存在であり、守る存在でもある。
それが見える人間は多からず、少なからずいる。
人間とあやかしの均衡を保つために大きな力が働いており、均衡を崩さんとするものは、大きな力によって握り潰される。
「あやかし・・・・・・ですか・・・・・・」
少年は老人の話を黙って聞いていた。
「そうさ。わしは見たことないが、妻は一度出会ったことがあるらしくてね?それはそれは美しい存在であったそうだ」
老人は目を細めてかつての妻を思い出す。
「そうなんですか・・・・・・あやかし、なるものは沢山いるのですか?」
「ああ、いるとも。妖怪みたいなものさ。わしらには見えんがな」
老人はハハハッと笑った。
「妻は信じないわしにずーっと同じ話をしてくれた。そんな妻を見るのが好きじゃった・・・・・・」
正面を見ると黒い部屋の入り口が老人の目の前にあった。黒子のような門番が二人は鎌を持っている。左側の門番が持っている竹籠に手を入れ、老人に向かって白い粉をかけた。
「加藤道雄。享年九十六。死因心不全。合っているな?」
老人が自分の服をまくりあげ、胸元を番人に見せた。そこには心臓の上であろう皮膚の部分に赤い蓮の花の痣が浮かび上がっていた。白い粉のせいだろうか。
「よし、入れ」
「若いの、先に行くぞ」
「はい、お元気で。ありがとうございました」
老人はおぼつかない足どりで黒い部屋の中へ入っていった。
「・・・・・・お前、変わった死人だな」
唐突に門番の一人が話しかけてきた。黒子のように目元以外を隠し、全身黒い袴で身を包んでいる。
話かけてきたのは入り口の右側に立っている赤目の門番だ。
「・・・・・・そうですか?」
「ああ。先の老人にお元気で、と言っていた。お互いもう死んでるのに元気もクソもあるかってんだい」
確かに。
「・・・・・・確かに。撤回します。よい来世を、と言えば良かったでしょうか?」
今はもう見えない老人の背中を見る。
「フグッ・・・・・・ハハハハハハッ!よい来世を、だって!?お前!お前に良い来世なんてこねえよ!ハハハッ」
腹を抱えて笑う。そんなにひどい来世になるのか・・・・・・。
少年が赤目の門番のリアクションに驚いていた時、左側の門番がこちらに向かって鎌を突き立てた。
「うるさいぞ、寝言は地獄で言え」
こちらの門番は緑の目だ。
老人と同じように白い粉をかけられ、額に赤い蓮の花の痣が浮かび上がった。恐る恐る触れてみるが消えそうにない。やはりあの白い粉・・・・・・あの世のブツだろうか・・・・・・
「大川原光。享年十四。死因頭部強打。合っているな?」
そっか、やはり、死んだのか。
「恐らくそうです」
「よし、入れ」
「お世話になりました」
少年は暗闇へと一歩踏み出す。
さあ、天国か地獄か。はたまた・・・・・・
○
「あの小僧、お前と同じく赤目だったな」
「ああ、俺と、俺の子とおんなじ。楽しみだ」
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