なんだかんだで妖怪相談所はじめました(仮)

杵島玄明

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5特上寿司と合コン

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次の日の夕方、約束通り善はやってきた。
そして、善に遅れること20分。
やってきた尊の腕にはノートパソコンが抱えられている。
 昨日善に確かに言われた。「PC用意しとけ」と。けど、俺はすっかり忘れていたのだが、そうなることを予見していた善から尊に、パソコンの話をしたらしい。友人たちがしっかりもので、こんな時は本当に助かる。
 普通なら少しでも金を渡して譲り受けるのだろうが、尊は少し前に新しいものを買ったからといって、ただで譲ってくれるらしい。

「ばぁか、友達から金なんかとれっかよ」

 そう言って笑う尊を見て、こいつがモテるのも頷けると一人納得する。そうだ。尊がモテるのは、決してルックスのせいだけじゃない。男の俺から見てもムカつくくらいいい男だ。
 今がどんな状況かと言えば・・・・。
俺がソファーの上でちんまりと膝を抱えている間に、尊がパソコンをセッティングし、善がUPしたサイトをたった今セッティングしたパソコンで管理できるようにしてくれたところだ。
俺自身は1ミリも動いていないが、無事パソコン関係のことは済んだようだ。
 本当に、持つべきものは友である、という言葉が心に染みる。

「はぁ~、できたぁ~!いくら階層構造単純ってったて、やっぱこの短納期はきついわぁ~」
「やっぱ善は凄いよ。昨日の今日で、このクオリティのホームページつくるんだもんなぁ。志童、善に感謝だな」

俺はコクコクと頷きながら、テーブルの上で、善が作ってくれたホームページを尊と見ていた。

「確かに・・・。24時間で仕上げたとは思えないな・・・」
「完徹なんて久しぶりだぁ。いやぁ、自分が確実にじじぃになっているのを感じるわぁ」

 そう言って欠伸をしながら大きく伸びをした善は、眠気のせいかトロンとした目がどこか色っぽい。女たちはこの目にやられるのだろう。

『大切な故人の葬儀
    故人を想い溢れる涙で演出』

ディスプレイに映された言葉はは激しく胡散臭いのに、ホームページの雰囲気がそれらしく見せるから不思議である。俺と尊とでホームページを見て、改めて善を見直していたちょうどその時、事務所のドアが静かに空いた。

「あのぉ~、甲斐様からのご注文をお届けにあがりました~」

気の弱そうな男がドアの隙間から顔だけを覗かせて、恐る恐るこちらを見た。なぜこんなに挙動っているのかと不思議に思ったが、男ごしにあの看板が目に入った。
【妖怪相談所】
なるほど。あの看板を見たらそりゃここがどんな場所うだろうと警戒して当然だ。

「あ、ご苦労さん。わるいね」

尊がそう言って出迎えると、男は心底ほっとしたような顔をして持ってきたものを尊に渡した。 
そしてテーブルの上に広げられたそれを見て、俺はゴクリと喉を鳴らし目を輝かせた。

「まじかっ。尊、ほんとお前最高だよ~」
「わかったから、くっつくなって善っ」

抱きついてくる善を、尊は全力で押しのけている。善は基本的にスキンシップが激しい。それは相手が女でも男でも構わずなのだ。
まぁ、いつもの事なので俺も尊もさほど気にしなくなってはいるが、これで勘違いしてしまう女は多いのもまた事実だ。罪作りな奴だ。
ところで、尊がテーブルに置いたもの。
それはこの事務所のすぐ近くの寿司屋の寿司だった。もちろん、回らない寿司屋である。
いかにも柔らかそうな大トロ、器の色が透けて見えるような透明感のある新鮮なイカ、でかい宝石のような光沢のあるウニ。特上寿司が3人前。
この銀座の一等地にある寿司屋に出前などという庶民的サービスはもちろんない。尊だからこそ、なせる業である。
俺は二人に冷えたビールを渡し、3人で乾杯をした。冷たいビールが俺の喉を通り、次に脂の乗った大トロ寿司を一気に口に頬張ると、この世の幸せを感じた。

「徹夜明けの胃袋に染みるぅ~」
「せっかく3人集まったし、まぁ、志童の脱ニートの祝いだな」
「尊ぉ~、お前の愛は受け取ったぞ」
「ばぁか、愛なんかねぇよ」

 いつもと変わらぬ軽口を叩きながら特上寿司を堪能していると、ふいに善が真顔になった。

「で、早速だけど志童くんっ」

期待感満載の笑みを向ける善は、俺を幸せの絶頂から容赦なく引きずりおろした。
尊は何の事だ?というように、ビール片手に善と俺を交互に見ている。

「はいはい、わかってるって」

俺は苦笑いしながらも、ついさっき楓から届いたばかりのlineの画面を黙って善と尊へ差し出した。俺もまだ見てはいないが、まぁ楓のことだから大丈夫だろう。
ふたりが同時にスマホの画面を覗き込む。

「待ってましたー!」

 善が上機嫌でスマホを手に取り、読み上げる。

『いい?志童っ、ちゃんと引っ越し先教えなさいよ!
で、これが約束のCAのセッティング。
来週の土曜日 場所はそっちで指定して。
時間は19:00 CA 3名用意しといたから。
尊、善・・・それからあんたも行ってきなさい。
先方にはそう伝えてあるから。
たまには女子と遊んで、世捨て人を卒業するように!』

「っぶっ」
「はぁ?????」
 
俺はビールを吹き出しそうになり、尊は盛大に叫んだ
そして、俺たち二人の言葉が重なる。

「なんで俺が!」
「なんで俺が!」

 同時に立ち上がった俺を尊がじっとりとした視線を向ける。

「あ・・・・えっと・・・・・尊、実はだなぁ・・・・・」

うろたえる俺を尻目に尊は腕を組み、善を見下ろしている。

「どういうことだ?」
「ん?どういうことって、そういうことだろ?」

善は1ミリも悪びれた風もなく、上手そうに特上寿司をほおばっている。

「なんで俺まではいってんだよぉ~」

力なくソファーにへたり込む俺に尊の視線が突き刺さる。

「いや、それを言うなら俺だ!なんで俺まで入ってんだよー」
「うーん・・・なんでかなぁ・・・・って、尊が行けば女が喜ぶ!からじゃね?」
「ふざけるな!俺は嫌だからな!」
「俺だっていやだよー」
「志童、お前は行ってこい。楓姉ちゃんの言うことは一理ある」
「尊っ、てめっ、適当なこと言ってんじゃねぇよ」
「まぁまぁ、二人とも、落ち着けって。いいじゃねぇか。三人で行けばぁ」

 善は満面の笑みだ。

「善っ、テメェっ!仕組んだなっ」
「う~ん・・・なんのことだろう? よくわかんなぁい♡でも尊・・・楓姉ちゃんのご指名だから仕方ないんじゃない?」
「うぅ・・・っ、痛いところを・・・・」

子供の頃からの習慣とは実に恐ろしいものである。
善も尊も、ガキの頃から楓には弟の俺同様に奴隷のように扱われ、今だに楓は二人にとっても脅威の存在である。

「ってか・・・なんで、俺まで・・・・はぁ・・・。それに世捨て人ってなんだよ・・・別に俺、世を捨てた覚えねぇし・・・」

がっくりと肩を落とす俺に尊が氷点下級の視線で言い放った。

「知らないうちに俺まで巻き込まれてるんだ。志童、お前だけ逃れようなんてそうは問屋が卸さないぞ」
「うんうん。みんなで仲良く行けばいいじゃないかぁ~。CAちゃん、待っててねぇ~」

俺と尊が盛大なため息をつく中、善だけが終始ご機嫌で鼻歌まで歌っている。どうやら徹夜の疲れも一気に吹き飛んだようだ。

何はともあれ、優しい?悪友のお陰でとりあえずのインフラも揃った。気が付けば、泣き女との約束の日も明日へと迫っていた。
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