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皇太子アルフレッド編

偽りの愛

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「母上は父上を心から愛していました。不貞などする人ではありません。」


私は皇帝に対してハッキリと言った。


母上は死の間際まで皇帝のことを気遣っていた。


自分を蔑ろにし、愛人を寵愛する皇帝を。


「・・・」


皇帝はじっと黙り込んでいる。


(何とか言えよ・・・!)


「シャーロットも父上の子で間違いありません。父上はキャサリンに嵌められたのです。」


「・・・」


「何で何も言わないんですか・・・!っ・・・」


私は気付けば涙を流していた。


泣くことなど久しぶりだ。


母が亡くなり、たった一人の妹を守ると誓ったあの日から一度も泣いたことなど無かったのに。


「・・・!」


皇帝は私が涙を流す姿を見て少し驚いているようだ。


皇帝の前で泣くのは初めてだ。


(・・・何で泣いてるんだ。)


必死でこらえようとしても私の目からはポロポロと涙が溢れてくる。


「っ・・・」


今の状態じゃ喋ることも出来ない。


私は必死に心を落ち着かせた。





「・・・父上、あなたはキャサリンが昔どのようなことをしていたか知っていますか?」


私が尋ねると、皇帝はようやく口を開いた。


「・・・多くの男と関係を持っていたことは知っている。つい最近それで言い争ったからな。」


「・・・知っていたのですね。」


皇帝はキャサリンが王宮に上がる前どのようなことをしていたかを知っていたという。


(それなのに何であんな阿婆擦れを未だに愛しているんだ・・・!)


私は皇帝の発言に腹が立ち、キャサリンの秘密をバラしてやった。


「父上、プリシラはあなたの子供ではありませんよ。彼女はキャサリンと別の男との子供です。」


「・・・」


皇帝は表情を変えなかった。


「あんまり驚かないんですね。」


「・・・薄々感づいていた。昔のキャサリンは男遊びの激しい女だったから。」


「じゃあどうしてあの女やプリシラを最後まで気遣っているんですか・・・!そんなやつら見捨てればいい・・・!」


私は皇帝に対して強い口調で言った。


それに対して皇帝は穏やかな顔で話し始めた。


「・・・何故だろうな。キャサリンと一緒にいると心地が良かった。まるで自分を見ているようだった。」


「・・・」


「プリシラに関してもそうだった。昔の自分にそっくりで。」


「・・・」


「プリシラは私の子供ではないかもしれない。それを知った時、何故だかあまり悲しくなかった。シャーロットの時は怒り狂ったというのに。」


「・・・それは父上がキャサリンのことを愛していなかったからですよ。」


「はは・・・そうかもしれないな・・・。」


(・・・馬鹿げてる。)


皇帝はキャサリンを愛していたわけではなかったのか。


まぁキャサリンも皇帝のことを愛していないからお互い様か。


皇帝とキャサリンの間にあったのは愛などではなかった。


皇帝にとってキャサリンは「一緒にいて疲れない相手」で、キャサリンにとって皇帝は「望むものを何でも与えてくれる男」でしかないのだ。


皇帝とキャサリンは傍から見れば仲の良い理想の夫婦のように見えただろう。


しかし実際は違う。


二人の間にあったのは「偽りの愛」だったのだ―


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