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皇女シャーロット編

アーク公爵令息

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「アーク公爵令息様。プリシラ様なら今は庭園の方にいるかと・・・。」


衛兵がオロオロしながら言った。


「私はそんなことを聞いているのではない。」


アーク公爵令息の顔は更に険しくなった。


「え、えっと・・・」


衛兵は顔色を悪くしてハッと何かに気づいたように私の方を見た。


「アーク公爵令息様!この女です!プリシラ様がいつも悪く言っているシャーロット皇女は!この女はプリシラ様の誘いを断ったんですよ!本当に最悪な女でしょう?」


アーク公爵令息はその言葉を聞いても表情を変えなかった。


「だからと言って何も抵抗できない女性に暴力をふるっていいと言うのか?」


「いっ、いえっ!そんなことは!」


衛兵は慌てて言い訳しようとするがアーク公爵令息はそれを一蹴する。


「すぐに私の前から消え失せろ。お前のようなのと一緒にいるだけで虫唾が走る。」


アーク公爵令息が冷気を放ち、衛兵はビクつきながら去っていった。


「・・・大丈夫ですか?」


アーク公爵令息は振り返って私に手を差し伸べる。


「ありがとうございます。アーク公爵令息様。」


差し伸べられた手を取り、私は立ち上がる。


「血が出ています。すぐに治療を・・・」


「いえ、結構です。」


「・・・え?」


アーク公爵令息が驚いた顔をする。


「アーク公爵令息様。助けていただいたことはありがたいですが次からはそうしていただかなくて結構です。」


「何故ですか?」


私が手を離そうとしてもアーク公爵令息はギュッと握りしめて離さなかった。


「さっき衛兵が言っていた通り、私はシャーロットなんです。私の噂をご存知でしょう?近づいたらあなたまで・・・。」


「噂とは、あなたの母親が悪女でありあなた自身もそうだという話でしょうか?」


やはり、貴族も知っているのか。


アーク公爵令息は優しい方だ。


困っている女性を見たら放っておけない人なのだろう。


だからこそ私に近づけさせるわけにはいかない。


アーク公爵令息は考え込む素振りをした後、口を開いた。


「そんな噂、高位貴族は誰も信じていません。」


「えっ・・・?」


信じていない?


驚く私をよそにアーク公爵令息は言葉を続けた。


「とにかく治療をしましょう。このままではいけません。すぐ皇医に・・・」


次の瞬間、私はアーク公爵令息に横抱きにされた。


!?


「少し我慢していてください。あなたを皇医まで連れて行きます。」


アーク公爵令息は早足で歩き始める。


「あ、アーク公爵令息様、皇医はちょっと・・・」


「今はそんなことを言っている場合ですか。」


皇医はキャサリンの息のかかった者なので私を診てはくれないだろう。


それよりも、恥ずかしすぎる―!


男の人に触れるのなんて初めてで。


皇医の前でおろされるまで私の胸はドキドキしっぱなしだった。


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