おかしくなったのは、彼女が我が家にやってきてからでした。

ましゅぺちーの

文字の大きさ
上 下
15 / 17
番外編

オーギュスト公爵家④

しおりを挟む

「あぁ・・・リリス・・・。」


自室のベッドの上で弱々しくそう呟くのはオーギュスト公爵夫人だ。


かつて社交界の華と謳われたその美貌は見る影もない。




オーギュスト公爵と公爵夫人は貴族では珍しい恋愛結婚だった。


公爵夫人は元々あまり力のない伯爵家の出身で、オーギュスト公爵家とは釣り合わない身分の人間だ。


だが当時嫡男だった現オーギュスト公爵と恋に落ち、周囲の反対を押し切って結婚した。


そうして生まれた第一子がアーノルドだった。


アーノルドのことももちろん可愛かったが公爵夫人はずっと女の子が欲しいと願っていた。


そして数年後、待望の女児を授かった。


それがリリスだった。


生まれた時のリリスは天使のようにかわいらしかった。


いや、生まれた後もずっと可愛かった。


そして長い年月を経て少しずつ美しい女性へと成長していった。


家族全員、シルビアが現れるまではリリスを可愛がっていた。


それなのに・・・


大事な愛娘を傷つけてしまった。


公爵夫人は罪悪感に押しつぶされそうだった。


(リリスはもう戻ってこないのよね・・・。永遠に・・・。)


公爵夫人の目から涙がこぼれた。


(私は・・・家を追い出す時リリスに何て言った・・・?ものすごく酷い言葉を浴びせた気がする・・・。)


『恥ずかしいわ。こんなのが一時でも私の娘だったなんて。』


(っ!!!)


思い出したくもなくて、公爵夫人は考えるのをやめた。


あれから家族とは一切口を聞いていない。


何十年も変わらず仲の良い家族だったというのに。


公爵夫人は動く気力も残っていなかった。


(リリス・・・すごく幸せそうだった・・・。新しい家族たちに囲まれて・・・。)


最後に見たリリスを思い出した。


今のリリスにとって両親は自分たちではなく、あの時見た人たちなのだ。


その事実に傷ついている自分がいる。


(娘の幸せを素直に喜べないだなんて・・・私は母親として失格ね・・・。)


リリスはもう自分を親だとは思っていないだろう。


当然だ。それだけのことをしてきたのだから。


先ほど聞いた話によると、たくさんいた使用人達はもう半分もいないらしい。


リリスの件で自主的に辞めていったとのことだ。


そして公爵は仕事が手につかず、アーノルドも公爵位を継ぐ権利を放棄したという。


公爵夫人は自分の未来が既に見えていた。


(私はこのまま誰にも看取られずに独りで死んでいくのよ・・・ええ・・・それがお似合いだわ・・・。)


そう思いながら彼女は目を閉じた。





公爵夫人は今も後悔の中、生きている―


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?

Debby
恋愛
キャナリィ・ウィスタリア侯爵令嬢とクラレット・メイズ伯爵令嬢は困惑していた。 最近何故か良く目にする平民の生徒──エボニーがいる。 とても可愛らしい女子生徒であるが視界の隅をウロウロしていたりジッと見られたりするため嫌でも目に入る。立場的に視線を集めることも多いため、わざわざ声をかけることでも無いと放置していた。 クラレットから自分に任せて欲しいと言われたことも理由のひとつだ。 しかし一度だけ声をかけたことを皮切りに身に覚えの無い噂が学園内を駆け巡る。 次期フロスティ公爵夫人として日頃から所作にも気を付けているキャナリィはそのような噂を信じられてしまうなんてと反省するが、それはキャナリィが婚約者であるフロスティ公爵令息のジェードと仲の良いエボニーに嫉妬しての所業だと言われ── 「私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 そう問うたキャナリィは 「それはこちらの台詞だ。どうしてエボニーを執拗に苛めるのだ」 逆にジェードに問い返されたのだった。 ★★★★★★ 覗いて下さりありがとうございます。 女性向けHOTランキングで最高20位までいくことができました。(本編) 沢山の方に読んでいただけて嬉しかったので、続き?を書きました(*^^*) ★花言葉は「恋の勝利」  本編より過去→未来  ジェードとクラレットのお話 ★ジェード様の憂鬱【読み切り】  ジェードの暗躍?(エボニーのお相手)のお話

【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。

凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」 リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。 その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。 当然、注目は私達に向く。 ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた-- 「私はシファナと共にありたい。」 「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」 (私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。) 妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。 しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。 そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。 それとは逆に、妹は-- ※全11話構成です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。

あなたに未練などありません

風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」 初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。 わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。 数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。 そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

義妹に婚約者を取られて、今日が最後になると覚悟を決めていたのですが、どうやら最後になったのは私ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フェリシティーは、父や義母、義妹に虐げられながら過ごしていた。 それも、今日で最後になると覚悟を決めていたのだが、どうやら最後になったのはフェリシティーではなかったようだ。 ※全4話。

別れたいようなので、別れることにします

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のアリザは、両親が優秀な魔法使いという理由でルグド王子の婚約者になる。 魔法学園の入学前、ルグド王子は自分より優秀なアリザが嫌で「力を抑えろ」と命令していた。 命令のせいでアリザの成績は悪く、ルグドはクラスメイトに「アリザと別れたい」と何度も話している。 王子が婚約者でも別れてしまった方がいいと、アリザは考えるようになっていた。

永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~

畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。

神の審判でやり直しさせられています

gacchi
恋愛
エスコートもなく、そばにいてくれないばかりか他の女性と一緒にいる婚約者。一人で帰ろうとしたところで、乱暴目的の令息たちに追い詰められ、エミリアは神の審判から奈落の底に落ちていった。気が付いたら、12歳の婚約の挨拶の日に戻されていた。婚約者を一切かえりみなかった氷の騎士のレイニードの様子が何かおかしい?私のやり直し人生はどうなっちゃうの?番外編は不定期更新

【完結】私ではなく義妹を選んだ婚約者様

水月 潮
恋愛
セリーヌ・ヴォクレール伯爵令嬢はイアン・クレマン子爵令息と婚約している。 セリーヌは留学から帰国した翌日、イアンからセリーヌと婚約解消して、セリーヌの義妹のミリィと新たに婚約すると告げられる。 セリーヌが外国に短期留学で留守にしている間、彼らは接触し、二人の間には子までいるそうだ。 セリーヌの父もミリィの母もミリィとイアンが婚約することに大賛成で、二人でヴォクレール伯爵家を盛り立てて欲しいとのこと。 お父様、あなたお忘れなの? ヴォクレール伯爵家は亡くなった私のお母様の実家であり、お父様、ひいてはミリィには伯爵家に関する権利なんて何一つないことを。 ※設定は緩いので、物語としてお楽しみ頂けたらと思います ※最終話まで執筆済み 完結保証です *HOTランキング10位↑到達(2021.6.30) 感謝です*.* HOTランキング2位(2021.7.1)

処理中です...