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62 家族との対話

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それからの展開は本当にあっという間だった。
王妃陛下から事前に話を聞いていたのか、国王陛下はすぐに私を自身の養女にした。
この日を以て、私はカルメリア家と完全に決別した。
隣国へは王女殿下として嫁ぐこととなる。


「アリス嬢、娘が迷惑かけてすまなかったな」
「いえ、アメリア王女のおかげでジークハルト殿下と出会えたので」
「そうか……」


私の目の前に座る陛下の顔は前に会った王妃陛下と同じく覇気が無いように見える。
王女殿下が事件を起こしてから王族一家はずっとこんな調子だった。


(彼らが早く元気になるといいな……)


そして隣にいた王妃陛下は、まだ少し青いままの顔を柔らかくした。


「アリス、これまで苦労してきた分どうか隣国で幸せになってちょうだい」
「ありがとうございます、王妃様」


そう言うと、王妃様は私を抱き締めた。
実の母親からも受けたことの無い温もり。


泣きそうになりながらも、王妃様の背中にそっと手を回した。


「貴方の幸せをこの国から願っているわ」
「……陛下」


相変わらず王妃様はとても優しい人だ。
そんな彼女のためにも、絶対に幸せにならなければいけないのだという気持ちになる。


「……それでは失礼します」
「ああ」


話を終えると、私は一礼して義理の両親の元を去った。
彼らとは何だかこれからも良い関係を築いていけそうな気がする。


そして私は自身の部屋へ戻る途中にある人物と出会った。


「……王太子殿下?」
「アリス嬢」


アメリア王女の実兄である王太子殿下だった。
今日からは私の義理の兄でもあった。


「養女になったと聞いた」
「はい、王妃様が身に余る提案をしてくださいました」
「……そんなことは無い、君には随分妹が迷惑をかけてしまったからな」


殿下はハァとため息をついた。
アメリア王女と兄の王太子殿下の間には溝があるという話は聞いたことがあった。
しかしそれでも、兄として血の繋がった妹の処遇を悲しんでいるようだった。


「どうしてアメリア王女はあのような……」
「さぁな……幼い頃は普通の女の子だったような気もするが……あんな醜悪な姿を見てからではあのときのアメリアは思い出せないな」
「……」


ルーカス様とアメリア王女の出会いも幼少の頃だったと聞く。
きっと幼い頃は本当に普通の子だったんだろう。
だとしたら、何が彼女をあそこまで変えてしまったんだろうか。
どれだけ考えても分からなかった。


「――アリス嬢」
「はい」
「ジークハルトは本当に良い男だ、絶対に君を幸せにしてくれるだろう」
「殿下……」


ジークハルト王太子殿下がとても優しい人だということは私も十分すぎるくらい知っている。
しかし、今の私の心の中には彼と結婚出来る喜びとは違う、ある感情が湧いていた。


(私は……彼を幸せに出来るだろうか)


私はいつも彼に救われてばかりだった。
迷惑かけてばかりで、彼にしてあげられたことなんて何一つ無い。


そんな私の心の中を読んだのか、殿下がフッと笑って付け加えた。


「ジークハルトのことを気にする必要は無い、君は自分の幸せだけを考えていればいい」
「それは一体どういう……」
「――君が傍にいること、それがあの男にとっての幸せだから」
「……!」
「だから二度とジークハルトの傍から離れないように。君を失ったらアイツは生きていけないだろうからな」
「で、殿下……」


殿下は意地悪そうにクスッと笑うと踵を返して去って行った。
一人残された私は、真っ赤になる顔を隠すので精一杯だった。



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