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46 警戒

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「え……………?」
「つ、妻……?それは一体どういうことですか!」


私もルーカス様も驚きを隠せない。


(殿下……一体どういうつもりなの……?)


驚いて彼の顔をじっと見つめた。
肩を抱かれているせいで無駄に距離が近い。


「その言葉の通りだ。アリスはもうすぐ私と結婚する」
「で、殿下……!?」
「結婚だと……!?」


ルーカス様の目が丸くなった。
驚いているのは私も同じだ。
結婚の話は以前から出ていたことだが、こんな風に堂々と言われると何だか恥ずかしい。


(殿下、人前で何を言って……)


こちらを見下ろした彼と目が合った。
慌てて顔を逸らしたが、赤くなった顔までは隠せていないだろう。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


それを聞いてじっと黙り込んでいたルーカス様だったが、突然顔を上げたかと思うと殿下に向かって声を荒らげた。


「離婚してすぐ再婚だなんて……!貴族たちに何を言われるか分からないのですか!」
「そうだな、貴族たちには噂されるだろう」
「分かっているのなら再婚は考え直して……」
「――それさえ、今の私にとってはどうでもいいということだ」


自分の言葉を遮られたのが不快だったのか、ルーカス様が眉をひそめた。


「それはどういう意味ですか?」


そこで殿下は挑発的な笑みを浮かべた。


「――アリスを手に入れられるなら、貴族たちのしょうもない噂話などどうだっていいと言っているんだ」
「な……何を……」
「……」


それを聞いたルーカス様が悔しそうに拳をギュッと握り締めた。


「……してたのですか」
「何だ?」
「私と結婚していたときからアリスと浮気していたのですか!」
「……何?」


(この人は何を言って……)


そんなとんでもない言動にも、殿下は冷静に言葉を返した。


「住んでいる国が違うのにどうやって不貞行為を行うというんだ?私はそこまで暇ではない」
「う……そ、それは……」


何も言い返せなくなったのか、彼は俯いた。


「アリス、私たちはそろそろ行こう」
「はい、殿下」


殿下の手を取った私は、ルーカス様の方を振り返ってキッパリと告げた。


「公爵様、二度と私の元へは来ないでください。公爵様の要求は受け入れられません」
「……」


ルーカス様は返事をせず、俯いたまま黙り込んでいた。


(相当堪えたみたいね)


ともかく、彼の心が折られたのなら良かったと言えるだろう。
もう二度とこのようなことはしないでほしいものだ。


(私の幸せは少なくとも彼の傍には無いんだから)


今では自分の中でそう結論が出ている。
私がルーカス様の元に戻ることは絶対に無いのだ。







***






ルーカス様を一人残して部屋を出た後、わざわざここまで駆け付けてくれた殿下に礼を言った。
本当に彼には助けられてばかりだ。


「殿下、助けてくださってありがとうございます……」
「ああ……しかしあの男が君を取り戻そうとしているとはな……」


先ほどの光景を思い返したのか、殿下が顔をしかめた。


「公爵様に戻って来てほしいと言われたときは私も驚きました……彼は私のこと愛していないはずなのにどうして……」
「……それは君の誤解だろう」
「え?」
「いや、何でもない」


聞き返すと、彼は私から顔を逸らした。
何か誤解だと言っていたような気がするがそれは一体どういう意味なのだろう。


「とにかく、あの男には警戒した方が良さそうだな」
「ですが、ここは王宮ですし……公爵様一人では何も出来ないのではないですか?」
「ああ、そうだな……”一人なら”の話だがな……」


殿下の意味深な呟きに、私はきょとんと首をかしげた。


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