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「お、お嬢様……」
「これは一体……」
武装した男たちは明らかに私たちに向かって歩いてくる。
ニヤニヤした下卑た笑みを浮かべていて、裏社会の人間であることは明らかだ。
(この人たちはどうしてここに……もしかして、お母様が……?)
そこで私はようやく母の罠に嵌ったのだということに気が付いた。
母は最初から私を暴漢に襲わせるつもりであの提案をしたのだろう。
思えば変だった。
人間がそう簡単に変わるはずなど無いのだ。
そのことに気付けなかった自分が情けなくて仕方が無い。
(今はそんなこと考えていても無駄ね……私はどうなってもいいからレイナだけは逃がさないと……)
私は前に立っていたレイナを庇うようにして背に隠した。
「アリスってのはどっちの女だ?」
「アリスは私よ!!!」
一歩一歩迫りくる暴漢たちに向かって声高く叫んだ。
「お前がアリスか」
「地味だが顔は悪くない、なかなか楽しめそうだ」
「……」
全てが気持ち悪い。
今からこの男たちにされるであろうことを想像しただけで脚が小刻みに震えた。
(全部私のせいなんだから……せめて自分の侍女くらいは守らないと……)
決意を固めた私は、後ろにいたレイナにそっと囁いた。
「レイナ、貴方はすぐに逃げなさい。ここは私が何とかするから」
「そんな……お嬢様ッ!!!」
彼女だけは何としてでも私が逃がす。
居場所の無い侯爵邸で唯一私の味方になってくれた子だから。
(自分の命を懸けられるほど大切な存在って……こういうことを言うのね)
不思議と口元に笑みが浮かんだ。
それを挑発していると捉えたのか、男の眉がつり上がった。
「この状況で笑うだなんてイカれてんな……頭おかしいんじゃねえのか」
「頭がおかしいのはそっちでしょう?複数人で女を襲う卑怯者のくせに!やれるものならやってみなさいよ!」
私はわざと男たちを挑発して、彼らの意識を自分だけに向けることを試みた。
「何だと!?俺たちを馬鹿にしてんのか!」
一人の男が顔を真っ赤にして叫んだ。
(計画通りね)
「レイナ、逃げて!」
「お嬢様、そんな、私は……」
「早く行きなさい!」
私はレイナを突き放すようにそう言ったが、彼女はなかなかその場から動こうとしなかった。
二人で揉めているうちに、近付いて来た男に腕をガシッと掴まれた。
「ぐっ……」
「捕まえた」
汚い手で触れられて、不快感をひしひしと感じた。
すぐにこの手を放してほしい。
(これくらい何とも無いわ……お父様の平手打ちやお母様の鞭打ちに比べたら大したことないじゃない)
侯爵邸で受けていた仕打ちに比べればこんなのは何ともない。
そう思って必死で平常心を保った。
「――お嬢様を放せ!」
何とか振りほどこうと抵抗していたそのとき、レイナが前に出てきて腕を掴んでいた男の顔を思いきり殴った。
「レイナ!?」
「ぐあっ……」
レイナの拳を受けた男はよろめいて私の手をパッと放した。
「何すんだよ……このクソ女……」
しかし、レイナのこの行動は男の逆鱗に触れてしまったようだ。
(マ、マズイ!)
男は腰にぶら下げていた剣を抜き、勢い良くレイナに振り下ろそうとした。
「……!」
このままでは彼女に剣が当たってしまう。
「やめて!」
私は慌てて間に入り、彼女を守るようにして手を広げた。
「お嬢様!」
「……!?」
それでも私に向かって下りてくる剣の勢いが弱まることは無い。
このまま剣が振り下ろされれば私は確実に死ぬ。
(あ……これ、本当にダメかも……)
これから襲いかかってくるであろう強烈な痛みに、思わず目を閉じた。
本気で死を覚悟した、そのときだった――
「ギャアアアア!!!」
「……」
突然耳をつんざくような男の断末魔が聞こえた。
(え、何……?)
じっと目を閉じていたが、いつまで経っても痛みはやってこない。
そのことを不思議に思い、目を開けて状況を確認してみるとそこには――
「………………殿下?」
「無事か、アリス嬢!」
ハァハァと息を切らして心配そうにこちらを見つめる王太子殿下の姿があった。
「これは一体……」
武装した男たちは明らかに私たちに向かって歩いてくる。
ニヤニヤした下卑た笑みを浮かべていて、裏社会の人間であることは明らかだ。
(この人たちはどうしてここに……もしかして、お母様が……?)
そこで私はようやく母の罠に嵌ったのだということに気が付いた。
母は最初から私を暴漢に襲わせるつもりであの提案をしたのだろう。
思えば変だった。
人間がそう簡単に変わるはずなど無いのだ。
そのことに気付けなかった自分が情けなくて仕方が無い。
(今はそんなこと考えていても無駄ね……私はどうなってもいいからレイナだけは逃がさないと……)
私は前に立っていたレイナを庇うようにして背に隠した。
「アリスってのはどっちの女だ?」
「アリスは私よ!!!」
一歩一歩迫りくる暴漢たちに向かって声高く叫んだ。
「お前がアリスか」
「地味だが顔は悪くない、なかなか楽しめそうだ」
「……」
全てが気持ち悪い。
今からこの男たちにされるであろうことを想像しただけで脚が小刻みに震えた。
(全部私のせいなんだから……せめて自分の侍女くらいは守らないと……)
決意を固めた私は、後ろにいたレイナにそっと囁いた。
「レイナ、貴方はすぐに逃げなさい。ここは私が何とかするから」
「そんな……お嬢様ッ!!!」
彼女だけは何としてでも私が逃がす。
居場所の無い侯爵邸で唯一私の味方になってくれた子だから。
(自分の命を懸けられるほど大切な存在って……こういうことを言うのね)
不思議と口元に笑みが浮かんだ。
それを挑発していると捉えたのか、男の眉がつり上がった。
「この状況で笑うだなんてイカれてんな……頭おかしいんじゃねえのか」
「頭がおかしいのはそっちでしょう?複数人で女を襲う卑怯者のくせに!やれるものならやってみなさいよ!」
私はわざと男たちを挑発して、彼らの意識を自分だけに向けることを試みた。
「何だと!?俺たちを馬鹿にしてんのか!」
一人の男が顔を真っ赤にして叫んだ。
(計画通りね)
「レイナ、逃げて!」
「お嬢様、そんな、私は……」
「早く行きなさい!」
私はレイナを突き放すようにそう言ったが、彼女はなかなかその場から動こうとしなかった。
二人で揉めているうちに、近付いて来た男に腕をガシッと掴まれた。
「ぐっ……」
「捕まえた」
汚い手で触れられて、不快感をひしひしと感じた。
すぐにこの手を放してほしい。
(これくらい何とも無いわ……お父様の平手打ちやお母様の鞭打ちに比べたら大したことないじゃない)
侯爵邸で受けていた仕打ちに比べればこんなのは何ともない。
そう思って必死で平常心を保った。
「――お嬢様を放せ!」
何とか振りほどこうと抵抗していたそのとき、レイナが前に出てきて腕を掴んでいた男の顔を思いきり殴った。
「レイナ!?」
「ぐあっ……」
レイナの拳を受けた男はよろめいて私の手をパッと放した。
「何すんだよ……このクソ女……」
しかし、レイナのこの行動は男の逆鱗に触れてしまったようだ。
(マ、マズイ!)
男は腰にぶら下げていた剣を抜き、勢い良くレイナに振り下ろそうとした。
「……!」
このままでは彼女に剣が当たってしまう。
「やめて!」
私は慌てて間に入り、彼女を守るようにして手を広げた。
「お嬢様!」
「……!?」
それでも私に向かって下りてくる剣の勢いが弱まることは無い。
このまま剣が振り下ろされれば私は確実に死ぬ。
(あ……これ、本当にダメかも……)
これから襲いかかってくるであろう強烈な痛みに、思わず目を閉じた。
本気で死を覚悟した、そのときだった――
「ギャアアアア!!!」
「……」
突然耳をつんざくような男の断末魔が聞こえた。
(え、何……?)
じっと目を閉じていたが、いつまで経っても痛みはやってこない。
そのことを不思議に思い、目を開けて状況を確認してみるとそこには――
「………………殿下?」
「無事か、アリス嬢!」
ハァハァと息を切らして心配そうにこちらを見つめる王太子殿下の姿があった。
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