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17 帰宅
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途中、視点が変わります。
***
「家まで送ってくださってありがとうございました、王太子殿下」
「こちらこそ。なかなかに楽しい時間だった」
「私もです、ふふふ」
舞踏会が終わるまで王太子殿下とお話をした後、私は侯爵邸へと戻った。
彼と二人で過ごしてみて分かったのは、殿下はとても優しい人だということ。
王女殿下はああ言っていたが、私には彼がそのようなことをする人だとは到底思えなかった。
(まさか王太子様が送ってくれるだなんて……)
人生で初めての経験に胸が高鳴る。
こんなに豪華な馬車に乗ったのは初めてだし、男性にここまで優しくされたのも初めてかもしれない。
「私たち、良い友人になれそうだ。また会えるといいな、アリス嬢」
「あ、それは……ちょっと難しいかもしれません」
「……何故だ?」
王太子殿下の眉がピクリと動いた。
(ここは隠さずに話してしまった方がいいかもしれない……)
「近いうちに平民になるんです、私」
「……平民だって?」
「はい、なので……次期国王となられる王太子殿下とお会いすることは出来ないかと思います」
「何故急にそのような……」
彼は納得いかないといったように追及した。
(殿下を家の事情に巻き込むわけにはいかないわ……)
彼は優しい人だからもしかすると私を助けてくれるかもしれない。
しかし、私はそんなことに王太子殿下の手を煩わせるつもりは無い。
これは殿下が関わるべきことでは無いからだ。
「――カルメリア侯爵家は、少し変わってるんです」
「何だって?」
殿下は不思議そうな顔をしていたが、それより先は例え王太子殿下だったとしても踏み込めない領域だ。
「今日は私の我儘を聞いてくださって本当にありがとうございました、殿下」
「あ、アリス嬢……」
「それでは私は失礼します」
これ以上彼と一緒に過ごして噂にでもなったら大変だ。
(優しい人だったけれど、これまでね……)
私はポカンとする殿下からそっと背を向けて歩き出した。
***
「……」
アリス嬢が邸の中へ入って行った後、私はしばらく彼女の後ろ姿をじっと見つめていた。
『――カルメリア侯爵家は、少し変わってるんです』
最後に見た彼女の姿が忘れられない。
笑ってはいたが、どこか悲しそうな、辛そうな顔だった。
(何故私はこんな……初めて会った女性のことを気にかけているんだ?)
その場から動けなくなっていたそのとき、背後から現れた侍従が私に声をかけた。
「殿下、報告したいことが」
「後にしてくれないか」
「アリス嬢のことでご報告があるのです」
「……アリス嬢のことだと?」
彼女に関することなら話は別だ。
「アリス嬢は会場で別の令嬢からワインをかけられたそうです」
「やはりか……」
最初に出会った彼女の姿から、何となく予想はしていたことだった。
しかし、そうなった理由が気になる。
「何故そのような事態になったんだ?アリス嬢が相手のご令嬢に何か失礼でも?」
「殿下、それが……」
侍従は言いにくそうにモジモジしはじめた。
「おい、何だ。早く言え」
私が急かすと、彼は重い口を開いた。
「アリス嬢がワインをかけられたのは……会場でアメリア王女殿下を敵に回したからでした」
「何……?アメリア王女を……?」
――アメリア王女。
この国唯一の姫で私の元妻でもあった女性だ。
(……良い思い出は無いな)
彼女との結婚生活はハッキリ言って私にとっても苦痛そのものだった。
結局は離婚ということで終わりを迎えたが、私はその選択を後悔していない。
あのまま彼女との生活を続けていたら……
――私の心はきっと壊れていただろう。
だからこそ、どれだけこの国の人間に罵倒されようともかまわなかった。
王女との結婚生活に比べたらそれくらいのことは何とも無かったから。
「敵に回したとは一体何をしたんだ?」
あの王女側に問題があったとしか思えないが、一応詳細を聞いておこう。
私はそう思って侍従に尋ねた。
「それが……アリス嬢は王女殿下の前で殿下を庇ったのです」
「……私を?」
思いもよらない言葉が返ってきて、侍従の方に顔を向けた。
「はい、現場を見ていないから何とも言えないと……あの場で殿下の肩を持ったのはアリス嬢だけでした」
「……」
(彼女が……王女に反抗しただと……?それも私を庇って……?)
何故見ず知らずの人間のためにそこまで。
そんな疑問が真っ先に浮かんだ。
そして気付けば、彼女のことが気になり始めていた。
「おい、アリス嬢……カルメリア侯爵家について詳しく調べろ。出来るだけ早く」
「きゅ、急にどうされたんですか、殿下!」
「いいから早くしろ」
「は、はい!」
***
「家まで送ってくださってありがとうございました、王太子殿下」
「こちらこそ。なかなかに楽しい時間だった」
「私もです、ふふふ」
舞踏会が終わるまで王太子殿下とお話をした後、私は侯爵邸へと戻った。
彼と二人で過ごしてみて分かったのは、殿下はとても優しい人だということ。
王女殿下はああ言っていたが、私には彼がそのようなことをする人だとは到底思えなかった。
(まさか王太子様が送ってくれるだなんて……)
人生で初めての経験に胸が高鳴る。
こんなに豪華な馬車に乗ったのは初めてだし、男性にここまで優しくされたのも初めてかもしれない。
「私たち、良い友人になれそうだ。また会えるといいな、アリス嬢」
「あ、それは……ちょっと難しいかもしれません」
「……何故だ?」
王太子殿下の眉がピクリと動いた。
(ここは隠さずに話してしまった方がいいかもしれない……)
「近いうちに平民になるんです、私」
「……平民だって?」
「はい、なので……次期国王となられる王太子殿下とお会いすることは出来ないかと思います」
「何故急にそのような……」
彼は納得いかないといったように追及した。
(殿下を家の事情に巻き込むわけにはいかないわ……)
彼は優しい人だからもしかすると私を助けてくれるかもしれない。
しかし、私はそんなことに王太子殿下の手を煩わせるつもりは無い。
これは殿下が関わるべきことでは無いからだ。
「――カルメリア侯爵家は、少し変わってるんです」
「何だって?」
殿下は不思議そうな顔をしていたが、それより先は例え王太子殿下だったとしても踏み込めない領域だ。
「今日は私の我儘を聞いてくださって本当にありがとうございました、殿下」
「あ、アリス嬢……」
「それでは私は失礼します」
これ以上彼と一緒に過ごして噂にでもなったら大変だ。
(優しい人だったけれど、これまでね……)
私はポカンとする殿下からそっと背を向けて歩き出した。
***
「……」
アリス嬢が邸の中へ入って行った後、私はしばらく彼女の後ろ姿をじっと見つめていた。
『――カルメリア侯爵家は、少し変わってるんです』
最後に見た彼女の姿が忘れられない。
笑ってはいたが、どこか悲しそうな、辛そうな顔だった。
(何故私はこんな……初めて会った女性のことを気にかけているんだ?)
その場から動けなくなっていたそのとき、背後から現れた侍従が私に声をかけた。
「殿下、報告したいことが」
「後にしてくれないか」
「アリス嬢のことでご報告があるのです」
「……アリス嬢のことだと?」
彼女に関することなら話は別だ。
「アリス嬢は会場で別の令嬢からワインをかけられたそうです」
「やはりか……」
最初に出会った彼女の姿から、何となく予想はしていたことだった。
しかし、そうなった理由が気になる。
「何故そのような事態になったんだ?アリス嬢が相手のご令嬢に何か失礼でも?」
「殿下、それが……」
侍従は言いにくそうにモジモジしはじめた。
「おい、何だ。早く言え」
私が急かすと、彼は重い口を開いた。
「アリス嬢がワインをかけられたのは……会場でアメリア王女殿下を敵に回したからでした」
「何……?アメリア王女を……?」
――アメリア王女。
この国唯一の姫で私の元妻でもあった女性だ。
(……良い思い出は無いな)
彼女との結婚生活はハッキリ言って私にとっても苦痛そのものだった。
結局は離婚ということで終わりを迎えたが、私はその選択を後悔していない。
あのまま彼女との生活を続けていたら……
――私の心はきっと壊れていただろう。
だからこそ、どれだけこの国の人間に罵倒されようともかまわなかった。
王女との結婚生活に比べたらそれくらいのことは何とも無かったから。
「敵に回したとは一体何をしたんだ?」
あの王女側に問題があったとしか思えないが、一応詳細を聞いておこう。
私はそう思って侍従に尋ねた。
「それが……アリス嬢は王女殿下の前で殿下を庇ったのです」
「……私を?」
思いもよらない言葉が返ってきて、侍従の方に顔を向けた。
「はい、現場を見ていないから何とも言えないと……あの場で殿下の肩を持ったのはアリス嬢だけでした」
「……」
(彼女が……王女に反抗しただと……?それも私を庇って……?)
何故見ず知らずの人間のためにそこまで。
そんな疑問が真っ先に浮かんだ。
そして気付けば、彼女のことが気になり始めていた。
「おい、アリス嬢……カルメリア侯爵家について詳しく調べろ。出来るだけ早く」
「きゅ、急にどうされたんですか、殿下!」
「いいから早くしろ」
「は、はい!」
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