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8 結婚相手探し
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「困ったわね……」
「アリスお嬢様……どうしましょう……」
侯爵邸の自室にて。
私は新しく侍女となったレイナと二人して頭を悩ませていた。
(私にどうしろと言うのよ……)
何故私たちがこんな風になっているのか。
私は数十分前のことを思い出していた。
「お前にこれが来ている」
「これは……舞踏会の招待状?」
父親に呼び出された私は、執務室である物を受け取っていた。
(一週間後に王宮で舞踏会が開かれるのね……)
それは王宮で開かれる舞踏会の招待状だった。
離婚してすぐこのような会に参加するだなんて何を言われるか分からない。
きっとルーカス様や王女殿下も来るはずだ。
私としては、出来ることなら行きたくはない。
(でも、これを渡されたということは……)
父は私のことなど全く考えていない。
そして時折、とんでもないことを言い出す人でもあった。
「ここで結婚相手を探してこい」
「え?」
「貴族だったら誰でもいい。どれだけ年が離れていようと後妻だろうとかまわない。お前みたいな出来損ないを貰ってくれる相手を何が何でも見つけてくるんだ」
「お父様……」
父はそれだけ言うと、すぐに私を部屋から追い出した。
「結婚相手を探してくる、か……」
この舞踏会で見つけられなかったら、私はおそらく家を追い出されるだろう。
行くところも無ければ、市井で暮らしていくだけの知識も無いからそれだけは避けなければならない。
「お嬢様……こんなの残酷ですよ……旦那様はお嬢様のことを何だと思っているんですか!」
「レイナ……」
それはもちろん私も思うけれど、反論したところで何の意味も無い。
名ばかりの侯爵令嬢の私が当主であるお父様に対抗することなどとても出来ないから。
「とにかく、次の舞踏会で良いお相手を見つける必要がありそうね」
「そんな……私、お嬢様がどこへ行こうと絶対付いて行きますからね!」
「ふふふ、ありがとう、レイナ」
レイナが来てくれるなら嫁ぎ先がどころであろうと楽しいかもしれない。
(本当に、レイナが傍にいてくれてよかったわ)
***
それから数時間後。
仕事終わりのレイナが嬉々とした表情で私の部屋へ入って来た。
「アリスお嬢様!舞踏会に参加する未婚の貴族令息たちのリストを作ってみました!」
「まぁ、本当に?」
レイナが持って来てくれたリストには私と近い歳で、なおかつ婚約者のいない令息たちの名前が書かれていた。
(同年代の人と結婚なんて諦めていたけれど……)
レイナのおかげで少しだけ希望を持てたような気がする。
望んでもいいのかもしれない。
相手が私を選んでくれるかはさておき。
「お嬢様はまだ二十一歳ですから!全然やり直せますよ!」
「そうね、王女殿下が帰ってくるのが結婚十年目とかじゃなくて良かったわ」
冗談を言いながらリストを眺めていたとき、一番最後に書かれていたある名前に目を留めた。
「あれ、この名前って……」
――ジークハルト・レイヴン
(これ、隣国の王太子殿下の名前よね……?王女殿下の元旦那さんが舞踏会に参加するということかしら?)
何故王太子殿下の名前がここにあるのか。
レイナの考えはよく分からなかったけれど、たしかに王太子殿下は未婚かつ婚約者もいない状態だ。
それに加えて今年二十三歳と、私と歳も近かった。
(……でも浮気して離婚したって)
ルーカス様はあのときそう言っていたが、今となってはどうもそれが引っ掛かる。
隣国のジークハルト王太子殿下はとても真面目で優秀な方だということで有名だ。
そんな人が浮気をしただなんて。
(実は女好きだったとか?)
浮気をされたというのも王女殿下側の証言だけなので、本当かどうかなんて本人たちにしか分からない。
王女殿下が浮気をされたという話はもう既に貴族たちの間で広まっているみたいだけれど。
(とにかく、この人は絶対に無いわ。大体全てにおいてが私と釣り合わなさすぎるし!)
そう結論を出した私は、リストから王太子殿下の名前をそっと消した。
「アリスお嬢様……どうしましょう……」
侯爵邸の自室にて。
私は新しく侍女となったレイナと二人して頭を悩ませていた。
(私にどうしろと言うのよ……)
何故私たちがこんな風になっているのか。
私は数十分前のことを思い出していた。
「お前にこれが来ている」
「これは……舞踏会の招待状?」
父親に呼び出された私は、執務室である物を受け取っていた。
(一週間後に王宮で舞踏会が開かれるのね……)
それは王宮で開かれる舞踏会の招待状だった。
離婚してすぐこのような会に参加するだなんて何を言われるか分からない。
きっとルーカス様や王女殿下も来るはずだ。
私としては、出来ることなら行きたくはない。
(でも、これを渡されたということは……)
父は私のことなど全く考えていない。
そして時折、とんでもないことを言い出す人でもあった。
「ここで結婚相手を探してこい」
「え?」
「貴族だったら誰でもいい。どれだけ年が離れていようと後妻だろうとかまわない。お前みたいな出来損ないを貰ってくれる相手を何が何でも見つけてくるんだ」
「お父様……」
父はそれだけ言うと、すぐに私を部屋から追い出した。
「結婚相手を探してくる、か……」
この舞踏会で見つけられなかったら、私はおそらく家を追い出されるだろう。
行くところも無ければ、市井で暮らしていくだけの知識も無いからそれだけは避けなければならない。
「お嬢様……こんなの残酷ですよ……旦那様はお嬢様のことを何だと思っているんですか!」
「レイナ……」
それはもちろん私も思うけれど、反論したところで何の意味も無い。
名ばかりの侯爵令嬢の私が当主であるお父様に対抗することなどとても出来ないから。
「とにかく、次の舞踏会で良いお相手を見つける必要がありそうね」
「そんな……私、お嬢様がどこへ行こうと絶対付いて行きますからね!」
「ふふふ、ありがとう、レイナ」
レイナが来てくれるなら嫁ぎ先がどころであろうと楽しいかもしれない。
(本当に、レイナが傍にいてくれてよかったわ)
***
それから数時間後。
仕事終わりのレイナが嬉々とした表情で私の部屋へ入って来た。
「アリスお嬢様!舞踏会に参加する未婚の貴族令息たちのリストを作ってみました!」
「まぁ、本当に?」
レイナが持って来てくれたリストには私と近い歳で、なおかつ婚約者のいない令息たちの名前が書かれていた。
(同年代の人と結婚なんて諦めていたけれど……)
レイナのおかげで少しだけ希望を持てたような気がする。
望んでもいいのかもしれない。
相手が私を選んでくれるかはさておき。
「お嬢様はまだ二十一歳ですから!全然やり直せますよ!」
「そうね、王女殿下が帰ってくるのが結婚十年目とかじゃなくて良かったわ」
冗談を言いながらリストを眺めていたとき、一番最後に書かれていたある名前に目を留めた。
「あれ、この名前って……」
――ジークハルト・レイヴン
(これ、隣国の王太子殿下の名前よね……?王女殿下の元旦那さんが舞踏会に参加するということかしら?)
何故王太子殿下の名前がここにあるのか。
レイナの考えはよく分からなかったけれど、たしかに王太子殿下は未婚かつ婚約者もいない状態だ。
それに加えて今年二十三歳と、私と歳も近かった。
(……でも浮気して離婚したって)
ルーカス様はあのときそう言っていたが、今となってはどうもそれが引っ掛かる。
隣国のジークハルト王太子殿下はとても真面目で優秀な方だということで有名だ。
そんな人が浮気をしただなんて。
(実は女好きだったとか?)
浮気をされたというのも王女殿下側の証言だけなので、本当かどうかなんて本人たちにしか分からない。
王女殿下が浮気をされたという話はもう既に貴族たちの間で広まっているみたいだけれど。
(とにかく、この人は絶対に無いわ。大体全てにおいてが私と釣り合わなさすぎるし!)
そう結論を出した私は、リストから王太子殿下の名前をそっと消した。
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