上 下
87 / 87

87 エピローグ

しおりを挟む
それから十数年後。
ウィルベルト王国の王宮にある王太子の自室では、一人ソワソワしながら誰かを待っている青年がいた。


「殿下、ご令嬢が到着したそうです」
「本当か!?」


それからすぐに、部屋の扉がガチャリと開けられた。
入ってきたのは銀色の髪をした少女である。


「レオ!」


彼女を見た青年は嬉しそうに立ち上がった。


「フランチェスカ!」


そう、レオンとフランチェスカだった。


何故、死んだはずの二人がウィルベルト王国の王宮にいるのか。
それは女神ローラが、前世で国を発展させたレオンと不幸な人生を歩むこととなったフランチェスカの二人に第二の人生を与えたからである。


天界で再会した二人は、女神ローラの力によって幼い頃まで時間が巻き戻ったのだ。
もちろん、二人とも前の世界の記憶を持っている。


「会いたかったよ」
「もう、昨日会ったばかりじゃない」


会って早々、二人はハグをした。
これが今世の二人の間では当然のこととなっている。


それからレオンはフランチェスカの手を引いて、二人並んで部屋にあったソファへと腰掛けた。


「フランチェスカ、今日公爵邸ではどうだった?」
「今日はね、お父様から私を産んだ両親の話を聞いたの。私は小さかったからほとんど覚えてなかったんだけど……」
「そうか」


フランチェスカの髪を優しく撫でながらレオンは微笑んだ。
そんな彼に微笑み返しながら、彼女は言葉を続けた。


「お母様と一緒に刺繍をして……そのあとに、シリウスお兄様の剣の練習試合を見に行ったわ!」
「家族と仲良くやれているようだな」
「うん、みんなとっても優しい人たちだから……」


フランチェスカは二度目の人生で家族と良い関係を築くことに成功していた。


勇気を出して自分から話しかけてみたところ、彼らはフランチェスカに今までの態度を謝罪し、彼女を家族の一員として受け入れてくれたのだ。
今ではもうすっかり仲良し家族である。


「レオは?どんな一日だったの?」
「将来、立派な王になるために父上の仕事を手伝っていたよ。母上の体調もだいぶ回復したみたいで、家族全員で庭園の散歩をしたよ」
「あら、それは良かったわね」


フランチェスカは少し照れたようにそう口にしたレオンを見てクスクス笑った。


「それと、レスタリア公爵に関してだが……」
「レスタリア公爵……」


その名前を聞いた途端、フランチェスカの顔が曇った。
レスタリア公爵は彼と彼女の人生を狂わせた元凶だったから。


しかしそこで、レオンの口から出てきたのは意外な言葉だった。


「――良い薬師を紹介しておいた。深く感謝していたから、前世のように罪を犯すことは無いだろう」
「……!」


未来を知っているレオンであれば、自分を陥れようとしたレスタリア公爵に復讐することも出来たはずだ。
しかし彼はそれをしなかった。
全員が幸せになれる道を選んだのだ。


「……優しいのね、レオは」
「まぁ、公爵のことは嫌いだがな」


レオンは用意周到で、二度目の人生では自分たちの周囲に蔓延る悪を事前に全て断ち切っていた。


後にレスタリア公爵家のスパイとして王宮に来る執事のクロードを公爵より先に見つけ出して保護した。
フレイアを襲った暴漢は、既に騎士団に捕らえさせてある。


これも全ては自分とフランチェスカのためだった。
今世では彼女は彼にとって何よりも大事な人だったから。


そして明日は待ちに待った二人の結婚式でもあった。


「レオ、時が経つのって本当に早いんだね……」
「そうだな……」


レオンは隣に座るフランチェスカの肩を優しく抱きながら頷いた。


「――だけど、これで終わりじゃないから」
「……え?」


驚いたフランチェスカがレオンの顔を見た。


「むしろ、これからだ」
「……!」


フランチェスカはようやくその言葉の意味を理解した。


「私は、君との子供が欲しい」
「何人くらい?」
「十人とか?」
「……」


フランチェスカは呆れてレオンの方を見たが、彼の真剣な眼差しに何も言えなくなった。
そんな彼女を見た彼がクスリと笑いながら耳元で優しく囁いた。


「フランチェスカ、愛してるよ。これからもずっと、永遠に」
「うふふ、私も愛してる」


その日、二人は永遠の愛を誓い合った。





―――――――――――――――――――



ここまで読んでくださりありがとうございました!


しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

愛のない結婚を後悔しても遅い

空橋彩
恋愛
「僕は君を望んでいない。環境が整い次第離縁させてもらうつもりだ。余計なことはしないで、大人しく控えて過ごしてほしい。」 病弱な妹の代わりに受けた縁談で嫁いだ先の公爵家は、優秀な文官を輩出している名門だった。 その中でも、近年稀に見る天才、シリル・トラティリアの元へ嫁ぐことになった。 勉強ができるだけで、人の心のわからないシリル・トラティリア冷たく心無い態度ばかりをとる。 そんな彼の心を溶かしていく… なんて都合のいいことあるわけがない。 そうですか、そうきますか。 やられたらやり返す、それが私シーラ・ブライトン。妹は優しく穏やかだが、私はそうじゃない。そっちがその気ならこちらもやらせていただきます。 トラティリア公爵は妹が優しーく穏やかーに息子を立て直してくれると思っていたようですが、甘いですね。 は?準備が整わない?しりません。 は?私の力が必要?しりません。 お金がない?働きなさい。 子どもおじさんのシリル・トラティリアを改心させたい両親から頼みこまれたとも知らない旦那様を、いい男に育て上げます。

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

処理中です...