上 下
86 / 87

86 再会

しおりを挟む
女神ローラと死神のリアムがそんなことを話している間にも二人は一歩も動かずにただただ互いを見つめ合っていた。
長い沈黙の末、先に口を開いたのはフランチェスカだった。


「…………………レオ」
「…………………フランチェスカ」


”レオ”
フランチェスカのその言葉にレオンの目が大きく見開かれた。


それを聞いたレオンはようやく我に返ったようで、一歩一歩ゆっくりとフランチェスカに歩み寄った。
そしてフランチェスカはそんな彼をじっと見つめてその場に留まっていた。


レオンはフランチェスカの目の前で立ち止まると震える手を動かして彼女の頬にそっと触れた。
長い時間をこの世界で過ごしたフランチェスカとは違ってレオンは未だに今の状況に理解が追い付いていなかった。


ここはどこで何故自分がここにいるのか。
自分の中でそんな疑問が次々と浮かび上がってくる。
しかし、彼にとっては今そんなことは重要ではなかった。


それから彼は頬に触れていた手をゆっくりと下ろした。
次の瞬間――


「!」


レオンがフランチェスカを力強く抱き締めた。
彼女がここにいることを確かめるかのように強く強く抱き締めた。


彼の逞しい腕に突然抱き締められた彼女はしばらくの間ポカンとしていた。
しかし、彼の体から発せられる懐かしい香りが彼女を正気に戻した。
そして、彼女は彼の背中に腕を回した。


お互いに心臓が破裂してしまいそうなほど高鳴っていた。
二人とももう二度と会うことは出来ないと思っていたからだ。
とてもじゃないがこの再会が信じられなかった。


そうして二人はしばらくの間抱き合っていた。


「本当に……フランチェスカ……君なのか……?」
「レオ……うん……」
「君にずっと、伝えたいことがあったんだ」
「……?」


レオンの言葉にフランチェスカは首をかしげた。


「――愛してる」
「……!」


それを聞いたフランチェスカの瞳が驚愕に見開かれた。


「初めて出会った頃からずっとずっと君だけを愛してる、フランチェスカ」


レオンがそう口にした瞬間、フランチェスカの目から一筋の涙が流れた。
その涙がどのような意味をもって流したものなのか見分けがつかなかったレオンは不安げな表情で慌てて付け加えた。


「今になってこんなことを言われても信じられないかもしれないが……」


そこまで言うと、レオンは苦しそうに俯いた。


「……君が亡くなってからずっと後悔していた」
「……」
「あの日から君を忘れたことなんて一度たりとも無かったし、何度も会いたいって思ってた」
「……」
「って、今さらこんなこと言ってももう遅いよな……」


かつての愚かな自分を責めるようにそう言ったレオン。
しかし、フランチェスカはそんな彼に優しい言葉を掛けた。


「――レオ、私はずっと貴方のことをこの世界から見ていた」
「フランチェスカ……」
「心配しなくていいわ。貴方が変わったということは私が一番よく知っているから」
「……!」


その言葉に、レオンが嬉しそうに頬を染めた。
それほど嬉しそうなレオンの姿は、フランチェスカにとっては初めてだった。


「……フランチェスカ、もう一度抱き締めてもいいか?」
「……うん」


彼女の許可を得て、彼が再び彼女を強く抱き締めた。


愛する人の腕に抱き締められてフランチェスカは久しぶりに心からの笑みを見せた。
そしてそれは、彼女を抱き締めているレオンもまた同じだった。


二人は最初から相思相愛だった。
ただ彼らの周りに蔓延っていた悪意が二人の運命を捻じ曲げていたというだけだ。


しかし彼らは辛い過去を乗り越えてその悪を打ち倒すことに成功した。


そしてこれからはずっと二人一緒にいるだろう。
彼らの愛を邪魔するものはもう何も無い。


「フランチェスカ」
「レオ」
「愛してる」
「……!」


二度目の愛の告白に、フランチェスカがハッと息を呑んだ。
それからすぐにまた笑顔になった。


「私も愛してる」


フランチェスカがそう返事をしたとき、二人はお互いの愛を確かめるかのように初めての口付けを交わした。
愛のこもったファーストキスだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元王妃は時間をさかのぼったため、今度は愛してもらえる様に、(殿下は論外)頑張るらしい。

あはははは
恋愛
本日わたくし、ユリア アーベントロートは、処刑されるそうです。 願わくは、来世は愛されて生きてみたいですね。 王妃になるために生まれ、王妃になるための血を吐くような教育にも耐えた、ユリアの真意はなんであっただろう。 わあああぁ  人々の歓声が上がる。そして王は言った。 「皆の者、悪女 ユリア アーベントロートは、処刑された!」 誰も知らない。知っていても誰も理解しない。しようとしない。彼女、ユリアの最後の言葉を。 「わたくしはただ、愛されたかっただけなのです。愛されたいと、思うことは、罪なのですか?愛されているのを見て、うらやましいと思うことは、いけないのですか?」 彼女が求めていたのは、権力でも地位でもなかった。彼女が本当に欲しかったのは、愛だった。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

本編完結 彼を追うのをやめたら、何故か幸せです。

音爽(ネソウ)
恋愛
少女プリシラには大好きな人がいる、でも適当にあしらわれ相手にして貰えない。 幼過ぎた彼女は上位騎士を目指す彼に恋慕するが、彼は口もまともに利いてくれなかった。 やがて成長したプリシラは初恋と決別することにした。 すっかり諦めた彼女は見合いをすることに…… だが、美しい乙女になった彼女に魅入られた騎士クラレンスは今更に彼女に恋をした。 二人の心は交わることがあるのか。

【完結】高嶺の花がいなくなった日。

恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。 清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。 婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。 ※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

飽きて捨てられた私でも未来の侯爵様には愛されているらしい。

希猫 ゆうみ
恋愛
王立学園の卒業を控えた伯爵令嬢エレノアには婚約者がいる。 同学年で幼馴染の伯爵令息ジュリアンだ。 二人はベストカップル賞を受賞するほど完璧で、卒業後すぐ結婚する予定だった。 しかしジュリアンは新入生の男爵令嬢ティナに心を奪われてエレノアを捨てた。 「もう飽きたよ。お前との婚約は破棄する」 失意の底に沈むエレノアの視界には、校内で仲睦まじく過ごすジュリアンとティナの姿が。 「ねえ、ジュリアン。あの人またこっち見てるわ」 ティナはエレノアを敵視し、陰で嘲笑うようになっていた。 そんな時、エレノアを癒してくれたのはミステリアスなマクダウェル侯爵令息ルークだった。 エレノアの深く傷つき鎖された心は次第にルークに傾いていく。 しかしティナはそれさえ気に食わないようで…… やがてティナの本性に気づいたジュリアンはエレノアに復縁を申し込んでくる。 「君はエレノアに相応しくないだろう」 「黙れ、ルーク。エレノアは俺の女だ」 エレノアは決断する……!

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

処理中です...