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72 罠
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「公爵様!ローレンの軍が着々とウィルベルト王国軍を追い詰めています!公爵様が王国の王位に就く日も近いかもしれません!」
「……?ああ……そうだな……」
嬉々としてそんなことを口にする騎士に対し、私は適当に返事をした。
(王位……?王国……?そんなもの、興味など無い……)
血の滴る剣を手にした私は、次々とウィルベルトの者を切り捨てていった。
別に殺してはいない。
私の狙いはコイツらでは無かったのだから。
(レオン……あの餓鬼がマクシミリアンを……絶対見つけ出して私の手でやってやる……)
そう、私の真の目的はマクシミリアンを殺したレオン・ウィルベルトの首を獲ることだった。
いくら剣術に長けているとはいえ、私の敵ではないだろう。
武力で私に勝てる者など、この王国ではいないのだから。
(それよりシルヴィが心配だな……アイツはしっかりと任務を遂行しているだろうか……)
私が動くと目立ちすぎてしまうため、妻の避難は部下に任せてあった。
部下には死んでもシルヴィを守れと言ってある。
あの男が裏切ることは無さそうだが、先ほどから一切連絡が無いのがどうも気になる。
(何か嫌な予感がする……)
そう思いながらシルヴィがいる別邸の方向に目をやると、信じられない光景が目に入った。
(何だ、あの煙は……?)
ちょうどシルヴィの住んでいる別邸が位置するところから大量の煙が発生し、辺り一面に立ち込めていたのだ。
「おい、あれは何だ?」
「あれは……煙……?どうやら、あちらの方で大火災が発生しているみたいですね」
「……!!!」
まさか、まさか。
最悪の事態を想定した私は、すぐに行動を開始した。
私は馬に乗り、部下たちを置いて駆け出した。
「こ、公爵様!?どちらへ行かれるのですか!?」
困惑する彼らの声が聞こえてきたが、今の私にはそんなものどうだって良い。
(シルヴィ……頼む……どうか無事でいてくれ……!)
***
数十分前。
レオンは数十人の騎士を引き連れてレスタリア公爵夫人が過ごした別邸の前にいた。
「陛下、邸の周辺にいた者を全員避難させました」
「ご苦労だった。夫人の遺体もしっかりと持ち出せたか?」
「はい、ご遺体はどういたしましょう……何せ夫である公爵が大罪人なので……」
「……遺体は丁重に扱え。後で埋葬する」
「陛下……分かりました」
レオンの考えを察したのか、騎士はそれ以上何も言わなかった。
「本当に中には誰もいないんだな?」
「はい、隅々までしっかり確認いたしました」
「――なら、作戦実行だ」
その声で、周囲にいた騎士たちが一斉に邸に火を付けた。
一瞬にして邸宅が火に包まれ、建物が崩れ始める。
「陛下……これで本当に公爵は来るのでしょうか……」
「ああ、見ていろ。間違いなくアイツはここに来るはずだ……」
そしてレオンはじっと、騎士たちと共に敵の大将の訪れを待った。
「……?ああ……そうだな……」
嬉々としてそんなことを口にする騎士に対し、私は適当に返事をした。
(王位……?王国……?そんなもの、興味など無い……)
血の滴る剣を手にした私は、次々とウィルベルトの者を切り捨てていった。
別に殺してはいない。
私の狙いはコイツらでは無かったのだから。
(レオン……あの餓鬼がマクシミリアンを……絶対見つけ出して私の手でやってやる……)
そう、私の真の目的はマクシミリアンを殺したレオン・ウィルベルトの首を獲ることだった。
いくら剣術に長けているとはいえ、私の敵ではないだろう。
武力で私に勝てる者など、この王国ではいないのだから。
(それよりシルヴィが心配だな……アイツはしっかりと任務を遂行しているだろうか……)
私が動くと目立ちすぎてしまうため、妻の避難は部下に任せてあった。
部下には死んでもシルヴィを守れと言ってある。
あの男が裏切ることは無さそうだが、先ほどから一切連絡が無いのがどうも気になる。
(何か嫌な予感がする……)
そう思いながらシルヴィがいる別邸の方向に目をやると、信じられない光景が目に入った。
(何だ、あの煙は……?)
ちょうどシルヴィの住んでいる別邸が位置するところから大量の煙が発生し、辺り一面に立ち込めていたのだ。
「おい、あれは何だ?」
「あれは……煙……?どうやら、あちらの方で大火災が発生しているみたいですね」
「……!!!」
まさか、まさか。
最悪の事態を想定した私は、すぐに行動を開始した。
私は馬に乗り、部下たちを置いて駆け出した。
「こ、公爵様!?どちらへ行かれるのですか!?」
困惑する彼らの声が聞こえてきたが、今の私にはそんなものどうだって良い。
(シルヴィ……頼む……どうか無事でいてくれ……!)
***
数十分前。
レオンは数十人の騎士を引き連れてレスタリア公爵夫人が過ごした別邸の前にいた。
「陛下、邸の周辺にいた者を全員避難させました」
「ご苦労だった。夫人の遺体もしっかりと持ち出せたか?」
「はい、ご遺体はどういたしましょう……何せ夫である公爵が大罪人なので……」
「……遺体は丁重に扱え。後で埋葬する」
「陛下……分かりました」
レオンの考えを察したのか、騎士はそれ以上何も言わなかった。
「本当に中には誰もいないんだな?」
「はい、隅々までしっかり確認いたしました」
「――なら、作戦実行だ」
その声で、周囲にいた騎士たちが一斉に邸に火を付けた。
一瞬にして邸宅が火に包まれ、建物が崩れ始める。
「陛下……これで本当に公爵は来るのでしょうか……」
「ああ、見ていろ。間違いなくアイツはここに来るはずだ……」
そしてレオンはじっと、騎士たちと共に敵の大将の訪れを待った。
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