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80 女神様 フランチェスカ視点
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(あれ……ここは一体……?)
自ら命を絶った後、私は再び目覚めた。
それも死ぬ前と全く同じ姿のまま。
目が覚めると見たことの無い場所に立っていた。
辺り一面真っ白で周りには誰もいない。
(私は死んだから……ここはあの世かしら……?)
そんなことを考えていたそのとき、突然目の前に人が現れた。
「キャッ!」
驚いた私は小さな悲鳴を上げた。
「――あら、そんなに驚かないで」
「……?」
穏やかなその声におそるおそる目を開けてみると、そこには見覚えのある女性が立っていた。
腰まで伸ばされた長い髪。
彫刻のように整った顔。
見るからに神々しいオーラを醸し出している。
「え……もしかしてその姿は……!」
その女性が誰なのか、私には一瞬で分かった。
私が密かに憧れを抱いていた人だったからだ。
「女神ローラ様ですか……?」
「正解よ」
女性はフッと微笑んでそう言った。
「……!」
その返事を聞いて私はつい涙が出そうになってしまった。
(やっぱり実在したんだわ……!)
やはり私の憶測は間違っていなかった。
そう思うととても嬉しくなった。
「あ、あの……ここは一体どこですか……?私はどうしてここに……?」
「――ここは天界よ」
――天界
おとぎ話上で神々が暮らすとされている場所だ。
私も何度か聞いたことがある。
しかしそんな場所が本当に存在していたとは驚きだ。
(すごいすごい!)
心の中で感動している私に女神様は優しい笑みを向けながら口を開いた。
「私が貴方をここに呼んだのには理由があるの」
「理由……でございますか?」
「ええ、単刀直入に言うわ」
女神様は深刻な面持ちでハッキリと告げた。
「――レオン王を救ってほしいの」
「え……」
――レオン王
その名を聞いた途端、時が止まったかのような感覚に襲われた。
忘れたくても忘れられない名前。
生きている間、私の夫だった人の名前だ。
その名前を聞いた途端、生前の辛い記憶が蘇ってくる。
(……嫌、やめて、もう何も思い出したくない)
せめて死んだ後くらい彼のことは忘れていたい。
これ以上彼のことで辛い思いをしたくない。
そう思った私は女神様に対してすぐに口を開いた。
「……申し訳ありませんが、それは出来ません」
「あら、どうして?」
女神様の頼みを断ることなど本当はしたくなかったが、こればっかりは仕方が無い。
私はキッパリと断りを入れたが、女神様はそれでもさっきと変わらず優しい口調で私に尋ねた。
「私はもう陛下のことを愛していません。彼にはフレイア様がいらっしゃいますから。彼の愛するフレイア様が救えばいい話です」
「……」
私のその言葉に女神様はじっと黙り込んだ。
そして、ボソリと小さな声で呟いた。
「……まぁ、そうなるのも当然よね」
「……?」
「フランチェスカ、貴方の死んだウィルベルト王国がどうなっているか気にならない?」
「……!」
――私が死んだ後のウィルベルト王国。
そんなのはわざわざ聞かなくても分かっている。
聞きたいとも思わない。
「……きっと陛下はフレイア様を王妃に迎えて幸せに暮らしているのでしょうね」
私は自嘲気味にそう言った。
陛下は本当にフレイア様のことを愛していたから、きっとすぐに彼女を王妃に迎えているはずだ。
フレイア様は身分こそ低いが、陛下の寵愛も得られない惨めな私よりもよっぽど王妃に相応しいと言えるだろう。
「――本当にそうかしら?」
「え……?」
「百聞は一見に如かず。これを見てちょうだい」
すると、突然目の前に水晶が現れた。
それはただの水晶では無かった。
「え……これは一体……!?」
水晶に映し出されていた光景、それは――
「何で陛下が……」
すっかりやつれた陛下の姿だった。
「女神様、これは……」
「貴方が亡くなって三日後の彼よ」
「私が亡くなって三日後……」
何故彼がこのような姿になっているのか。
水晶の中にいる彼は生気を失っていて美しい青色の瞳は酷く濁っていた。
それはまるで、お飾りの王妃として王宮で暮らしていた生前の自分を見ているようだった。
「貴方はさっきレオン王が幸せに暮らしていると言っていたけれど、これが幸せそうに見えるかしら?」
「いいえ……」
とてもじゃないが幸せそうな人間には見えなかった。
(どうして……どうしてなの……?)
私が死んで喜んでフレイア様と結婚したと思っていたのに。
そんな私の疑問を読み取ったのか、女神様は悲しげに口を開いた。
「――フランチェスカ」
「はい……」
「……少し、私の話を聞いてくれないかしら」
「……?」
そこで私が女神様から聞いた話は衝撃的な内容だった。
自ら命を絶った後、私は再び目覚めた。
それも死ぬ前と全く同じ姿のまま。
目が覚めると見たことの無い場所に立っていた。
辺り一面真っ白で周りには誰もいない。
(私は死んだから……ここはあの世かしら……?)
そんなことを考えていたそのとき、突然目の前に人が現れた。
「キャッ!」
驚いた私は小さな悲鳴を上げた。
「――あら、そんなに驚かないで」
「……?」
穏やかなその声におそるおそる目を開けてみると、そこには見覚えのある女性が立っていた。
腰まで伸ばされた長い髪。
彫刻のように整った顔。
見るからに神々しいオーラを醸し出している。
「え……もしかしてその姿は……!」
その女性が誰なのか、私には一瞬で分かった。
私が密かに憧れを抱いていた人だったからだ。
「女神ローラ様ですか……?」
「正解よ」
女性はフッと微笑んでそう言った。
「……!」
その返事を聞いて私はつい涙が出そうになってしまった。
(やっぱり実在したんだわ……!)
やはり私の憶測は間違っていなかった。
そう思うととても嬉しくなった。
「あ、あの……ここは一体どこですか……?私はどうしてここに……?」
「――ここは天界よ」
――天界
おとぎ話上で神々が暮らすとされている場所だ。
私も何度か聞いたことがある。
しかしそんな場所が本当に存在していたとは驚きだ。
(すごいすごい!)
心の中で感動している私に女神様は優しい笑みを向けながら口を開いた。
「私が貴方をここに呼んだのには理由があるの」
「理由……でございますか?」
「ええ、単刀直入に言うわ」
女神様は深刻な面持ちでハッキリと告げた。
「――レオン王を救ってほしいの」
「え……」
――レオン王
その名を聞いた途端、時が止まったかのような感覚に襲われた。
忘れたくても忘れられない名前。
生きている間、私の夫だった人の名前だ。
その名前を聞いた途端、生前の辛い記憶が蘇ってくる。
(……嫌、やめて、もう何も思い出したくない)
せめて死んだ後くらい彼のことは忘れていたい。
これ以上彼のことで辛い思いをしたくない。
そう思った私は女神様に対してすぐに口を開いた。
「……申し訳ありませんが、それは出来ません」
「あら、どうして?」
女神様の頼みを断ることなど本当はしたくなかったが、こればっかりは仕方が無い。
私はキッパリと断りを入れたが、女神様はそれでもさっきと変わらず優しい口調で私に尋ねた。
「私はもう陛下のことを愛していません。彼にはフレイア様がいらっしゃいますから。彼の愛するフレイア様が救えばいい話です」
「……」
私のその言葉に女神様はじっと黙り込んだ。
そして、ボソリと小さな声で呟いた。
「……まぁ、そうなるのも当然よね」
「……?」
「フランチェスカ、貴方の死んだウィルベルト王国がどうなっているか気にならない?」
「……!」
――私が死んだ後のウィルベルト王国。
そんなのはわざわざ聞かなくても分かっている。
聞きたいとも思わない。
「……きっと陛下はフレイア様を王妃に迎えて幸せに暮らしているのでしょうね」
私は自嘲気味にそう言った。
陛下は本当にフレイア様のことを愛していたから、きっとすぐに彼女を王妃に迎えているはずだ。
フレイア様は身分こそ低いが、陛下の寵愛も得られない惨めな私よりもよっぽど王妃に相応しいと言えるだろう。
「――本当にそうかしら?」
「え……?」
「百聞は一見に如かず。これを見てちょうだい」
すると、突然目の前に水晶が現れた。
それはただの水晶では無かった。
「え……これは一体……!?」
水晶に映し出されていた光景、それは――
「何で陛下が……」
すっかりやつれた陛下の姿だった。
「女神様、これは……」
「貴方が亡くなって三日後の彼よ」
「私が亡くなって三日後……」
何故彼がこのような姿になっているのか。
水晶の中にいる彼は生気を失っていて美しい青色の瞳は酷く濁っていた。
それはまるで、お飾りの王妃として王宮で暮らしていた生前の自分を見ているようだった。
「貴方はさっきレオン王が幸せに暮らしていると言っていたけれど、これが幸せそうに見えるかしら?」
「いいえ……」
とてもじゃないが幸せそうな人間には見えなかった。
(どうして……どうしてなの……?)
私が死んで喜んでフレイア様と結婚したと思っていたのに。
そんな私の疑問を読み取ったのか、女神様は悲しげに口を開いた。
「――フランチェスカ」
「はい……」
「……少し、私の話を聞いてくれないかしら」
「……?」
そこで私が女神様から聞いた話は衝撃的な内容だった。
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