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79 賢王レオン

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それからもウィルベルト王国は国王レオンの下でさらなる発展を遂げた。


レオン王が王として君臨している間、ウィルベルト王国に感染症が流行した。
そこで大いに活躍したのがレオン王がローレンから引き抜いた薬師たちだった。
元々優秀だった彼らはすぐに抗生物質を発見し、治療薬を開発した。
それだけではなく、様々な病気の薬を開発しウィルベルト王国の平均寿命を延ばすこととなった。


ウィルベルト王国と長年いがみ合っていた周辺国は悪名高いレスタリア公爵を打ち倒した若き王レオンに恐れをなし、王国はたちまち一目置かれる存在となった。
ウィルベルト王国はレオン王の頃に最盛期を迎えた。


そんな王はフランチェスカ王妃が亡くなってからたったの一度も妃を迎えることは無かった。
後継者問題に関しては傍系の王族を養子にし、次期国王とすることで貴族たちを黙らせたそうだ。
これがレオン王の最初で最後の我儘だったという。


そしてそんな彼はたった今長かった人生に終わりを迎えようとしている。


「父上……!」
「お義父様、しっかりしてください!」


ベッドに横たわっている王の傍には彼の子供となった王太子が必死な様子で彼の手を握っていた。
その隣には義理の娘である王太子妃まで。
二人はレオン王の子供になってからずっと厳しくも優しい彼のことを慕っていた。


「……」


しかし王がその呼びかけに応えることはない。
彼の側近であったアレク、ヴェロニカ公爵、クロードは既にあの世へ旅立っている。
そして彼も今ちょうど彼らの後を追おうとしていた。


そんな王に必死で呼びかける王太子たち。
しかしそんな呼びかけも虚しく、王はゆっくりと瞼を閉じた。


「父上……嘘ですよね……?」
「お義父様……そんな……!」


青白くなった顔でガックリと床に膝を着く王太子と泣き崩れる王太子妃。
そんな彼らから顔を背ける侍女と侍従に悲痛な面持ちで佇む医者。
王の部屋ではしばらくの間彼らの嗚咽が鳴り響いていた。


こうしてレオン王は多くの者に看取られながらその生涯を終えた。
まさに賢王の名に相応しい、立派な王だった。
レオン王は厳格で滅多に笑うことの無い男だったが、最後の最後は非常に穏やかな顔で死んでいったという。





◇◆◇◆◇◆





ローレンとの戦争から数十年の月日が経った。


私はベッドに横たわっていた。


もう体は動かない。
王太子たちが何かを言っているような気がしたが何も聞こえなかった。
死期が近いことなど自分が一番分かりきっていた。


死の間際、私の頭の中を占めていたのは一人の少女だった。


(フラン……チェスカ……)


その名を呼ぼうとするも、どれだけ頑張っても唇は動かなかった。


そのとき、彼女と過ごした記憶が走馬灯のように鮮明に私の頭の中に流れてきた。
フランチェスカが亡くなってから彼女を忘れたことなど一度も無かった。


彼女と庭園でお茶をした記憶。
二人一緒に王宮で遊んだ記憶。
王都の広場で星を見たあの日の記憶。
どれも大切な思い出だった。


フランチェスカのことを思い出すたびに私の心は穏やかになった。
出来ることならもう一度彼女に会いたい。
あの笑顔をもう一度見たい。
そんな思いばかりが募っていく。


(生まれ変わったら……また君に会いたいな……)


そう思いながら私は目を閉じた。





◇◆◇◆◇◆





(ここはどこだ……?)


再び目を開けると、そこは真っ白な世界だった。
辺りを見渡したところで何も無い。
静寂に包まれていて、人がいる気配も無い。


私は既に死んでいるから、死後の世界だろうか。
そう思いながらも私はただ霧の中を歩き続けた。
いつかは何かが変わるのではないかと思って。


しかし、そんな私の希望とは裏腹にどれだけ進んでも何も見えなかった。


どれくらい歩いたのだろうか。
変わり映えのしない景色に、時間の感覚までもが狂っていく。
やはり最初の位置でじっとしておくべきだったのだろうか。


そう思って引き返そうとしたそのときだった――


目の前で突然、眩い光が放たれた。
その光は少しずつ大きくなって辺り一面の霧を呑み込んでいく。


(な、何だ!?)


私は一瞬で真っ白な光に包まれた。
眩しすぎて目を開けるのも難しいほどだった。
次第に光は空中で雲散し、キラキラとした粒子が私の頭に降り注いだ。


(この光は一体……?)


何が起きたのかを確かめるため、ゆっくりと目を開けてみる。
すると、未だに降り注ぐ粒子の間から何かが見えた。
私はしばらくその光景を目を奪われていた。


真っ白な光の中から現れたのは――


美しい、銀色の髪。


「……!」


その後ろ姿を見た私は、気付けば勝手に足が動いていた。
何十年もの間、何度も何度も会いたいと願った人。
自分が死に直面しているときでさえ彼女のことしか頭に無かったほどに恋焦がれてた人。


足音を立ててゆっくりと近付く私に、その人物がくるりと振り返った――


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