上 下
71 / 87

71 勘違い

しおりを挟む
(絶対に阻止してみせる……!これ以上の被害は出さない……!)


飛び降りたときに傷付いた足が未だに痛む。
しかし、治療などしている暇はない。


誰かに頼っていてばかりではダメだ。
自分の力で何とかしなければならない。
私はこのウィルベルト王国の国王なのだから。


今騎士たちは必死に戦っている。
国王だからと守られているわけにはいかないのである。


「遅い!!!」
「ぐあっ!!!」


そう叫びながら、私は交戦中だったローレンの兵士の体を斜めに切り伏せた。
男は床に倒れて苦しそうにうめき声を上げた。


(まだ息はある……尋問するか……)


寝転がった敵兵の喉元に剣を突き付けた私は、尋問を始めた。


「おい、指揮を執っているのは誰だ?」
「レ、レスタリア公爵様です……」
「やはりか……」


兵は私の殺気に怯んだようで、すぐに口を割った。


(あのローレンの王にこのようなことが出来るはずない。やはり公爵の仕業か……だとすれば、目的は一体何だ?私の首か?)


「おい、お前たちの目的は一体何なんだ?」
「公子様がお亡くなりになられたので……ウィルベルト王国に復讐するのだと……ローレンの国王陛下は前々からウィルベルト王国を狙っていたみたいですが……」
「復讐……そうか……」


公爵は家族をとても大事に想っていた。
息子が私の手によって倒されたのを聞き、戦争を仕掛けたということだろうか。


(考えがぶっ飛んでるな……家族以外の命はどうだって良いというのか?)


現にウィルベルト王国では多くの血が流れ、ローレンの兵士たちも次々と亡くなっている。
当の本人はそのことに対して罪悪感など無いのだろう。
だからこそ、このような残酷な真似ができるのだ。


(あの男を……これ以上放っておいたら危険だ……)


アイツがこの国の頂点に立つなど言語道断だが、このまま野放しにしておくのも危ない。
そんなことを考えていると、私の足元で寝転がっていた兵士が顔を手で覆って泣き始めた。


「ああ……私はもう終わりだ……」
「……?さっきから何を言っているんだ?」


私が尋ねると、男は絶望の表情でこう答えた。


「任務は遂行出来なかったし……間違いなく公爵様に消される……」
「消される?もしかしてお前、レスタリア公爵家の騎士か?」
「はい……貴方はレオン国王陛下でしょう?」
「……気付いていたんだな」
「公爵様から要注意人物だと聞かされていましたから」


男の言葉が妙に引っ掛かった私は、詳しいことを尋ねた。


「任務とは一体何のことだ?」
「公爵夫人をあの別邸から安全な場所に避難させることです……失敗したらただでは済まさないと怖い顔で公爵様が……」
「夫人?何を言っている、夫人はもう……」


亡くなっている、と言いかけて私はハッとなり、言葉を止めた。


(……公爵はまだ公爵夫人が生きていると思っている?)


――これは使えるかもしれない。
この勘違いを利用して、公爵を罠に嵌められないだろうか。


「おいお前、私に協力しろ。作戦に成功したら命は助けてやる」
「え、本当ですか!」
「ああ、約束しよう」


その瞬間、男は嬉しそうに顔を綻ばせた。


「ありがとうございます!!!大体、最初から反対だったんですよ!こんな無意味な戦争!私には大切な家族だっているのに!」
「ハハハ、公爵家側にもまともな考えを持つ人間がいたとはな」


私はニヤリとほくそ笑んだ。


(見えてきたぞ、あの男を倒す方法!)



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されなければお飾りなの?

まるまる⭐️
恋愛
 リベリアはお飾り王太子妃だ。  夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。 そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。  ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?   今のところは…だけどね。  結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。

【完結】これからはあなたに何も望みません

春風由実
恋愛
理由も分からず母親から厭われてきたリーチェ。 でももうそれはリーチェにとって過去のことだった。 結婚して三年が過ぎ。 このまま母親のことを忘れ生きていくのだと思っていた矢先に、生家から手紙が届く。 リーチェは過去と向き合い、お別れをすることにした。 ※完結まで作成済み。11/22完結。 ※完結後におまけが数話あります。 ※沢山のご感想ありがとうございます。完結しましたのでゆっくりですがお返事しますね。

【完結】あなたを愛するつもりはないと言いましたとも

春風由実
恋愛
「あなたを愛するつもりはございません」 王命による政略結婚で夫となった侯爵様は、数日前までお顔も知らない方でした。 要らぬお気遣いをされぬよう、初夜の前にとお伝えしましたところ。 どうしてこうなったのでしょうか? 侯爵様には想い人がいて、白い結婚上等、お飾りの妻となる予定だったのですが。 初夜のやり直し?急には無理です! ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 ※本編完結しました。ちょこっとおまけ話が続きます。 ※2022.07.26 その他の番外編も考えていますが、一度ここで完結とします。

【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様

すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。 彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。 そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。 ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。 彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。 しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。 それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。 私はお姉さまの代わりでしょうか。 貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。 そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。 8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。 https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE MAGI様、ありがとうございます! イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。 友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。 仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。 書きながらなので、亀更新です。 どうにか完結に持って行きたい。 ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

[完]巻き戻りの第二王太子妃は親友の幸せだけを祈りたい!

小葉石
恋愛
クワーロジット王国滅亡の日、冷酷なクワーロジット王太子は第二王太子妃を捨てた。 その日、捨てられたラシーリア第二王太子妃は絶対絶命の危機に面していた。反王政の貴族の罠に嵌り全ての罪を着せられ、迫り来る騎士達の剣が振り下ろされた時、ラシーリア第二王太子妃は親友であったシェルツ第一王太子妃に庇われ共に絶命する。 絶命したラシーリアが目覚めれば王宮に上がる朝だった… 二度目の巻き戻りの生を実感するも、親友も王太子も自分が知る彼らではなく、二度と巻き込まれなくて良いように、王太子には自分からは関わらず、庇ってくれた親友の幸せだけを願って……… けれど、あれ?おかしな方向に向かっている…? シェルツ   第一王太子妃 ラシーリア  第二王太子妃 エルレント  クワーロジット王国王太子

処理中です...