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65 別邸へ
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「ハァ……ハァ……」
レスタリア公子の死を見届けてから、私は公子に言われた通り別邸へと向かっていた。
それも馬車ではなく馬で。
何故だか分からないが、すぐにでもそこへ行かなければならないような気がしたからだ。
公爵家の別邸まではなかなかに距離があり、体力に自信のある私ですら息が切れそうなほどだった。
それでも私は止まらなかった。
それからしばらくして、公子が言っていた別邸へと到着した。
(ここか……!)
私は馬から降りてすぐに塀を飛び越えて中へ入った。
正門にはレスタリア公爵家の人間であろう騎士たちが立っていたため入れそうになかった。
公爵家の没落は確定しているようなものだから別に騎士たちを倒して入っても良かったが、そんな時間も無かった。
不法侵入者のような真似事をするのは気が乗らなかったが、今はそれどころではない。
そうして敷地内に入った私はすぐに入口の前まで歩みを進めた。
この先に一体何があるのか。
公子の話が本当なら、この別邸の中にレスタリア公爵家の全てが隠されているということだ。
私は逸る気持ちを抑えてなるべく音を立てないようにゆっくりと扉を開けた。
「……」
中はごく普通の邸宅だった。
しかし、不気味なほどにシンと静まり返っている。
(誰もいないのか……?)
この状況を不思議に思いながらも私は邸宅の中を歩いた。
廊下には私の足音だけが鳴り響いており、とてもじゃないが人が住んでいるとは思えなかった。
やはり公子の罠だったのだろうか。
そう思い始めていたものの、僅かな希望を抱いて私は慎重に邸の中を歩き続けた。
一階を一通り確認したが人がいる様子は無く、私は二階への階段を上った。
そして、ある部屋の前に差し掛かったそのときだった――
「――私はここから一歩も出ませんわ」
近くにあった部屋の中から女の声が聞こえた。
(何だ?誰かいるのか?)
私はその部屋の前に近付いてそっと耳を傾けてみる。
「――様!ここにいては危険です!」
「嫌ったら嫌ですわ」
すると、部屋の中からは女二人の言い争う声が聞こえてきた。
その声を聞いた私は無意識に部屋のドアノブに手をかけていた。
男が女性の部屋に勝手に入るなど礼儀に欠く行為だが、このときの私は居ても立っても居られなかった。
どのみち公爵家は没落する。
そうなると彼女たちもただでは済まないだろう。
必死で自分の行いを正当化する自分自身に嫌気が差しながらも、私はそのままくるりとドアノブを捻った。
――ガチャリ
「!?」
部屋に入ると、中にいた二人の女が同時にこちらを見た。
片方は上半身だけを起こした状態でベッドに入っており、もう片方はどうやら侍女のようで女の傍らに控えていた。
私を見た二人の反応は正反対だった。
顔を真っ青にして慌てふためく侍女らしき女と、至って冷静な女。
「こ、国王陛下……!?何故ここに……!」
「……」
侍女は体をブルブルと震わせて床に膝を着いた。
部屋に突然この国の王が現れたらそうなるのも無理ないだろう。
そう、この反応が普通だった。
しかし、ベッドに入っているもう片方の女は弱々しくも真っ直ぐに私を見つめていた。
その覚悟の決まったような瞳が、少し前に戦った誰かを思い出させた。
私は未だに震えている侍女の横を通り過ぎて女の元へと歩み寄った。
近くで見れば見るほどそっくりだった。
(……ああ、なるほど)
愚かにも、その目を見て私は全てを悟った。
「……………………………レスタリア公爵夫人」
レスタリア公子の死を見届けてから、私は公子に言われた通り別邸へと向かっていた。
それも馬車ではなく馬で。
何故だか分からないが、すぐにでもそこへ行かなければならないような気がしたからだ。
公爵家の別邸まではなかなかに距離があり、体力に自信のある私ですら息が切れそうなほどだった。
それでも私は止まらなかった。
それからしばらくして、公子が言っていた別邸へと到着した。
(ここか……!)
私は馬から降りてすぐに塀を飛び越えて中へ入った。
正門にはレスタリア公爵家の人間であろう騎士たちが立っていたため入れそうになかった。
公爵家の没落は確定しているようなものだから別に騎士たちを倒して入っても良かったが、そんな時間も無かった。
不法侵入者のような真似事をするのは気が乗らなかったが、今はそれどころではない。
そうして敷地内に入った私はすぐに入口の前まで歩みを進めた。
この先に一体何があるのか。
公子の話が本当なら、この別邸の中にレスタリア公爵家の全てが隠されているということだ。
私は逸る気持ちを抑えてなるべく音を立てないようにゆっくりと扉を開けた。
「……」
中はごく普通の邸宅だった。
しかし、不気味なほどにシンと静まり返っている。
(誰もいないのか……?)
この状況を不思議に思いながらも私は邸宅の中を歩いた。
廊下には私の足音だけが鳴り響いており、とてもじゃないが人が住んでいるとは思えなかった。
やはり公子の罠だったのだろうか。
そう思い始めていたものの、僅かな希望を抱いて私は慎重に邸の中を歩き続けた。
一階を一通り確認したが人がいる様子は無く、私は二階への階段を上った。
そして、ある部屋の前に差し掛かったそのときだった――
「――私はここから一歩も出ませんわ」
近くにあった部屋の中から女の声が聞こえた。
(何だ?誰かいるのか?)
私はその部屋の前に近付いてそっと耳を傾けてみる。
「――様!ここにいては危険です!」
「嫌ったら嫌ですわ」
すると、部屋の中からは女二人の言い争う声が聞こえてきた。
その声を聞いた私は無意識に部屋のドアノブに手をかけていた。
男が女性の部屋に勝手に入るなど礼儀に欠く行為だが、このときの私は居ても立っても居られなかった。
どのみち公爵家は没落する。
そうなると彼女たちもただでは済まないだろう。
必死で自分の行いを正当化する自分自身に嫌気が差しながらも、私はそのままくるりとドアノブを捻った。
――ガチャリ
「!?」
部屋に入ると、中にいた二人の女が同時にこちらを見た。
片方は上半身だけを起こした状態でベッドに入っており、もう片方はどうやら侍女のようで女の傍らに控えていた。
私を見た二人の反応は正反対だった。
顔を真っ青にして慌てふためく侍女らしき女と、至って冷静な女。
「こ、国王陛下……!?何故ここに……!」
「……」
侍女は体をブルブルと震わせて床に膝を着いた。
部屋に突然この国の王が現れたらそうなるのも無理ないだろう。
そう、この反応が普通だった。
しかし、ベッドに入っているもう片方の女は弱々しくも真っ直ぐに私を見つめていた。
その覚悟の決まったような瞳が、少し前に戦った誰かを思い出させた。
私は未だに震えている侍女の横を通り過ぎて女の元へと歩み寄った。
近くで見れば見るほどそっくりだった。
(……ああ、なるほど)
愚かにも、その目を見て私は全てを悟った。
「……………………………レスタリア公爵夫人」
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