お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの

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64 ある男たちの会話

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同時刻、ローレン王国の王の部屋にて。
蝋燭の灯がゆらゆらと揺れている薄暗い部屋である二人の男が椅子に座って話をしていた。


「いやあ、さすがだな!まさかこんなにも上手くいくとは思わなかったよ!あの日、お前の手を取って本当に良かった!」


話をしている男の片方はこの部屋の主であるローレンの王だった。
そして、もう一方は――


「……口を閉じろ。鬱陶しい」


ウィルベルト王国の名門貴族のレスタリア公爵だった。


彼は先ほどからはしゃいでいる王に対して冷たい口調でそう言った。
そんな公爵の態度を見てローレン王は眉をひそめた。


「相変わらず冷たいヤツだな!旧友に何て態度だ!」
「お前と友達になった覚えは無い」


声を上げた王にレスタリア公爵は淡々と言い放った。
ローレン王にとってはそれもまた気に食わなかったが今はそんなこと重要ではない。


「そんなことより、もうすぐ私の願いが叶うんだな!?」
「……その予定だ」


公爵のその言葉にローレン王は感激したかのような顔になった。


「ああ、私がこの日をどれほど待ち望んでいたことか……!」
「……」


そんな王を公爵は冷え切った目で見つめた。


「……そんなに嬉しいか?」
「当たり前だ!お前も知っているだろう?私が今まで他国の王たちにどんな扱いを受けてきたか!」
「……」


王のその言葉に公爵は黙り込んだ。
ローレンは特に秀でたところのない平凡な小国だった。
そのせいで王は今まで屈辱的な思いをしてきた。


「お前が他国の王たちにどう思われていようと私には関係の無い話だ」
「……お前は昔からいつもそうだな」


その言葉に王は不貞腐れたような顔をした。
しかしあえて咎めるようなことはしない。




――ローレン王とレスタリア公爵。


二人はかなり長い付き合いだった。
初めて出会ったのはお互いに嫡男という立場だった頃なのだから。
友達とは言えないが、腐れ縁というやつだ。


「とにかく!これでようやくあの小僧を王の座から引きずり下ろすことが出来るってわけだ!」
「……ああ」


ローレン王の言う”小僧”とはウィルベルト王国の若き王のことである。


「アイツは昔から気に入らなかったんだよ!あんな餓鬼に大国の玉座は似合わない!お前もそう思わないか?」
「……そうだな」


公爵はローレン王の話に対して特に興味の無さそうな返事をした。
王からそっぽを向いて適当に相槌を打つその姿は、本気で王の座を欲しがっている人間だとは思えないほどだった。


二人がそんな不吉な会話をしていたそのとき、突然外からけたたましい足音がした。


「公爵様、大変です!」


切羽詰まった顔で勢い良く扉を開けて部屋に入って来たのは公爵が最も信頼している側近だった。
その側近を見たローレン王の眉間に皺が寄る。


「おい、王である私の部屋に勝手に入るだなんてどうやら死にたい……」
「――何だ、言え」


怒りを露わにする王の言葉を遮り、公爵は彼に尋ねた。
側近は震える唇を必死で動かして言葉を紡いだ。


「マ、マクシミリアン様がお亡くなりになられたそうです……!」
「……何?」


その言葉を聞いた公爵の眉がピクリとした。


「どうやら国王陛下との戦いに敗れたそうで……」
「……」


公爵はしばらくの間、下を向いたまま黙り込んだ。
そして、部屋の中にいた側近と王に背を向けて顔を上げると短く命令した。


「――出ろ」
「は、はい!」


その言葉に側近は直ちに部屋を出て行く。
彼が出て行ったことにより、王の部屋は再びローレン王と公爵の二人だけになった。


――レスタリア公爵家の嫡男マクシミリアンが国王との戦いに敗れて死んだ。


これには公爵だけではなく、ローレン王も驚きを隠しきれなかった。


「お前のとこの息子があの餓鬼に殺されただと!?アイツはそんなに強いのか!?」
「……」


どうやら彼は、ウィルベルト王国の若き王を侮っていたようで完全に狼狽えている。


「お、おいどうするんだ公爵!公爵家に騎士たちがなだれ込むのも時間の問題だぞ」
「……」


公爵はローレン王に背を向けたまま黙り込んでいた。


「おい、ローレンの軍隊を貸せ」
「……!」


その言葉に王は目を丸くした。
そんな王に公爵は淡々と告げた。


「私が指揮を執る」
「そ、それはまさかウィルベルト王国に攻め込むということか!?」
「そうだ」


それを聞いた王は満足げな笑みを浮かべた。


「やっとか!こんな回りくどいことをせずに、最初からそうしていればいいものを!」


そうは言ったものの、その場から一歩も動こうとしない王に公爵が尋ねた。


「……お前は来ないのか?」
「い、行くわけないだろう!私は国王だぞ!」


王は身体をぶるりと震わせながらそう言った。


「……そうか」


そんなローレン王を侮蔑のこもった目で見つめながらも、公爵は部屋を出て行った。


公爵が向かったのは王宮の中にある小さな物置だった。
長らく誰も入っていなかったようで埃が舞っている。
しかしそんなこと気にせずに、彼はその中から大事そうに保管されている一本の剣を手にした。


それは彼が昔愛用していたものだった。


「……久しぶりだな、剣を持つのは」


そう口にした公爵の目には、底知れない狂気が宿っていた。


公爵はポツリとそれだけを口にするとすぐに物置を出て行く。


かつて戦場で敵兵から狂戦士として恐れられた男が、この後すぐウィルベルト王国に大混乱を招くこととなる――


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