お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの

文字の大きさ
上 下
62 / 87

62 レオンvsマクシミリアン

しおりを挟む
レスタリア公子が駆け出し、私はそれを迎え撃つために剣を構えた。


互いの刃が激しくぶつかり合う。
最初の一撃はほぼ互角だった。
何だか久しぶりに猛者と戦ったような気がして口元に笑みが浮かんだ。


「ふっ、流石だな!こんなに手ごたえを感じるのはいつぶりだろうか」
「余裕ぶっていられるのも今だけですよ……!」


私の笑みを見た公子が不快そうに言った。


そんなやりとりをしているうちに、剣が弾かれ互いに一度距離を取った。
そしてそこからは私と公子の激しい斬り合いが続いた。
レスタリア公爵家で育ったクロードの戦いを事前に見たため、何となく予想はしていたが公子の剣捌きはなかなかのものだった。


しかし私にとってはそんなものどうだってことなかった。
公子の剣の動きを見極め冷静に対応していく。


「ハァ……ハァ……ハァ……」
「……」


しばらくしてレスタリア公子がハァハァと息を切らしはじめた。


(……なるほどな)


それを見た私は彼の弱点に気付いた。


「スピードはあるが、パワーがまだまだだな。それに体力が無いのが致命的だ」
「ッ……うるさい!」


私の言葉を聞いた公子が不快だとでも言わんばかりに顔を歪めて叫んだ。


「何だ?せっかく助言してやっているというのに」
「くっ……」


自分自身が押されていることに気付いているのか、公子は悔しそうな顔をした。
そして剣捌きが徐々に荒くなっていく。


「……」


その姿を見た私は確信した。
間違いなく公子は今心に余裕が無い。
それに気付いた私は今度は自分から攻撃を仕掛けた。


「――隙だらけだ」
「うぐっ!!!」


私の放った一撃がレスタリア公子の脇腹を切り裂いた。
しかし彼もまたすぐにやられるような男ではなかった。
間一髪避けたことで致命傷には至らず、公子は血を流しながらも剣を握り続けた。


(相当な執念だな)


乱れた呼吸を必死で整えながらもなお、私を睨みつける公子を見て私の中である一つの疑問が浮かんできた。


(…………何故だ?)


――何故、この男はここまでして王位を奪おうとしているのか。


ただ単に王となってさらなる権力を得たいからだと言われればそれまでだが、目の前にいるこの男からは何か別の目的があるように感じた。
何より、私を見つめる公子の目がそれを物語っていた。
しかし彼らの目的が何であれ私の敵であることに変わりは無い。


(……どのみちそんな馬鹿共にこの座を奪われるわけにはいかない)


両親と――そしてフランチェスカと約束したのだから。


そのためには何が何でもこの男をここで倒す必要があった。
この国に害をなす人間を放っておくわけにはいかない。


「――遊びはもう終わりだ」
「……!」


私の纏う空気が一変したことに気付いたのか、公子が目を丸くした。
しかしすぐに表情を戻すと挑発的な笑みを浮かべた。


「ようやく本気を出してくださるんですね……!」
「ああ、死んでも恨むなよ」
「死ぬのは貴方のほうです」


そして今度は私の方から彼に向かって駆け出した。


「ぐうっ……………………!?」


明らかにさっきよりも重い一撃に公子が苦悶の表情を浮かべた。
今度は手加減無しで公子に斬りかかった。


静寂に包まれた路地裏で剣がぶつかり合う音だけが響き渡る。
お互いに一歩も退かない戦いだった。


私は完全に防戦一方となっているレスタリア公子に間髪入れずに攻撃を仕掛けた。
しかしそこは流石と言うべきなのか、彼は苦しそうにしながらも私の一撃一撃を受け止めてみせた。
それに合わせて私も攻撃のスピードを上げていく。


「くっ……はっ……」


攻撃を受けるだけで精一杯の公子の声が耳に入ってきた。
しかし私は攻撃の手を緩めなかった。
こんなに本気になったのはいつぶりだろうか。


そんな私を見たレスタリア公子が怒りに満ちた表情で口を開いた。


「……さっきのは本当にただのお遊びに過ぎなかったんですね。本当に腹立たしい」
「……喋る余裕があったんだな。感心したよ」
「そういうところも本当に癪に障る……!」


その瞬間、公子が私の隙をついて反撃の一撃を放った。


「……ッ!」


私はその剣を慌てて受け止めた。
最初よりもだいぶパワーの上がった一撃。
どうやら私と同じで彼もまた本来の力を隠していたようだ。


(少し侮りすぎたか?)


そう思いながらも私はレスタリア公子と斬り合いを続けた。
長引く戦いに公子はもちろん私も少しずつ体力を削られていった。


「ハァ……ハァ……私が背負っているものはお前たちが持っているものとは重みが違うんだ……!」
「何も知らないお前が偉そうに言うな!!!」


そのとき、レスタリア公子の表情が突然鬼と化した。


(………………何だ?)


どうやら先ほどの私の発言が彼の怒りに火を付けたようだった。
公子はカッと目を見開いて剣を大きく振るいながら唇を動かした。


「そうやって必死に玉座を守ろうとしているところを見ると、無能なだけじゃなくて貪欲な男でもあったんだな!!!それほどまでにその椅子が大事か!?」
「……」


レスタリア公子は止まらなかった。


「やっぱりお前はこの国の王には相応しくない!平民女に現を抜かし、長年連れ添った婚約者を蔑ろにしたという時点でお前はただの愚王なんだよ!」
「……」


誰もいない路地裏にひときわ鈍い音が響き渡った。


(愚王……か)


気付けば形勢が逆転していた。
レスタリア公子の放った言葉の一つ一つが私に重くのしかかった。
きっと少し前の私ならその言葉に傷付いていただろう。


――だけど今の私は?


私はもう過去は振り返らないと決めた。
前に進むのだと誓った。


私はレスタリア公子の剣を力で押し返した。


「……言いたいことはそれだけか?」
「……!?」


押された公子が数歩後ろに下がって驚いたような表情をした。


「無能でも愚王でも好きなだけ言えばいい。そんなのは気にもならないから。だが、一つだけ癪に障るな」
「え……?」
「――私は私利私欲ではなく、自分の大事なもののためにこの座を守っているんだ」
「ッ………!」


その瞬間、レスタリア公子の瞳が大きく揺れ、剣を握るその手が震えた。
彼は今見るからに動揺している。
そして私はそれを見逃さなかった。


「私は彼らとした約束を果たすまで死ぬわけにはいかないんだ。――間違ってもお前たちのような反逆者に、王座を渡すわけにはいかないんだ!!!」


そして、私は剣を振りかぶってその場から一歩も動けなくなっていたレスタリア公子を切りつけた。
辺り一面に鮮血が飛び散る。


「ぐはぁっ……!」


腹を斜めに切り裂かれたレスタリア公子は声を上げてその場に倒れ込んだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

【完結】貴方の傍に幸せがないのなら

なか
恋愛
「みすぼらしいな……」  戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。  彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。  彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。  望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。  なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。  妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。  そこにはもう、私の居場所はない。  なら、それならば。  貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。        ◇◇◇◇◇◇  設定ゆるめです。  よろしければ、読んでくださると嬉しいです。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

【完結保証】ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

【完結済】結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました

鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
 オールディス侯爵家の娘ティファナは、王太子の婚約者となるべく厳しい教育を耐え抜いてきたが、残念ながら王太子は別の令嬢との婚約が決まってしまった。  その後ティファナは、ヘイワード公爵家のラウルと婚約する。  しかし幼い頃からの顔見知りであるにも関わらず、馬が合わずになかなか親しくなれない二人。いつまでもよそよそしいラウルではあったが、それでもティファナは努力し、どうにかラウルとの距離を縮めていった。  ようやく婚約者らしくなれたと思ったものの、結婚式当日のラウルの様子がおかしい。ティファナに対して突然冷たい態度をとるそっけない彼に疑問を抱きつつも、式は滞りなく終了。しかしその夜、初夜を迎えるはずの寝室で、ラウルはティファナを冷たい目で睨みつけ、こう言った。「この結婚は白い結婚だ。私が君と寝室を共にすることはない。互いの両親が他界するまでの辛抱だと思って、この表面上の結婚生活を乗り切るつもりでいる。時が来れば、離縁しよう」  一体なぜラウルが豹変してしまったのか分からず、悩み続けるティファナ。そんなティファナを心配するそぶりを見せる義妹のサリア。やがてティファナはサリアから衝撃的な事実を知らされることになる────── ※※腹立つ登場人物だらけになっております。溺愛ハッピーエンドを迎えますが、それまでがドロドロ愛憎劇風です。心に優しい物語では決してありませんので、苦手な方はご遠慮ください。 ※※不貞行為の描写があります※※ ※この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...