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62 レオンvsマクシミリアン

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レスタリア公子が駆け出し、私はそれを迎え撃つために剣を構えた。


互いの刃が激しくぶつかり合う。
最初の一撃はほぼ互角だった。
何だか久しぶりに猛者と戦ったような気がして口元に笑みが浮かんだ。


「ふっ、流石だな!こんなに手ごたえを感じるのはいつぶりだろうか」
「余裕ぶっていられるのも今だけですよ……!」


私の笑みを見た公子が不快そうに言った。


そんなやりとりをしているうちに、剣が弾かれ互いに一度距離を取った。
そしてそこからは私と公子の激しい斬り合いが続いた。
レスタリア公爵家で育ったクロードの戦いを事前に見たため、何となく予想はしていたが公子の剣捌きはなかなかのものだった。


しかし私にとってはそんなものどうだってことなかった。
公子の剣の動きを見極め冷静に対応していく。


「ハァ……ハァ……ハァ……」
「……」


しばらくしてレスタリア公子がハァハァと息を切らしはじめた。


(……なるほどな)


それを見た私は彼の弱点に気付いた。


「スピードはあるが、パワーがまだまだだな。それに体力が無いのが致命的だ」
「ッ……うるさい!」


私の言葉を聞いた公子が不快だとでも言わんばかりに顔を歪めて叫んだ。


「何だ?せっかく助言してやっているというのに」
「くっ……」


自分自身が押されていることに気付いているのか、公子は悔しそうな顔をした。
そして剣捌きが徐々に荒くなっていく。


「……」


その姿を見た私は確信した。
間違いなく公子は今心に余裕が無い。
それに気付いた私は今度は自分から攻撃を仕掛けた。


「――隙だらけだ」
「うぐっ!!!」


私の放った一撃がレスタリア公子の脇腹を切り裂いた。
しかし彼もまたすぐにやられるような男ではなかった。
間一髪避けたことで致命傷には至らず、公子は血を流しながらも剣を握り続けた。


(相当な執念だな)


乱れた呼吸を必死で整えながらもなお、私を睨みつける公子を見て私の中である一つの疑問が浮かんできた。


(…………何故だ?)


――何故、この男はここまでして王位を奪おうとしているのか。


ただ単に王となってさらなる権力を得たいからだと言われればそれまでだが、目の前にいるこの男からは何か別の目的があるように感じた。
何より、私を見つめる公子の目がそれを物語っていた。
しかし彼らの目的が何であれ私の敵であることに変わりは無い。


(……どのみちそんな馬鹿共にこの座を奪われるわけにはいかない)


両親と――そしてフランチェスカと約束したのだから。


そのためには何が何でもこの男をここで倒す必要があった。
この国に害をなす人間を放っておくわけにはいかない。


「――遊びはもう終わりだ」
「……!」


私の纏う空気が一変したことに気付いたのか、公子が目を丸くした。
しかしすぐに表情を戻すと挑発的な笑みを浮かべた。


「ようやく本気を出してくださるんですね……!」
「ああ、死んでも恨むなよ」
「死ぬのは貴方のほうです」


そして今度は私の方から彼に向かって駆け出した。


「ぐうっ……………………!?」


明らかにさっきよりも重い一撃に公子が苦悶の表情を浮かべた。
今度は手加減無しで公子に斬りかかった。


静寂に包まれた路地裏で剣がぶつかり合う音だけが響き渡る。
お互いに一歩も退かない戦いだった。


私は完全に防戦一方となっているレスタリア公子に間髪入れずに攻撃を仕掛けた。
しかしそこは流石と言うべきなのか、彼は苦しそうにしながらも私の一撃一撃を受け止めてみせた。
それに合わせて私も攻撃のスピードを上げていく。


「くっ……はっ……」


攻撃を受けるだけで精一杯の公子の声が耳に入ってきた。
しかし私は攻撃の手を緩めなかった。
こんなに本気になったのはいつぶりだろうか。


そんな私を見たレスタリア公子が怒りに満ちた表情で口を開いた。


「……さっきのは本当にただのお遊びに過ぎなかったんですね。本当に腹立たしい」
「……喋る余裕があったんだな。感心したよ」
「そういうところも本当に癪に障る……!」


その瞬間、公子が私の隙をついて反撃の一撃を放った。


「……ッ!」


私はその剣を慌てて受け止めた。
最初よりもだいぶパワーの上がった一撃。
どうやら私と同じで彼もまた本来の力を隠していたようだ。


(少し侮りすぎたか?)


そう思いながらも私はレスタリア公子と斬り合いを続けた。
長引く戦いに公子はもちろん私も少しずつ体力を削られていった。


「ハァ……ハァ……私が背負っているものはお前たちが持っているものとは重みが違うんだ……!」
「何も知らないお前が偉そうに言うな!!!」


そのとき、レスタリア公子の表情が突然鬼と化した。


(………………何だ?)


どうやら先ほどの私の発言が彼の怒りに火を付けたようだった。
公子はカッと目を見開いて剣を大きく振るいながら唇を動かした。


「そうやって必死に玉座を守ろうとしているところを見ると、無能なだけじゃなくて貪欲な男でもあったんだな!!!それほどまでにその椅子が大事か!?」
「……」


レスタリア公子は止まらなかった。


「やっぱりお前はこの国の王には相応しくない!平民女に現を抜かし、長年連れ添った婚約者を蔑ろにしたという時点でお前はただの愚王なんだよ!」
「……」


誰もいない路地裏にひときわ鈍い音が響き渡った。


(愚王……か)


気付けば形勢が逆転していた。
レスタリア公子の放った言葉の一つ一つが私に重くのしかかった。
きっと少し前の私ならその言葉に傷付いていただろう。


――だけど今の私は?


私はもう過去は振り返らないと決めた。
前に進むのだと誓った。


私はレスタリア公子の剣を力で押し返した。


「……言いたいことはそれだけか?」
「……!?」


押された公子が数歩後ろに下がって驚いたような表情をした。


「無能でも愚王でも好きなだけ言えばいい。そんなのは気にもならないから。だが、一つだけ癪に障るな」
「え……?」
「――私は私利私欲ではなく、自分の大事なもののためにこの座を守っているんだ」
「ッ………!」


その瞬間、レスタリア公子の瞳が大きく揺れ、剣を握るその手が震えた。
彼は今見るからに動揺している。
そして私はそれを見逃さなかった。


「私は彼らとした約束を果たすまで死ぬわけにはいかないんだ。――間違ってもお前たちのような反逆者に、王座を渡すわけにはいかないんだ!!!」


そして、私は剣を振りかぶってその場から一歩も動けなくなっていたレスタリア公子を切りつけた。
辺り一面に鮮血が飛び散る。


「ぐはぁっ……!」


腹を斜めに切り裂かれたレスタリア公子は声を上げてその場に倒れ込んだ。


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