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59 嫌な予感

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「ん……?もうこんな時間か」


執務室で仕事をしていた私はふと部屋にあった時計に目をやった。
時計の針は夜の十時を差していた。
いつもなら疲れが溜まってきている時間帯だというのに、不思議と今日は体が軽かった。


それに、久々にしっかりとした食事を摂ったからだろうか今日はいつもより仕事が捗ったような気がする。


「今日は何だか気分が良いな」


私は後ろに控えていたヴェロニカ公爵にそう話しかけた。


「食事をしっかりと摂ったからでしょう」


公爵は穏やかな顔でそう返した。


「そうかもしれないな」
「これで分かったでしょう?休憩を取ることがどれほど大事か」
「……たしかに」


それに関しては返す言葉も無い。
今までは執務が忙しいことを理由にしてなかなかに不規則な生活を送っていたから。


一度休憩を取ろうと思い、私は執務室から出て王宮の廊下を歩いた。
廊下を吹き抜ける冷たい夜の風が心地良かった。
夜空に浮かぶ星を眺めながら歩いていた私はふと気になったことを尋ねた。


「おい、そんなことよりクロードはどこに行った?」
「そういえば先ほどからずっと姿を見ていないような……」
「……何?」


私は公爵のその言葉を聞いて途端に不安になった。


(何だ……何か嫌な予感がする……)


正直、私はクロードが裏切るとは思っていない。
私に従うと言ったクロードの目に嘘は無かったし、彼は信じるに値する人間だということをもう分かっていた。


――だとしたら、この胸騒ぎは一体何だ?


「陛下……もしかしたら……彼の身に何かあったのかもしれません……」


どうやらヴェロニカ公爵も私と同じことを考えていたようで、深刻な顔で言った。


「すぐに探しに行くぞ!」






◇◆◇◆◇◆





それから私はヴェロニカ公爵と二人で手分けしてクロードを探した。
しかしどれだけ探してもクロードの姿は見当たらない。


(一体どこに行ったんだ!)


苛立つ気持ちを隠しきれない私に、別の場所を探していたヴェロニカ公爵が合流した。


「陛下……どこにも見当たりません……もしかしたら王宮の中にはいないのかも……」


公爵がハァハァと息を切らしながらそう言った。


「王宮の中にいないとしたら…………まさか外か!?嘘だろう!?」
「信じたくはありませんが……もうそれしか考えられないかと……」


私の言葉にヴェロニカ公爵は苦虫を噛み潰したような顔で言った。


「……!」


そのとき、私の脳裏に最悪の事態が浮かんだ。


(……あのレスタリア公爵が、クロードの裏切りに気付いていないはずがない)


レスタリア公爵は残忍な男だ。
おそらく何が何でもクロードを始末しに来るだろう。
裏切り者をみすみす見逃すほどあの男は甘くない。


しかし、いくら公爵といえど流石に王宮の中に刺客を送ることは出来ない。
王宮内でそんな事件が起これば大騒ぎになり、警備もよりいっそう厳重になる。
そうなれば、王家と敵対している人間からしたら逆に動きにくくなってしまうからだ。


頭の良いあの男がそのような手段を取るはずがない。
だからこそ私は大丈夫だろうと思い、クロードを王宮で一人にしていた。


(……クソッ!)


私は何て考えが甘かったのだろう。
このときばかりはクロードを一人にしたことを酷く後悔した。


「――陛下!」


頭を抱えていた私に声をかけたのはヴェロニカ公爵だった。


「公爵……」
「侍女の一人が数時間前に王宮から出て行くクロードを目撃したそうです!」
「すぐに追いかけるぞ!」
「はい!」


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